60 / 152
抱き締めても良いですか?
20-2
しおりを挟む***
休憩スペースで弁当を食べ終え、持ってきていた二つの箱の内、まずは真澄の箱を開けた。杉野が前のめりで覗き込んでくる。
「へー、もう貰ったんですか?」
「こっちは知り合いの子で、こっちが浩介から」
「味覚が無かったって子ですか?」
「そう。まだ体力が無い中で一生懸命作ってくれたかと思うと嬉しいよ」
ここへ来る前にお礼の電話は入れておいた。本命の愛歩には、彼が高校から帰って来てから渡すらしい。渡す前に作っていることがばれてしまったと笑っていた。
二人がまとまってくれたら良いな、と思っている。真澄には愛歩が必要だ。運命の番というのは抜きにしても、精神面で愛歩の存在は大きい。俺達大人は、真澄の弱い体を気遣いすぎていたのかもしれない。
「チョコが作れるくらい、元気になったんだな~」
一つ口に入れると甘かった。小さなハート型になっている。
真澄のチョコレートを食べている俺の前で、杉野もラッピングされた箱を開けている。
「彼女からか?」
「そうなんですけど……でかいんですよ」
「確かにでかいな」
俺のは二つとも掌サイズだが、杉野の箱は、掌二つ分で平たい箱に入っている。包装紙を解いて開けた杉野は、すぐに閉めてしまった。
「……いや、まずいっすね」
「どうした? 見せろって」
「いや、うん……つ、番さんの箱、開けましょう!」
「誤魔化すな。気になるだろう?」
隠そうとする杉野の手を握って払うと、素早く箱を開けた。
「……愛されてるな、お前」
駄目だ、吹き出しては駄目だ。
「くっそ~! 笑いたきゃ笑って下さいよ!」
「……ふっ……いや、うん、良いじゃないか!」
口元がヒクついてしまう。杉野は大きなハート型に描かれていた自分の顔をパキンッと割って噛みついた。
大きなハート型に固めたチョコレートに、色々な色のチョコレートでデコレーションされたのは、杉野をイラスト化した絵だった。それだけなら笑ったりしない。
イラスト化された杉野には、王子様風の衣装を着せていた。周りに星を飛ばし、キラキラにされていた。
そのイラストの横に、「I☆LOVE☆王子様」と書かれていた。
「一度、会ってみたいな。紹介しろよ」
「……台風みたいな子ですから。それより、番さんの見せて下さいよ」
自分の顔を噛み砕いている杉野は、浩介の箱が気になって仕方がないらしい。俺も気になっていた。ラッピングを解くと、丸いチョコレートが入っている。一つ口に入れると、ほろ苦いコーヒー味のチョコレートだった。半生のような食感だ。
「うまっ!」
「俺の顔と交換しましょうよ」
「顔は食いにくいな」
杉野にもやると、自分の顔のチョコレートと見比べている。
「ギャグ派と正当派に分かれましたね」
「お前のも愛情はたっぷりだからな」
「わかってますって」
自分の顔を何度も割って食べている杉野は完食した。俺も真澄と浩介のチョコレートを食べ終える。今日はもう、何もかも満足した気分だった。
「今日は早く帰りたいって顔してますね」
「まあ、な。あいつにチョコ貰ったの初めてだよ」
「前から思ってたんですけど、先輩って男好きですか? 女好きですか?」
「……どういう意味だ?」
杉野がちょっと待ってとコーヒーを買いに行っている。俺の分も買ってきてくれると渡してくれる。
「前から気になってたんですよね。署のΩ女子を見て、あの子可愛いとかって普通に言うじゃないですか」
「可愛い子は、可愛いだろう?」
Ωに限らず、小柄で良く笑っている女の子は可愛いと思う。俺も男だ、可愛い子には惹かれる。
「で、可愛い女子好きの先輩が、強面鉄仮面の番さんと一緒になったのが不思議で」
長身の彼は、いつも足を余らせている。足を組んだ杉野は、探る様に俺を見てくる。
「お前、俺がΩって忘れてるだろう?」
「忘れてませんよ。α女子との番も有りじゃないですか」
「……考えたことはあるけど、実現は難しいんだよ」
αの女性は、男根がある。だからヒートを止めるための、男Ωの選択肢は二つだ。αの女性と番になるか、αの男性と番になるか。
二択あるけれど、ほぼ一択しかない。
「可愛いと思った子はいたさ。でもな、ヒートを止めることを考えてみろ。男Ωの番になろうっていうα女子には、少なくとも俺は出会わなかった」
俺が、抱かれる立場にあったから。α女子は男根はあっても、やはり自分で子供を産みたい人が多い。α女子のほとんどは、同じα同士か、βと結婚している。
「Ωがヒートを止めるためには、αが必要だからな」
「それで番さん?」
「そう。まあ、抵抗がなかったと言えば、嘘になるけどな」
戸惑いはあった。俺はΩだけれど、男の意識が高かったから。ヒートを止めるためには、いつか男αと関係をもたなければと思っていたけれど。
見合いで出会った桃ノ木瑛太なら、と思い、でも、と妊娠できない体を言い訳に断った。本当は、男である自分が、男に抱かれる覚悟が無かったのもある。
良い人だと直感で感じていた。けれど、本当にこの人と一緒に居られるだろうかと不安もあって。好きになりたいのに、好きになれない自分の感情が上手くコントロールできなかった。
0
お気に入りに追加
342
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
気付いたら囲われていたという話
空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる!
※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?
すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。
病院で診てくれた医師は幼馴染みだった!
「こんなにかわいくなって・・・。」
10年ぶりに再会した私たち。
お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。
かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」
幼馴染『千秋』。
通称『ちーちゃん』。
きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。
千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」
自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。
ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」
かざねは悩む。
かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?)
※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。
想像の中だけでお楽しみください。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。
すずなり。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる