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第三章 中学生編

※※※

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うふふ…。
そうよね。そうなのよね。
ここ女子校だし。いるの当然だったのよ。
だって、そう言う設定だったもの。
『久しぶりに再会した男の子達に恋する女子達が貴女の強力なライバルに』
って。
『恋敵』と書いて『ライバル』と読むっ!
うあああぁぁぁ…。
攻略対象に出会う前にライバルキャラに遭うと言うこの不思議。
ライバルキャラとは読んで文字の如く、攻略対象との恋愛を妨害してくるキャラクターの事。
その一人が愛奈である。

新田愛奈(にったあいな) 未正宗の好感度を上げると出現するライバルキャラ。中学の時化学にハマりこよなく実験を愛するようになる。小学校の時未を好きになり告白をしているがフラれて、高校で再会し、また恋に落ちる。

愛奈から未の名前を聞いた瞬間フィルターが綺麗に剥がれましたの事よ。動揺で日本語がおかしい。
ライバル達って確か四人いて、それを通称『四聖』って呼ばれてた…はず。
聖ってのは聖カサブランカ女学院卒だからって事で。
…ママ。知ってたね?絶対知ってたよねっ!
だから、この学校に入れたんだっ!!
頭を抱え込む。
「美鈴ちゃん?どうかした?」
生徒会室の机に頭突きした私を不安げに優兎くんが覗き込んできた。
すっかり季節も秋になり、生徒会長を引き継ぎ書類を捌いていた私はぼんやりと優兎くんを見上げた。
優兎くんは手の持っている封筒を私に渡す。
「大丈夫?鴇兄から書類届いたけど、後にする?」
「あぁ、うん。大丈夫。生徒会の書類はもう終わってるから。優ちゃん。悪いんだけど、これを1年の学年主任に、こっちを三年の運動部長に渡してくれる?」
「うん。分かった」
「それから、こっちを愛奈に。これは会計書類で原稿じゃないから間違わないでって伝言して」
「うん?うん分かった。じゃあ行ってくるね」
生徒会室とは言っても一種の事務室のような物だ。エイト学園みたいに王様の椅子みたいのがある訳でもない。ホワイトボードと事務机が三つ並んでいて、後は全て書類ファイルで壁は覆い尽くされている。
私は優兎くんから受け取った封筒を確認する。
A4サイズの封筒は間違いなく鴇お兄ちゃんからの仕事の書類だ。中を開けて確かめるが間違いない。
この学校って徹底してるから、男からの手紙は一切受け入れない事になっている。出す分にはいいらしんだけどね。
でもこの書類に関しては仕事だから先生たちは黙認してくれている。そこを利用して、鴇お兄ちゃんはひっそりと手紙を入れてくれているんだ。
かといって普通に入れるとバレるから、仕事の書類風に一枚だけ手紙として紛れ込ませている。
「えーっと…なになに?三つ子の身長が爆発的に伸びた?うそー…私もしかして越される?葵お兄ちゃんと棗お兄ちゃんがいまだにママを説得しようと頑張ってる?うーん…お兄ちゃん達諦めも肝心だと思うの」
仕事の書類を処理しながら、鴇お兄ちゃんの手紙を苦笑しながら読む。
鴇お兄ちゃんの手紙の内容って家の現状報告なんだよね。しかもそれを書類風に書いてるから何ともそのギャップが面白い。
よしっ。今回の書類も無事終了っと。トントンと書類を机に叩いて揃えて封筒へしまうと、ひらりと封筒が一枚出て来た。
「……ん?なに、これ?」
何も書かれていない真っ白な封筒。開けるの超怖いんですけど。
あぁ、でも、切手も消印もないって事は学校関係者からって事だよね。って事は確実に女の人。
じゃあ大丈夫かな。
…私宛、だよね?違ったらどうしよう?
暫く考えて。
「まぁ、その時はその時って事で謝ればいいじゃん?」
と結論付けて糊付けされている封筒をハサミで開封する。
中には一枚の便箋。そこには、一言。

