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最終章 数多の未来への選択編

第三十二話 三猿の成長~青い見猿編~

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どの文字の犯人を探し当てるか。
三行目の幼い感じの文字を書いた判別つきやすいかなって思ったんだけど。
まずは事務所に戻って、この文字を書いたのが誰なのかを調べる必要があった。
そもそも莉良さんの事務所ってあんまり幼い子がいるイメージがないんだよね。
あの子達やユメが年若い方に入るって言う認識でいた。
それはどうやら真珠さんや透馬お兄ちゃんもそうだったらしくて。
透馬お兄ちゃんの運転で事務所に戻ったら案の定結果は私達の知る結果と変わらなかった。
「でもあれ、正直幼稚園児とか小学生の文字だよね?」
「まぁ、文字だけ見るとそうかもしれねぇけど。文字が下手な大人なんて多々いるだろ」
「あー、それは確かにー」
そっちの線で調べた方が良いかもしれない。
莉良さんに文字が下手で読めない人っている?と問うと数人の名前が上がって来た。
その人物の名前だけメモを取って。
事務所を出て透馬お兄ちゃんの車の中でスマホで画像検索をする。
「……あ」
「どうした?姫」
「この人だけ見覚えがある」
「どいつだ?」
「このアイドルグループ縁舞(えんぶ)のリーダー」
「どれどれ…あぁ、こいつか?」
この前ナンパして来た人達の中にいたな~。って言うか、今縁舞で検索したら画像に出て来た五人。あの時ナンパして来た五人と一緒だわ。
……アイドルって職業してるのにナンパってってどうなのよ。
そう言えばこの人達面談受けなかったな。成程。前の社長に縁がある人達って訳ね。
縁舞、サインで検索したら文字が出て来ないかな?
検索したら結構な数が出て来て。
リーダーであるカンって人の文字が恐ろしいほど下手くそで、しかもあの紙の文字にそっくりだった。
「……もう確定なんじゃない?」
「だな。現場を取り押さえた方が早そうだから暫く泳がせとくか」
「そうしよっかー」
「って所で今日はもう送るからな」
「うん。透馬お兄ちゃん、ご飯食べてく?作るよ?」
「あー、寄りたい所だけど、鴇とちょっと約束あるんだよな」
「そうなの?じゃあ鴇お兄ちゃん、ご飯いらないのかな?」
「連絡して聞いてみたらどうだ?」
「ふみ。そうする」
なんていつも通りに過ごした、翌日の朝。
事件は起こった。
念の為にと、海里くん達の寮へと寄ったんだけど。
「……陸っ!!」
「大丈夫だ。ちゃんと生きてる。けど念の為に検査に連れて行く」
大地お兄ちゃんが陸実くんを姫抱っこして私の横を駆け抜けて行った。
「え?ちょ、何事なのっ!?」
慌てて私が取り残された海里くんと空良くんに駆け寄ると、足下が水浸しになっている事に気付いた。
「海里くん。一体何が」
「陸がガムテープにグルグル巻きにされて、密封されたお風呂場に水出しっぱなしの状態で監禁されてたんだ」
「………は?」
何それ、何それっ!?
それって普通に犯罪じゃないっ!!
「丑而摩先生が助けてくれたから、何とかなったけど…もしあのまま誰の助けも入らなければ、陸は…」
「…………死んでた」
空良くんが呟いた瞬間、バチンッと彼の頬が叩かれた。
「空。言って良い事と悪い事、それに言葉にはタイミングってあるんだからっ。今、それは言ったら絶対ダメな奴っ」
「……………ごめん」
「……ボクも叩いてごめん」
ホント、良い子に育って…。
あれ?おかしいな、涙が出そうだわ。年とった証、拠……いや、気のせい。これは気のせいよっ。
「一先ず二人とも。陸実くんの事は大地お兄ちゃんに、この部屋の処理は私に任せて風邪引く前に着替えてきなさい」
「は、…い?」
「?、海里くん?どうかしたの?」
「……アイツっ!!」
「ふみっ!?海里くんっ!?」
突然走りだして、何処行くのーっ!?
