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抱き締めても良いですか?
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しおりを挟む『お前みたいな男Ωは目障りなんだよ。どこか余所の部署へ移ってくれないか』
『自分が決めることではないので』
『早乙女さんもなんでお前をうちに受け入れたんだか。なあ、男同士って気持ちが良いのか? 番になった奴の気が知れないな』
『……仕事がありますので』
『今度やらせてくれよ。本当に濡れるのか見てみたい』
『え、何。この署って公然セクハラしてんの? マジキモいんですけど』
『誰だ、お前!』
『いやいや、誰だお前じゃないでしょ。あんたこそ、何やってんの? ここ警察なんだけど。あれ、俺間違えた?』
停止ボタンを押した。松井の顔を見れば顔が青ざめている。席を立った早乙女に、肩を揺らしている。
「これはいったい、どう言うことだろうか?」
「以前、しつこく迫られていましたもので。身を守るため録音しておいたものです。使わないで済むならそれで良かったのですが」
「そう言うことはすぐに報告するように言っておいただろう」
「杉野が移動したての時だったもので。あいつに迷惑を掛けたくなくて」
「あの子に移動は出ないよ。移動するのは、君だ」
ポンッと松井の肩を叩いている。
「君の悪い噂は聞いていた。Ωを集めると言い出したから、まさかとは思ったのだが」
「わ、私は純粋に、捜査の進展を願って……!」
「君は外れてくれて構わないよ。琴南君と話があるから出て行ってくれないか?」
「早乙女上官!」
「出て行きなさい」
物静かな人だけれど、威厳がある人だった。言葉を失った松井がふらつきながら出て行く。俺を睨んでいたけれど、そっぽを向いてやった。
早乙女上官と二人だけになると、座るように勧められた。腰掛けると早乙女上官も座っている。
「困ったものだよ。彼はβであることを妬んでいてね。Ωに辛く当たる節がある」
「まあ、触ったりしてはこなかったんで無視してたんですが」
「君にセクハラした者達は皆飛ばしたのに、まだ居たのか」
「俺をあまり庇わない方が良いですよ。早乙女上官にはこの署に居てもらいたいですから」
「君を庇うことは、他のΩを守ることでもあるから。君が盾になってくれたおかげで、退職率がずいぶん減ったよ」
穏やかに話すこの上官を尊敬している。警察学校に通っている時に、時々、指導者として呼ばれていた人だ。俺のことも他の男達と同等に扱ってくれた人だった。
だが、俺には番が居なかったから。加えて、ヒートを抱えての訓練だったから、三ヶ月に一度、一週間ほど休む俺に周りの目は冷たかった。
一週間分の遅れを、早乙女上官が埋めてくれた。無事に、卒業まで居させてくれた恩人だった。
「番の彼は、良い人かい?」
「……まあ、良い人だと思います」
「おや、君が選んだくらいだ、会ってみたいと思っていたんだが」
「俺みたいなのを番にしてくれたので、感謝はしています」
番の居ないΩは、警察官になれなかった。卒業しても、その先が閉ざされていた。
Ωを守る警察官になりたい、俺の夢は叶わないと思っていたけれど。
「男Ωってだけでも壁があるのに、子供ができない男Ωの番になってくれるなんて、太っ腹ですよ」
「子供ができるできないは、彼にとっては重要じゃないと思う。番になりたいと望むのは、彼が君を求めているからだと思うよ」
静かに正された。少し俯いてしまう。俺にとって子供ができないことは、ずっと負い目に感じていたことだった。せめて子供ができる体なら、番が見つかっていたんじゃ無いかと思って。好きになった人を、諦めたこともある。
「私の妻も、子供はできない体だった。けれど、私には彼女しかいないと思って何度もプロポーズしたものだよ」
立ち上がった早乙女上官は、俺の肩をポンッと叩いた。
「話してみなさい。君自身には彼が必要なんだろう?」
「……はい」
俺も立ち上がった。先に出ていく上官の後に続いた。外に出ると他のΩが待っていた。その中に杉野も混ざっている。
「さっき松井さんが青ざめて出て行ったけど、股間蹴り飛ばしたんですか?」
「するか。俺は手は出さない主義だ。やられたらやり返すけどな」
「警察署内でセクハラとは感心しない。他にもあれば、私のもとへ来なさい」
早乙女上官は他のΩ達を一人一人見つめると戻っていく。これから松井の処分を決めに行くのだろう。Ω達に囲まれながら頭をかいた。
「ま、少し平和になるかな?」
「琴南さん、いつもごめんなさい!」
「怖くて、言えなくて……」
「いいって。男のセクハラは男に任せなさいって」
「先輩にセクハラとか、無いわー」
「杉野?」
「俺は男に興味ないんで」
肩を竦めてみせる杉野に皆で笑った。それぞれ持ち場に戻っていく。書類整理を終わらせないと、今日も遅くなってしまう。連日、Ωを襲う事件の調べも進めていた。
絶対に捕まえる。
書類整備が終わったら、回収した防犯カメラのチェックもしておきたい。無駄に過ぎてしまった時間を取り戻すため、集中してこなした。
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