『君が欲しい』

ただ、それだけ。
……いや、あげないし。
って言うか差出人誰なのよ。
便箋を軽く振ってみる。そこから仄かに香った煙草と香水の匂いに私の手は止まった。
「う、そ、でしょう…?」
まさか、そんなはずはない。でも、煙草の香りの中にウッディタイプの香水の匂いが混ざっている。
私はこの香りを知ってる。

『どうしたの?そんな驚いた顔して…?』

―――この香りは前世で私を殺したアイツのっ…。

いる訳がない。だって私はもう死んだんだ。違う世界の日本に私が生まれ変わったなんて気付くはずがない。
姿だって以前の私とは似ても似つかない。分かる訳ない。気付かれる訳がない。なのに…。

『大丈夫。君がどんなに逃げても必ず見つけてあげるよ…』

―――震えが止まらない。

怖い。怖い…。
また、私は殺されるの?また、男の人にいいようにされるの?
「そんなの、いや…っ…」
ここは女子校で男子禁制の場所だ。大丈夫。大丈夫だから…落ち着いて、私。
震える体を両手で抱き締めて、滲む視界をクリアにしようときつく目を閉じる。

『……あぁ…堪らないよ。君の髪も、この肌も、瞳も…。全て欲しい』

いやっ!!
目を閉じたのは失敗だった。
私を殺した男の声がまざまざと思いだされる。
「いやっ、いやっ…こわいっ」
目を閉じてもダメ。だったらどうやって私は自分を落ち着けたらいいのっ?
「王子ー。さっき貰った書類なんだけど」
ガチャっとドアが開き、そこに愛奈が顔を出した。
女の子だ…。愛奈がいる…。
愛奈が私の顔を見て、驚きに目を見開く。そして慌てて中へ入りドアを閉めると駆け寄って来た。
「どうしたのっ、王子っ。大丈夫っ!?」
「あい、なっ……」
膝が笑って立つ事も叶わず、私は必死に手を伸ばして愛奈に触れようとする。
すると愛奈が躊躇う事なく私の頭を胸に抱き寄せ抱きしめてくれた。
「顔、真っ青じゃないっ。何があったのっ!?」
答える事すら出来ない私の背を優しく撫でながら、愛奈は私が落とした便箋に気付く。
きっとその文字を読んだんだろう。
私を抱く腕が強くなった。
「…差出人の心当たりは?」
「ある、けど……もう、そばには、いない…はず」
「ふぅん…」
愛奈は私をそっと離して、手紙を拾い、文字を見た。
「……手書き、ね。しかも、汚い文字。念の為、先生に見せよ。外からの手紙に紛れ込ませて届けさせた可能性もあるし。もしかしたら、王子宛じゃないかもしれないし」
「う、うん…」
「ん?これ、煙草の匂いがするね。こんだけの匂いが移るって事はよっぽどのヘビースモーカーだね。それと香水の匂いが少し混じってる?あぁ、そっか。だから王子、これだけの言葉で差出人の心当たりに辿り着いたわけね」
こくりと頷く。
「…でも、この香水って確か、社会科の武蔵先生が好んでつけてた気がする」
「え…?」
「彼氏の匂いと同じにしたいとか何とか言って敢えて男物付けてるとか。これ、もしかして武蔵先生宛てなんじゃない?彼氏、ヘビースモーカーだって言うし」
「そう、なの…?」
「うん。だから一概に王子が怖がってる人とは限らない。大丈夫」
そう…。そうだよね。愛奈の言う通り、これが私宛とは限らないし。それに、この世界にあいつがいる筈がないんだから。
「ごめんね。愛奈。…ありがとう」
「いいよ。大丈夫」
愛奈のその微笑みは私にとってはかなり強みになる。
「この手紙、武蔵先生に念の為渡してみるね。いい?」
「うん、…だいじょう、ぶ。でも、愛奈。い、一緒に、行ってもいい?」
自分の目で他の人宛だと納得出来ないと恐怖は収まらないと思うから。
それに何より、今一人でいたくない。
そんな私の気持ちを察知したのか、愛奈はじゃあ行こっかと手を差し伸べてくれる。
私はそれが嬉しくて素直にその手を握った。
二人で手紙を武蔵先生の所へ届けると、それは間違いなく先生宛の彼氏からの手紙だったらしく、私は心の底から安堵した。
これからも手紙を紛れさせてくるかもしれないが、封筒の隅に小さく×が書かれてるのは先生宛だと言っていた。
よく見ると確かに今回の手紙の封筒の隅に小さな×印がある。
本当に本当に安心した。そうだよ。いる訳がないんだから。
そうして気持ちを整理して、生徒会室へ戻ると優兎くんが待ってくれていた。
そして何故か優兎くんが愛奈にこんこんと説教をされていたのは何でだろう?

