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第三章 迅雷の国カンナル

38.宿屋のひととき3

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「あ……」

キス……しなきゃなのか……?
写し絵に気を取られ過ぎててすっかり忘れてた……

眠るラシエルに顔を向ける
寝息も立てない剥製の勇者は、ただジッとその時を待っている

そして先に起こる光景が脳裏に浮かびあがり、カッと頬を赤面させた

「うわっ、今考えると自分からとか……めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!?」

心臓がドッドッと鼓動を早め、その音に急かされるよう気持ちが揺らぐ

「いや……いつもしてるしっ、今更……でも……」

改めてこんな恥ずかしい行為を毎日続けているんだと思い知らされて、内臓の内側から身体が熱くなる

「ううっ変な事考えてしまう!早く済ませよ……」

ラシエルの顔の近くに寄り、身体を屈める
今にも触れてしまいそうなほど顔が近づき、緊張で唇が震えるのが嫌でも分かる
ギュッと目を瞑り、漸く覚悟を決めて最後の一振りを絞る
ふに、と自身の唇が固くなったラシエルの唇に押される感触が伝わった
冷たく硬い唇が、徐々に熱を持ち始める

「………おはようございます」

ラシエルはゆっくりと目を開きこちらを優しい眼差しで見る
顔が近くて、心臓が持たない

「あっ……おはっ…」

恥ずかしさと焦った勢いで後退ろうと身を引くが、ラシエルに腕を捕まれ倒れ込むようにそのまま胸に飛び込んでしまう

「ぶっ!な、なにすんだよっ!」

「それだけじゃダメです」

身体を持ち上げられ、唇が触れるか触れないかのギリギリで止まり、お互いの息がかかるのを肌に感じるが、ラシエルはただジッとこちらを見るだけでそれ以上何もしてこない
それはこちらからのアクションを待っている証拠だ

「え……で、でもキスは、したし……」

「俺がしてもいいですよ。また一時間は掛かりますけど」

「なっ!?わ……分かったよ!!口開けて舌出せっこの野郎!」

「わ、色気がない……」

こっちだって精一杯なんだよっ
目をギュッと瞑り、唇を尖らせ再び顔を近付ける。
次は唇が湿ったモノに当たり、ビクリと身体が震えた
そのまま恐る恐る自身の口を開けて、それを唇で捉える
ラシエルの表情が分からない。それが恥ずかしくてしょうがない

「ふ…っ…」

いつもどうしてたんだっけ、どんな風に舌を絡ませてたんだっけと想像するだけで顔が熱くなる。舌を必死に伸ばしてラシエルに絡むと、応えるように口の中に侵入してきた

「…っ!…ぁ……」

ラシエルの舌が絡みついて逃げようと引いても捕らえられる
ぢゅ、と吸われ口の中の溢れた唾液を舐め取り歯の裏をなぞる
段々と呼吸が苦しくなって、目に涙が浮かんできた

ヤバい……ペースが……

「ッ…んぅッ……」

いつの間にか主導権がラシエルに移り、うなじに伸ばされた手のひらがグッと引き込みお互いの顔を余計に密着させる

「ちょっ、ま……ンッ、らしえっ…」

「はぁッ…」

ケモノのように熱っぽい息を漏らし、獲物を見るように鋭い瞳でこちらを捉え、逃がさんとばかりにキツく抱きしめる

その熱視線に酷く心臓が揺さぶり、ドクドクと鼓動が早まる
大きな腕が優しく、だけど力強く身体を包み込んで脳内が多幸感に満たされる

どうしようっ……気持ちいい……

ちゅ、ちゅぱと繰り返し口付けをされ、意識が段々と朦朧になってきて、もっと、もっとと言わんばかりにラシエルに自分の顔を押し付け始めたところで漸く我に返る

「ンうッ!…ふ、ンンッ!」

ドンドンとラシエルの胸を叩き、リュドリカは漸く解放された
ハァッとお互いの息が漏れ、そこに透明の糸が引く
自分でも分かるほど顔が火照っていて、ドキドキと未だ心臓がうるさい

「はぁ……凄く良かったです。リュドリカさんからのキス、興奮しました」

本人はこれまでにないほど満足そうに微笑み、俺をぎゅうと抱きしめてくる

「ッ、後半お前が好き勝手やってただろ……てか放せよっ!」

「リュドリカさんが一生懸命なのが可愛くてつい」

「ふんっ」

ニコニコと笑顔を向けるラシエルを横目に見てリュドリカは考えた

よし決めたぞ、次からお前とキスする時はいつか女の子とする時の為の練習だと思ってしてやるからな、踏み台にしてやる。今に見てろよ
……だから早く鳴り止め、俺の心臓!

肺いっぱいに深く酸素を取り込み、ハアと掻き出す
リュドリカはその後フフンと鼻を鳴らし、ラシエルを一瞥する

「今だけだからなっ」

「?」

ラシエルはそうとも知らずに、満面の笑みでこちらを見てくるので、何だか少しだけ居た堪れない気持ちになった



.



「そう言えば、どうして写し絵キューブなんて買ったんですか?」

ラシエルが唐突に質問してきて、リュドリカは朝食に食べていたこの地域限定の宿飯のガブル牛カツカレーをむせこんだ

「うっ、ゲホッ……ゴホッ!な、なん…」

何で知ってんだよ!?
驚いてラシエルの顔を見ながら、口をパクパクとさせて目を見開き固まっていると、ラシエルも驚いた顔をする

「……え、まさか忘れてますか?俺、動けなくても意識はあるってこと……リュドリカさんがずっと動けない俺を写していたことも知ってますよ」

「~~ッッ!!」

す、すっかり忘れていた……
そうだ、ただ動けなくてもコイツは意識がハッキリしてるんだった……それなのに俺は一人で舞い上がって、なんか変な事も口走ったような……

「わざわざアレのために別々で寝たんですか?言ってくれたら俺なんか全然写しても良いのに」

「……そ、それは……」

「その代わりそれ俺にも貸して下さい。俺もリュドリカさんを写したいです」 

ニコリと微笑むラシエルに、リュドリカは顔を青ざめた
それだよ、撮りたいって言ったらなんか調子に乗ってきそうだったから嫌だったのに!
あんなに自分からするのが嫌だったキスもしたのに、無駄になってしまった!

ハァと溜息をつく

「別に、良いけど……変な事に使うなよ」

「変な事って、例えば何ですか?」

嬉しそうにこちらを見てくるので、もういいと言って残りのカレーをかきこんで、身支度を整えた


そして再び手に入れたチート能力を使って、リュドリカ達は次に向かう場所、迅雷の国カンナルへと向かっていく




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