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中学生編小話
双子の交渉の発端~棗編~:美鈴中学一年の夏
しおりを挟む「好きですっ!付き合ってくださいっ!」
夏休みに入る前は決まってこうやって告白の呼び出しが増える。
それは小学生になった時からずっとそうだったけど。
父さんが再婚してから。鈴が小学校に入学してから。大分減って来ていたんだ。
何故かって。それは周りからみたら一目瞭然な程に僕は鈴しか目に入ってなかったから。
それが中学に入って、鈴と言うストッパーが無くなった途端これだ。
そもそも、だ。
「ありがとう。でも、僕の何処を好きになってくれたのかな?」
聞くと、皆必ず。
「そ、それは、棗先輩はすっごく優しくて…」
こう答える。
僕は優しく何てないんだけどな…。
「以前転んだ所に手を差し伸べてくれて、それで…」
……手を差し伸べた?
何時の話だろう…?
まじまじと目の前の子の顔を見る。
………全く見覚えがない。
「それは、本当に僕?葵じゃなくて?」
「そんなっ!間違える訳ないですっ!絶対絶対棗先輩ですっ!」
断言されるって事は、そう、なんだよね?
こうやって好かれる可能性が高いから僕は基本的に女の子に手を差し伸べたりしないようにしてるんだけどな…。
僕がしない代わりに葵が良く差し伸べてるけど、それは葵が女の子相手にも容赦がないからで。
嫌いと分かったら女の子であろうと優しくなんてしてやらないのが葵だ。
その点、僕は基本的に人に優しくしない。頼られたい相手にだけ頼られているならそれでいい。
だからこそ、特に女の子には手を差し伸べたりしたりしないし、したらどんな子か覚えてそうなものだけど…。
正直全ッ然思い出せない。
「先輩?」
顔を覗き込まれて我に返る。
「あぁ、ごめんね。君の事が思い出せなくて。こんな状況で返事をするのは失礼だと思って必死に思いだそうとしてみたんだけど。正直全く思い出せないんだ。それでも、ごめん。僕の答えは決まってるんだ。僕には好きな子がいるんだ」
「妹さん、ですよね…?」
なんだ、知ってたのか。
なら、断るのも楽かな?
「うん。シスコンで気持ち悪いって思われるかもしれないけど、僕は妹が好きなんだよ」
「………それでもいい、って言ったら…?」
「え?」
「それでもいいんです。二番目でも三番目でもいい。棗先輩が好きなんですっ」
こう言うタイプは断り辛いんだよな…。
葵みたいに冷たくも出来ないし…。これは、困ったぞ…?
あぁ、何だろう。今物凄く鈴に会いたい。
鈴に癒されたい…。
『棗お兄ちゃんっ!ぎゅーっ!』
うぅぅ…。
鈴に会いたいよ…。
あの可愛いくて仕方ないほわほわを抱きしめたい…。
「先輩っ!」
っといけない。鈴の事を考えてる場合じゃなかった。
「僕は二番目も三番目もいらない。妹だけが欲しいんだ」
「先輩…。僕じゃ、駄目ですか…?」
うん。駄目………って、『僕』?
「僕が先輩を慰めてあげたいんですっ!妹さんが寮付きの学校へ進学してしまってずっと落ち込んでいたのを見て、切なくて…。出来るだけ妹さんに似る様にカツラと制服も女子の物にしてみたんですっ!僕なら先輩を慰められると思うんですっ!」
「ちょ、ちょっと待って…?君、もしかして、男?」
「え?はい、そうですけど?」
何を今更?みたいな顔をしないでくれる?
ちょっと待って。いつ助けた?男を助けた記憶なんてそれこそ……あ。
……あった。去年、柔道の稽古の帰りに絡まれてる男子生徒を助けた気がする。鈴が発見して、男が怖いのに見ていられなかったのか助けに行こうとして代わりに僕が助けたんだ。
鈴が手当てをしようとしてたけど、それこそ男が怖いのに無理させるのは嫌でその絡まれた男子に手を差し伸べた。
あの時の男子生徒がこいつか…?
「えーっと、ごめん。僕そっちの気はないから」
「?、そうですか?開発してみません?」
「しないっ!!」
「案外いける口かも知れませんよ?」
「そんな訳あるかっ!!」
こいつ、やばい。
「とにかく、君と付き合う気も、君を妹の代わりにする気もないっ!!それじゃっ!!」
「あ、待ってください、先輩っ!」
僕は全力で駆け出す。
捕まってたまるかっ!!
とりあえず生贄に猪塚を使う為にそこまで全力ダッシュしようっ!!
「せんぱーいっ!!」
撒くように走る。
うぅ。鈴に会いたい。こんな失敗作の模造品なんかじゃなくて、本物の可愛い鈴に会いたいっ!
…どうしたら良いんだろう…。
鈴に会うには…鈴を取り戻すには…。
鈴が聖女に行ったのは佳織母さんがそう言ったから。
だったら佳織母さんを説得して転校させたらいいんだっ!
そうだっ、そうしようっ!
「なっつめせんぱーいっ!!」
まだ追い掛けてくるのかっ!!
だいぶ走ったと思ったのにっ!!
そんだけ根性あったら、あんな風に絡まれても逃げられただろ、お前っ!!
そのまま走っちゃダメだと分かっていながらも廊下を走っていると、こちらへ向かって歩いてくる葵の姿があった。
チャンスだと思い、僕は擦れ違いざまに…。
「葵っ!」
名を叫んで、
「僕、今日から佳織母さんと交渉するっ!絶対にっ!じゃっ、あとでっ!」
と宣言して駆け抜けた。
足を同じ速度で動かしたまま猪塚の教室へ入ると、問答無用で猪塚を追い掛けてくるその男子生徒へ放り投げて僕は教室へと逃げ帰った。
午後の授業はずっと佳織母さんへの対策を練っていたのは言うまでもない。
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