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第2章
第15話 友人と飲みに行ってみた
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約束した通り、仕事終わりに男三人で向かったのは行きつけの小料理屋だ。
王都で店を構えている割にはこじんまりとしていて、言い方は悪いが少し汚い。
しかし、リーズナブルなお値段で美味いものを提供してくれる最高のお店だ。
見つけたのはディードで、無理矢理に連れてこられてからすっかりはまってしまった。
「カンパーイ!」
「乾杯」
「今日も一日お疲れ様でした。乾杯」
相変わらず、足並みが揃わない。
それでも居心地が悪くないのだから学園卒業後も飲みに行ける間柄なのだろう。
一気飲みしてジョッキを打ち付けるディード。三分の一ほどの酒を飲んで一息つく俺。一口飲んで口についた泡を拭くマーシャル。
三者三様ではあるが、誰も価値観を押し付けたりしない。
我ながら良い関係性だ。
「サンキューな、フリッド。おめぇがアインドリッヒ様に口添えしてくれたおかげで騎士団のレベルが一気に上がったぜ」
「それは良かった。先生もうちで馬と戯れているだけならボケそうだったし。良い刺激になってるだろう」
「最強の騎士団長様をジジイ扱いできるのはお前くらいだぜ。トーマだって頭が上がらないのに」
「俺だって尊敬しているよ。あの人、オーバーワークは絶対に許さないだろ? 人の限界を見極める天才なんだよ」
温厚なアインドリッヒ先生が怒るのは自主トレをやりすぎた時だけだ。
それ以外で叱られた記憶がない。
「トーマは今頃、どこで何やってんだろうな」
俺の弟は騎士団の中でもエリート中のエリートしか入れない部隊に所属し、大陸中を駆け回っている。
トーマは年に数回だけ帰宅して大量の土産と土産話を持って来てくれる。
今でも俺に懐いてくれる可愛くて自慢の弟だ。
「そうだ、マーシャル。アーミィはどうだった?」
一人酒を楽しんでいるインテリイケメンに声をかけ、一番の気がかりを聞いてみた。今日の一番の目的だからな。
「なんの話だ!? アーミィって誰だよ!?」
「声がデカい」
「この人、王立学園で臨時講師を務めたのですよ。その際に一人の女子生徒を気に入り、私を紹介すると言って手篭めにしたのです」
「待て、マーシャル。もう酔っているのか? 流れるように嘘をつくな」
いつになく饒舌なマーシャルにチョップして、空いたグラスを店員さんに返却する。
この感じ、懐かしいな。
「で、アーミィって誰だよ?」
「アーミィ・イエストロイ。イエストロイ公爵家の御令嬢だよ」
「おまっ!? とんでもねぇところに手ぇ出そうとしてんな!」
「だから騙されるなって。アーミィが気に入っているのは俺じゃなくて、マーシャルなんだよ。だから紹介してやったんだ」
「はぁ!? お前、逆玉乗るんか!? 王都ドリームを掴もうとしてんのかよ!」
絶好調のディードにもチョップをかまして一旦落ち着かせる。
運ばれてきた追加の酒とつまみを差し出せば、黙ってくれるからいくらか扱いは楽だ。
「アーミィさんは紛れもなく天才です。とんでもない才能を持っています。それなのに劣等感を抱えていて。正直、嫌いになりそうでした」
マーシャルにそこまで言わしめるとは……。アーミィ・イエストロイ、恐ろしい女だ。
「水の魔術の適性があったか?」
「えぇ。あなたの見立て通りでしたね。魔術大会優秀賞は間違いないでしょう」
あの子、そんなに凄いの?
もしかして俺たちでダイヤの原石を発掘しちゃった?
