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小学生編小話

優兎の準備:美鈴小学六年卒業間際

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「さ、優兎くんっ。制服を取りに行くよっ」
「………え?」
突然部屋に飛び込んできた華菜ちゃんに驚くべきなのか、それとも制服を取りに行くと言う言葉に驚くべきか。
「え?じゃないよー。美鈴ちゃんを守るために聖カサブランカ女学院に行くんでしょっ?」
………え?、それって冗談なんじゃ…?
目を丸くしていると、
「残念ながら優兎。僕達は本気なんだ」
「あ、葵、さん…?」
「今日は鴇兄さんが美鈴と一緒に出掛けててタイミングとしてはバッチリだよ」
「な、棗さんまで…」
どうしよう。
悪魔の言葉が聞こえる。
けどその目を見ると本気その物。
「さ、とにかく行くよっ」
「え?え?」
「美鈴ちゃんの為なら、私は友達でも容赦しないよーっ」
「ええええええっ!?」
華菜ちゃんは宣言通り。容赦なく僕を奏輔さんの店にまで連行した。
奏輔さんのお店で待ち構えていたのは奏輔さんのお姉さん達で。
僕は容赦なく着せ替え人形にされた。僕が着ても違和感のない女物の服。アクセサリー。当初の予定である制服。更には男だと分からなくする為の化粧などなど…。
「ねぇ、咲さん。これだと男だとばれちゃうんじゃない?」
「大丈夫よ、華菜ちゃん。こういうのは女を作るんやなくて、身につけさせるんよ」
……身につけたくないんだけど…。
「ええか?優兎くん。女の中に紛れるには、いっそ堂々とせなあかん。偽ってしまったらいつが限界が来るからね」
「あの…バレそうな危険は犯さない方が…」
「…………優兎くん?」
ビクッ!
か、華菜ちゃんの声が低くなった…。駄目だ、今逆らったら僕が死ぬ。
「あ、そうだ。優兎、ちょっとこっち来て」
葵さんに呼ばれて、彼女達からちょっと離れて葵さんに差し出されたプリントを受け取った。
……うん?国語、数学、理科、社会、英語…?これは一体?
「今から三十分計るからやって」
「え?」
「はい、鉛筆。いい?」
「いや、あのっ」
「はい、スタートっ」
うえええっ!?
仕方なく鉛筆を持って近くの衣装棚の上を開けてガリガリと書いていく。そんなに難しい問題でもないから解くのに三十分もいらなかった。
とは言え、なんで制限時間が必要?って言うか、これなに?
葵さんはその僕が解いた問題を見て満足気に頷いて封筒に入れた。
え?で、これは一体何なの?
「これで入試もばっちりだね。優兎」
「えっ!?今のが入試っ!?」
「じゃあ、僕これ郵送してくるから、棗、あとよろしく」
「了解」
ちょっ、さっきから僕理解が追い付かないんだけどっ!
説明っ!説明下さいっ!!
「服も制服も用意したし、入試試験は今の問題を全問正解する事で問題はないだろうし…。後は…所作とか?」
「それは平気やろ。優兎くんは下手な女よりよっぽど女らしいからな」
それは、あんまり嬉しくない…。
目に見えて僕が顔を顰めたのが分かったんだろう。奏輔さんのお姉さん達は笑った。むむっ?何で?
僕がますます目を細めて睨み付けると、ぽんっと肩に手を置かれた。
そこには奏輔さんがいて…。その瞳は憐れなほど憔悴しきっていた。
「…優兎。ええか?女子校の半分は女でも男でもない、お姉達のような妖怪がぎょーさんおるんや。そんな妖怪に比べたらお前は女より女らしく見える。これはどうしようもないことなんや…。よぉーく考えてみぃ?俺が女装した時、お姉達より俺はモテてたやろ?そういうことや…」
「う…」
すっごい説得力…。それから奏輔さんは二言目には『女に幻想を抱くな』『女は恐ろしい』『女は男だ』と呪いの様に僕に繰り返した。
紙袋に一杯の女物の服を詰められて。僕達は奏輔さんの家を出た。
次に行った場所は華菜ちゃんの家だ。
華菜ちゃんのお母さんにお茶を出して貰った…のは良いんだけど。次は一体何をさせられるのか、恐ろしくて仕方ない。
「ねぇ、棗さん?優兎くんは、本名で入るんですか?」
「勿論本名だよ。そこで嘘を作るとまたややこしくなるからね。とは言え、ちょっとした設定は必要だけど」
「あ、じゃあ、こんなのは?」
華菜ちゃんが次々と設定を作っていく。
…覚えきれる気がしない…。
「流石にそれだと多いよ。そうだな…必要なのは…」
棗さんが添削してくれる。それでも多いです…。
その後、華菜ちゃんと棗さんに、設定を教え込まれ、『女とは』と言う謎な講義を受けて、更には着替えの時(ちょっとダボ着いたTシャツとスパッツを履いて、スカートの下から体操着を着たら問題ないと断言された。他の女子の姿を見たらどうすると言ったら、慣れろとまたしても断言された…。)や身体測定の対策。
