51 / 113
第四章 海中帝国サファリア
51.心配性
しおりを挟むサファリアの海底に築造された厳かな古代遺跡の数々
地上ではお目にかかれない色取り取りの海中植物や、無数の魚達が見渡す限りに二人の眼前に広がる
前世の世界ですら目にすることは難しいその絶景に目を奪われ、リュドリカは感嘆と息が漏れた
「う、わあ、やば……めっちゃ綺麗……」
ラシエルに片手を引かれながら、逓わる鮮やかな魚達の舞いに幼子のようにはしゃぐ
「ラシエルみてみてっ魚!こんなに近くに!」
「綺麗ですね」
ラシエルは何かを探しているのか、キョロキョロと辺りを見渡してはリュドリカの問いかけに生返事をする
そのつれない返事にムッとなり、ラシエルの目線の先を追った
「見てないじゃん。さっきから何探してんの」
「……万が一の時に備えて、アレの設置場所を確認していて」
「アレ?」
ラシエルの視線の先にあったのは、サファリアの公共物と思われる海豚型小型潜水艦の備え付けられている場所だった
サファリアでは、出入りの許可を得た人間用に複数台のシールドフィンがいつでも操縦出来るようにそこかしこに設置されている
海底にある海中帝国では、潜水艦に乗らなければ、人間はこの場所に行き来する事は出来ない
「何だよ、帰る気満々?楽しくないのな」
「いえ、そういう事では……ただ、貴方を守り切れる自信が無いんです……。ここは余りに地の利が悪すぎる」
いくら水中で呼吸が可能だといっても、やはり自由自在に遊泳する魚よりも、剣を振るうには格段と動きが鈍る事をラシエルは危惧していた
「守るって?ここは安全だぞ?」
「上を見てください。今にも海の魔物がこちらに襲って来そうです」
そう言われて見上げると、サファリアの遥か先で数匹の海中生物ヴァリバンが、こちらの様子を窺っている姿が見受けられた
「うわ、ホントだ……見た目グロテスクだな……でも大丈夫だよ。竜宮の騎士団がここまで来れないよう近付いてくる敵は倒してるハズだし」
「そうなんですか?……何処にもいる気配は感じませんが」
「え?あっ……」
そうだ。さっきカシミアに言われて殆どの騎士団は休憩に入ったんだ。それに、もし少数の部隊がいたとしても、レインガルロの治療で力を使い過ぎて疲弊している筈……じゃあ今は、一体誰があの場所を……
疑問を浮かべた時、ドーンという爆発音のような鈍い音が頭上から響いた
視線を送るとそこには、遺跡に設置されている大砲がサファリアに接近していたヴァリバンに向かって砲弾を放つ光景が目に映った
「あ……なんだ。カシミアの追尾ミサイルが機能してるんだ。じゃあやっぱり安全だよ」
「ですが……」
ラシエルの気の進まない態度にリュドリカはハア、と大きく溜息を吐く
今も強く握りしめるラシエルの手を振り解き立ち止まった
「ラシエルは用心深いな~ちょっとはこの場所を楽しめよ!なっ?」
「……貴方が不用心過ぎるんです」
「ふん。そんなに気にしいだとすぐ禿げるぞ~?」
「は、禿げ……?俺は禿げませんよっ」
珍しく大きな声をあげて否定するラシエル
軽い冗談で言ったつもりの俺には、少し不機嫌になったラシエルの態度が凄く新鮮に思えた
「あ、ははっごめんごめん。冗談だよ。ラシエルの髪、水の中でゆらゆらしてるとキラキラ光っててきれいだなぁ」
「……。そんなので機嫌取ろうとしてませんか?」
「ダメ?」
「……いいえ。俺の方こそすみません。折角ですし、楽しみましょうか」
「うん!海底と言ったらやっぱり金銀財宝だよな~!!さっきから少し気になる場所があって……」
水中で泳げるにも関わらず、ずっと地底を歩いていたリュドリカはすい、と身体を浮かせ遠くに見える高台の形を模した遺跡に向かおうと足を動かす
しかし自身の体は、思った以上に浮く事も進むことも出来なかった
「……?」
「リュドリカさん、一人で行こうとしないで下さい」
すぐにラシエルから手を引かれ、先導される形で前に出られて誘導される
体格の良いラシエルは、足にスナップを少し効かせただけですいすいと浮上していった
なんだ?気のせいか?最近めっきり泳いで無かったし、感覚忘れてるのかな。まあ、ラシエルに引かれた方が楽だしいいか……
リュドリカは特に気にすることも無く、前を進むラシエルに宝箱の眠っているだろう場所を指示しながら探索を続けた
11
お気に入りに追加
765
あなたにおすすめの小説
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
西谷夫妻の新婚事情~元教え子は元担任教師に溺愛される~
雪宮凛
恋愛
結婚し、西谷明人の姓を名乗り始めて三か月。舞香は今日も、新妻としての役目を果たそうと必死になる。
元高校の担任教師×元不良女子高生の、とある新婚生活の一幕。
※ムーンライトノベルズ様にも、同じ作品を転載しています。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
【R18】両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が性魔法の自習をする話
みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。
「両想いでいつもいちゃいちゃしてる幼馴染の勇者と魔王が初めてのエッチをする話」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/902071521/575414884/episode/3378453
の続きです。
ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで
悪意か、善意か、破滅か
野村にれ
恋愛
婚約者が別の令嬢に恋をして、婚約を破棄されたエルム・フォンターナ伯爵令嬢。
婚約者とその想い人が自殺を図ったことで、美談とされて、
悪意に晒されたエルムと、家族も一緒に爵位を返上してアジェル王国を去った。
その後、アジェル王国では、徐々に異変が起こり始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる