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王国戦士団長付従者マルコ(35)

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               35
 マルコは、ペペロに連れられて、戦士団庁舎から戦士団寮へ移動した。
 両方の建物は隣接している。
 建物同士は、渡り廊下で通じていた。
 マルコは部外者だが、居住者であるペペロに伴われているため、戦士団寮への立入りは許される。
 戦士団の制服で王都内を歩いていると、住人から仕事を頼まれる可能性がある。
 したがって、まず部屋に戻り、着替えてから外出するというのが、ペペロの案だった。
 道すがら、ペペロはマルコを質問攻めにした。
「おまえ、どんな魔法使ったんだ? 団長の従者なんて、普通なら絶対になれないぞ」
「そうなの? でも、オフィーリアさんがかあちゃんと幼なじみで、エリスが王都に行くなら僕も行きたいって言ったら、私の家に住め、って言ってくれたんだ」
 大分、端折ったが、概ねそんなところだ。
 ところで、ペペロは、マルコが転生勇者を夢に見る話は知らなかった。
 ペペロが、マオック村を出たのは、約三年前。
 マルコが、夢を見るようになったのも、約三年前だ。
 だが、厳密には、ペペロが村を出た方が先である。
 以来、マルコはペペロと会っていなかったので、ペペロは、マルコの夢の話は知らないのだ。
「ふーん、ラッキーだったな。かあさんは元気か?」
「元気だけれど、急に僕がこっち来ることになったから、別れ際、泣いてた。エリスと一緒だと、僕、三年はこっちにいるから、にいちゃん、早く帰ってあげて。トマスさんも待ってるよ」
「でも、相手がなあ」
「全然いないの?」
 二人は、ペペロの部屋の前に着いた。
 ペペロは鍵を出す。
「いない」
「好きな人も?」
 ペペロは、鍵を使い、部屋の扉を開けた。
 二人は部屋に入る。
 ペペロの部屋の中は、棚も壁も床も天井も、転生勇者シレン様グッズであふれていた。
 ポスター、のぼり、ストラップ、人形、ぬいぐるみ、うちわ等々、すべて、例の三頭身デフォルメイラストのシレンである。どこのドルオタかアニオタか、といった有様だ。
「今は、シレン様、一筋だ」
 ペペロは、どや、と胸を張った。
 ベッド脇の棚にも、シレングッズが並べられている。
「うわぁ」と、マルコは頭を抱えた。
「絶対、女の子呼べない部屋じゃん」
 いや、男でも、普通は呼べない。
「適当に、そのへんに座ってろ」
 ペペロは、着替え始めた。
「座るとこなんかないよ」
 と、マルコは、立ったまま、シレングッズを見回している。
「にいちゃん、シレンとは仲いいの?」
「バカ! 転生勇者様を、呼び捨てにするなんて恐れ多い」
「でも、話ぐらいするんでしょ? オフィーリアさんが、戦士団員は、みんなシレンの大ファンだって言ってたけれど」
「話せるわけないだろ」
「マジで?」
「クールビューティーだぞ。挨拶以外、戦士団の誰とも話したことなんかないんじゃないかな」
「僕、話したよ。同じ馬車で王都まで来たもん」
「嘘! なんで?」
「エリスのお迎えにオフィーリアさんとマオック村に来た」
「ずりい、俺なんて、三年も追っかけやってんのに。でも、王都では気を付けろよ。親衛隊が目を光らせているからな」
「転生勇者親衛隊って、ファンクラブなんじゃないの?」
「よく言えばな。悪く言うと、転生勇者様への抜け駆け禁止の自粛自警団だ」
 ペペロが、腰のベルトにつけていたストラップを外して、一時的に、鎧かけにかけた。
 ダンや学院生たちが持っていた物と同じ、見覚えのある転生勇者様ストラップだ。
 但し、ダンが持っていた物は赤マント、学院生たちの物は黄マントや緑マントだったのに対し、ペペロの物は青マントだ。
 マルコは、ストラップを手に取った。
「これ、流行《はや》ってるの? みんな、持ってるけど」
「転生勇者親衛隊の隊員証だ。番号が書いてあるだろ」
「背中に『98』ってある」
「隊員番号だ。入隊順に、マントの色が変わってくる。俺のは、青マントだぞ」
 何を言ってるのか分からない。
「どういうこと?」
「隊員番号1から10は赤マント。11から100は青マント。101から1000は黄マント。1001から上は緑マントだ。青は、それだけ古くからのファンってことだ」
 自慢されても、マルコには、よくわからない。
 トップオタ、という言葉が、マルコの脳裏になぜか浮かんだ。
 意味はわからない。
 転生勇者の夢を見る力の一環かも知れないし、違う天の声のせいかも知れない。
 とりあえず、自分がシレンのマネージャーであることは、まだ、伏せておこう、と、マルコは思った。何か、危険だ。
 もっとも、ペペロは、古くからのファンづらをしたが、シレンが、転生してまだ三年なので、当時からの王都民であれば、実質的な活動歴は、何マントでも、皆、ほぼ同じだ。
 ペペロが、青マントなのは、何かが評価されたわけではなく、たまたまそうだったに過ぎなかったが、むしろ、青マントに滑り込んでしまったがために、以後、ペペロは、シレンのファン活動に熱を上げるようになったという経緯がある。
「スラゼントスさんは、赤だったよ」
「赤マントとか、青マントでも若い方の番号は、親衛隊結成時に国の偉い人たちに割り振られたものなんだ。俺は、欠番だと思ってる」
 なんだか、勝手な理屈である。
「でも、何でみんなが持ってるの?」
「王都に住むのに、隊員ストラップを持っていないと損だからな。買い物をする際にストラップを見せると、住民価格に割引されるんだ。ストラップがないと、観光客と見なされて、観光価格で買うことになる。おまえも王都で暮らすのだったら親衛隊に入らないとな」
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