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第15話
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「惚れ直しはった?」
挑発するように目を細めて問いかけるギンコは色っぽいなんて単純な言葉では形容できない。
朱色のアイシャドウはとんでもない破壊力で、ぷっくりとした唇に引かれたルージュは魔性だ。
こいつ、本当にギンコか?
なんで立ってる?
キツネの進化にしては、ちょっとエロすぎ――
と、そこまで思考して、考えを改めた。
「あぁ……君、ポ○モン系じゃなくて、デ○モン系ってことね」
ポカンとするギンコとクスィーちゃんを放置して歩き出す。
「セフィロさんたちも追いかけて来るやろうから先に帰ろうや」
「その前に――」
ギンコの凛とした声が肌寒い朝の空気を更に冷たく感じさせた。
「旦那様がなぜダークエルフ族になっているのか説明してくださいます?」
こっわ!
なんで美人が薄く微笑むとこんなにも怖く感じるんや。
これが俺の嫁!?
早くも尻に敷かれそうやんけ!
「私も気になります! さっきまでは確かに尻尾があったのに、あの時から耳が鋭くなって」
「あの時……?」
ギンコのキツネ耳が反応し、眼光の鋭さが増す。
あ、あかん。
胃がキリキリしてきた。
「えっと、まずはどこから説明すればええんかなー」
視線を彷徨わせる俺に、ずいっと二人が顔を寄せる。
綺麗系と可愛い系に囲まれるなんて前世からは考えられない光景だが、嬉しさよりも怖さが勝ってしまう。
異世界転生を果たしても俺は陽キャにはなれないらしい。
「まずは確認するから待って。……助けてくれ、ステータスオープンさん」
小さく呟き、今の俺の状況を確認した。
――――――――――――――――――――
【名前】トーヤ
【種族】けっこうな勢いでダークエルフ族
申し訳程度に九尾族
【スキル】超適応
【魔法】ラグナ・ヴェロス、スターダスト・ダークネス・アロー
【武器】なし
――――――――――――――――――――
うん。ばっちり、ダークエルフ族ですわ。
ギンコのオーラに呑まれたのか、ステータスオープンさんも空気を読んで九尾族の文字を入れてきた。
「状況は理解した。まずは俺の特異体質について説明しよう」
前世のこと、転生していること、実は人間であることは伏せることにした。
「俺は近くにいるヒトからの影響を受けやすい体質なんや。だから、ギンコと一緒にいれば九尾族になるし、クスィーちゃんと一緒にいればダークエルフ族になる」
クスィーちゃんは俺の説明を受けて、ぶつぶつ呟きながら理解を深めようとしている。
ギンコは腕を組んで子供の言い訳を聞くおかんみたいになっていた。
「では、トーヤは元は魔族ということですね」
何がどうなってその結論に至ったのか分からないが、人間ですね、と言われなかっただけマシだ。
「なぜ、旦那様が魔族だと断定できますの?」
「魔族の中には擬態が得意な者がいますし、その類いではないかと」
「擬態?」
どこからか取り出した扇子で口元を隠しながらギンコが睨む。
俺も雰囲気に呑まれて、謝りたくなった。
「妾の旦那様が、我が身可愛さ故に存在感を消しているというのか?」
これは、マズイぞ。
ギンコはかつてないほどにキレている。
「擬態とは自衛のためだけに行われるのではありません。機会を待って攻撃する場合もあります」
負けじとクスィーちゃんも言い返しているが、オーラが全然違う。
「どちらにしても擬態などという言葉は旦那様に相応しくない。撤回せよ」
パチンっと無駄に大きな音を立てて、扇子を閉じた。
反射的に俺の体が跳ねる。
会社で不機嫌な上司がキーボードのエンターキーをタンっとやった時みたいで心臓に悪い。
ほら、クスィーちゃんが涙目になってるやん。
「ま、まぁ、俺は気にしてないし。擬態っていう表現も間違っているわけではないからな。うん!」
「旦那様はこの小娘に甘いわぁ」
はんなり京言葉が怖すぎる。
「小娘って、クスィーちゃんは300歳超えやぞ?」
「妾は421歳やからなぁ」
姉さん女房にも程があるやろ。
「そ、そうか。とにかく俺はそんな感じで今はダークエルフ族やけど、ギンコと一緒にいたら九尾族に戻るから」
「それは分かりました。で?」
出たぁぁぁぁァァァァ!!
