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抱き締めても良いですか?~エピソード0~
01-6
しおりを挟む「……どういうこと?」
「どういうこと、とは?」
「んだよ、それ! 番になりたいって言ってくれたのに……! 何で!!」
どうして泣いているのか。慎二の目から涙がこぼれ落ちていく。
「俺……勘違い!? 一緒に居てくれるっておもっ……思って!」
次々に流れていく涙を腕で拭っている。心臓が潰れそうなほど息苦しい。膝立ちになりながら近づいた。手を、握った。
「一緒に居て下さるのですか?」
「番になるって、そういうことだろう!? だから俺……!」
慎二の涙が止まらない。触れても良いだろうか、濡れている頬に手を当てた。
「あなたが許して下さるなら、一緒に居たいです」
「最初からそのつもりだし!」
拭っても拭っても、涙が流れてくる。唇を震わせて泣いている姿に苦しくて。
「一緒に居させて下さい。守らせて下さい。あなたにたくさん、私が作った料理を食べて頂きたいです」
目元を拭った私の肩に慎二の顔が乗った。飛び込むように抱きつかれている。
「……ハンバーグ!」
しがみつく体。泣いて震えている。
「何味が良いですか?」
腰を支えるようにそっと触れた。
「塩胡椒のやつが良い……」
「分かりました。夕飯はハンバーグにしましょう。焼きたてをお出しします」
約束した私に顔を上げている。まだ、慎二の涙は止まっていなかった。
「泣かないで下さい」
「おま、お前が……! びっくりさせるから……!」
「申し訳ありません」
もう一度、頬を拭うとどうにか泣き止んでくれた。目元に残っていた涙を手で拭っている。拭いながら、私の右腕を見つめてくる。
「え……血?」
「ああ、意識を保つため噛んでいましたから」
「噛んでって……!」
ワイシャツの袖を捲ってくる。流れていた血は止まっている。噛み跡の残る腕に慎二が立ち上がっている。
「ちょっと! 何でそのままにしてんだよ!」
「この程度、問題ありません」
「問題あるって!」
引き出しから救急箱を取り出した慎二が戻ってくると、固まっていた血を拭うように消毒液で拭いてくる。化膿止めなのだろう、薬も塗ってくれた。ガーゼを当て、包帯まで巻かれてしまう。
「俺、自分のことばっか必死でごめん」
「琴南様……琴南さんが謝ることではありません」
「抑制剤使ってないヒートにあてられて、αの浩介だって辛かったよな。意識ぶっとぶって聞くし」
「意識が飛んでしまうと、あなたを傷つけてしまうかもしれませんから」
「だからってこんな噛むなよ。食い込んでるのもあるし。痛かったよな」
包帯を巻いた腕に触れてくる。表情を曇らせる慎二に胸が苦しくなる。
「問題はありません。私は、あなたが笑っていて下されば良いのです」
「……俺もそうだって。浩介には笑っていてほしい」
「私、ですか……?」
意外な言葉に首を傾げてしまう。温かい手に両手を握られた。
「正直、浩介が何考えてるかわかんない時があるし、無表情だし。あんまり笑った顔、見たことないけど」
私を見つめ、笑っている。
「気付いたら、側に居てくれたから。ずっと、こうやって一緒に居られたら良いなって、思ってた。浩介から番になりたいって言ってくれたから、Ωとして受け入れる覚悟、固めたんだ」
慎二の笑っている顔は眩しい。私の光だ。
あの時の、笑顔と同じだ。
「いつも笑っていて下さい。お守りします」
「お前もだって。言ったろ? 俺は番に対等を求める、って」
私の頬を軽く摘まんでくる。笑わせるかのように引っ張られた。
「俺だけが笑ってたんじゃ駄目だ。浩介も一緒に、笑っていてほしい」
ぐいぐい引っ張られてしまう。困惑してしまう私に笑っている。
「浩介の笑ってる顔、好きなんだけど。無理矢理笑ってもな」
「申し訳ありません。善処します」
「善処するものじゃないから。浩介が楽しいって思うこと、俺が増やすよ」
コンッと額を打ち合わせてくる。間近で笑っている眩しい笑顔に、私の顔が緩んだのだろう、また嬉しそうに笑ってくれる。
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