抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

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「やべー……」
 気付いた有紀が笑った。
「ブラコンさん、愛歩とできてることになってる」
「え? 何で?」
 顔を起こした瑛太は、有紀が指さす方を見ている。
「あの子達は?」
「クラスの女子とその他。変態兄さんがダンディでイケメンって騒いでた」
「おや、高校生にモテるって良いね。私もまだまだ若いのかな?」
「寺島先生にチクるぞ」
「やめてやめて! 茜さん、キレるとすっごく怖いんだから!」
 俺の背中を押して歩き出した瑛太は、クラスの女子達に軽く手を上げている。キャーッと聞こえた声に満足そうで、後でこっそり茜に言ってやろうと思った。
「じゃあな、愛歩!」
「ああ、また明日!」
 有紀と別れ、瑛太の車まで歩いて行く。後部座席に乗りこむ俺に、済まなそうに笑っている。
「とういことで、浩介君の熱が下がるまでは私になりそう」
「俺はどっちでも良いですよ」
 浩介にしても、瑛太にしても、目立っていることにかわりはないし、もうすぐ卒業だから。この送迎も後数日で終わる。
「おや、私だと嫌かなと思っていたんだけど」
「ちゃんと謝ってくれたし。引きずらないのが俺なんで」
「うん、ありがとう。真澄の嫁に来てくれたら嬉しいな~」
 サラリと言っている。バックミラー越しに見える目は笑っている。
「急に何ですか」
「まあ、私個人の願望だから。気にしないで」
 駐車場を出た車は桃ノ木家へ向かう。腕を組んでバックミラーで視線が合わないようそっぽを向いた。
 瑛太はそれ以上は言わず、真澄がリモートワークを始めたいと言っていることを話してくる。返事をしながら、考えた。

 真澄と、番になることを。

 でも俺の気持ちは逆なんだ。
 真澄を、抱き締めたい。
 俺が、抱き締めたいんだ。
 知らず溜息をついた俺に気付いた瑛太は、赤信号で止まると振り返ってくる。
「相談ごとがあれば聞くよ?」
「……いえ、大丈夫です」
「そう? まあ、頼りないかもしれないけど、兄として受け止めるから」
「兄じゃねぇし」
「まだ、ね?」
 青信号に変わると笑いながら車を出している。もう一度溜息をついた俺は、車窓から流れる景色をなんとなく目で追った。瑛太には、絶対言ってはいけないと思う。
 αである真澄を、Ωの俺が抱き締めたいとは言えなかった。
 この想いは、閉じ込めておかなければ。
 瑛太に桃ノ木家まで送ってもらった俺は、癖のようにすぐに真澄の部屋に向かう。彼が倒れていないかどうか、先に確認しないと落ち着かないからだ。ドアをノックしながら開けてしまう。
「ただいま、真澄さん」
 部屋の中に入っても、真澄は居なかった。まさか本当に倒れて寝込んでいるのではないかとベッドに向かったけれど居ない。どこに行ったのだろう。鞄を置いて部屋を出ようとした俺は、ちょうど帰ってきた真澄と鉢合わせた。
「お帰りなさい、愛歩君」
「ただいまです。何してたんですか?」
「ルームランナーで少し走ってた。今日、調子が良かったから」
 そう言った真澄の額には少し汗が滲んでいる。ジャージを着ていた体はまだまだ細いけれど、軽く走れるくらいにはなってきた。
「遊園地、楽しみで。ちゃんと歩けるように足を鍛えておこうかと思って」
「そうなんですか。でも……」
「無理は駄目、でしょ?」
 笑っている真澄から、ふわりと良い匂いがしている。思わず上半身を屈めた。
「え……?」
「何だろう、甘い匂いがする……」
 どこかで嗅いだような気がする。鼻先を近づける俺に真澄が慌てて離れた。
「ぼ、僕汗臭いから……!」
「ああ、確かに凄い汗ですね。ちゃんと拭かないと」
 首筋からも流れている。このままでは風邪を引いてしまうかもしれない。ジャージの上着を脱がせた。中に着ていたティシャツも脱がせてしまう。
「……!!」
「ちゃんと拭いて。すぐにシャワーを……」
 噴き出している汗を拭いていると、また香ってくる。特に真澄の汗を拭いたタオルと、真澄自身から、甘い匂いが強い。
「は……恥ずかしいから……!」
 俺の手から逃れるように突っぱねた真澄の足がガクッと折れる。運動をして、体力が底をついたのだろう、崩れ落ちてしまった。受け止め抱き上げる。
「運動、長すぎたんじゃないですか?」
 急いでベッドへ連れて行った。シャワーを浴びさせたかったけれど、体力回復が先だろう。上半身裸の胸に手を置いた俺に顔を隠している。
「うぅ……こんな細い体見られるなんて……!」
「今更じゃないですか。ていうか、ずいぶん育って……」
 目眩がした。真澄からあまりにも良い匂いがしている。フラフラ惹き寄せられてしまう。
「……ぇ……えっ!?」
「すっげー……良い匂い」
「ま、ま、愛歩君!?」
 細い体に覆い被さった。特に真澄の項辺りからたまらない匂いがしている。鼻をすり寄せてしまう。
「ううう嬉しいけど……! あの、こ、こ、心の準備が……!」
「……きもち……いい」
 ふわりと温かい何かに包まれているような気がして。心地良い眠りに誘われてしまう。
 真澄を抱き込んだ俺は、そのまま眠ってしまった。
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