抱き締めても良いですか?

樹々

文字の大きさ
上 下
1 / 152
抱き締めても良いですか?

プロローグ

しおりを挟む


 毎朝、両親が追い掛けてくる。逃げるように玄関を飛び出した。
「愛歩! もう、本当に危ないのよ!? 首輪を着けなさい!」
「いらないって! 襲ってきたらぶっ飛ばすから!」
「ヒートがきたらあなただって動けなくなるの! 母さんも苦しかったんだから!」
「大丈夫だって! 行ってきます!」
 全速力で走って行く。追い掛けてきた母さんの足では追いつけない。
「おばちゃん、おはよう! おーい、愛歩-!」
 走る俺を追い掛けてくる幼馴染み。俺より足の速い彼は笑いながら並んだ。
「おばちゃん、毎朝大変だな」
「要らないって言ってんだけどしつこいんだよ」
「気持ちは分かる。高三になってもまだヒート来てないからな、お前」
「……怖いなら離れてろよ?」
 母さんが追い掛けてきていないことを確認して足を止めた。歩く俺の隣に並びながら背伸びをしている。
「なに、大丈夫。俺もう、番になったし」
「ふーん……ん? はぁ!? いつだよ!?」
 親友の衝撃発言に大声で突っ込んだ。

~*~

「起きて下さい。今日も早いのでしょう?」
「……う~ん、もうちょっと……」
 枕を抱き寄せた。ぐずる俺の肩を揺さぶってくる。
「先ほどもそう言って寝てしまって。七時を過ぎていますよ?」
「……え!?」
 時間を聞いて飛び起きた。瞼を擦りながらベッドから飛びしていく。急いで顔を洗って着替えてしまう。朝食を食べている時間は無さそうだったけれど。
 リビングのテーブルには、時間を掛けて作ってもらった朝食が並べられていた。これを食べていかないのは失礼極まりない。
「頂きます!」
 浩介が作ってくれるご飯はどれも美味しい。味わって食べたいけれど時間が無い。バタバタ詰め込む俺の前にお茶を置いてくれた。
「あの……」
「うん?」
 最後の漬け物を頬張る俺に、何か言いたそうだったけれど、結局何も言わなかった。作ってくれた弁当箱を差し出される。
「ありがとう、今日も遅いから、先寝てて良いからな」
「……はい」
 弁当箱と鞄を掴み、家を飛び出した。

~*~

「起きて下さい、瑛太さん。朝ですよ」
「……さっき寝たばかりだよ」
 優しい声が起こしてくれるけれど、寝てすぐ起きるなんて嫌だ。
「いいえ? ぐっすり眠って六時間経っていますけど?」
「……そう?」
「ええ」
 クスクス笑っている声も気持ちが良い。肩を揺さぶる手を取るとベッドに引き込んだ。細い体を抱き締める。男だけれど、Ωの彼の抱き心地はすこぶる良好だ。
「もう少し寝よう」
「駄目ですよ。ぁ……」
「大丈夫。身支度なんてすぐ終わるんだから」
「……もう」
 項にキスをするとうっとりしている。昨日は疲れて眠ってしまったから、今から補給しよう。
「僕も……行かないといけないんですけど?」
「大丈夫、大丈夫」
 宥めながら服に手を掛けた。

~*~



 抱き締めても良いですか?



 あなたを



 強く抱き締めても良いですか?




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

気付いたら囲われていたという話

空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる! ※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

処理中です...