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中学生編小話
弟達の小さな争い
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「えっと…持つ物はこれで全部、かな?」
「お姉ちゃん、僕も持つよっ!」
『僕達もっ!』
「ありがとう。じゃあ、こっちの箱を頼んでも良~い?」
『はーいっ!』
凄い大荷物…。持ってるのは、洋服、おもちゃ、あと沢山の問題集?更には食材?
何となく美鈴ちゃんが今日何処に行こうとしてるかは解ったけど。
先週あんな事あったのに、行こうとするんだから美鈴ちゃんらしいと言うか何というか…。
「じゃあ早速行こっかっ」
『おーっ!』
旭達と玄関へ向かう…ってちょっと待って待って。
「美鈴ちゃん、ストップ」
「?、なぁに?優兎くん」
う…。可愛いけど、そのキョトン顔は駄目だよ。
どうして呼び止めたの?みたいな顔してるけど、良く考えて?
「……旭達とだけで行くの?本当に大丈夫?」
「……あ」
「あ、ってもう、美鈴ちゃんは。…僕も一緒に行くから待ってて」
「え?でも、…いいの?優兎くん」
「うん。特に予定もないしね。ごめん、お財布と携帯持ってくるから待っててくれる?」
「うんっ。ありがとう、優兎くんっ」
僕は一旦自分の部屋に帰るために美鈴ちゃん達と別れて白鳥邸から渡り廊下を使い自分の家へと戻り自室で財布と充電中の携帯を持って自宅から外へと出る。
お祖母様は数日留守にするって言ってたから…鍵をかけないとね。とは言え、この家は白鳥邸と繋がってるから鍵をかけずともセキュリティは万全だとは思うけど。
この家に盗みに入るのは結構至難の業だよ、うん。入った瞬間金山さん達にタコにされるんだろうな。
自宅を出て鍵をかけて、真っ直ぐ庭を経由して隣の家の敷地へ入って玄関へ行くとドアをノック。
すると待つ事なくドアが開いて、美鈴ちゃん達が出て来た。
旭達も皆袋だったり箱だったりを担いでるけど…美鈴ちゃん、その大荷物は何?
リュックに鞄に紙袋にビニール袋。両手と背中に一杯担ぎ過ぎでしょう。
「美鈴ちゃん。その両手の荷物と背中の、貸して。僕が持つから」
「え?でも、重いよ?」
「だから持つって言ってるんだよ。ほら、貸して」
「あ…。うん。ごめんね、優兎くん。ありがとう」
「どういたしまして」
笑顔で答えて荷物を預かる。…結構重いな。兄達だったら何の問題もなく軽々持ちそうだけど、僕には結構ハードルが高い、かな?
持ち方を考えてしっかり抱えると、僕達はあの三人がいる施設へと向かった。
そんなに遠くもないのであっという間に到着する。
素直にホッとするよ。いや、ほんとに重いんだって。この教材と野菜達。
出迎えてくれた施設の子達と旭達が仲良くお喋りしている。
僕達が持って来た荷物は陸実達が全部持って行ってくれた。
「あ、王子達も今来たんだー。もしかして私が一番最後?」
「大丈夫だよ、ユメ。まだ開始してないから。ご飯食べてからやろう?」
「オッケー」
そう言えば何しに来たのか聞いてなかったな。
「美鈴ちゃん?今日って何しに来たの?」
「勿論、皆の勉強に」
にっこり。
あ、そう言う事…。
そのついでに古着やら食材やらを届けに来た訳だ。
美鈴ちゃんは勝手知ったる何とやらで、キッチンに入り皆の食事を作ると、それこそさっくりと勉強の準備を始めた。
旭達を連れてきたって事は…もしかして?
「さて、やるよーっ」
リビングのテーブルに旭達と夢子ちゃん、陸実達が向かいあって座っている。
テーブルにはカードがずらずらと並べられて…。
美鈴ちゃんは僕と反対のお誕生席に座っている。
「今日のお話はー…『ヘンゼルとグレーテル』だよー」
「お姉ちゃん。今回のゲーム開始配布カードは何?」
「今日のカードはこれだよー。正し、今回は対戦形式なのでチーム毎に同じカードを配るよ~」
対戦カード…?
えーっと…夢子ちゃん達の方がヘンゼルのカードかな?
男の子が描かれているカードを全員に渡されてる。
勿論、個人カードもちゃんとあるみたい。
旭達の方にはグレーテルのカードが配られた。おさげの女の子が描かれている。
「さてさて。皆初期装備はどうするー?」
…このね、勉強や読み聞かせと言いつつ、最初に装備品を確かめるくだり、いまだに違和感あるんだけど…。
「…ねぇ、お姉ちゃん。今回は対戦って言ってたよね?それは、僕達プレイヤーとお姉ちゃんが対戦するの?それとも夢子お姉さん達と対戦するの?」
「今回お姉ちゃんはゲームマスターに徹するよ~」
「成程~…じゃあ」
「あ、そうそう。旭達はこのお話をやりこんでるから、ハンデとして『プレイヤーレベル半分』ね?」
「えええっ!?」
『ハンデが大き過ぎるよっ!』
「このストーリーをやってはいるんだから、当然だよ。それとも鴇お兄ちゃん達と同じようにレベル1にする?」
『半分で良いですっ!』
以前鴇兄達と旭達がお遊びでやってた時、鴇兄達は色んな意味で強いからってハンデとしてレベル1にしてやったらしいんだよね。
多分美鈴ちゃんはそれの事を言ってるんだと思う。
「うぅ~…レベル半減かぁ~…じゃあ、僕他のカードは使えなくなっちゃうけど、これ使う。『金の斧と銀の斧』のカード」
「へぇ~。一か八かのカードをメインに置くの?旭、これはゲームだから許すけど実際に賭け事したらお姉ちゃん、ママと一緒に雷落とすからね?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃんっ。僕は無駄に命捨てる様な事はしないよっ!」
美鈴ちゃん。満足気に頷いてるけど、結構な事言ってるよ?旭。
「じゃあ、僕は『白鳥』のカード」
「なら僕は『黒鳥』のカードにしようかな」
「蓮が『白鳥』、蘭が『黒鳥』……じゃあ、僕は…『簡単に騙されるへたれ王子』にしとく」
「へぇ…。『ヘンゼルとグレーテル』に『白鳥の湖』をぶつけてくる、か~。面白いね」
うんうんと美鈴ちゃんが頷いてるけど、僕はさっぱり意味が分からないよ。でも、皆はすっごく楽しそうだね。
「それで?ユメ達は?」
「オレは、……うん。これにするぜっ。『花を咲かせるじいさん』」
「花さかじいさん?あらら?」
「……ボクは、『風と日』にしようかな」
「へぇ…面白いねっ!『北風と太陽』かぁっ!」
「……………『音楽隊』」
「音楽隊?おぉーっ!」
「皆バラバラだけど…いい感じだよね。私はどうしよう…『金太郎』にしとく」
「え…?ユメ?」
なんでここで金太郎?いや確かに陸実が花さかじいさん選んでるから日本の話でもいいんだろうけど。
でも、何で金太郎?
夢子ちゃんの考えてる事が今一解らなくて僕達は首を傾げた。
「それじゃあ、早速始めるよー」
『はーいっ!』
「では、ヘンゼルとグレーテル始まり始まりーっ!!てれれってれーっ!!むかーしむかし、ある所に貧しい木こりの夫婦とその子であるヘンゼルとグレーテルと言う名の兄妹が森の側の小屋で暮らしていました。ある日。パンを買う事も出来ないくらい貧しかった家族は、どうしようもなくなってしまいました。そんな夜。努力も何もしなかった両親は烏滸がましくも子供がいると飯食っていけなくね?とふざけた事を考え子供を森へ捨ててくるように母親は父親に言うのでした」
美鈴ちゃん。本音が、本音が漏れてるよ。
「ダメな父親は躊躇いながらも、躊躇うとかへたれた反応を見せながらも母親に押し切られて承知してしまいました。だがしかし。ここで賢いグレーテル兄貴の登場ですっ!こっそりと両親の会話を聞いていた兄妹。兄貴、恐ろしい事を聞いて怯える妹を宥めます。『大丈夫。大丈夫だよ。僕がどうにかするから』『さっすがヘンゼルお兄ちゃんっ!』『じゃ、ちょっと森を燃やしに行ってくるね』『ちょっ、ちょっと待ったっ!お兄ちゃんっ!!山火事は違法だよっ!!』『え?だって捨てられないようにするには森を消すのが手っ取り早い…』『いやいやいや駄目だからっ!』『……じゃあ、邪魔なあいつ等二人を…』『お兄ちゃんっ!?どっから取り出したのっ!?その鉈っ!?』『え?嫌だな、グレーテル。僕達の家は木こりだよ?…ねぇ?』『ダメダメダメっ!もうちょっと穏便にっ!!』兄妹の口論は続き、最終的に折れた兄ヘンゼルは家の外へ行って石を集めに行きました。夜に光る石があるのです。月の光を貯める事の出来る石です。兄はその石をポケット一杯に手に入れて帰宅しました。そして翌日両親に連れられた兄妹は森の中へ置き去りに…。でれでれでんっ!!ダンジョン突入っ!!そしてミッション『無事に家まで帰宅せよっ!』が起動!」
色々突っ込みたい気もするけど今は我慢。
「脱出…とりあえず夜になるのを待つよね?」
「うんうん。だって夜に光るって言ってるもんね。持ってた石」
「それじゃあ僕達は待機でいいかな?」
「オッケーっ」
お、旭達は待機を選んだ。
でも夢子ちゃん達の方は…?
「夜まで待ちたい所だけどさー」
「…うん。相手は鈴先輩だもんね。夜まで待つ間に何かありそう」
「……………そもそも。とり先輩、石を拾ったって言ってたけど、石を道しるべにしたとは言ってない」
「そうなのよね。…うん。私達は動きましょう。明るい内に戻らないと下手すると全滅になるわ」
あ、成程。確かに美鈴ちゃんは置き去りにされたとは言っていたけど、撒いたとは言ってないもんね。
凄いな。良く気付いたな、四人共。
「王子。私達は移動するわ。スキル『熊ブースター』を使用っ!」
「スキル『熊スター』使用っ!!ヘンゼル、グレーテルを置いて高速帰宅っ!!」
あ…。
妹置き去り…。
「自宅にいた母親がスキル発動っ!『妹を置き去りにするってどういう神経してるんだいっ!?』を発動っ!!」
「ええっ!?どの口がそんな事言うのっ!?」
「母親が妹の所に兄を連れ戻してしまった。次の行動を選択してください」
ほんとにどの口がそれを言うんだろう…。
親が子を捨ててるってのに。
「時間が過ぎ、夜になりました。待機組は次の行動どうしますか?」
「…どうする?蓮、蘭、燐」
「…うぅ~ん…。でもグレーテルと一緒に行かないと返されちゃうんだよね?」
「そうなの?そうとは限らないんじゃない?」
「うんうん。さっきの攻撃名を考えると、妹が先に戻る分には構わないって事じゃない?」
「けどそれは昼だけの話かもしれないよ?」
考え込む旭達をニコニコと見守る美鈴ちゃん。そして一度行動をしているから動けない夢子ちゃんとプラスα。
「……けど帰らないと話は進まないのも確かだよね?じゃあ、一先ず帰ろう。えっと…」
「僕がやるよ。王子のスキルで『馬ダッシュ』があるから。スキル『馬ダッシュ』を使用。帰宅しますっ!」
燐が王子のスキルを発動した。この王子って白鳥の湖の王子なのかな?
「ちょっと待った。えっと…燐くん、だっけ?」
「はい?」
あ、海里が行動起こした。
「僕達も一緒に連れ帰ってくれない?暗闇でただ走れるの?」
おおー、海里が交渉に出た。
「僕達も一緒に連れてってくれるなら僕のスキル『太陽光(照明ver)』を使うけど?」
確かに夜だしね。明かりが無いと真っ直ぐ帰れないよね。
レベルでごり押し出来た所も今回はレベル半減だし。
さて、旭達はどうでるかな?
「…連れて行くとは言えど相手もスキルを使ってくれるし、とんとんな関係だし…うん、その交渉、受けるよっ!」
「では、ヘンゼル、グレーテル共に帰宅で構いませんか?」
全員がしっかりと頷く。
「ヘンゼルとグレーテルは帰宅した。てれれってれーっ!ミッションクリアーっ!及びダンジョンもクリアーっ!!物語が進みます。兄妹が帰宅すると母親は舌打ちし、父親は喜びました。が兄妹が帰って来た事により貧しさは悪化の一途を辿る。そんな時家を訪ねた木こりに母親が父親があてにならんから捨てて来いと頼んだ訳でございます。しからばそれを再び聞いていた兄妹。『どうしよう…ヘンゼルお兄ちゃん』『……僕の拾ってきた石で…殺っちゃう?』『ノォォォォォッ!!』『……そう。残念だな』危険な選択肢を選ぼうとする兄を抑える為、兄を抱きしめ妹は眠りにつくのだった。てれてれてん。翌朝木こりに連れられて、兄妹はまた森の中へポイッされてしまいました。それはそれは森の奥の奥…そして森を抜け、森の向うの街へ辿り着きましたっ!」
『ええぇぇぇーっ!?』
思わず全員で叫んでしまう。
お菓子の家のくだりはーっ!?
「木こりの家に連れ込まれた兄妹。戦闘ミッション開始っ!!ミッション『ホモから兄を守れ』ですっ!!木こりの先制攻撃っ!!『あぁんっ!可愛いわぁっ!!ヘンゼルちゅわぁんっ!!』……ママ、この攻撃名どうなの…?」
「美鈴ちゃん。しっかり」
すっかり遠い目しちゃったよ。美鈴ちゃん。
「…ハッ!?いけないいけない。えーっと、攻撃スキルでグレーテルにダメージ300っ!ヘンゼルに状態異常がかかった。ヘンゼルが『恐慌状態』になった。ヘンゼル暫く行動不能っ!!」
「えぇっ!?まず状態異常解除しなきゃっ!!」
「だなっ!オレが回復するっ!回復スキル『花吹雪』発動っ!!」
凄いっ!陸実が状態異常って言葉を理解してるっ!!
「回復スキル『花吹雪』が発動っ!!爺が周囲に花をばら撒きましたっ!!心癒されヘンゼルの状態異常が解除されましたっ!!」
「なら今の内に次のスキル使うよっ!行動スキル『皆一斉に吹き飛ばせっ!!』を発動っ!!」
「行動スキル『皆一斉に吹き飛ばせっ!!』を発動っ!!木こりの家が木こりごと吹っ飛びましたっ!!ここで木こりの潜在スキル『絶対負けないんだからぁーっ!!』が発動っ!!ヘンゼルに状態異常『束縛』がかかりますっ」
「うぇぇっ!?きめぇっ!?」
「ほんと気持ち悪い上に怖いっ!!」
美鈴ちゃん、そんな心底同意しなくても…。そもそもその木こり作り上げたの君の母親…いや、なんでもないです。
「ヘンゼルに意識が向いてる間に、僕達は逃げる?」
「でもダメージ受けてるよ?」
「この程度どうってことないと思うけど…」
「なら回復しながら逃げようよ。行動スキル『オデットの祈り』を発動っ!」
「蓮が補助スキル『オデットの祈り』を発動っ!徐々に体力回復効果っ!」
「更に、行動スキル『オディールの逃走』を発動っ!」
「蘭が行動スキル『オディールの逃走』を発動っ!逞しく鍛えられた足でエネルギッシュに逃げるっ!!」
「あっ、ズルいぞっ!オレ達も逃げるぞっ!」
「……補助&行動スキル『老いぼれてても音楽隊』を発動」
「空良くんが補助&行動スキル『老いぼれてても音楽隊』を発動っ!状態異常回復、移動中体力回復、更に移動速度倍効果っ!」
おぉ、反則技に近いけどヘンゼルもグレーテルも見事に逃走したね。
「ミッション成功っ!おぉっ!またヘンゼルもグレーテルも脱落者なく成功っ!凄い凄いっ!ごほんっ。それでは話は続きます。逃走を果たしたヘンゼルとグレーテルは森の中を彷徨っていました。『ヘンゼルお兄ちゃん、お腹空いたね…』『あぁ、そう言えば昨日から何も食べていないもんね。えっと…あぁ、あそこにちょうどいい大きさの猪がいるよ。丁度良く木こりから奪った斧もあるし…殺っちゃう?』『ノオオォォォォッ!!』と微笑ましく会話を繰り広げてはいるものの、お腹は容赦なく空腹を訴えます」
……微笑ましい?兄の方が斧を持って戦いを挑もうとしてたけど…?
「そんな二人の鼻に甘いあま~い香りがっ!我慢が出来なかった二人はその香りを辿り兄妹が見つけたのは、お菓子の家っ!!『ヘンゼルお兄ちゃんっ!お菓子のお家があるよっ!』『本当だ』『食べてもいいかなっ!?』『駄目だよ、グレーテル。いいかい?大気中にはありとあらゆる菌が紛れており野ざらしのましてや誰かが中に住んでいる場所だよ?食べたら確実にお腹を壊すよ?』『でも…食べたいよ。お腹空いたもんっ』『我儘言っちゃダメだよ』『やぁだっ!!食べるのぉっ!!』『グレーテルっ!』『ヘンゼルお兄ちゃんの馬鹿っ!』…ミッション『お菓子の家攻防戦』開始っ!!ヘンゼルは妹にお菓子の家を食べさせないようにしようっ!グレーテルはヘンゼルに負けずにお菓子を食べて兄にも食べさせようっ!」
ここで初めて対決らしい対決ミッションに入るんだね。でも良く考えたらヘンゼルの言い分の方が正しいんだよね。あれ?でもストーリー状は二人で食べるのが正しいような…?
「因みに制限時間は3分ですっ!!」
「3分っ!?」
「躊躇ってる暇はないねっ!攻撃スキル『オデットの魅了』発動っ!」
「…………やらせない防御スキル『ブレーメンの楽曲』発動……」
えっとオデットの魅了の効果は、相手の行動を操る事が出来る、か。それで?ブレーメンの楽曲ってのは?えーっと状態異常スキルを防御か。成程、中々良い攻防戦をしてるんだね。
それから結構な攻防戦が続いた。争い要約するとこんな感じ。
「『オディールの命令(状態異常、操る効果)』発動っ!」
「『金太郎の張り手(状態異常防御)』発動っ!」
「こっちだって反撃するぞっ!『美しき花の誘惑(状態異常操る効果)』発動っ!!」
「なんのっ!『白鳥と黒鳥の違いなんて知った事かっ!(状態異常相殺効果)』発動っ!!」
「いっそ、妹を遠ざけて…『豪風(風属性強力攻撃、吹っ飛ばし効果あり)』発動っ!!」
「こっちも風属性なのに意味がないよっ!『白鳥のダンス(風属性攻撃吸収)』発動っ!!」
技の応酬が繰り広げられている。
どっちもいい勝負してるよね。
でも、やってることが互いに操り効果がある技ばかりで何ともまぁ…せこい。
それに3分ってあっという間だよね。
「タイムアッープっ!!ミッション失敗っ!!」
やっちゃったって頭を抱えている旭達とタイムアップかぁとがっかりしている夢子ちゃん達。
「攻防戦を繰り広げていた二人の側に、婆…げふんげふんっ、老婆が現れました。『どうしたのじゃ?』『食べるのっ!!』『駄目だってばっ!!』『だったら何食べたらいいのっ!?私はお腹空いてるのにっ!!』『だから、あの時殺るか?って聞いたじゃないかっ!』『人を殺してまで得た食事に何の意味があると言うのっ!?』『そんな言葉は余裕のある人間が言うべきセリフだっ!!』」
…何か壮大なストーリーになってない?
「『もしもし?お前さんら?』『大体お兄ちゃんはどうしていつもそうなのっ!?人には理性と言う物があるのよっ!!食べ物を得る為に人を殺す者なんてもう人じゃないわっ!!』『何を綺麗ごとをっ!!ならグレーテルは誰の命も取らずに今を生きているとっ!?それこそ人が人ゆえの傲慢さだっ!!僕達は自分が生きる為にどれだけの命を奪って生きていると思っているっ!?』『いい加減に気付かんかいっ!!』『うるさいっ!!』『引っ込んでてよっ!!』老婆勢いに飲まれ退出」
老婆いなくなっちゃったよ。
「暫く言い合いを繰り広げていた兄妹はとうとう空腹で倒れてしまった。『やっと静かになったわい…。起きた時また喧嘩でもされたら面倒じゃ。こいつらは離して幽閉しておこう。あー…さっきの会話から考えるに男のガキの方が賢くて厄介そうだね。さっさと食べてしまうか。…せめて美味しく食べたい。肥えさせつつ渋味を抜こうかの。なれば地下牢じゃな。女子の方は簡単に逃げようもないの。暫くは召使じゃ』とか独り言を呟きつつヘンゼルを地下牢に、グレーテルを台所に放り投げました。老婆はグレーテルをぶっ叩き起こすと食事を作る様に言いました。『……分かりました』渋々頷いたグレーテルは料理を作ります。出来上がった料理をグレーテルはしっかりと食べて満足すると、兄にも渡すように言われ老婆は兄に持って行きます」
…あれ?魔女が持って行くように言われて持って行くの?既にしもべ感半端ないんだけど。
「地下牢にいるヘンゼルを大声で起こすと、老婆はグレーテルの作った料理を差し出しました。『…一杯食べて早く美味しそうに育っておくれ。イーヒッヒッヒ』笑いながら立ち去る老婆を訝し気に見送り、ヘンゼルはその料理を一口食べて『ごふぉっ!?…クソまずっ!?これもしかしてグレーテルの作った料理っ!?こんな不味いもの食わせるなんて、あの婆ふざけんなよっ!』ヘンゼルは叫びます」
グレーテル、味音痴説浮上。
「それから毎日ヘンゼルはグレーテルの料理を与えられたものの、ヘンゼルは太るどころか、痩せる一方でした。一向に太らないヘンゼルを怪しく思った老婆はこの兄妹やべぇぞと思い、さっさと処分する事に決めました。牢屋からガリガリのヘンゼルを連れ出し、何とか自分で用意した大鍋に水を沸かした中へヘンゼルを投入しようとしました。ここでミッション開始っ!ミッション『老婆の正体を暴け』スタートっ!相手チームより先に正体を暴けっ!」
え?老婆の正体って?魔女じゃないの?
でもそっか。良く考えたら美鈴ちゃん老婆とは言えど魔女とは言ってないなぁ。そこに何かあるのかなぁ?
「正体を暴く?」
「誰かそんなスキル持ってた?」
「持ってない」
「皆実は○○でした系の童話キャラカードだけど」
「どちらかと言えば正体を暴かれる方のキャラばかりだもんね」
「あれ?でもそっちの王子って白鳥の湖の王子でしょ?」
「そうだけど、こいつって見破る系のスキルってほんっとゲットし辛い上に、例えゲットしてたとしても成功確率が1%とかで」
「限りなく無理に近いんだよね」
「………それっぽいスキル、組み合わせは……?」
「組み合わせるって言ったって」
敵味方の概念どこに行ったんだろう?
皆で相談してるよ?