関西人特有の『それでオチは?』の『で?』
しかも、期待を込めた目ではなく、厳しい目を向けられれば、まともに頭は回転しなかった。
「…………魔族です」
「チッ」
舌打ち!?
クスィーちゃんの言った通りだったことが悔しかったのか、ギンコはいじけてしまった。
「やっぱり思った通りでしたね!」
こちらは鼻息を荒くして得意顔だった。
「トーヤの訛りは古の魔族特有のものですよね。きっと、私たちよりも年齢は上なのでしょう」
違うよ。
日本生まれ、関西育ち、生粋の人間です。
「ははっ。どうやろうな」
こんな敵地のド真ん中で正体を暴露するわけにはいかない。
でも、仮に俺が人間だと知ったら、この二人はどんな反応をして俺をどうするんや?
……いや、やめとこ。
怖いもの見たさもあるが、危ない橋は渡らない主義だから黙っておこう。
「では、しばらくは妾とだけ一緒にいてくださいね。絶滅寸前の九尾族の子孫繁栄には旦那様が不可欠なんやから」
良くない流れな気がする。
「夫になるべき男がいなければ大人しく封印され続け、死を受け入れようと思っていた矢先に現れたのが旦那様です。一族最後の女である妾を母にしてくださいな」
ほら、来たよ。
こういうのには敏感なんや。散々、アニメやラノベで勉強したからな。
どうやって断ろうか考えていた時、後方からブラックウルフの死体を回収したセフィロたちが合流した。
「助かった。セフィロさん、洞窟の中はどうでしたか!?」
不満顔のギンコには申し訳ないが、人間と魔物が子供を作るなんて想像するだけでおぞましい。
「それが……」
歯切れの悪いセフィロさんが抱きかかえていたのは、ブラックウルフの赤ちゃんだった。
挑発するように目を細めて問いかけるギンコは色っぽいなんて単純な言葉では形容できない。
朱色のアイシャドウはとんでもない破壊力で、ぷっくりとした唇に引かれたルージュは魔性だ。
こいつ、本当にギンコか?
なんで立ってる?
キツネの進化にしては、ちょっとエロすぎ――
と、そこまで思考して、考えを改めた。
「あぁ……君、ポ○モン系じゃなくて、デ○モン系ってことね」
ポカンとするギンコとクスィーちゃんを放置して歩き出す。
「セフィロさんたちも追いかけて来るやろうから先に帰ろうや」
「その前に――」
ギンコの凛とした声が肌寒い朝の空気を更に冷たく感じさせた。
「旦那様がなぜダークエルフ族になっているのか説明してくださいます?」
こっわ!
なんで美人が薄く微笑むとこんなにも怖く感じるんや。
これが俺の嫁!?
早くも尻に敷かれそうやんけ!
