抱き締めても良いですか?

樹々

文字の大きさ
上 下
4 / 152
抱き締めても良いですか?

1-3

しおりを挟む

「つか、馬鹿だなーあんたら。頭良いとこいってんのに、無駄にしやがって」
「う、煩い! Ωのくせに!」
「はいはい、Ωですよ。聞き飽きた」
 αの言い分なんて聞きたくない。警察が来るまで三人を見張っていた俺は、項にチリッと痛みを感じた。
 項を触ってみても、虫に刺された感じはしない。気のせいかと思っていたら、また、チリッと痛みを感じる。
 変に思っていると、心拍数が一気に跳ね上がった。血が沸騰したかのような錯覚がすると、呼吸がしづらくなる。
 まさか、このタイミングで来るとは。
「お前達……逃げろ……!」
「え……?」
「こんなことで将来棒に振るんじゃねぇ……!」
「お前……まさか……!」
「走れ……!」
 怒鳴ると、弾かれたように三人が走って行く。このままここに居れば、俺のフェロモンに当てられ、最悪、精神崩壊を起こすだろう。あの中に番候補がいると、俺も逆らえなくなる。俺の意思とは関係なく、受け入れてしまうなんて嫌だ。
「くそっ……! これが……ヒート……」
 初めての発情だった。高校三年生になる今まで、一度も来なかったのに何で今、起こったのか。体中が馬鹿みたいに震えている。
 座り込んでしまった。少しでも動けば浅ましい声が出そうで奥歯を噛み締めた。
 体格に恵まれ、普通のβとして産まれていれば、今頃可愛い彼女でもできていただろうに。男Ωの彼女になってくれるような理解あるαやβに出会えなかった。

*欲しい……αが欲しい……!

「うるせー! 黙れ!」
 頭の中にαを求める声が響く。通報していたからか、パトカーが一台、公園の中へ入ってきた。車を降りた警察官が俺の所へ来ようとしているのが見える。
「大丈夫ですか!?」
「待て! お前は近づくな! ヒートだ!」
 二人の内、一人がαなのか、俺のフェロモンを吸って顔を赤くしている。息が荒くなり、無意識にだろう、手を伸ばして近づこうとした。もう一人の警察官が押さえ込んでいる。
「救急車を呼べるか!?」
「手が……震えて……! 初めてで……!」
「くそっ! 暴れるな!」
「離れて……くれ……」
 αの警察官をこのまま俺のフェロモンに当て続けるのは危険だ。這ってでも離れようとした俺の側に、知らない男性が立っていた。
 細い体。成人しているようだけれど、幼く見える。

*……抱いて! 抱いて欲しい……! この人に……!!

 頭の中の声が大きくなった。尻の奥にある子宮が疼いているのか、腰が震えてしまう。この男性もαなのか、頭の中の声が煩く響いている。意識が保てそうにない。
「僕の……病院の……救急車を……! よ、呼んでいます……!」
 突然現れた男性は、フラフラと近づいてくると俺の体に触れた。
 瞬間、体中に電流が走り抜けた。我慢ができなくてイッてしまう。
「あぁ……!!」
 叫んだ俺は意識を手放した。
 危険なのに、ヒートを迎えている状態でαが側に居るのに。
 震えた体に意識を繋ぎ止めることができなかった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

完結・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

純情なる恋愛を興ずるには

有乃仙
BL
 事故に遭い、片足に後遺症が残ってしまった主人公は、陰口に耐えられず、全寮制の男子校へと転校した。  夜、眠れずに散歩に出るが林の中で迷い、生徒に会うが、後遺症のせいで転んだ主人公は、相手の足の付け根の間に顔が埋まってしまう。  翌日、謝りに行くものの、またしても同じことが起きてしまう。  それを機に、その生徒と関わることが増えた主人公は、抱えているものを受け入れてもらったり、彼のことを知っていく。  本来は、コメディ要素のある話です。理由付けしたら余分なシリアスが入ってしまいました。主人公の性格でシリアスをカバーしているつもりです。  話は転校してからになります。  主人公攻めで、受けっぽい攻め×攻めっぽい受け予定です。

きみがすき

秋月みゅんと
BL
孝知《たかとも》には幼稚園に入る前、引っ越してしまった幼なじみがいた。 その幼なじみの一香《いちか》が高校入学目前に、また近所に戻って来ると知る。高校も一緒らしいので入学式に再会できるのを楽しみにしていた。だが、入学前に突然うちに一香がやって来た。 一緒に住むって……どういうことだ? ―――――― かなり前に別のサイトで投稿したお話です。禁則処理などの修正をして、アルファポリスの使い方練習用に投稿してみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

モルモットの生活

麒麟
BL
ある施設でモルモットとして飼われている僕。 日々あらゆる実験が行われている僕の生活の話です。 痛い実験から気持ち良くなる実験、いろんな実験をしています。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

処理中です...