しかも中々答えが出そうにない。
それを美鈴ちゃんが相変わらずニコニコ笑ってその様子を眺めてる。
「……決めたっ!僕の特殊スキル『金の斧と銀の斧』発動っ!!」
「わお。それ使うんだ~。『金の斧と銀の斧』発動っ!!」
そもそもこれってどんなスキルなんだろう?
「そのスキルの効果は『50%の確率でどんなミッションも成功する』なのでー。旭ー、お姉ちゃんとじゃんけんね。じゃーんけーん、ぽんっ」
「ぽんっ。…僕がチョキでお姉ちゃんがパーだから、あ、成功だっ!」
「そうだね。ミッション成功っ!老婆の正体は…実は、魔女でしたっ!」
あ、良かった。一応魔女って流れになった。
「『…アンタ魔女だったのか。…グレーテル。魔女なら殺ってもいいんじゃない?』『……許可しますっ』『よしっ!じゃあ早速っ!』『待て待て待てーいっ!!あっさり許可を出し過ぎじゃろっ!!』戦闘ミッション開始っ!!これが最後のミッションですっ!!最終ミッション『魔女を倒せ』発動っ!!」
「じゃあ、皆頑張って~。僕はもうカード使っちゃったから何も出来ないよ」
「そうだね~。旭のカードは使用回数一回の大博打カードだからね」
「僕達は頑張るよっ!攻撃スキル『何でオディールと愛する私の姿の区別がつかないのよーっ!!』を発動っ!!」
「続いて、攻撃スキル『王子は私のモノだって言ってるでしょっ!とは言え、この王子色がこんなに違うのに何で気付かないの?馬鹿なのっ!?』を発動っ!!
「更に、連撃で攻撃スキル『オデットだけを愛している(大嘘)と言ってるだろうっ!!』を発動っ!!」
碌でもないカードばっかり。
「グレーテルの攻撃っ!合計2490のダメージっ!魔女の残り体力12510っ!更に魔女のターン。反撃スキル『年をとると目が見えなくなるんじゃっ!!』発動っ!!味方全体に一律2000のダメージっ!」
「うそっ!?2000っ!?」
「やばいっ!魔女の攻撃って威力がデカいんだよっ!」
「しかもっ!」
「連撃が多いんだよっ!」
「その通りっ!連撃スキル『どうして触ったのが骨だって解らないのかねっ!?』連撃スキル『鍋の準備は良いけど、あんなでかい鍋いつも何処で使っていいか迷うんだよっ!!』連撃スキル『って言うか後ろからかまどに突っ込むって酷くないかえっ!?』の三連続攻撃っ!!味方全体に一律5000のダメージっ!」
「5000っ!?」
「あー…駄目だぁ…。僕死んだー」
「僕もー」
「僕もー…」
あらら。蓮、蘭、燐が倒された。三つ子の体力が平均して6000だからねぇ。レベル半減にされてなければどうにかなったかもね。
旭が辛うじて生き残ってる、かな?
「魔女の残り体力が一万越え、か…。じゃあ、特殊スキル『熱いだろ?脱いじゃえよっ』を発動っ」
うあぁぁ…突っ込みたい。そのエロ用語のような技名に突っ込みを入れたいっ。
「特殊スキル『熱いだろ?脱いじゃえよっ』を発動っ!服を燃やされ防御力低下っ!防御力半減効果ですっ!」
「………特殊スキル『重なって化け物の影を作ってビビらせちゃうぞ』を発動……」
「特殊スキル『重なって化け物の影を作ってビビらせちゃうぞ』を発動っ!魔女は化け物の姿に驚いたっ!魔女特殊スキル効果束縛付与により全スキル使用不可っ!」
魔女が化け物の、しかも影にビビるってどうなの?
でも特殊効果か。空良のやつ、考えたね。スキルを防いでしまえばこっちのものだからね。
「よっしゃっ!じゃあ、攻撃行くぜっ!補助スキル『枯れ木に花を咲かせましょう』からの攻撃スキル『シロの牙』っ!!」
「補助スキル『枯れ木に花を咲かせましょう』で攻撃力5倍っ!!更に攻撃スキル『シロの牙』が発動っ!!魔女に10000のダメージっ!!」
「おおっ!!やったぜっ!!」
「魔女はアイテムカードを使用っ!『魔女の妙薬』を使い、状態異常解除」
あ、やばいんじゃない?
「続いて、攻撃スキル『若さを取り戻したい』を発動っ!」
「あ、やばっ。防御スキル『オカッパバリア』発動っ!!」
どんなバリアなの、それっ!
「味方全体に一律3000のダメージっ!ただし、ユメだけは防御スキルでダメージ相殺っ!」
「あーっ!オレ死んだっ」
「ボクも…」
「…………死……」
陸実達が倒された。
一応旭がまだ生きてるからヘンゼルもグレーテルも生きてるんだけど…。
「このままじゃ負けちゃうっ!先制して攻撃スキル『マサカリアタック』発動っ!」
「攻撃スキル『マサカリアタック』発動っ!魔女に4000のダメージっ!魔女が倒されましたっ!ミッションクリアっ!ヘンゼルの勝利ですっ!
「おおっ!!やったな、夢姉っ!!」
うわぁ。昔に比べて強くなったよね。ちゃんと先を読んでクリア出来るようになったんだから。
美鈴ちゃんも満足そうに微笑んでる。
「魔女を倒したヘンゼルとグレーテルは魔女の家にあった金銀財宝の特に高価なものを選びに選んでポケットに詰め家へと帰りました。家には父親しかおりません。母親はなんと病死していたのです。ヘンゼルとグレーテルは手に入れた金銀財宝を」
「攻撃スキル『一撃必殺マサカリバスター』発動」
「攻撃スキル『一撃必殺マサカリバスター』発動って、え?ユメ?この後、兄妹が帰って来た事を喜んだ父親と三人仲良く暮らしましたって流れに」
「攻撃スキル『一撃必殺マサカリバスター』発動」
夢子ちゃん?その真顔怖いんだけど。
「えっと、ユメ?誰に?」
「父親に、攻撃スキル『一撃必殺マサカリバスター』発動。ヘンゼルとグレーテルが幸せに暮らす為には、この父親いらないと思うの。王子…殺っちゃお?」
殺っちゃお?ってそんな可愛らしく…。
「……う~ん…そうだね、殺っちゃおっか♪」
「ええええっ!?美鈴ちゃんっ!?」
「実は私もこのお話に疑問を覚えてたんだ~。どうして、実行犯が罪に問われないのかなぁ~…って」
「二人共そんなケロっと」
「父親はマサカリバスターにより討ち滅ぼされ、兄妹は仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
「全然めでたくないよっ!!人がぼろぼろ死んでるよっ!?」
「う~ん。平和な日常を取り戻したねぇ」
「そうだねぇ」
「全然平和じゃないよっ!!大体ヘンゼルとグレーテル仲良く無かったよねっ!?」
どんだけ叫んでも僕の突っ込みは全てスルーだった。
せめて助けを求めようと旭達を見れば、
「やっぱり魔女の攻撃は痛いよね」
「さっきの闘い方、良かったよね。相手側に体力削って貰って、大ダメージ攻撃を撃つ」
「でも結構な博打だよ?」
「防御スキルがあるなら博打でもワンチャンあると思うよ」
なんて、戦いの振り返りしてるし、逆に陸実達を見たって、
「やべー。夢姉、マジ怖ぇー」
「ああ言う時は近づいたらダメだね」
「………………君子危うきに近寄らない……」
と身の保全のみを考えてるし…。
………はぁ。
美鈴ちゃんと夢子ちゃん。この二人にかかれば気弱な父親でも討ち滅ぼされるんだね。
僕は二人の会話にもう突っ込みを入れず眺めている事に決めたのだった。
「お姉ちゃん、僕も持つよっ!」
『僕達もっ!』
「ありがとう。じゃあ、こっちの箱を頼んでも良~い?」
『はーいっ!』
凄い大荷物…。持ってるのは、洋服、おもちゃ、あと沢山の問題集?更には食材?