翌日。
丁度二時間目の授業が終わった時の事。
「白鳥美鈴っ!ちょっと面貸しなっ!」
まさかの面と向かっての呼び出しを受けた。
こんなテンプレ的な呼び出しがあるとは思わなかったし。
教室の入口の所でいかにも『染めました』な金髪で、って言うか髪の付け根茶色い。焦げ茶に近いのかな?いや、よく言うとダークブラウンって奴?それを一つにゴムでまとめてる。
更にピアスとマスク。マニキュアは赤?制服はまだ衣替え前なのに冬服にロンスカ。
やばい。呼び出した当人もテンプレ感満載だった。…赤いスカーフじゃないのが残念でならない。そして出来る事なら葉っぱを。葉っぱを咥えて欲しい。いや、待って。ここまでテンプレならやっぱりヨーヨーかっ!?
違うな。機関銃か?いやいや。待って待って。もっと良さそうなのがある筈。
「聞いてるのかいっ!?白鳥美鈴っ!!」
叫ばれてハッと我に返る。
そうだったそうだった。彼女の姿を堪能してる場合じゃなかった。呼び出されたんだっけ。
「大丈夫。聞いているよ。確か、私の顔が欲しいんだったね。残念ながら取り外す事が出来ないのだけれど」
椅子から立ち上がり、彼女の下へ行くと、彼女は私の顔を見下し、さっと顔を逸らした。
「顔が欲しい何て言ってないだろっ!面貸せってのはそういう意味じゃないっ!」
「ふふっ。冗談だよ。行こうか。話があるんだろう?」
「冗談って、あぁ、もうっ、やりにくいっ。行くぞっ。こっちだっ」
「あぁ。分かった」
先導して歩く彼女を確認してから、私は振り返り、心配そうにこちらを見る優兎くんにウィンクする。
それに納得した彼は苦笑しながらも頷き手を振ってくれた。
私も手を振り返し、早速彼女の後を追う。
どうしようっ。この手のテンプレな呼び出しを受けた事は一度もなかったから、楽しみで仕方ないっ。
そして案内されたのは体育館裏っ!ひゃっほーいっ!えっ?なになにっ?木の影から数人のヤンキーが出てきたりするのっ!?しちゃうのっ!?
そんな私の内心とは裏腹に、向かい合ってる彼女と私の間には深刻な空気が流れている。…表面上ね。
でも睨み合ってるだけで何も変化がないのなら時間の無駄。若人よ、時間は有限なんだぞ。
きっかけを与えようかな?
思い至って口を開こうとしたら、
「アンタに聞きたいことがある」
とあちらから話を振って来た。
「うん。何かな?」
笑顔で先を促すと、彼女は一瞬顔を顰め、意を決したように私を睨み付け言った。
「どうやったらアンタみたいになれるっ!?」
「……………うん?」
よしっ!理解が追い付かないっ!
ちょっ、あれ?女の子が集団でリンチするって件はどこに?
「その、…アタシ知ってるんだ。アンタのそれ、キャラだろ?」
まぁ、確かにこの男っぽさはキャラと言われればキャラですが。
葵お兄ちゃんの真似に過ぎませんが。えーっと…どうしたらいいかな?
「とりあえず、座ろうか」
詳しく聞くのに立ち話もなんだしね。
すぐ傍にある大きな木の下で私達は並んで座る。
「なぁ、どうしたらアンタみたいになれる?」
座った途端同じことを言われた。
「その前に聞きたい事があるんだけど、いいかな」
「なに?」
「君が目指しているのはこっちの私かな?」
そう言いながら葵お兄ちゃんを真似て笑みを浮かべる。
「それとも、こっちの私?」
声のトーンを変えて、私は自分らしい笑みを浮かべた。すると、
「そっちっ!アタシはそっちのアンタみたいになりたいっ」
すぐさま反応してきた。
この姿を見せた覚えはないけど、どこかで気付いたか、知ったのかしたんだよね?
ううーん。要するに女の子らしくなりたいって事かぁ。まぁ自分が女の子らしいかと聞かれると話は別なんだけど。
でも、葵お兄ちゃんの真似で反応せず、素の私で反応するってのはそう言う事なんだろう。
「どうしたらいい?」
「どうしたらって言われても困るなぁ。要するに貴方は女の子らしくなりたいって事だよね?」
「そっ!…、そうなる、のかな…」
顔を真っ赤にしちゃって。
その姿で十分女の子らしくて可愛いと思うんだけどなぁ。
「あ、アタシ、ね。昔から可愛い物が大好きで。すっごくすっごく好きで。でも、ほら、この身長と見た目だろ?似合わないっての知ってるから」
「そうかな?充分似合うと思うけど。…ちょっと髪を弄ってもいいかな?」
「えっ!?ちょっ」
胸ポケットから鏡と折り畳みの櫛を取り出して、早速彼女の髪を梳かす。因みに小学生の時持っていたナイフは既に没収され済です。っとそれは良いとして。うん。サラサラストレート素敵。
鏡を彼女に手渡しながらどんな髪型にしようか、考える。
折角のサラサラな髪なんだから、分け方を変えて、横に流すような感じで…。二つに分けて…よし、オッケイっ!
うんっ。可愛いっ。私、今になって葵お兄ちゃんの気持ちが分かった気がする。
自分の好きな髪型に変えるのって楽しいねっ。
「す、すごい…。でも、アタシに、似合わなくない?」
「え?どうして?」
「どうしてって…こんな可愛い髪型」
戸惑う彼女が可愛い。
「大丈夫。似合ってるよ。可愛い」
自信を持って。大丈夫、可愛いっ!
中身こんなおばさんの私より断然可愛いからっ!
微笑む私に更に戸惑う彼女。
「いっそ三つ編みとかしてシュシュで結んでみる?」
「い、いや、いいっ。まだ、そこまでは行けないっ、耐え切れないっ」
「ええー。勿体ないなー…。折角綺麗なのに」
髪を一掬いとって言うと、彼女はわたわたと焦り始めた。
「今は、この髪型でいい。ありがとう…」
あんまり改変させてもあれか。
私は頷き隣にもう一度座り直す。
すると彼女は鏡でずっと髪型を確認していた。うん。可愛い。どんなタイプでも女の子は女の子って事だよね。
「…なぁ。白鳥はどうして男を演じてるんだ?」
「うん?それは…男が嫌う女を目指す為、かな」
「それはモテ自慢か?」
じと目を向けられても困る。
「モテるってのはね。良い事ばかりじゃないんだよ」
ずぅんと肩に重たい物が乗っかったみたいに首を落とす私に、彼女は不思議そうな顔で私を見た。
「良い事ばかりじゃないって言うと?」
「まず好きになった人には殆ど振り向いて貰えない。私一度好きだった人に告白した事があるんだけど、その時に言われたセリフって何だと思う?」
「自分も好きだった、とか?」
「まさか。そんな良い答えじゃないよ。『何で俺なんか選ぶんだよ。理由がないだろ。それに、お前みたいな顔を利用して遊んでそうな女。ごめんだね』だって」
「何だ、そのクズ」
「それから私、恋ってしなくなったなぁ。男の人に希望も持たなくなったし。でも私が求めてない男の人は私を求めて襲い掛かってくる」
「………」
「モテてる、とか、顔がいい、とかそんなのただ他の人と違うってだけ。普通じゃない人間ってのはそれが良い物であっても悪い物であっても異質としはぶられる。好きでそう生まれた訳じゃないってのに」
「……何か、ごめん?」
謝られた。それが面白くて自然と笑みが浮かぶ。気にしなくていいと顔を振る。
すると、彼女はそっと視線を足下に移した。
「アタシも…好きな奴がいた」
「へぇ、そうなの?」
「うん。…強い人が好きだって言うからそれに見合う女になりたくて。頑張った、けど…」
「けど?」
「無理だった。あいつは、巳華院(みかいん)はアタシの事、振り向きもしなかった」
ピシッ。
石像のように固まった私にヒビが入った音がした…気がする。
あー…そうか。そうなのか。今ので分かったよー。
この子。向井円(むかいまどか)だ。

