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第八章 もう一つの物語

109.封印の儀1

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「お父様達、凄く怖い顔してた」
「そうだね」
「結局私たち、儀式に邪魔だからって追い出されちゃったね」
「うん」
「五日目からは私たちも儀式に参加しなくちゃいけないみたい」
「そうだね」
「私の話、聞いてないでしょ」
「うん」

「つまんない、このお兄ちゃん」

幼いラシエルとシナーシャは、壺の補填儀式の流れを大まかに見せられた後、劣化が激しく危ないからというシャーロット・ローズの一存で、穀物倉から追い出され地上に上がり暇を持て余していた。

ラシエルはシナーシャの言葉に生返事で答えながら、木刀を手に素振りをしている

「はぁーあ。私久々の地上だしお散歩してこよ~」

シナーシャは不貞腐れながら立ち上がると、一人で何処かに行こうと歩き出す。ラシエルは木刀を振る手を止め、少女を呼び止めた

「一人で出歩くのは危ないよ。父さんにキミの事を見とけって言われているんだ」

「知らなーい。お兄ちゃんつまんないんだもん。それに、私の方がここに詳しいんだから」

困ったラシエルは、急ぎ足で去ろうとする少女の腕を掴んだ

「ダメだよ。俺が怒られる」

「もうっ放してよ!」

少女が叫んだと同時に、その間に割って入ってきた何かに、ラシエルの腕は強引に引き剥がされる

「っ!?」

「……この子に触るな」

「……?」

そこに現れたのは、黒いローブを目深に被った、ラシエルと同じぐらいの背丈の少年だった
少年の声は余りにか細く、ラシエルには上手く聞き取れずに、目を見開いたまま固まってしまう
その隙を見たシナーシャはチャンスだと思ったのか、急いで駆け出していく

「ばいばーいっ安心して!私ハヴァナおばさんのアップルパイを食べて来るだけだから~!」

少女は走り去りながらラシエルの方を振り向くと、あっかんべーとお転婆に舌を出しながら、民家のある通りへと姿を消した

「あっ……まずい、女の子が行っちゃう」

ラシエルは目の前の少年を押し退け、追いかけようとするのを、再び少年が引き留める

「平気だ。追跡鳥チェイスバードを尾けた。何かあればすぐ分かる」

「……キミはあの女の子のなに?」

「お前には関係ない。それよりお前、この里で木刀なんかで素振りだなんて、外から来た人間だろ」

「え、うん。そうだけど……」

「……ハッ、やっぱり。他所から来た下級階層の人間が、気安くユニソン家の者と関わるな」

ローブの隙間から子供とは思えない冷酷な眼差しを突きつけてくることに、ラシエルは若干の戸惑いを見せる

「キミは……」

「お前、名前は?」

「……それを聞くなら先に名乗るのが礼儀なんじゃない?」

「フン、僕は高潔で誉れ高きユニソン家の者だ。……質問に早く答えろ」

少年は見下した態度を貫いたまま、棘のある口調で問い詰める

「……ラシエル。ラシエル・アーマイトだよ」

「ッ!アーマイト……やっぱり、あの勇者の末裔の……」

ローブから覗く少年のヘーゼルの瞳が僅かに揺れる
そして今度は品定めをするかのようにジロジロとラシエルを凝視した

そして、フッと嫌味交じりに鼻で笑う

「ただのガキだな」

「ム、それはキミもでしょ?それに、どうしてそんな格好をしている?何かから隠れてるみたいに。悪いことでもしているのか?」

ラシエルは持っていた木刀の剣先を、目の前のローブを着た少年に向けて訝しげに睨む

「っ、別に……いいだろ。それに、僕はお前より歳上だ。歳上には敬語を使えと、親から学ばなかったのか?」

「歳上……?同じぐらいの背丈なのに。僕は十になるけど、キミいくつなの?」

「背は関係ない!歳は……っ、とにかく、歳上なんだよ。敬語を使え!」

「うーん。はい、分かりました」



これが後に再会することになる、二人の幼い少年の、初めての出会いだった。






.





危ない。うっかり口走ってしまうところだった。
14歳にもなって、姿鏡の魔法人形も作れないなんてもしもバレたら、絶対に見下されてしまう。

名前も、思わず言いかけてしまった。お父様に知られたら、きっと怒られる……ここはとにかく隠し通さないと。これ以上はコイツの前で下手を打たない。

リュドリカは、素振りを再開するラシエルを見て、目を細める

「なあ、お前。さっきの女の子と……他にも大人がいたんだろ。何処で何をしていたんだ?」

「さあ。知りませんね」

「……。」

コイツ、なんて生意気なガキなんだ?四つも歳下のクセして、全然敬う気なんてない態度。一度魔法で懲らしめてやろうか

「そんな嘘が通用すると思っているのか?言え!」

「貴方に知る権利はあるんですか?」

「っ!コイツ……」

地上に出ると言っていたので、付近を探し回ってやっと妹を見つけたけれど、お父様がここより前にコイツと妹を連れて、何処で一体何をしていたのか、そこまでは分からなかった。多分むかし、大御爺様が言ってた、地下都市に眠る言い伝えの……。

「魔王が、いるところだろ」

「……。知りません」

「チッ、食えないヤツ」

勇者の末裔だが何だが知らないが、アーマイト家の者はよっぽど利口じゃ無いみたいだ。魔力も持たないただの凡人のクセに。あぁ、ムカつく……

「ふん、そうかよ。邪魔したな。いつまでもそうやって木のオモチャで遊んでろ」

リュドリカは最後までバカにした口ぶりで、ラシエルの前から離れる。


いいさ、どうせ、明日もきっとあるはず。
次は、シナーシャからはぐれないようこっそりついていけば、なんとか封印の儀の場所が分かるだろう。

リュドリカは、妹の様子を確認しようとチェイスバードに取り付けた写し絵レンズを見るために、ポケットに手を伸ばした、次の瞬間

「う、わ、なんだ!?」

少し離れたところから、先ほどラシエルと名乗った少年がいた場所から声が上がる

リュドリカは後ろを振り向いた






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