「私も気になります! さっきまでは確かに尻尾があったのに、あの時から耳が鋭くなって」
「あの時……?」
ギンコのキツネ耳が反応し、眼光の鋭さが増す。
あ、あかん。
胃がキリキリしてきた。
「えっと、まずはどこから説明すればええんかなー」
視線を彷徨わせる俺に、ずいっと二人が顔を寄せる。
綺麗系と可愛い系に囲まれるなんて前世からは考えられない光景だが、嬉しさよりも怖さが勝ってしまう。
異世界転生を果たしても俺は陽キャにはなれないらしい。
「まずは確認するから待って。……助けてくれ、ステータスオープンさん」
小さく呟き、今の俺の状況を確認した。
――――――――――――――――――――
【名前】トーヤ
【種族】けっこうな勢いでダークエルフ族
申し訳程度に九尾族
【スキル】超適応
【魔法】ラグナ・ヴェロス、スターダスト・ダークネス・アロー
【武器】なし
――――――――――――――――――――
うん。ばっちり、ダークエルフ族ですわ。
ギンコのオーラに呑まれたのか、ステータスオープンさんも空気を読んで九尾族の文字を入れてきた。
「状況は理解した。まずは俺の特異体質について説明しよう」
前世のこと、転生していること、実は人間であることは伏せることにした。
「俺は近くにいるヒトからの影響を受けやすい体質なんや。だから、ギンコと一緒にいれば九尾族になるし、クスィーちゃんと一緒にいればダークエルフ族になる」
クスィーちゃんは俺の説明を受けて、ぶつぶつ呟きながら理解を深めようとしている。
ギンコは腕を組んで子供の言い訳を聞くおかんみたいになっていた。
「では、トーヤは元は魔族ということですね」
何がどうなってその結論に至ったのか分からないが、人間ですね、と言われなかっただけマシだ。
「なぜ、旦那様が魔族だと断定できますの?」
「魔族の中には擬態が得意な者がいますし、その類いではないかと」
「擬態?」
どこからか取り出した扇子で口元を隠しながらギンコが睨む。
俺も雰囲気に呑まれて、謝りたくなった。
「妾の旦那様が、我が身可愛さ故に存在感を消しているというのか?」
これは、マズイぞ。
ギンコはかつてないほどにキレている。
「擬態とは自衛のためだけに行われるのではありません。機会を待って攻撃する場合もあります」
負けじとクスィーちゃんも言い返しているが、オーラが全然違う。
「どちらにしても擬態などという言葉は旦那様に相応しくない。撤回せよ」
パチンっと無駄に大きな音を立てて、扇子を閉じた。
反射的に俺の体が跳ねる。
会社で不機嫌な上司がキーボードのエンターキーをタンっとやった時みたいで心臓に悪い。
ほら、クスィーちゃんが涙目になってるやん。
「ま、まぁ、俺は気にしてないし。擬態っていう表現も間違っているわけではないからな。うん!」
「旦那様はこの小娘に甘いわぁ」
はんなり京言葉が怖すぎる。
「小娘って、クスィーちゃんは300歳超えやぞ?」
「妾は421歳やからなぁ」
姉さん女房にも程があるやろ。
「そ、そうか。とにかく俺はそんな感じで今はダークエルフ族やけど、ギンコと一緒にいたら九尾族に戻るから」
「それは分かりました。で?」
出たぁぁぁぁァァァァ!!
関西人特有の『それでオチは?』の『で?』
しかも、期待を込めた目ではなく、厳しい目を向けられれば、まともに頭は回転しなかった。
「…………魔族です」
「チッ」
舌打ち!?
クスィーちゃんの言った通りだったことが悔しかったのか、ギンコはいじけてしまった。
「やっぱり思った通りでしたね!」
こちらは鼻息を荒くして得意顔だった。
「トーヤの訛りは古の魔族特有のものですよね。きっと、私たちよりも年齢は上なのでしょう」
違うよ。
日本生まれ、関西育ち、生粋の人間です。
「ははっ。どうやろうな」
こんな敵地のド真ん中で正体を暴露するわけにはいかない。
でも、仮に俺が人間だと知ったら、この二人はどんな反応をして俺をどうするんや?
……いや、やめとこ。
怖いもの見たさもあるが、危ない橋は渡らない主義だから黙っておこう。
「では、しばらくは妾とだけ一緒にいてくださいね。絶滅寸前の九尾族の子孫繁栄には旦那様が不可欠なんやから」
良くない流れな気がする。
「夫になるべき男がいなければ大人しく封印され続け、死を受け入れようと思っていた矢先に現れたのが旦那様です。一族最後の女である妾を母にしてくださいな」
ほら、来たよ。
こういうのには敏感なんや。散々、アニメやラノベで勉強したからな。
どうやって断ろうか考えていた時、後方からブラックウルフの死体を回収したセフィロたちが合流した。
「助かった。セフィロさん、洞窟の中はどうでしたか!?」
不満顔のギンコには申し訳ないが、人間と魔物が子供を作るなんて想像するだけでおぞましい。
「それが……」
歯切れの悪いセフィロさんが抱きかかえていたのは、ブラックウルフの赤ちゃんだった。
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