向井円(むかいまどか) 巳華院綺麗の好感度を上げると出現するライバルキャラ。中学の時強くなるために一心不乱に修行し、強さを極めた最強女子。小学校の時巳華院を好きになったが、自分より強い人が好きと豪語した巳華院を打ち負かす事が出来ずその想いを諦めようとした。だが最強になった状態で高校で再会し、また恋に落ちる。


ライバルキャラの一人。向井さんかー。私ライバルキャラでこの子が一番好きだったんだよね。
ゲームプレイ時一番同情した。だって何もあんな変態に惚れなくてもいいじゃないって良く思ってた。
……ただ、神様フィルターの所為で巳華院がどんな感じの変態キャラだったのか全く思い出せないんだけどさ。
「告白、したの?」
「…出来る訳ない。出来る訳、ないじゃないか…。アタシはあいつより弱いんだから」
女が男より弱いのは当然の事だよね。
でも、それすら思い浮かばない程に好きだったんだ。
とは言え正直な話。これは愛奈にも言った事だけどさ。向井さんにはもっと似合う人がいると思うんだ。
変態なんかと付き合う必要はないと思う。
ゲームだと確か、中学時代に奮起して強くなって巳華院より圧倒的な強さを手に入れるんだよね。
それが今なんだろうけど…。
「でも、もういいんだ。さっきアタシ、好きだった奴って言った。自分で言っておいて何だけど驚いたんだ。無意識の内に過去形にしてたんだよ。だから、もしかしたら吹っ切れてるのかもしれない」
「…そっか」
「アンタの存在を知ったから吹っ切れたと思う」
「私?」
「そう。ずっと気になってた。入学当時、ちらし寿司作って来たのを見た時から」
むっ。あれはそんなに注目を浴びてたのか。そう言えば愛奈もそんな事言ってたな。
「アタシはきっと自分が一番インパクトあると思ってたんだけどね。鳥を丸ごと焼いてきたから」
あ、あー…あれ、向井さんだったんだー…。
「私以上のインパクト料理を持って来たから、てっきりガサツな奴かと思ってたんだけど。キャラクターの割に女子力が高くて。そのギャップが気になって気になって」
…どうしよう。キラキラした目で言われてるけど褒められてる気がしない。
「アンタみたいに使い分けれるなら、アタシももしかしたら女子力高めれるかなとか、その、手をつけられなかった可愛いキャラグッズとか持って歩けるかな、とか」
あぁ、何となく分かったかも。
何か色々話をしたけど、結局彼女が言いたいことって、ツンデレ女子に良くあるアレだ。
ぐっと彼女は一旦言葉を切って、それから決意したように言った。
「白鳥美鈴。アタシと友達になってくれないかっ!?」
「勿論っ。大歓迎っ」
断る理由がない。ライバルキャラだけど、私は彼女が狙う攻略対象キャラと恋仲になる気はかけらもないので。むしろ友情エンドを狙いたいくらいなので。
諸手を上げて喜びますよっ!
「ありがとう、王子…」
ううん、こちらこそ嬉しい…って、うん?
「ちょっとなんで王子呼びっ!?さっきまで名前で呼んでくれたよねっ?名前で呼んでよっ!」
「いや。王子って呼ぶよ。アタシは王子の親衛隊に入れたんだから」
「はーいっ!はいはーいっ!!質問質問しつもーんっ!!」
「な、なに?」
私の気迫に押されて微妙に引いてるが構ってられるか、そんなものっ!!
「親衛隊って何っ!?」
「は?王子が自分で作ったんだろ?」
「作ってないわよっ!何それっ!知らないっ!詳しくっ!」
「詳しくって…。本当に知らないの?」
必死に頷く。
「なんだ、じゃあこれって非公認なんだね。えーっと何だったかな。確か、白鳥美鈴を王子と呼べる人間は白鳥美鈴が認めた者のみ。認められた者は親衛隊と呼ばれる。今現在のメンバーは従者である花島優兎と新田愛奈の二人。認められてもいないのに王子と呼び足を止めた人間は罰則が与えられる。名前は様、もしくはさんを付けて呼ぶ事。プレゼントや差し入れは抽選で選ばれた者のみ渡す事が出来る。あーっと…何か他にも色々あったけど忘れた。ごめん」
「なぁにそれ…。でもそんなのがあるのね。知らなかった…」
「みたいだね。でもアタシも罰則は嫌だし。王子って呼ぶよ」
「うぅ~…折角友達になれたのに、名前で呼んで貰えないなんてぇ…」
がっかりだよ。でもそれ誰が考えたんだろう。そのルールを決めた組織の長がいる筈よね?
それって誰なんだろう?
っと今はそれよりも。
「ねぇ、私は名前で呼んでもいい?」
これも拒否られたら私凹む。
「あぁ、勿論」
「やったっ。じゃあ、これから、よろしくね。円」
許可が貰えた事が嬉し過ぎて、私は円の手を握って満面の笑み。
うん?円の顔が赤い。やだ、可愛いっ!
私は思わず円に抱き着きそうになったけれど、聞こえたチャイムの音でそれは遮られる。
…ん?チャイム?
「ねぇ、円?これ何時間目のチャイム?」
「多分、四時間目終了のチャイム」
「……もしかしてやっちゃった感じ?」
「もしかしなくても、だね」
えーっと、私達話に夢中になり過ぎて、どうやら二時間ほどサボってしまったようです。
「…今更焦ったって仕方ないし。戻ろうか」
「そうだね」
「あ、どうせなら一緒にご飯食べようよ、円。皆で食べようっ。優ちゃんと愛奈も紹介するよ」
諦めも肝心。
私達は互いに笑いながら、教室へと向かった。