何となく美鈴ちゃんが今日何処に行こうとしてるかは解ったけど。
先週あんな事あったのに、行こうとするんだから美鈴ちゃんらしいと言うか何というか…。
「じゃあ早速行こっかっ」
『おーっ!』
旭達と玄関へ向かう…ってちょっと待って待って。
「美鈴ちゃん、ストップ」
「?、なぁに?優兎くん」
う…。可愛いけど、そのキョトン顔は駄目だよ。
どうして呼び止めたの?みたいな顔してるけど、良く考えて?
「……旭達とだけで行くの?本当に大丈夫?」
「……あ」
「あ、ってもう、美鈴ちゃんは。…僕も一緒に行くから待ってて」
「え?でも、…いいの?優兎くん」
「うん。特に予定もないしね。ごめん、お財布と携帯持ってくるから待っててくれる?」
「うんっ。ありがとう、優兎くんっ」
僕は一旦自分の部屋に帰るために美鈴ちゃん達と別れて白鳥邸から渡り廊下を使い自分の家へと戻り自室で財布と充電中の携帯を持って自宅から外へと出る。
お祖母様は数日留守にするって言ってたから…鍵をかけないとね。とは言え、この家は白鳥邸と繋がってるから鍵をかけずともセキュリティは万全だとは思うけど。
この家に盗みに入るのは結構至難の業だよ、うん。入った瞬間金山さん達にタコにされるんだろうな。
自宅を出て鍵をかけて、真っ直ぐ庭を経由して隣の家の敷地へ入って玄関へ行くとドアをノック。
すると待つ事なくドアが開いて、美鈴ちゃん達が出て来た。
旭達も皆袋だったり箱だったりを担いでるけど…美鈴ちゃん、その大荷物は何?
リュックに鞄に紙袋にビニール袋。両手と背中に一杯担ぎ過ぎでしょう。
「美鈴ちゃん。その両手の荷物と背中の、貸して。僕が持つから」
「え?でも、重いよ?」
「だから持つって言ってるんだよ。ほら、貸して」
「あ…。うん。ごめんね、優兎くん。ありがとう」
「どういたしまして」
笑顔で答えて荷物を預かる。…結構重いな。兄達だったら何の問題もなく軽々持ちそうだけど、僕には結構ハードルが高い、かな?
持ち方を考えてしっかり抱えると、僕達はあの三人がいる施設へと向かった。
そんなに遠くもないのであっという間に到着する。
素直にホッとするよ。いや、ほんとに重いんだって。この教材と野菜達。
出迎えてくれた施設の子達と旭達が仲良くお喋りしている。
僕達が持って来た荷物は陸実達が全部持って行ってくれた。
「あ、王子達も今来たんだー。もしかして私が一番最後?」
「大丈夫だよ、ユメ。まだ開始してないから。ご飯食べてからやろう?」
「オッケー」
そう言えば何しに来たのか聞いてなかったな。
「美鈴ちゃん?今日って何しに来たの?」
「勿論、皆の勉強に」
にっこり。
あ、そう言う事…。
そのついでに古着やら食材やらを届けに来た訳だ。
美鈴ちゃんは勝手知ったる何とやらで、キッチンに入り皆の食事を作ると、それこそさっくりと勉強の準備を始めた。
旭達を連れてきたって事は…もしかして?
「さて、やるよーっ」
リビングのテーブルに旭達と夢子ちゃん、陸実達が向かいあって座っている。
テーブルにはカードがずらずらと並べられて…。
美鈴ちゃんは僕と反対のお誕生席に座っている。
「今日のお話はー…『ヘンゼルとグレーテル』だよー」
「お姉ちゃん。今回のゲーム開始配布カードは何?」
「今日のカードはこれだよー。正し、今回は対戦形式なのでチーム毎に同じカードを配るよ~」
対戦カード…?
えーっと…夢子ちゃん達の方がヘンゼルのカードかな?
男の子が描かれているカードを全員に渡されてる。
勿論、個人カードもちゃんとあるみたい。
旭達の方にはグレーテルのカードが配られた。おさげの女の子が描かれている。
「さてさて。皆初期装備はどうするー?」
…このね、勉強や読み聞かせと言いつつ、最初に装備品を確かめるくだり、いまだに違和感あるんだけど…。
「…ねぇ、お姉ちゃん。今回は対戦って言ってたよね?それは、僕達プレイヤーとお姉ちゃんが対戦するの?それとも夢子お姉さん達と対戦するの?」
「今回お姉ちゃんはゲームマスターに徹するよ~」
「成程~…じゃあ」
「あ、そうそう。旭達はこのお話をやりこんでるから、ハンデとして『プレイヤーレベル半分』ね?」
「えええっ!?」
『ハンデが大き過ぎるよっ!』
「このストーリーをやってはいるんだから、当然だよ。それとも鴇お兄ちゃん達と同じようにレベル1にする?」
『半分で良いですっ!』
以前鴇兄達と旭達がお遊びでやってた時、鴇兄達は色んな意味で強いからってハンデとしてレベル1にしてやったらしいんだよね。
多分美鈴ちゃんはそれの事を言ってるんだと思う。
「うぅ~…レベル半減かぁ~…じゃあ、僕他のカードは使えなくなっちゃうけど、これ使う。『金の斧と銀の斧』のカード」
「へぇ~。一か八かのカードをメインに置くの?旭、これはゲームだから許すけど実際に賭け事したらお姉ちゃん、ママと一緒に雷落とすからね?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃんっ。僕は無駄に命捨てる様な事はしないよっ!」
美鈴ちゃん。満足気に頷いてるけど、結構な事言ってるよ?旭。
「じゃあ、僕は『白鳥』のカード」
「なら僕は『黒鳥』のカードにしようかな」
「蓮が『白鳥』、蘭が『黒鳥』……じゃあ、僕は…『簡単に騙されるへたれ王子』にしとく」
「へぇ…。『ヘンゼルとグレーテル』に『白鳥の湖』をぶつけてくる、か~。面白いね」
うんうんと美鈴ちゃんが頷いてるけど、僕はさっぱり意味が分からないよ。でも、皆はすっごく楽しそうだね。
「それで?ユメ達は?」
「オレは、……うん。これにするぜっ。『花を咲かせるじいさん』」
「花さかじいさん?あらら?」
「……ボクは、『風と日』にしようかな」
「へぇ…面白いねっ!『北風と太陽』かぁっ!」
「……………『音楽隊』」
「音楽隊?おぉーっ!」
「皆バラバラだけど…いい感じだよね。私はどうしよう…『金太郎』にしとく」
「え…?ユメ?」
なんでここで金太郎?いや確かに陸実が花さかじいさん選んでるから日本の話でもいいんだろうけど。
でも、何で金太郎?
