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中学生編小話

双子の交渉~鴇編~:美鈴中学二年の秋

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「~~~っ、だから、鈴ちゃんは今すぐに転校させて家に帰って来た方が良いと思うっ」
「鈴にとっての利点を上げるならっ」
……頑張るなぁ…。
これで何度目だ?
双子がこうやって佳織母さんに美鈴に関して交渉を挑むのは…。
でも、いくら挑んでも佳織母さんは自分の意見を曲げる事はない。
だから、今回も。
「却下。その程度の利点は美鈴には何の意味もないわ」
叩き斬られた。
「うぅぅ…」
「これでもまだ駄目かぁ…」
ぐしゃりとテーブルに崩れ落ちる双子。
「お前ら、いい加減諦めたらどうだ?」
見兼ねて俺が口を出すと、がばりと起き上がった二人が同時に俺の方を見た。
「鴇兄さんっ!兄さんも手伝ってくださいっ!」
「鈴を取り戻すんですっ!」
「……あのなぁ」
こいつら忘れてるんじゃないか?
俺は佳織母さんに賛成していたって事を。
「今日こそ佳織母さんを説得するんですっ!」
「懐柔してみせるっ!」
懐柔になってるぞ?それは説得とは意味が違う気がするが…?
「鴇兄さんっ!」
「兄さんっ!」
「………………鴇?」
悪いな、葵、棗。正直お前達のマジ顔の威圧より、佳織母さんに微笑みの方が余程恐ろしい。
なので逆らわないと言う意味を込めて佳織母さんに頷き、俺は双子に対して静かに首を横に振った。
「うぅ…」
「やっぱりこうなったら最終兵器を出してくるしかないよっ」
「そうだね…。この手は使いたくなかったけど…」
「言っておくけど、誠さんや母さんを出して来ても無駄よ?」
佳織母さんが先制をうつ。けれど双子はにやりと笑った。
「そんなことは解ってるよ」
「うんうん」
双子が勝ち誇った風に言うと佳織母さんが顔を顰めた。多分想像がつかないんだろう。
でも俺は直ぐに想像がついた。何故なら…。
「ただいまーっ!」
旭達が帰ってくる足音が聞こえたからだ。
「旭、蓮、おかえり」
「蘭、燐、おかえり」
『ただいまー、兄ちゃん達っ』
一気にリビングが騒がしくなる。
「ねぇ?皆?皆は鈴ちゃんに帰って来て欲しいって思うよね?」
一瞬首を傾げた下の弟達だったが言葉を理解した途端に目を輝かせ大きく頷く。
「じゃあ、佳織母さんに一緒にお願いしよう?」
葵、棗。お前達とうとうそこまで…。弟達を使ってまで美鈴を帰らせたいのか…。
ちょっと涙が滲みそうになる。
だがな、双子。
お前達ですら説得出来ないのに、弟達を使った所で佳織母さんは意見を曲げないと思うぞ、俺は。
「お母さんっ、お姉ちゃんに会いたいっ」
「お姉ちゃん、転校させようっ」
「お姉ちゃんのご飯食べたいっ」
「お姉ちゃんと遊びたいっ」
うるうると目を潤ませ佳織母さんの足に縋りつく四人。…あざとい…。こいつら分かってやってるな?
だが、そんな風にしたって。
「駄目よ」
佳織母さんは叩き斬るよな。
むしろ弟達を頼るくらいなら、ヨネ祖母さんに頼んだ方がまだ確率的には…いや、無駄か。
佳織母さん本人が無駄と宣言していたしな。
お願いお願いと双子も混ざって佳織母さんにおねだりモードだ。
「……あー…もうっ。分かったわっ!」
面倒になった佳織母さんが弟達をぺいぺいっと跳ね飛ばし腕を組んで見下ろした。
「毎度毎度こうやって交渉されるのもいい加減面倒になってきたわ。皆、これから広間に移動するわよ」
ずかずかと歩き出す佳織母さんに呆気にとられつつも俺達は付いて行く。
三階へ移動すると佳織母さんは中心へ移動し俺達と向き合う。
「これから夕飯迄の間に私から一本とれたら、美鈴を連れ戻す許可をあげるわっ。複数でかかって来ても構わないわっ!かかってきなさいっ!」
…やけくそか?佳織母さん…。

