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抱き締めても良いですか?
11.もう一度 甘えてほしくて
しおりを挟むどうしてもしたいことがある。
今日こそ、成功させたい。
「ほら、お前も飲めって」
「……最近、妙に私にお酒を勧めますが……何か企んでいませんか?」
「企むだなんて。お前も飲めるなら、一緒に飲みたいだけだよ」
夕飯の時、コップにビールを注いで浩介にも飲ませている。この間、缶ビール一本で酔って俺に甘えた浩介がどうしてももう一度見たくて。
飲んでいない時に、ソファーに座ってテレビを見ながら膝を叩いて見せた時は、無表情な顔で無理だと言われた。眠くないのに、何故横になるのかと質問されて。
もう、理解している。浩介には世間的なイチャイチャが分からないということを。そして素のままだと、俺に甘えてこないで、俺を甘やかして世話をしたいのだと。
だが俺も甘えて欲しい。泣き虫浩介が見たい。すり寄ってくる浩介を求めている。
「……あなたが望むなら」
「おう! 乾杯!」
キンッとコップを打ち合った。すでに髪は下ろさせている。いつも風呂に入るまでオールバックのままなので、帰ってきたら俺が掻き回して崩している。
髪が下りると、年齢より若く見える。長身の男は、老けることを知らない。惚れた目線で見れば、なかなか男前だと思っている。
「美味いなー!」
「そう、でしょうか。私には分かりません」
「そのうち、仕事終わりの一杯が美味いって分かるようになるさ」
「そういうものでしょうか」
俺につられて一気に飲んでいる。空になったコップにまた注いだ。浩介も俺に注いでくれる。
あまり飲ませても駄目だ。酔わせようと調子にのってコップ三杯飲ませたら、目が虚ろになってしまって。甘えるどころか、寝落ちしてしまった。
今日は二杯までで様子を見てみよう。仕事の疲れ具合で、浩介の酔い方が変わる。観察していると、少し目がトロンとなってきた。
良い具合かもしれない。急いで自分のビールを飲み干すと、ソファーに移動した。さりげなくテレビを点けて待ってみる。
カタンと席を立っている音がしている。俺の隣に座ると、じっと見つめてきた。これはいけるかもしれない。膝枕をするチャンスだ。思い切り撫で回したい。
浩介を引き寄せようとした俺は、脇に添えられた手に驚いた。軽々と持ち上げられ、浩介の膝に乗せられた。背中を抱き締められている。
違う、そうじゃない!
俺の背中に顔を埋めてスリスリしている浩介を見たいのに、これでは顔が見えない。
でも、甘えてきている浩介を引き離すこともできなくて。黙ってスリスリを受け止めた。浩介のスリスリ攻撃は暫く続いた。
***
食後は酒のまわりが弱いのかもしれない。
今夜は風呂上がりの一杯で攻めよう。
先に入ってさっぱりした俺は、浩介が風呂から上がってくるタイミングで缶ビールを差し出した。
「遠慮します」
「そう言わずに」
「あなた……顔がニヤニヤしていますから」
「いいじゃん! 飲もう! な!」
浩介を捕まえソファーに引きずった。嫌がる浩介に蓋を開けた缶ビールを差し出した。俺と缶ビールを見比べ、溜息を吐きながら飲んでいる。
「美味しいとは思えないのですが……」
「じゃあ、ワインとか?」
「どうしてそんなに飲ませたがるんですか?」
「……まあ、ちょっと?」
「……やはり遠慮しておきます」
「飲んだらめっちゃして良いから! 頼む!」
パンッと両手を合わせて頼む俺に、眉間に皺を寄せながら缶ビールを口に含んでいる。苦そうに飲んでいく姿を見守った。
一気に飲み干した浩介は、濡れていた髪を拭いている。その手に俺の手も重ねた。一緒になって拭いてやる。
「……もしかして、お酒を飲むと人格が変わっているんですか?」
「……いや?」
「そうなんですね。私はあなたに何かしていませんか? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だって。俺的にはかなりツボなんだよ」
「やはり変わっているんですね」
しまった、正直に答えてしまった。浩介が離れていこうとしている。その腕を捕まえソファーに引き留めた。押し倒して逃げられないようにする。
「良いんだよ、浩介。さあ、こい!」
「……何の……こと……」
「ほら、なあ?」
まだしっとりしている髪を撫でてやった。目がとろんとしてくる。引き結んでいた唇が緩むと、ほんわり笑っているように見える。
よっしゃ、キタ――――!!
内心、ガッツポーズを決めながら浩介を起こした。座った俺の膝に素早く引き寄せる。大人しく膝枕をされた浩介の髪を拭いてやりながら、脱力していく体に満足した。
髪も、顔も、体も、撫でまくる。力を抜いてまったりしている浩介のおでこにキスを落としてやる。擽ったそうに笑っている顔に悶えそうだ。
「やばい、癖になりそう」
顔中にキスをしまくった。パジャマのボタンを外していく。貼っている胸板に手を這わせると、その手を握られる。
「……たくさん、して良いんですよね?」
「まだ、駄目だ」
「でも……」
「俺がまだ満足してないから」
浩介の顔を撫でてやる。最近は少し笑うようになってきた。それでも、あまり感情を外に出さないようにしているのが分かる。
もっと、笑って欲しい。
素になって欲しい。
俺に、甘えて欲しい。
肌に触れながら願ってしまう。俺と一緒にいる時が、安らぐ場所だと思ってもらえるようになりたい。
「なあ、浩介。俺と一緒に居るのは楽しいか?」
「もちろんです」
「俺もだよ。お前はどんな俺でも受け止めてくれるからな」
番になる前から、浩介は浩介のままだった。口説き文句の一つも言わず、気付けば側に居て。居るのが当たり前になっていた。
番になっても特に変わらなかった。瑛太や茜のように、俺も愛し合いたい。
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