抱き締めても良いですか?

樹々

文字の大きさ
上 下
95 / 152
抱き締めても良いですか?

30.私の守るべき家族

しおりを挟む

 愛歩の通う高校から救急車の要請が入った。男Ωの生徒が一名、ヒートになった、と。
「あの高校で、男Ωは愛歩君だけだったよね? 彼がヒートになるには早すぎる」
[それが、変な薬のせいだと、電話口の子が言っていて]
「繋がってるの? 回して!」
 Ω病棟直結の電話に掛かってきていた。内線から外線に切り換えると、聞き覚えのる子の声だった。
「愛歩君の友達だよね? まさか、愛歩君がヒートになってるの!?」
[強姦魔が急に現れて……! 犯人が粉吸って! 俺、ちゃんと引き離せなくって……!]
「落ち着いて。犯人に誘発されたってことだね?」
[そう! 愛歩、意識失ってるんだ! 早く来て!]
「すぐに行くから。襟元、緩めてあげて。ベルトも外しておいて」
[分かった!]
「大丈夫。心配しないで」
 いつも元気な有紀が少しパニック状態になっていた。彼はΩをよく分かっている。ヒートを起こしている愛歩が意識を失うと言うことは、フェロモンを抑えられず、熱も発散できず込め続けるということだから。
 そして、今回は抑制剤が効かない。溢れるフェロモンが抑えられない。時間が経つほど危なくなる。
「救急車には私も乗るから!」
 要請を受け、出ようとしていた救急車を止めた。調合を変えてみた抑制剤を手に取り、携帯で茜を呼び出しながら外へ出る。待っていた救急車に乗り込みながら繋がった茜に急いで指示を出した。
「Ω病棟に碕山を受け入れることになる。Ωは全員、一般病棟へ移動! 茜さんも含めてだからね! ヒートが終わっていない患者さんは、絶対に出ないよう、伝えて!」
[はい。気をつけて下さいね]
「問題ないよ。そっちは頼むね」
[はい、一般病棟に応援を頼みます]
 手短に指示を出した後、今度は真澄に掛けた。急ぐ救急車の中で、繋がった真澄。
 もっと落ち着いた時に、二人でちゃんと話したかったけれど。
「真澄、愛歩君が好きかい?」
[……ど、どうしたの? 急に]
「今、愛歩君が危険な状態になってる。どうしても意識が戻らなければ、私か、茜さんか、誰かが彼の熱を散らさないといけなくなる」
[……どういうこと!? 愛歩君が危険な状態って!!]
 他の救急隊員がいる中で、隠している時間はなかった。彼等も真澄のことは知っている。救急車のサイレンに負けないよう、もう一度真澄に聞いた。
「愛歩君が好きかい?」
 私の問いかけに、真澄は凜とした声で答えた。
[大好き]
「うん、知ってる! 愛歩君は真澄の所へ連れて行くから。犯人が使った薬の影響で、ΩがΩを誘惑するヒートを起こしてる。真澄は影響を受けないはずだけど、他のΩの人たちは隔離して!」
[分かった! 僕はどうしたら良いの? 愛歩君を助けたい!]
「熱を散らしてあげて」
[散らす……?]
 よく分からないと、呟いている。救急隊員の一人がチラリと見てくると、具体的に言わないとぼっちゃんは分からないですよ、と小声で突っ込まれた。
「要するに、勃起してるところ触ってあげてってこと!」
「具体的すぎてびっくりですよ!!」
「君が言えっていったのに!」
 私だってオブラートに包んで話そうと思ったけれど、もうすぐ高校に到着してしまう。急いで真澄に続けた。
「真澄と愛歩君のα性、Ω性は相性がすこぶる良いから! 真澄のαのフェロンはきっと、愛歩君にとって救いになるから!」
[……僕の、フェロモン?]
「愛歩君が大好きだって想いながら触ってあげて! いいね! あとは本能だから! 真澄が望むなら、私は反対しないからね!」
 救急車が愛歩の高校に到着した。通話を切ると急いで降りた。

 一瞬で、現状を理解した。

 私が、危惧していた通りの状況に、先ほどまで真澄と話していた楽しさは消えた。

 碕山は顎と腕、足を負傷して気絶している。離れた場所には、浩介を抱き込んでいた慎二がいる。
 そして、泣きそうな有紀の側で気を失っている愛歩が震えていて。
「任せます!」
 浩介は、慎二に任せる。犯人の惨状を見るに、浩介の怒りが爆発していたのはすぐに把握できた。止めてくれた慎二に心の底から感謝した。
 碕山の方は救急隊員に任せ、愛歩の方へ走った。
「愛歩君!」
 有紀と、担任の平田先生が見守る中で、愛歩は泣きながら震えている。揺さぶっても意識が戻らず、返って熱をこもらせてしまうため触ることもできなくなったと言う。
 気休めかもしれないけれど、調合を変えた抑制剤を打ってみた。好転は見られず、意識も戻らない。
「早く病院へ!」
「病院へ連れて行っても、対処のしようがないんです。犯人が使った薬は特殊で、抑制剤が効きません。もう少し、待って下さい」
「これ、ΩがΩをヒートにさせる薬ですよね? 抑制剤が効かないって、危ないんじゃないですか? 待つって何を?」
 長身の警察官が少し距離を置いて見守っていた。
「あなたは?」
「琴南先輩とコンビ組んでる杉野です。先輩、近づけないから俺が代わりに」
 心配そうに愛歩を見つめている。この人が、浩介にもの申した後輩か。
 今度ゆっくり話しをしてみたい。今は愛歩が先だ。
「もともと、愛歩君のヒートは強いんです。私の弟のα性を引き出そうとして。二人が作用し合って引っ張られてる」
 浩介と慎二を見つめた。慎二が浩介を立たせている。背中を、強く叩かれた浩介の目に、いつもの強い眼差しが戻ってくる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

気付いたら囲われていたという話

空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる! ※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

処理中です...