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第八章 もう一つの物語
110.封印の儀2
しおりを挟む「っ!?何だ!?こいつ、離れない!?」
「……あ」
ラシエルは、スライムに襲われていた。
木刀を振り何度も振り解いては、粘着質な体を自由自在に伸ばして、再び小さな身体に纏わりつく
「あっはっは!勇者の末裔ともあろう人間が、そんな雑魚も倒せないのか?間抜けだな」
リュドリカは心底嫌味を込めて悪戦苦闘するラシエルを小馬鹿にする
しかし、反論する余裕も無いのか、ラシエルは必死に木刀で応戦していた
「このっ、離れろ!んっ!?」
スライムの体積が、肥大する。ラシエルの体力を削っては無理矢理回復をさせて、そのエネルギーを糧にヤツはどんどんデカくなる、ハーブスライムだった。
「おいおい、そんな無闇にやってもそいつは倒せないぞ?そんな基本的な魔物の弱点も知らないのか」
まあそれもそうか。ハーブスライムはここ最近この地域で発生したばかりの魔物だしな
リュドリカはニヤニヤしながら勇者の末裔の必死に抗う姿を見ては、満足気に笑う
「おい、助けてやろうか?さっきの態度を謝れば助けてやらなくも……」
「危ないからっ、キミは早く逃げて!まだ、他にいる」
「は?」
ハーブスライムは、草むらに擬態する。
リュドリカに飛びつこうと木陰から、一匹のスライムが飛び出した
「っ!!」
リュドリカは驚き尻もちをつく。
咄嗟に目を瞑り、グ、と唇を噛み締めたが、スライムはなかなか襲いかかってこない
「……?」
薄目を開けると、ラシエルがそのスライムを食い止めるように、木刀を突き刺していた。
しかし、まだそこは弱点では無く、木刀に纏わりついてはラシエルの腕に絡みつく
「は、お前……」
僕を助けた……?この僕が?こんなガキに……?
沸々と恥ずかしさと怒りが湧き、リュドリカは勢いよく立ち上がる
「弱いクセに!調子に乗るなよ!」
そのまま懐に手を伸ばし、小さなロッドを取り出してはジッと見つめて、力を込める。次第に青白い腕先に、みるみる青筋が浮き上がった
ううっ、筋力増強魔法……腕が千切れるほど痛い……っ
リュドリカは頭の中で唱える。
そのままロッドを元の大きさに戻し、小さな身体はそこに見合わない大きなロッドを振り翳した
「おい!しゃがめ!」
大声で叫ぶと、ラシエルは咄嗟に倒れるようにしゃがみ込む
スライムのむき出しになっているギョロリとした目の玉に、火炎が渦を巻く
「っ!あっつ!?」
ハーブスライムは、一瞬にしてドロドロの液体と化し、地面に水溜りを作り静かになった
「え……ウソ」
初めて、成功した……攻撃魔法……。
リュドリカは唖然と驚き、その場に硬直してしまう。
ラシエルは身体に纏わりついた根っこの拘束が緩むのを感じ取り、漸く自由が利くことにホッと息をついた
「……キミ、凄いんだね。それ、魔法?治癒以外のもの、初めて見た」
リュドリカはハッとし、ラシエルが直ぐ側まで近づいてきている事すら気づかなかった
「……っ、ふ、ふん!得意魔法だからな。こんなの、どうって……ぬあっ!」
力が抜けた途端、腕に込めた筋力増強魔法も魔力切れで解かれる。リュドリカはロッドを支えきれず、その場に倒れ込んだ
「だ、大丈夫……?こんな大きいの、よく持てるね」
そう言ったラシエルは、倒れたロッドを軽々と拾い上げる。
地に膝をついて身体が痺れて動けないリュドリカの腕も掴み、起こそうと引き上げた
「づっ!痛いっ、触るな!!ロッドにも!!触んな!!クソガキ!」
「あ、ごめん……痛むの?何処かケガ……」
「うるさい!!ロッドを返せ!穢れるだろ!」
「キミ、可愛い顔してるのに、言葉があまり……」
「はあ!?かわっ、バカにしてんのか!?」
リュドリカは倒れた拍子で、目深に被っていたフードが取れかけている事に漸く気づく。
顔を青くして、急いでフードを深く被り直した
「どうして顔を隠すの?やっぱり何か悪いことでも……」
「してない!僕は高貴な人間なんだ!僕と話すこと自体とても名誉な事なんだぞ!あと敬語っ、使えって言ってるだろ!」
「……ミラおばさんが飼ってる犬みたいだ」
「なにっ!?」
「いえ、別に……でも、助けてくれてありがとう。ねえ、そろそろキミの名前……」
「おーい、ラシエル~お待たせ~」
遠くから、声が掛かる。
ラシエルが振り向くと、そこには大人が三人と、シナーシャが一緒にこちらに向かってきていた
「あ、父さん」
ラシエルは一瞬気を取られてしまったが、もう一度あの少年の名を聞き出そうと顔を向ける。しかし、あの口うるさい少年は、既に何処にも居なかった
「あれ……?何処に行ったんだろう。あ、これ……」
名前、聞きそびれちゃったな。ラシエルは地面に落ちた木刀を拾い上げ、再び父親から名前を呼ばれて急いでそちらに駆けていく。
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