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第六章 雪原の国マリスノウ

84.キツネのルル

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ーータスケテ、タスケテーー

「大丈夫か?何か力になれることはある?」

小さくただ単語を発し続ける雪玉が、こちらを見た。気がした

ーー君はダレ?僕はリス!タスケテ!ーー

雪玉がより一層大きな音を響かせる
リュドリカはしゃがみ込んでそのリスと名乗る彼の声を聞いた

ーー寒イノ!寒イノ!タスケテ!ーー

「うん、分かったよ」

やっぱり。ここもちゃんとしたストーリーと変わりはないな
雪玉達の主な願いは、寒さを凌ぐ事。
ゲームの特性なのかマフラーを巻いたり帽子を被らせたりするとクエストを達成した事になる

俺はいつもこのステージでは雪玉だと可哀想だから雪だるまにして顔を作ったり手袋を着けたりしてたんだよな

「……よし、やるか!」

いつまでもメソメソクヨクヨしてても気が滅入るだけだし、ここはパーッと身体を動かして、サクッと攻略してしまおう!

「ラシエル!ここは俺に任せて!お前はいつも頑張っているから、少し休んでてくれ!」

「え?また何処に……」

「すぐそこにいるから!遠くへは行かない!」

若干戸惑いを見せるラシエルだが、呆然と俺を見つめたままその場から動こうとはしない。
俺は気にしないフリをして、林へ向かった


「えーっと、どこだったかな?確かここら辺に……」

モミの木が生えている周辺に、小さく山になっている雪がちらほらと見える。リュドリカはその山を素手で一つずつ掘っていく

流石に直接触れてしまうとアミュレットの効果が効くのに時間が掛かるのか、指先は冷たくかじかんでしまう
リュドリカはそれでも気にも留めずに無我夢中で掘り進めていった。三個目の雪の山を掘ったところで、何か硬いものが手に触れる

「あった!」

集中して掘り進めると、そこに隠されてあったのはいつものとは違うタイプの宝箱だった
この国の住人の習性なのか、大体のモノは宝箱に仕舞って隠しているのが通常らしい
俺はその宝箱を恐る恐る開ける

「……おぉっ、ラッキー!いきなり当たりだ!」

宝箱はランダムに物が入っており、寒さ対策に関係のない木の実だったり葉っぱだったりが入っていたりと、割と骨の折れる作業になるのだが、いきなり幸先がいい

中に入っていたのは赤と緑のストライプの、いかにもクリスマスを彷彿とさせるマフラーが入っていた

「……クリスマス、かぁ」

考えてみると、このゲームの世界に季節の概念はあるのかな

元の世界の俺は受験に失敗した時だったので、季節は春だった。何度もやっているゲームだけど、それぞれの国の特性はあっても季節なんて気にした事も無かったな……。
……この世界に来て、もうずいぶんと日が経ったような気がする
リュドリカに転生してから、本当に俺は、ずっとラシエルと一緒にいたんだな……

ゲームのストーリーも、終盤に差し掛かっている。

この国をクリアすれば、ここから更に北に進んで本来最初に行くべき筈だった最古の里クラギラに向かう事になる

その後は、勇者ラシエルが魔王と遂に対峙して……ーー

「……。」


……俺は、その後どうなるんだろう
この先も、ずっとラシエルの側に居たい。
見たことのないこの世界の季節を一緒に見てみたい、なんて。
そんなの、ただの俺の我儘でしかなくて……

「だああっ!!また何卑屈になってんだ!?早くこれをリスに渡さないと!!」

頭をブンブン振って、俺は最初に会った雪玉の所へ戻る
善意という名の気晴らしも兼ねて、そこら中の雪をかき集めて雪玉を雪だるまにし、木や石を使って顔を作り赤と緑の柄のマフラーを巻き付けた

ーーワア!アリガトウ、アリガトウ!オ礼にコレアゲル!ーー

雪だるまになったリスからどこからともなくまた小さなプレゼント箱を渡される
中身は乾いた薪だ。この行為を繰り返してこの国マリスノウの住民リクエストを順番に叶えていく

「ありがとうな。絶対に元の姿に戻してやるから」

ーー?ーー

雪玉に変えられた動物達は、元の姿である自身の記憶を失っている。
可哀想だとは思うが、その方が彼らにとってはまだ救いなのかもしれない
俺は先を急ごうと雪だるまのリスに手を振って、また近くで困っている雪玉に声を掛けていった







「ふぅ……だいぶリクエストも消化出来たな。残りは……」

ずっと身体を動かしていたおかげで、こんな極寒地帯の中で身体はポカポカと暖かい。熱塊のアミュレットの効果もあるんだろうが、リュドリカは額に汗をかき、だいぶ気分も落ち着いてきていた。

「リュドリカさん」

突然、後ろから声を掛けられる
びっくりして振り返るとラシエルが立っていて、こちらを見ていた

「っ!?あっ、ラシエル……ごめん。待たせてるよな、もうすぐで終わるから、あと少し……」

「見ていました。俺も手伝います」

ラシエルは顔色を変えず、俺が話しかけようと思っていた雪玉に声を掛ける。
それにも少し驚いたが、ずっと俺の事を気にかけていたんだと思うとなんだか気持ちが和らいだ。俺も続けてラシエルの横に並ぶ


ーータスケテ、タスケテ。私はルル、タスケテ!ーー

「ッ!」

ーールル
この国の国境であるメルトグリースリバーの管制を担う妖狐の血を継ぐメスのキタキツネだ。

彼女は、この国のヌシであるラセツに密かに想いを寄せ、ラセツもまた、彼女の事を想っていた。

しかし種族の違いオオカミとキツネがその想いを封じ込め、二人は気持ちを伝える事を恐れた。

結果、その気配を感じとった恋愛感情を酷く嫌う魔王は、銀灰のヌシに呪いをかけ、その力の暴発からルルと雪山の住民達を自身の目の前で雪玉に変えてしまう。その後悔と苦痛を受けながら、今は山頂の山小屋で、孤独に死を迎えようとしていた。

このゲームの二周目ルートでは、ルルの姿を本来のキツネの姿に近い形に雪で造りあげれば、自身の記憶を取り戻し、今後ラセツと対談した時の質問のヒントを得られる。

既に俺は、ラセツの二百個もある質問の答えを全て把握しているが、やはり彼女には元の姿の自分を思い出して欲しい為、ルルを元のキツネの形に造り上げようと思った

「ラシエル、俺はこの子を造るから、宝箱頼めるか?」

「はい」

ラシエルは近くの山になっている雪の所へ向かう
俺はその間にルルをキツネの形に造りあげた




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