夢子ちゃんの考えてる事が今一解らなくて僕達は首を傾げた。
「それじゃあ、早速始めるよー」
『はーいっ!』
「では、ヘンゼルとグレーテル始まり始まりーっ!!てれれってれーっ!!むかーしむかし、ある所に貧しい木こりの夫婦とその子であるヘンゼルとグレーテルと言う名の兄妹が森の側の小屋で暮らしていました。ある日。パンを買う事も出来ないくらい貧しかった家族は、どうしようもなくなってしまいました。そんな夜。努力も何もしなかった両親は烏滸がましくも子供がいると飯食っていけなくね?とふざけた事を考え子供を森へ捨ててくるように母親は父親に言うのでした」
美鈴ちゃん。本音が、本音が漏れてるよ。
「ダメな父親は躊躇いながらも、躊躇うとかへたれた反応を見せながらも母親に押し切られて承知してしまいました。だがしかし。ここで賢いグレーテル兄貴の登場ですっ!こっそりと両親の会話を聞いていた兄妹。兄貴、恐ろしい事を聞いて怯える妹を宥めます。『大丈夫。大丈夫だよ。僕がどうにかするから』『さっすがヘンゼルお兄ちゃんっ!』『じゃ、ちょっと森を燃やしに行ってくるね』『ちょっ、ちょっと待ったっ!お兄ちゃんっ!!山火事は違法だよっ!!』『え?だって捨てられないようにするには森を消すのが手っ取り早い…』『いやいやいや駄目だからっ!』『……じゃあ、邪魔なあいつ等二人を…』『お兄ちゃんっ!?どっから取り出したのっ!?その鉈っ!?』『え?嫌だな、グレーテル。僕達の家は木こりだよ?…ねぇ?』『ダメダメダメっ!もうちょっと穏便にっ!!』兄妹の口論は続き、最終的に折れた兄ヘンゼルは家の外へ行って石を集めに行きました。夜に光る石があるのです。月の光を貯める事の出来る石です。兄はその石をポケット一杯に手に入れて帰宅しました。そして翌日両親に連れられた兄妹は森の中へ置き去りに…。でれでれでんっ!!ダンジョン突入っ!!そしてミッション『無事に家まで帰宅せよっ!』が起動!」
色々突っ込みたい気もするけど今は我慢。
「脱出…とりあえず夜になるのを待つよね?」
「うんうん。だって夜に光るって言ってるもんね。持ってた石」
「それじゃあ僕達は待機でいいかな?」
「オッケーっ」
お、旭達は待機を選んだ。
でも夢子ちゃん達の方は…?
「夜まで待ちたい所だけどさー」
「…うん。相手は鈴先輩だもんね。夜まで待つ間に何かありそう」
「……………そもそも。とり先輩、石を拾ったって言ってたけど、石を道しるべにしたとは言ってない」
「そうなのよね。…うん。私達は動きましょう。明るい内に戻らないと下手すると全滅になるわ」
あ、成程。確かに美鈴ちゃんは置き去りにされたとは言っていたけど、撒いたとは言ってないもんね。
凄いな。良く気付いたな、四人共。
「王子。私達は移動するわ。スキル『熊ブースター』を使用っ!」
「スキル『熊スター』使用っ!!ヘンゼル、グレーテルを置いて高速帰宅っ!!」
あ…。
妹置き去り…。
「自宅にいた母親がスキル発動っ!『妹を置き去りにするってどういう神経してるんだいっ!?』を発動っ!!」
「ええっ!?どの口がそんな事言うのっ!?」
「母親が妹の所に兄を連れ戻してしまった。次の行動を選択してください」
ほんとにどの口がそれを言うんだろう…。
親が子を捨ててるってのに。
「時間が過ぎ、夜になりました。待機組は次の行動どうしますか?」
「…どうする?蓮、蘭、燐」
「…うぅ~ん…。でもグレーテルと一緒に行かないと返されちゃうんだよね?」
「そうなの?そうとは限らないんじゃない?」
「うんうん。さっきの攻撃名を考えると、妹が先に戻る分には構わないって事じゃない?」
「けどそれは昼だけの話かもしれないよ?」
考え込む旭達をニコニコと見守る美鈴ちゃん。そして一度行動をしているから動けない夢子ちゃんとプラスα。
「……けど帰らないと話は進まないのも確かだよね?じゃあ、一先ず帰ろう。えっと…」
「僕がやるよ。王子のスキルで『馬ダッシュ』があるから。スキル『馬ダッシュ』を使用。帰宅しますっ!」
燐が王子のスキルを発動した。この王子って白鳥の湖の王子なのかな?
「ちょっと待った。えっと…燐くん、だっけ?」
「はい?」
あ、海里が行動起こした。
「僕達も一緒に連れ帰ってくれない?暗闇でただ走れるの?」
おおー、海里が交渉に出た。
「僕達も一緒に連れてってくれるなら僕のスキル『太陽光(照明ver)』を使うけど?」
確かに夜だしね。明かりが無いと真っ直ぐ帰れないよね。
レベルでごり押し出来た所も今回はレベル半減だし。
さて、旭達はどうでるかな?
「…連れて行くとは言えど相手もスキルを使ってくれるし、とんとんな関係だし…うん、その交渉、受けるよっ!」
「では、ヘンゼル、グレーテル共に帰宅で構いませんか?」
全員がしっかりと頷く。
「ヘンゼルとグレーテルは帰宅した。てれれってれーっ!ミッションクリアーっ!及びダンジョンもクリアーっ!!物語が進みます。兄妹が帰宅すると母親は舌打ちし、父親は喜びました。が兄妹が帰って来た事により貧しさは悪化の一途を辿る。そんな時家を訪ねた木こりに母親が父親があてにならんから捨てて来いと頼んだ訳でございます。しからばそれを再び聞いていた兄妹。『どうしよう…ヘンゼルお兄ちゃん』『……僕の拾ってきた石で…殺っちゃう?』『ノォォォォォッ!!』『……そう。残念だな』危険な選択肢を選ぼうとする兄を抑える為、兄を抱きしめ妹は眠りにつくのだった。てれてれてん。翌朝木こりに連れられて、兄妹はまた森の中へポイッされてしまいました。それはそれは森の奥の奥…そして森を抜け、森の向うの街へ辿り着きましたっ!」
『ええぇぇぇーっ!?』
思わず全員で叫んでしまう。
お菓子の家のくだりはーっ!?
「木こりの家に連れ込まれた兄妹。戦闘ミッション開始っ!!ミッション『ホモから兄を守れ』ですっ!!木こりの先制攻撃っ!!『あぁんっ!可愛いわぁっ!!ヘンゼルちゅわぁんっ!!』……ママ、この攻撃名どうなの…?」
「美鈴ちゃん。しっかり」
すっかり遠い目しちゃったよ。美鈴ちゃん。
「…ハッ!?いけないいけない。えーっと、攻撃スキルでグレーテルにダメージ300っ!ヘンゼルに状態異常がかかった。ヘンゼルが『恐慌状態』になった。ヘンゼル暫く行動不能っ!!」
「えぇっ!?まず状態異常解除しなきゃっ!!」
「だなっ!オレが回復するっ!回復スキル『花吹雪』発動っ!!」
凄いっ!陸実が状態異常って言葉を理解してるっ!!
「回復スキル『花吹雪』が発動っ!!爺が周囲に花をばら撒きましたっ!!心癒されヘンゼルの状態異常が解除されましたっ!!」
「なら今の内に次のスキル使うよっ!行動スキル『皆一斉に吹き飛ばせっ!!』を発動っ!!」
「行動スキル『皆一斉に吹き飛ばせっ!!』を発動っ!!木こりの家が木こりごと吹っ飛びましたっ!!ここで木こりの潜在スキル『絶対負けないんだからぁーっ!!』が発動っ!!ヘンゼルに状態異常『束縛』がかかりますっ」
「うぇぇっ!?きめぇっ!?」
「ほんと気持ち悪い上に怖いっ!!」
美鈴ちゃん、そんな心底同意しなくても…。そもそもその木こり作り上げたの君の母親…いや、なんでもないです。
「ヘンゼルに意識が向いてる間に、僕達は逃げる?」
「でもダメージ受けてるよ?」
「この程度どうってことないと思うけど…」
「なら回復しながら逃げようよ。行動スキル『オデットの祈り』を発動っ!」
「蓮が補助スキル『オデットの祈り』を発動っ!徐々に体力回復効果っ!」
「更に、行動スキル『オディールの逃走』を発動っ!」
「蘭が行動スキル『オディールの逃走』を発動っ!逞しく鍛えられた足でエネルギッシュに逃げるっ!!」
「あっ、ズルいぞっ!オレ達も逃げるぞっ!」
「……補助&行動スキル『老いぼれてても音楽隊』を発動」
「空良くんが補助&行動スキル『老いぼれてても音楽隊』を発動っ!状態異常回復、移動中体力回復、更に移動速度倍効果っ!」
おぉ、反則技に近いけどヘンゼルもグレーテルも見事に逃走したね。
「ミッション成功っ!おぉっ!またヘンゼルもグレーテルも脱落者なく成功っ!凄い凄いっ!ごほんっ。それでは話は続きます。逃走を果たしたヘンゼルとグレーテルは森の中を彷徨っていました。『ヘンゼルお兄ちゃん、お腹空いたね…』『あぁ、そう言えば昨日から何も食べていないもんね。えっと…あぁ、あそこにちょうどいい大きさの猪がいるよ。丁度良く木こりから奪った斧もあるし…殺っちゃう?』『ノオオォォォォッ!!』と微笑ましく会話を繰り広げてはいるものの、お腹は容赦なく空腹を訴えます」
……微笑ましい?兄の方が斧を持って戦いを挑もうとしてたけど…?
