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第12話

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 ダークエルフ族の集落からズブカ平原とは反対側に進んだ場所にある洞窟。
 その中にブラックウルフが住み着いているらしい。

 異世界転生3日目にして、ハンターの真似事をすることになるとは……。

 俺たちは洞窟を見下ろせる草むらに隠れ、周囲の様子を窺っている。
 他のダークエルフも持ち場について、弓の準備を整えている頃だろう。

「トーヤ殿、我らが仕留めるから、討ち損じた個体を任せられるか?」

「責任重大じゃないっすか。ギンコと一緒に頑張ります」

「ブラックウルフからは相当な経験値を得られるが、ギンコ殿のレベルアップにばかり気を取られないでくれよ」

 ははっ。
 そんな、嫁さんの面倒を見ていられる余裕なんてありまへん。
 自分のことで精一杯です。

 いや、やっぱり今からでも遅くない。言おう。

 みんなを危険に晒す前に、俺は魔法を失っていると素直に話して怒られよう。

 そうすれば、魔物の巣を突くような作戦ではなく、狩りに出てきた奴を各個撃破できる。

 そう決心したのに――

 ドスッ! 

 鋭利な先端が分厚い肉に突き刺さったような音に続き、うめくようなオオカミの遠吠えが木霊した。

「誰ですか!? まだ合図を出していないのに!」

 焦るクスィーちゃんに対して、セフィロさんは冷静だった。

「トーヤ殿、ギンコ殿を少しお借りしたい」

「ギンコがいいならどうぞ」

 二つ返事したギンコの背中に飛び乗って、すぐに移動を開始したセフィロさんが味方のフォローに回る。

 俺とクスィーちゃんは腹這いの状態で待機を命じられた。

 しばらくの静寂。
 味方も敵もいないのではないかと錯覚してしまうほどに静かな夜になった。

「なぁ、クスィーちゃん」

「今、話すべき内容ですか?」

 眼鏡を直し、一点を見つめる彼女に告げる。

「実は俺、魔法使われへんねん」

「………………へぁ?」

 月明かりに照らされた間抜けな顔も映えるなんて、美人は羨ましい。

 で、さっきの返事なに?
 ウルト○マン?

「ちょっ、どういうことですか!?」

「しー。声大きいって」

「だって、ブラックウルフの体に大穴を空けたのって魔法ですよね?」

「そうやけど、今は使えへん。代わりに訳のわからん魔法を使える」

「きぃー! 九尾族、意味わかんない!」

 あ、これ高校の時に見たことある。
 未知の存在であるギャルに翻弄される真面目系女子の絵や。

「落ち着いて。ほら、セフィロさんの援護しよう。俺は周囲を警戒しておくから」

 洞窟から這い出てきて、喉を鳴らすブラックウルフの群れが確認できた。

 こんなに取り乱していたとしても、弓を引くクスィーちゃんの眼光は鋭い。
 伸びた背筋は美しさすら感じる。

 なにより背景が月光なのがいい。

「……ふぅ…………っ!」

 目にも止まらぬスピードで一直線に飛んでいった矢は洞窟から出てきたばかりのブラックウルフの目に命中した。

「場所を知られたので移動します」

「……かっけぇ」

「かっ!? ふ、普通です。こんなの誰でもできます」

「技名は? 技名はないんか?」

「…………ありますけど」

 気まずそうに口ごもりながら前を行くクスィーちゃんの背中に諦めずに問いかける。

「"ストライクアロー"です」

「かっけぇ! 技名を叫べばいいのに」

「い、いやですよ。恥ずかしい」

 ぷんすかする姿も可愛い。
 この子はきっと、ダークエルフ族の中でもモテるだろう。

 場所を変えたクスィーちゃんは、他のダークエルフがブラックウルフを仕留めていく様子を見つめ、彼らが逃した個体だけを正確に射抜いていた。

 俺?
 俺は頑張ってるギンコとクスィーちゃんを見てるのが仕事。

 なぜか夜目が利くようになったから、誰がどこで何をしているのか把握できて感動している。

「でもさぁ――」

 矢を放ち、静止していたクスィーちゃんが俺をちらっと見る。

「もっと、クスィーゃんに合ってる技があると思うんよ」

「と、言うと?」

「ちょっと待ってな」

 俺は自分の中身が変化する前兆を感じて、ステータスをオープンした。

――――――――――――――――――――

【名前】トーヤ
【種族】ダークエルフ族
【スキル】超適応
【魔法】ラグナ・ヴェロス、スターダスト・ダークネス・アロー
【武器】ダークエルフ族の弓

――――――――――――――――――――

 やっぱり、俺の直感は正しかった。

「ほな、やってみよか」

 立ち上がった俺は借り物の弓を構え、標的となるブラックウルフを睨みつけた。

「あの、トーヤ? 矢を――」

「………………」

 集中すれば、するほどに頭が冴えていく感覚。

 心臓を起点にして溢れ出す魔力が体中を巡って俺の右手に集まる。

 何度も見せてもらったクスィーちゃんの姿勢を真似ると、右手に集約した魔力が具現化して一本の矢が生まれた。

「何もないところから矢を!?」

 クスィーちゃんの驚いた声は、俺が放った矢の轟音によってかき消された。

「"ラグナ・ヴェロス"」

 放った魔力の矢は途中で姿を消し、ブラックウルフが吹っ飛んだと思った次の瞬間には跡形もなく爆散させていた。

「……あれ? 当たった?」

 俺が矢を見失ったのかと思ったが、今の視力ならそれはありえない。

 つまり、本当に矢が消えて、ブラックウルフが気づくよりも速く体に突き刺さり、爆発したことになる。

「えっぐい技やな。これがダークエルフ族の上級魔法か」

「あっ、あっ、いやっ、そんな……ことが。だって、あんなにヘロヘロの矢だったのに」

「じゃあ、次はクスィーちゃんの番な」

 俺は呆然と立ち尽くすクスィーちゃんの背後に回り、偉そうに指南を始めた。
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