正直その話を聞いて、僕は葵さんと棗さんの行動力と、妹への愛を思い知らされた。
何でも男嫌いで有名な聖カサブランカ女学院の学園長を説得して入学させる許可を得たのみならず、身体測定の偽装や卒業後の内申書の偽装まで協力を確約したそうだ。
……どうやったんだろう…。
卒業後の内申書は、華菜ちゃんと入れ替えるんだって。
僕は花札学園に、華菜ちゃんが聖カサブランカ女学院に通っていた事になるそうだ。
そんなこと出来るのかと思ったのだけど、目の前で華菜ちゃんがどや顔で胸を張っているから多分出来る。間違いなく出来る。すっかり情報操作の鬼になった華菜ちゃんが恐ろしい…。
でも、良く考えたら…。
「あの…。だったら最初から華菜ちゃんを入れたら良かったんじゃ…」
「それは無理」
「え?なんで?」
「私は花札で学びたい事があるから。自分が学びたい事を放棄して美鈴ちゃんを選んだら私美鈴ちゃんに怒られちゃう」
「その理論で行ったら、僕も怒られると思うんだけど…」
「大丈夫だよっ。美鈴ちゃん、家族には甘いんだからっ。ベタ甘なんだからっ。憎いっ!」
満面の笑みで憎まれた…。
「で、でもさ。棗さん。良く考えてよ。僕、男だよ?声変わり来るよ?身長だって…今は若干美鈴ちゃんに負けてるけどいずれ大きくなるよ?」
「声変わりか。その問題もあったな。僕達も中学の時一回り低くなったし」
「棗さん。声変わりしてやたらエロくなりましたよねっ」
「華菜ちゃん。それは褒め言葉ととっていいの?」
「いえっ!美鈴ちゃんがそれを言ってたのを聞いたので言ったまでですっ!憎いっ!」
棗さんも華菜ちゃんに満面の笑みで憎まれた…。
「っといけない。呪いは後で飛ばすとして」
…飛ばさないで…。
「声変わりに関しては問題なさそうだよー。だって女にも声変わりってあるし」
「えっ!?」
「そうなのっ!?」
僕と棗さん二人で同時に驚く。
「まぁ、女の場合一生をかけて徐々に徐々に低くなっていくんだけどね。それに正直言って今現在声が高い優兎くんが低くなった所でたいして低くならないと思う」
グサッ!
うぅ…華菜ちゃんが心を抉ってくる…。
「大丈夫大丈夫。女顔と女声の宿命だよっ☆」
「か、華菜ちゃん…。ほんと容赦ないね…」
「うんっ!美鈴ちゃんと同じ学校っ!憎いっ!!」
滅茶苦茶憎まれてる…。
これ以上、華菜ちゃんには逆らわないでおこう。…うん。
「という訳で、中学入ったら色々と近況報告してね、優兎くん。聖女は男にメールは駄目だけど女には出来るから」
「そうなの?でも女の名前で登録してたら分からないんじゃない?」
「…馬鹿ねぇ。優兎くん。女が男のメールに気付かない訳ないじゃない。そんなの寮監が全て管理してるに決まってるよー」
………こわっ!?
「勿論、私の情報も優兎くんに流すからね。データ入れ替える時に必要だろうからねっ!」
コクコクともう頷く事以外しない。
「あれ?でもそうなると、華菜ちゃんも男として入学する必要があるんじゃない?」
ニコニコニコ。
あ、これ書き替える気満々だ。ばれないように犯罪しまくってる気が…。
「大丈夫だよ。華菜ちゃんも優兎も守れるだけの権力はあるから」
にこにこにこ。
棗さんの背後に悪魔が見える。…もう、諦めよう。僕今なら奏輔さんと肩を組んで夕日を眺めて黄昏れる自信がある。
必要な情報交換だけして、僕達は華菜ちゃんの家を出た。
そして帰宅途中で葵さんと合流する。
他愛ない話をして帰ってる途中。
「そう言えばさ、優兎」
「はい?なんでしょう?」
「優兎はいつ、僕達に対する敬語を無くしてくれるのかな?」
「え…?」
「あ、それは僕も思ってた。僕達はもう家族だよね?」
「あ……」
二人が僕の両サイドでにこにこと微笑む。
え、えっと…。僕の顔に熱が集まる。
恥ずかしい訳じゃない。ただ、ただ嬉しくて。家族って言ってくれた事が嬉しくて。泣きたいくらい嬉しくて。
「僕達は家族とも思ってない人間に鈴の事を頼んだりしないよ」
「鈴ちゃんの側には家族以外置きたくないんだよ」
言ってる事は我儘だ。すっごい我儘。でも、僕は……そんな我儘すらも嬉しかった…だから。
僕は、言った。
「葵兄(あおいにい)、棗兄(なつめにい)、それって結構我儘だよ?」
笑みを浮かべながら、二人に言うと、
「良いんだよ、家族だから。ね、棗」
「そうそう」
二人も笑顔で返してくれた。
そんな良い話も。
数日後、僕が聖カサブランカ女学院に入学する流れを美鈴ちゃんと佳織さんが知った時の激怒(双子の兄達への、だけど…)によってあっさり塗り潰されたのはここだけの話…。
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