抱き締めても良いですか?

樹々

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抱き締めても良いですか?

24-4

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[もしもし! 浩介か?]
「残念、私でした」
[もう、家ですか?]
「ええ。今、ベッドに寝かせました。帰って来れそうですか?」
[もう少しで処理が終わるので、それから……]
[先輩、腕、やばいですよ。ぱっくり切れてる。やっぱり病院に行った方が]
[そのうち塞がるだろ。それより、悪いけど上がらせて……]
「切られたんですか!?」
 痴漢魔と交戦中、痛いと聞こえていた。その時だろうか。
[あー、まあ、ちょっとだけ……]
[ちょっとじゃないですって! 血、止まってないし]
[大袈裟だな。消毒したし、大丈夫だろ]
[あんたの神経どうなってんですか!]
[先輩をあんた呼ばわりするな!]
[すみません! 救急外来に連れて行きますからね!]
[いいって! 浩介が熱出してんだ、帰らないと]
 先輩後輩で揉めている。茜が私の手を取っている。
「病院、戻りましょう」
「そうだね。私が処置を……」
 握っていた携帯電話が取られた。眠っていると思っていた浩介が起きている。
「切られたんですか!?」
[浩介か? お前熱が……]
「無茶をしないで下さいと言ったはずです! どこですか? 迎えに行きます」
[待て待て! お前が熱出てるんだろ?]
「あなたはそうやっていつもどこかへ行ってしまう! 迎えに行きますからどこの病院へ行くか教えて下さい!」
[寝てろって! 今から帰るから……]
[だから! 帰って良い傷じゃないんですって!]
 ややこしいことになってきた。浩介は迎えに行くと言うし、慎二は帰って来ようとしているし、後輩は病院へ連れて行こうとしている。
 茜と視線を交わし合い、頷いた。浩介の手から携帯電話を取り上げる。
「琴南さんは桃ノ木病院の救急外来へ。連絡を入れておきます」
[大した傷じゃ……]
「浩介君は、私と茜さんが看ていますから。後輩さん、宜しくお願いします」
[了解です。行きますよ、先輩]
[おい、待てって! 浩介! ちゃんと寝てろよ!]
 最後に慎二の言葉が聞こえると、通話が切られた。慎二は後輩に任せておけば大丈夫だろう。浩介がフラフラと出て行こうとしたので捕まえた。抱き上げ、ベッドに引き留める。
「茜さん、焼き餅焼かないでね」
「仕方がありませんね。冷やす物持ってきます」
 離すと起き上がろうとするので、体重を掛けて止めた。潤んだ瞳で見上げられる。
「迎えに行かなければ」
「救急外来に連絡してあげるから。大人しく待っていよう」
 自分の携帯を取り出すと、救急外来担当の外科に電話を入れた。腕を切られた警察官が来るので、他に緊急を要する患者が居なければ優先するように伝えた。
 私と茜が浩介を出す気は無いと分かったのか、観念して大人しくしている。茜が持ってきたアイスノンで額や体を冷やしてあげながら、もう一度解熱剤を飲ませた。
「お粥作ったから食べて下さい」
「ありがとうございます」
 普段、世話をする側の浩介が世話をしてもらっていることに慣れていないのだろう。茜のお粥を食べながら恥ずかしそうだった。
 スーツを着替えさせ、パジャマ姿になった浩介は何度も時計を確認している。午後十時を回った頃、玄関のドアが開いた。
「浩介!」
 リビングに飛び込んできた慎二は、そのまま寝室まで駆け込んできた。浩介がすぐにベッドから起き上がる。
「お帰りなさい、傷を見せて下さい!」
「熱って……!」
「またこんな傷を!」
「高いのか!? 昨日、風呂場でぼうっとしてたから!」
 浩介は慎二の腕に巻かれた包帯を看ているし、慎二は浩介の額に手を当てている。茜と笑いながら寝室を出て行く。
「私達は帰るから。鍵、ちゃんと掛けて下さいね」
「あ! すみません、ありがとうございました!」
 浩介をベッドに押し倒した慎二が私達の後を追ってくる。浩介が追ってきていないことを確かめて、慎二に囁いた。
「Ωが足りていないようです」
「……Ωが足りてない?」
「はい。側に居てあげて下さい」
 慎二の肩をポンポン叩くとドアを開けた。茜と一緒に外へ出る。車まで歩いていると、茜が心配そうに振り返っている。
「大丈夫でしょうか」
「ここからは二人の問題だから」
「そう、ですね」
 車に乗りこむと我が家へ帰る。二人で程よく仲直りを果たすだろう。
 明日の朝、浩介の熱が下がっていることを期待した。
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