円と友達になってから、一週間が経った。
放課後の生徒会室。
私達は一仕事終え、皆で私特製のおやつを食べて仲良く会話を楽しんでいた。
「あ、ちょっと円っ!それ私のっ!」
「大丈夫。名前書いてなかったから」
「どこの世界にマフィンに名前入れてる人がいるのよっ!」
「いないから、これは愛奈の物でもないってことで」
「うぅぅっ、ずるいずるいっ!だったらっ、えいっ!」
「あぁっ!?私の分っ!!」
「従者は黙ってっ!」
「ひ、酷いよ、愛ちゃん…」
仲良く食べていた…のよね?
おやつの取り合いに発展してる気がする。
って言うかいつの間に皆こんな仲良しに?円だって一週間前に参戦したばかりなのに。
遠い目になりつつお茶を飲んで、そう言えばと鴇お兄ちゃんから届いた仕事の書類を思い出し、取り出して中を見る。
最近ではお馴染みになりつつある封筒が一緒に入っていた。
これさぁ。何時忍ばせてるのかな、先生の彼氏。
あれ?封筒が三つある?なんで?
一つは何時もの封筒に×印。もう一つは同じ封筒だけど×印がない。…入れ忘れたのかな?取りあえずこれも武蔵先生宛て。
じゃああと一つは?
…ノートを切ったっぽいんだけど。何だろう、昔風な折り方されてる。祝辞で入ってそう?何か文字は…。