「そんな二人の鼻に甘いあま~い香りがっ!我慢が出来なかった二人はその香りを辿り兄妹が見つけたのは、お菓子の家っ!!『ヘンゼルお兄ちゃんっ!お菓子のお家があるよっ!』『本当だ』『食べてもいいかなっ!?』『駄目だよ、グレーテル。いいかい?大気中にはありとあらゆる菌が紛れており野ざらしのましてや誰かが中に住んでいる場所だよ?食べたら確実にお腹を壊すよ?』『でも…食べたいよ。お腹空いたもんっ』『我儘言っちゃダメだよ』『やぁだっ!!食べるのぉっ!!』『グレーテルっ!』『ヘンゼルお兄ちゃんの馬鹿っ!』…ミッション『お菓子の家攻防戦』開始っ!!ヘンゼルは妹にお菓子の家を食べさせないようにしようっ!グレーテルはヘンゼルに負けずにお菓子を食べて兄にも食べさせようっ!」
ここで初めて対決らしい対決ミッションに入るんだね。でも良く考えたらヘンゼルの言い分の方が正しいんだよね。あれ?でもストーリー状は二人で食べるのが正しいような…?
「因みに制限時間は3分ですっ!!」
「3分っ!?」
「躊躇ってる暇はないねっ!攻撃スキル『オデットの魅了』発動っ!」
「…………やらせない防御スキル『ブレーメンの楽曲』発動……」
えっとオデットの魅了の効果は、相手の行動を操る事が出来る、か。それで?ブレーメンの楽曲ってのは?えーっと状態異常スキルを防御か。成程、中々良い攻防戦をしてるんだね。
それから結構な攻防戦が続いた。争い要約するとこんな感じ。
「『オディールの命令(状態異常、操る効果)』発動っ!」
「『金太郎の張り手(状態異常防御)』発動っ!」
「こっちだって反撃するぞっ!『美しき花の誘惑(状態異常操る効果)』発動っ!!」
「なんのっ!『白鳥と黒鳥の違いなんて知った事かっ!(状態異常相殺効果)』発動っ!!」
「いっそ、妹を遠ざけて…『豪風(風属性強力攻撃、吹っ飛ばし効果あり)』発動っ!!」
「こっちも風属性なのに意味がないよっ!『白鳥のダンス(風属性攻撃吸収)』発動っ!!」
技の応酬が繰り広げられている。
どっちもいい勝負してるよね。
でも、やってることが互いに操り効果がある技ばかりで何ともまぁ…せこい。
それに3分ってあっという間だよね。
「タイムアッープっ!!ミッション失敗っ!!」
やっちゃったって頭を抱えている旭達とタイムアップかぁとがっかりしている夢子ちゃん達。
「攻防戦を繰り広げていた二人の側に、婆…げふんげふんっ、老婆が現れました。『どうしたのじゃ?』『食べるのっ!!』『駄目だってばっ!!』『だったら何食べたらいいのっ!?私はお腹空いてるのにっ!!』『だから、あの時殺るか?って聞いたじゃないかっ!』『人を殺してまで得た食事に何の意味があると言うのっ!?』『そんな言葉は余裕のある人間が言うべきセリフだっ!!』」
…何か壮大なストーリーになってない?
「『もしもし?お前さんら?』『大体お兄ちゃんはどうしていつもそうなのっ!?人には理性と言う物があるのよっ!!食べ物を得る為に人を殺す者なんてもう人じゃないわっ!!』『何を綺麗ごとをっ!!ならグレーテルは誰の命も取らずに今を生きているとっ!?それこそ人が人ゆえの傲慢さだっ!!僕達は自分が生きる為にどれだけの命を奪って生きていると思っているっ!?』『いい加減に気付かんかいっ!!』『うるさいっ!!』『引っ込んでてよっ!!』老婆勢いに飲まれ退出」
老婆いなくなっちゃったよ。
「暫く言い合いを繰り広げていた兄妹はとうとう空腹で倒れてしまった。『やっと静かになったわい…。起きた時また喧嘩でもされたら面倒じゃ。こいつらは離して幽閉しておこう。あー…さっきの会話から考えるに男のガキの方が賢くて厄介そうだね。さっさと食べてしまうか。…せめて美味しく食べたい。肥えさせつつ渋味を抜こうかの。なれば地下牢じゃな。女子の方は簡単に逃げようもないの。暫くは召使じゃ』とか独り言を呟きつつヘンゼルを地下牢に、グレーテルを台所に放り投げました。老婆はグレーテルをぶっ叩き起こすと食事を作る様に言いました。『……分かりました』渋々頷いたグレーテルは料理を作ります。出来上がった料理をグレーテルはしっかりと食べて満足すると、兄にも渡すように言われ老婆は兄に持って行きます」
…あれ?魔女が持って行くように言われて持って行くの?既にしもべ感半端ないんだけど。
「地下牢にいるヘンゼルを大声で起こすと、老婆はグレーテルの作った料理を差し出しました。『…一杯食べて早く美味しそうに育っておくれ。イーヒッヒッヒ』笑いながら立ち去る老婆を訝し気に見送り、ヘンゼルはその料理を一口食べて『ごふぉっ!?…クソまずっ!?これもしかしてグレーテルの作った料理っ!?こんな不味いもの食わせるなんて、あの婆ふざけんなよっ!』ヘンゼルは叫びます」
グレーテル、味音痴説浮上。
「それから毎日ヘンゼルはグレーテルの料理を与えられたものの、ヘンゼルは太るどころか、痩せる一方でした。一向に太らないヘンゼルを怪しく思った老婆はこの兄妹やべぇぞと思い、さっさと処分する事に決めました。牢屋からガリガリのヘンゼルを連れ出し、何とか自分で用意した大鍋に水を沸かした中へヘンゼルを投入しようとしました。ここでミッション開始っ!ミッション『老婆の正体を暴け』スタートっ!相手チームより先に正体を暴けっ!」
え?老婆の正体って?魔女じゃないの?
でもそっか。良く考えたら美鈴ちゃん老婆とは言えど魔女とは言ってないなぁ。そこに何かあるのかなぁ?
「正体を暴く?」
「誰かそんなスキル持ってた?」
「持ってない」
「皆実は○○でした系の童話キャラカードだけど」
「どちらかと言えば正体を暴かれる方のキャラばかりだもんね」
「あれ?でもそっちの王子って白鳥の湖の王子でしょ?」
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「限りなく無理に近いんだよね」
「………それっぽいスキル、組み合わせは……?」
「組み合わせるって言ったって」
敵味方の概念どこに行ったんだろう?
皆で相談してるよ?
しかも中々答えが出そうにない。
それを美鈴ちゃんが相変わらずニコニコ笑ってその様子を眺めてる。
「……決めたっ!僕の特殊スキル『金の斧と銀の斧』発動っ!!」
「わお。それ使うんだ~。『金の斧と銀の斧』発動っ!!」
そもそもこれってどんなスキルなんだろう?