「じゃあ、将来はマーシャルの部下に欲しい?」
「私としては部下には欲しくありません。言うことを聞かない子なので」
あー、そうだね。協調性なさそうだもんね。
「そうだ。今の剣術クラスと魔術クラスには将来有望そうな生徒がいたから、きっと二人の耳にも届くと思う。アーミィは薬術クラスだから将来はそっちの方に進むかもね」
「なわけねーだろ、ボンクラ。あのカーミヤ様もリューテシア嬢もとっくの昔に薬術から距離を置いただろ。そういうことなんだよ」
おい、やめろよ。
サーナ先生が傷つくだろ。
「酒の席とはいえ失礼だぞ、ディード」
「へいへい」
不貞腐れたように酒を煽るディードは置いておいて、マーシャルへの質問を続ける。
「何の魔術を教えたの?」
「幻影魔術や造形魔術などですね。どれも一度見ただけで完璧に真似されるので、お引き取り願いました」
そうだね。
マーシャルくん、プライド高いもんね。
「それにしても、あなたが彼女に先生と呼ばれているのがおかしくて」
「言われてみればそうなんだけど。なんか、違和感がないんだよな」
そういえば、俺はアーミィに自己紹介していない気がするな。
まぁ、今更か。
「俺よぉ、近々、昇級試験なんだよ」
机に肘をつくディードがだるそうに告げる。
たったの二年しか騎士団に所属していないのに、もう指揮官になるのか。
相変わらず、凄い男だな。
「おめぇはどうよ?」
「私はすでに王宮魔術師ですから、平民でこれ以上の出世は不可能ですね。給金も十分過ぎるので、多くは望みませんよ」
忘れがちだけど、俺やディードと違ってマーシャルは庶民の出自だ。
だけど、魔術の才能が開花し、試験を合格したから高給取りになっている。
ただ、魔術師はプライドが高いから妬み嫉みが尽きない。
部外者の俺が遠くから見ているだけでも胃が痛くなる現場に遭遇する時がある。マーシャルは相当メンタルの強い男だ。
「フリッドは?」
「俺は学園の臨時講師とか、ルミナリオの護衛で他国に行ったりとか、そんなに変わり映えしないよ。一番、変わったのはクロード先輩じゃないか? この前、夜会で久しぶり会ったけど、オーラが凄かったもん」
二人は遠くを見て、「あぁ……」と無気力な声を出した。
「今や大臣の仲間入りで、史上最年少公爵様だろ。そんな人と二年も同じ学園に通えたなんて名誉だぜ」
「本当ですよ。あなたと一緒にいたおかげで、他の生徒よりも話す機会にも恵まれていましたからね。その点では感謝しています」
「おい。他にも感謝すべき点がいくらでもあるだろ」
本当はクロード先輩も呼んで在学中に開催した男だけのパーティーのように、はしゃげれば良かったのだが、そう簡単には声をかけられない存在になってしまったのが事実だ。
クロード先輩が来たら店側も困惑するだろうし。
「じゃあ、俺は先に帰る。金は置いとくから足りなければ後日請求してくれ。またな」
「おう。リューテシア嬢によろしく!」
「お疲れ様でした」
一足先に帰宅した俺はまだ起きていたリューテシアに出迎えられ、一緒にベッドに入った。
「楽しかったですか?」
「うん。昔を思い出したよ。この前話した、アーミィ・イエストロイだけど、とんでもない才能を持った子だったらしいよ」
「ウィル様の目利きですもの。当然でしょう」
えへへ。褒められてしまった。
よくやったぞ、アーミィ。今度会ったら何かあげよう。
こうして今日もいつの間にか眠ってしまっていた。
◇◆◇◆◇◆
ある日、ルミナリオの使者の訪問によって叩き起こされた俺は文句を言いながらも王宮へと向かった。
「よく聞け、ウィルフリッド。緊急事態である」
その緊迫した表情と声に眠気は吹き飛び、姿勢を正す。
「ユティバスからの報告だ」
ここで大陸随一と名高い監獄の名前が出るとは思わなかった。
しかし、次の一言は更に予想しないものだった。
「昨夜未明、マリキス・ハイドが脱獄した」
王都で店を構えている割にはこじんまりとしていて、言い方は悪いが少し汚い。
しかし、リーズナブルなお値段で美味いものを提供してくれる最高のお店だ。
見つけたのはディードで、無理矢理に連れてこられてからすっかりはまってしまった。
「カンパーイ!」
「乾杯」
「今日も一日お疲れ様でした。乾杯」
相変わらず、足並みが揃わない。
それでも居心地が悪くないのだから学園卒業後も飲みに行ける間柄なのだろう。
一気飲みしてジョッキを打ち付けるディード。三分の一ほどの酒を飲んで一息つく俺。一口飲んで口についた泡を拭くマーシャル。
三者三様ではあるが、誰も価値観を押し付けたりしない。
我ながら良い関係性だ。
「サンキューな、フリッド。おめぇがアインドリッヒ様に口添えしてくれたおかげで騎士団のレベルが一気に上がったぜ」
「それは良かった。先生もうちで馬と戯れているだけならボケそうだったし。良い刺激になってるだろう」
「最強の騎士団長様をジジイ扱いできるのはお前くらいだぜ。トーマだって頭が上がらないのに」
「俺だって尊敬しているよ。あの人、オーバーワークは絶対に許さないだろ? 人の限界を見極める天才なんだよ」
温厚なアインドリッヒ先生が怒るのは自主トレをやりすぎた時だけだ。
それ以外で叱られた記憶がない。
「トーマは今頃、どこで何やってんだろうな」
俺の弟は騎士団の中でもエリート中のエリートしか入れない部隊に所属し、大陸中を駆け回っている。
トーマは年に数回だけ帰宅して大量の土産と土産話を持って来てくれる。
今でも俺に懐いてくれる可愛くて自慢の弟だ。
「そうだ、マーシャル。アーミィはどうだった?」
一人酒を楽しんでいるインテリイケメンに声をかけ、一番の気がかりを聞いてみた。今日の一番の目的だからな。
「なんの話だ!? アーミィって誰だよ!?」
「声がデカい」
「この人、王立学園で臨時講師を務めたのですよ。その際に一人の女子生徒を気に入り、私を紹介すると言って手篭めにしたのです」
「待て、マーシャル。もう酔っているのか? 流れるように嘘をつくな」
いつになく饒舌なマーシャルにチョップして、空いたグラスを店員さんに返却する。
この感じ、懐かしいな。
「で、アーミィって誰だよ?」
「アーミィ・イエストロイ。イエストロイ公爵家の御令嬢だよ」
「おまっ!? とんでもねぇところに手ぇ出そうとしてんな!」
「だから騙されるなって。アーミィが気に入っているのは俺じゃなくて、マーシャルなんだよ。だから紹介してやったんだ」
「はぁ!? お前、逆玉乗るんか!? 王都ドリームを掴もうとしてんのかよ!」
絶好調のディードにもチョップをかまして一旦落ち着かせる。
運ばれてきた追加の酒とつまみを差し出せば、黙ってくれるからいくらか扱いは楽だ。
「アーミィさんは紛れもなく天才です。とんでもない才能を持っています。それなのに劣等感を抱えていて。正直、嫌いになりそうでした」
マーシャルにそこまで言わしめるとは……。アーミィ・イエストロイ、恐ろしい女だ。
「水の魔術の適性があったか?」
「えぇ。あなたの見立て通りでしたね。魔術大会優秀賞は間違いないでしょう」
あの子、そんなに凄いの?