『里し状』

……さとしじょうって何よ。それを言うなら『果たし状』でしょう?
漢字間違ってるんですけど。
「ふふっ…」
待って待って。誰かを諭すの?里って何…?
……駄目だっ。我慢出来ないっ。
「あははははっ!!」
面白すぎるっ!!誰よこれ、書いたのっ!!
突然腹を抱えて笑いだした私に驚いた三人の視線が。
だって、面白いんだものっ。
「ちょっ、見てっ、見てよっ、これっ」
私が三人の前にその『里し状』を見せた。
瞬間、目が点になった三人は一斉に笑いだした。
「あははははっ!!ダッセーっ!!どこの馬鹿だよっ!」
「ちょっ、円、言葉遣いっ、が、悪いわよっ、あはははははっ!!」
「今時、こんな漢字も書けないなんて、はははっ!」
だよねっ!これは笑うよねっ!!
涙も出ちゃうよねっ!!
さて、一体誰からなのか、見てみようか。
涙を指で拭いつつ、私はその紙を開いた。確かに果たし状風に紙は包まれてる。
皆も興味津々なのか一緒になって覗いてきた。
包みを開けて、折り畳まれてる紙を開いて書かれてる言葉を読む。
「えーっと、『今月の方科五に校社ウラで時つ』…だって」
「……ここまで漢字を間違われると笑う通り越して引くんだけど」
「流石のアタシでもここまで酷くない」
「……言いたい事って『今日の放課後に校舎裏で待つ』なのかしら」
さっきまでの雰囲気から一転。あり得ない漢字間違いに私達の笑いはすっかり消え失せ、むしろこの果たし状を書いた人間に大いに引く。
「そして、これは一体誰宛ての果たし状なのかしらね」
優兎くんの突っ込みに私達はもう一度その果たし状を見返す。
何も書いてない。書いてないけど…私宛の書類に入ってた事を考えると。
「…私宛、なんだろうなぁ…」
ぼそりと呟いてみる。それに誰も否定しないって事は皆もそう思ってるって事だろう。
そもそももう放課後だし。書くなら『明日』の放課後でしょう、普通。
「仕方ない。行ってくるか。三人共、あとよろしく」
手紙を持って席を立つ。
「任せて」
「なんかあったら直ぐ呼ぶんだよ」
「美鈴ちゃん。気を付けてね」
三人に見送られ、私は生徒会室を出て、真っ直ぐに校舎裏へ向かう。
そして来た事に早速後悔した。
何かいる。
見るからに男でしょ、あの後姿。
なんでセーラー服着てるの?
厚化粧が半端ない。
体つきからしてもう女子じゃないって分かるし。
え?行かなきゃダメ?ダメなの?
うぅぅ~…ヤダよぉ~……。
薙刀持って来れば良かったよぉ~…。
そっと校舎の影からその姿を覗く。
風になびくスカートが、立派な男の足を見せてくれる。頼んでないし。
ふと私の視線に気付いた化け物…げふんっ、呼び出し主がこっちを見た。
駄目だ。行かなきゃ…。
仕方なく、校舎の影から出て呼び出した化け物、げふごふっ、呼び出し主の方へと歩み寄る。
「私を呼び出したのは、貴方?」
「おうっ」
仁王立ち。本当に女装する気あるのかしら?
「それで、何の用、なの?」
「実は、頼みがあってっ」
「…頼み?」
一歩近寄られて、私は一歩後ろへ下がる。
「何で離れるんだよっ」
「何でって、だって、怖い…」
「怖い?何処が?」
心底解らないって顔で首傾げないで。私の男性恐怖症抜きにしても貴方のその姿は怖いわよっ。
「そもそも、なんで、男がここにいるの…?」
もう一歩離れると、やっぱりもう一歩詰めてくる。
「こんなに完璧な女装なのに何で男だって分かったんだっ!?」
何処が完璧なのよっ!!寝言は寝てからいいなさいよっ!!
そもそも被ってる金髪のウィッグもずれてるしっ!!
「ここは、男子禁制なの。帰って」
「か、帰るからっ、話したら帰るからっ。頼むっ。話聞いてくれっ」
一気に距離を詰められて、ガシッと手首を捕まれる。

「細っ!?」
「嫌っ!!」

声が重なった。
必死に手を振って、掴まれた手を奪い返す。
また掴まれる前に距離を取る。震えそうな体を、両手で抑え込み、目の前の男を睨み付けた。
「用って、頼みって、なに?」
「お前、細すぎないか?鶏ガラか?」
誰が出汁専用よっ!そんなに細くないもんっ!!
「頼み、言わないなら帰る」
「あっ、おいっ!」
「今度呼び出す時はもっとまともな手紙書けるようになってから来て。一先ずは『果たし状』って書けるようになってから来てっ」
ぺいっと『里し状』を投げ捨てて、私はその場を全力で逃げた。
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