「そのスキルの効果は『50%の確率でどんなミッションも成功する』なのでー。旭ー、お姉ちゃんとじゃんけんね。じゃーんけーん、ぽんっ」
「ぽんっ。…僕がチョキでお姉ちゃんがパーだから、あ、成功だっ!」
「そうだね。ミッション成功っ!老婆の正体は…実は、魔女でしたっ!」
あ、良かった。一応魔女って流れになった。
「『…アンタ魔女だったのか。…グレーテル。魔女なら殺ってもいいんじゃない?』『……許可しますっ』『よしっ!じゃあ早速っ!』『待て待て待てーいっ!!あっさり許可を出し過ぎじゃろっ!!』戦闘ミッション開始っ!!これが最後のミッションですっ!!最終ミッション『魔女を倒せ』発動っ!!」
「じゃあ、皆頑張って~。僕はもうカード使っちゃったから何も出来ないよ」
「そうだね~。旭のカードは使用回数一回の大博打カードだからね」
「僕達は頑張るよっ!攻撃スキル『何でオディールと愛する私の姿の区別がつかないのよーっ!!』を発動っ!!」
「続いて、攻撃スキル『王子は私のモノだって言ってるでしょっ!とは言え、この王子色がこんなに違うのに何で気付かないの?馬鹿なのっ!?』を発動っ!!
「更に、連撃で攻撃スキル『オデットだけを愛している(大嘘)と言ってるだろうっ!!』を発動っ!!」
碌でもないカードばっかり。
「グレーテルの攻撃っ!合計2490のダメージっ!魔女の残り体力12510っ!更に魔女のターン。反撃スキル『年をとると目が見えなくなるんじゃっ!!』発動っ!!味方全体に一律2000のダメージっ!」
「うそっ!?2000っ!?」
「やばいっ!魔女の攻撃って威力がデカいんだよっ!」
「しかもっ!」
「連撃が多いんだよっ!」
「その通りっ!連撃スキル『どうして触ったのが骨だって解らないのかねっ!?』連撃スキル『鍋の準備は良いけど、あんなでかい鍋いつも何処で使っていいか迷うんだよっ!!』連撃スキル『って言うか後ろからかまどに突っ込むって酷くないかえっ!?』の三連続攻撃っ!!味方全体に一律5000のダメージっ!」
「5000っ!?」
「あー…駄目だぁ…。僕死んだー」
「僕もー」
「僕もー…」
あらら。蓮、蘭、燐が倒された。三つ子の体力が平均して6000だからねぇ。レベル半減にされてなければどうにかなったかもね。
旭が辛うじて生き残ってる、かな?
「魔女の残り体力が一万越え、か…。じゃあ、特殊スキル『熱いだろ?脱いじゃえよっ』を発動っ」
うあぁぁ…突っ込みたい。そのエロ用語のような技名に突っ込みを入れたいっ。
「特殊スキル『熱いだろ?脱いじゃえよっ』を発動っ!服を燃やされ防御力低下っ!防御力半減効果ですっ!」
「………特殊スキル『重なって化け物の影を作ってビビらせちゃうぞ』を発動……」
「特殊スキル『重なって化け物の影を作ってビビらせちゃうぞ』を発動っ!魔女は化け物の姿に驚いたっ!魔女特殊スキル効果束縛付与により全スキル使用不可っ!」
魔女が化け物の、しかも影にビビるってどうなの?
でも特殊効果か。空良のやつ、考えたね。スキルを防いでしまえばこっちのものだからね。
「よっしゃっ!じゃあ、攻撃行くぜっ!補助スキル『枯れ木に花を咲かせましょう』からの攻撃スキル『シロの牙』っ!!」
「補助スキル『枯れ木に花を咲かせましょう』で攻撃力5倍っ!!更に攻撃スキル『シロの牙』が発動っ!!魔女に10000のダメージっ!!」
「おおっ!!やったぜっ!!」
「魔女はアイテムカードを使用っ!『魔女の妙薬』を使い、状態異常解除」
あ、やばいんじゃない?
「続いて、攻撃スキル『若さを取り戻したい』を発動っ!」
「あ、やばっ。防御スキル『オカッパバリア』発動っ!!」
どんなバリアなの、それっ!
「味方全体に一律3000のダメージっ!ただし、ユメだけは防御スキルでダメージ相殺っ!」
「あーっ!オレ死んだっ」
「ボクも…」
「…………死……」
陸実達が倒された。
一応旭がまだ生きてるからヘンゼルもグレーテルも生きてるんだけど…。
「このままじゃ負けちゃうっ!先制して攻撃スキル『マサカリアタック』発動っ!」
「攻撃スキル『マサカリアタック』発動っ!魔女に4000のダメージっ!魔女が倒されましたっ!ミッションクリアっ!ヘンゼルの勝利ですっ!
「おおっ!!やったな、夢姉っ!!」
うわぁ。昔に比べて強くなったよね。ちゃんと先を読んでクリア出来るようになったんだから。
美鈴ちゃんも満足そうに微笑んでる。
「魔女を倒したヘンゼルとグレーテルは魔女の家にあった金銀財宝の特に高価なものを選びに選んでポケットに詰め家へと帰りました。家には父親しかおりません。母親はなんと病死していたのです。ヘンゼルとグレーテルは手に入れた金銀財宝を」
「攻撃スキル『一撃必殺マサカリバスター』発動」
「攻撃スキル『一撃必殺マサカリバスター』発動って、え?ユメ?この後、兄妹が帰って来た事を喜んだ父親と三人仲良く暮らしましたって流れに」
「攻撃スキル『一撃必殺マサカリバスター』発動」
夢子ちゃん?その真顔怖いんだけど。
「えっと、ユメ?誰に?」
「父親に、攻撃スキル『一撃必殺マサカリバスター』発動。ヘンゼルとグレーテルが幸せに暮らす為には、この父親いらないと思うの。王子…殺っちゃお?」
殺っちゃお?ってそんな可愛らしく…。
「……う~ん…そうだね、殺っちゃおっか♪」
「ええええっ!?美鈴ちゃんっ!?」
「実は私もこのお話に疑問を覚えてたんだ~。どうして、実行犯が罪に問われないのかなぁ~…って」
「二人共そんなケロっと」
「父親はマサカリバスターにより討ち滅ぼされ、兄妹は仲良く暮らしましたとさ。めでたしめでたし」
「全然めでたくないよっ!!人がぼろぼろ死んでるよっ!?」
「う~ん。平和な日常を取り戻したねぇ」
「そうだねぇ」
「全然平和じゃないよっ!!大体ヘンゼルとグレーテル仲良く無かったよねっ!?」
どんだけ叫んでも僕の突っ込みは全てスルーだった。
せめて助けを求めようと旭達を見れば、
「やっぱり魔女の攻撃は痛いよね」
「さっきの闘い方、良かったよね。相手側に体力削って貰って、大ダメージ攻撃を撃つ」
「でも結構な博打だよ?」
「防御スキルがあるなら博打でもワンチャンあると思うよ」
なんて、戦いの振り返りしてるし、逆に陸実達を見たって、
「やべー。夢姉、マジ怖ぇー」
「ああ言う時は近づいたらダメだね」
「………………君子危うきに近寄らない……」
と身の保全のみを考えてるし…。
………はぁ。
美鈴ちゃんと夢子ちゃん。この二人にかかれば気弱な父親でも討ち滅ぼされるんだね。
僕は二人の会話にもう突っ込みを入れず眺めている事に決めたのだった。
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ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。
ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。
その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。
内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います!
*ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。
*モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。
*作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。
*小説家になろう様にも投稿しております。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
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下級貴族の三男ネロ=ヴァッサーに転生し12歳の祝福の儀で水神様に再会する。
約束通り祝福をもらったが使えるのは水属性魔法のみ。
それでもネロは水魔法を工夫しながら活躍していく。
一話当たりは短いです。
通勤通学の合間などにどうぞ。
あまり深く考えずに、気楽に読んでいただければ幸いです。
完結しました。
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