もしかして俺たちでダイヤの原石を発掘しちゃった?
「じゃあ、将来はマーシャルの部下に欲しい?」
「私としては部下には欲しくありません。言うことを聞かない子なので」
あー、そうだね。協調性なさそうだもんね。
「そうだ。今の剣術クラスと魔術クラスには将来有望そうな生徒がいたから、きっと二人の耳にも届くと思う。アーミィは薬術クラスだから将来はそっちの方に進むかもね」
「なわけねーだろ、ボンクラ。あのカーミヤ様もリューテシア嬢もとっくの昔に薬術から距離を置いただろ。そういうことなんだよ」
おい、やめろよ。
サーナ先生が傷つくだろ。
「酒の席とはいえ失礼だぞ、ディード」
「へいへい」
不貞腐れたように酒を煽るディードは置いておいて、マーシャルへの質問を続ける。
「何の魔術を教えたの?」
「幻影魔術や造形魔術などですね。どれも一度見ただけで完璧に真似されるので、お引き取り願いました」
そうだね。
マーシャルくん、プライド高いもんね。
「それにしても、あなたが彼女に先生と呼ばれているのがおかしくて」
「言われてみればそうなんだけど。なんか、違和感がないんだよな」
そういえば、俺はアーミィに自己紹介していない気がするな。
まぁ、今更か。
「俺よぉ、近々、昇級試験なんだよ」
机に肘をつくディードがだるそうに告げる。
たったの二年しか騎士団に所属していないのに、もう指揮官になるのか。
相変わらず、凄い男だな。
「おめぇはどうよ?」
「私はすでに王宮魔術師ですから、平民でこれ以上の出世は不可能ですね。給金も十分過ぎるので、多くは望みませんよ」
忘れがちだけど、俺やディードと違ってマーシャルは庶民の出自だ。
だけど、魔術の才能が開花し、試験を合格したから高給取りになっている。
ただ、魔術師はプライドが高いから妬み嫉みが尽きない。
部外者の俺が遠くから見ているだけでも胃が痛くなる現場に遭遇する時がある。マーシャルは相当メンタルの強い男だ。
「フリッドは?」
「俺は学園の臨時講師とか、ルミナリオの護衛で他国に行ったりとか、そんなに変わり映えしないよ。一番、変わったのはクロード先輩じゃないか? この前、夜会で久しぶり会ったけど、オーラが凄かったもん」
二人は遠くを見て、「あぁ……」と無気力な声を出した。
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「おい。他にも感謝すべき点がいくらでもあるだろ」
本当はクロード先輩も呼んで在学中に開催した男だけのパーティーのように、はしゃげれば良かったのだが、そう簡単には声をかけられない存在になってしまったのが事実だ。
クロード先輩が来たら店側も困惑するだろうし。
「じゃあ、俺は先に帰る。金は置いとくから足りなければ後日請求してくれ。またな」
「おう。リューテシア嬢によろしく!」
「お疲れ様でした」
一足先に帰宅した俺はまだ起きていたリューテシアに出迎えられ、一緒にベッドに入った。
「楽しかったですか?」
「うん。昔を思い出したよ。この前話した、アーミィ・イエストロイだけど、とんでもない才能を持った子だったらしいよ」
「ウィル様の目利きですもの。当然でしょう」
えへへ。褒められてしまった。
よくやったぞ、アーミィ。今度会ったら何かあげよう。
こうして今日もいつの間にか眠ってしまっていた。
◇◆◇◆◇◆
ある日、ルミナリオの使者の訪問によって叩き起こされた俺は文句を言いながらも王宮へと向かった。
「よく聞け、ウィルフリッド。緊急事態である」
その緊迫した表情と声に眠気は吹き飛び、姿勢を正す。
「ユティバスからの報告だ」
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