『締め切りが近くなるとママってイライラして冬眠前の熊みたいになるから気をつけてね、鴇お兄ちゃん』

ふと美鈴の言葉が脳裏を過る。
冬眠前の熊……確かにそうかもしれない。
覚悟を決めた双子が同時に佳織母さんに挑む。
そこは一人ずつ挑むとか、そういうプライドはないのか、葵、棗…。
が、そんな双子の弟はあっさりと投げ飛ばされる。
下の弟達も束になってかかるけれど、ぽいぽいっと放り投げられた。
それから1時間。
弟達は息一つ乱さない佳織母さんに投げ飛ばされ続け、最終的に力尽きた。
「全く。情けないったらないわね。こんなんで貴方達が上げた利点の一つ。『美鈴を守れる』を実行できるの?」
「うぅぅ…」
「母さんが強過ぎるんだよ…」
『きゅ~…』
旭と三つ子は目を回して、大の字になって倒れている。
双子は意識はあるものの立ち上がる事が出来なくなっているようだ。
佳織母さんに勝負を挑むのは無謀だと昔から知っているだろうに…。
「……ついでだわ。鴇、貴方もかかってきなさい。体がなまっていないかどうか、確かめてあげるわ」
はぁっ!?
俺は喧嘩売った覚えはないぞっ!?
驚き佳織母さんをまじまじと見る。けれど、それをあっさりと受け流し、むしろ佳織母さんの瞳はいいからかかって来いと雄弁に語っている。
仕方ない、か…。
ジャケットを脱いでネクタイを外し、袖を捲る。
まずは捕まえる所から、だよな。
佳織母さんは本当に隙がないから困る。
暫く睨みあい…一瞬佳織母さんに隙が出来る。
明らかにわざとだ。けれど、そこに乗っかるしかない。
素早く動き佳織母さんの腕を掴む。素早く肩に担ぎあげる様にして一本背負いを決める。
しかし、佳織母さんは叩きつけられる事なく、体を捻り足で着地したかと思うとその状況から腕を掴んでいる俺を持ちあげて、軽々と放り投げられた。
嘘だろっ!?
態勢を立て直して着地してる間に佳織母さんは距離を詰めて、拳を繰り出してくる。
それを腕で防ぐが、びりびりと腕が痺れる。
佳織母さん、ほんっとに女なのかっ!?
それから必死で佳織母さんの攻撃を防いではみたが、最終的には体力の限界がきて、俺も立ち上がる事が出来なくなった。
「……鴇。貴方、体力が落ちたんじゃないの?体を鍛えておかないといざと言う時に動けないわよ」
「……はぁ…、はぁ…、佳織、母さん、が、規格外、なんだよ…」
なんであれだけ動いて息一つ乱れてないんだ…。
「……美鈴を守るためには…これでも足りないくらいよ…」
「佳織母さん…?」
それはどう言う意味だ…?
そう、問う前に。
「皆、ご飯だよ」
親父が呼びに来て佳織母さんはさっさと部屋を出て行ってしまった。
一体何を言いたかったんだ…?
「……佳織母さんに勝つにはまだまだ体を鍛えないと…」
「でも、勝てさえすれば鈴は帰ってくる。希望が見えてきたよ…」
『むきゅ~…』
佳織母さんの言葉の意味を考えたかったが双子のリベンジ宣言に全てが吹っ飛んでしまった…。
まだ懲りないのか…。
あれだけ負けたのに…。
でも…まぁ、これも家での一幕か。
呆れながらもこれも今の実家の状況だろうし…と美鈴への報告書にしたためて置こうと俺は思うのだった。
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