「姫さんっ、待たせたなっ、大丈夫なんかっ?」
「奏輔お兄ちゃんっ!ナイスタイミングっ!この部屋の処理と、空良くんの事お願いっ!!待って、海里くんっ!!」
空良くんを奏輔お兄ちゃんに任せて、私は慌てて海里くんを追い掛けた。
アイツって言ってたからきっと誰か見つけたんだと思う。
海里くんはそんなに手が早い方ではないと思うんだけど、さっきの空良くんを叩いている所を見ると何時もの海里くんには当てはまらないかもしれないから。
全速力で追い掛けると、どうやら寮の屋上に向かったっぽかった。
階段ダッシュきつーいっ!
でも頑張るーっ!!ふみーっ!!
屋上のドア手前。
ドアが開いてるけど、私は勢いよく飛びこめなくて。一先ず息を整えようとゼハゼハしていると。
「何でボクの顔を見て逃げたんですかっ?」
海里くんの怒鳴り声にビクリと肩が跳ねた。
正直こんな風に海里くんが怒るのを見た事がない。
「貴方がやったんですかっ?カンさんっ!」
ふみぃ?
カンって昨日調べたアイドルグループ縁舞のリーダーだよね?
今は踏み込まずに話を聞いていた方がいいかもしれない。
ドアの影にコソコソと入り聞き耳を立てた。
「陸を、殺すつもりだったんですかっ!?」
「……あーあー…うるせぇなぁ。ガキが。キーキーと」
「なっ!?」
「おーれーはー。たまたまあそこを通りかかっただけ。そんだけで犯人扱いか?あ?ガキが」
…ガキってあれ?縁舞のリーダーって何歳だっけ?
「っとによ。白鳥美鈴とかいうあの女も偉そうにしやがって」
あらま。それはごめんなさいね。偉そうにしたつもりもないんだけどね。
しかもそんな女をナンパしたのはアンタでは?
「鈴先輩を馬鹿にするな。あの人のこと、何も知らない癖にっ」
「はぁん?成程なぁ。ガキがいっちょ前に恋愛、いや、恋愛ごっこか?あの手の女は遊び慣れてるに決まってるだろうが。やめちまえやめちまえ。傷つく前にな」
…あら?この人…?
今のセリフに少し違和感を覚えて私は首を傾げる。
そう言えば、あの紙の三行目に書かれていたのって何だったっけ?
確か、調子こくなとか生意気とかそんなだったよね?
あれ?足音が聞こえる。
あ、あの紫髪は…。
私の視線に気付いた透馬お兄ちゃんが階段下から私の名前を呼ぼうとするのを、唇に人差し指を当てて、シーッと言うと、直ぐに頷いて気配を消して私の横に来てくれた。
「(海里か?)」
耳元でささやかれて私は声ではなく頷く事で肯定を返す。
「先輩は、そんな人じゃないっ!」
「そーかよ。……所でお前、いいのか?そろそろ時間が来るんじゃねぇの?」
「今はそんな事よりっ」
「ほぉ~?メンバーが大変な時にお前は仕事を放棄してここで遊んでるってか?」
「そ、れはっ…くっ。後でまた絶対に問い質しに来るっ!絶対に逃がさないからなっ!!」
そう叫んで海里くんはドアの影に隠れている私達に気付く事なく駆け抜けて行った。
「で、いつまでそこで隠れてるつもりだ?」
やっぱりバレてるかー。
私がドアの影から出ようとしたのだけど、透馬お兄ちゃんがそれを止めて私の代わりにドアの影から出た。
「あ?誰だ?お前」
「さっきの若人のマネージャーだよ」
「マネ?あぁー、そういやそんなのいたなぁ。で?そのマネが何の用だ?」
「いや?うちのガキ達が世話になったみたいだったからな。ただの礼に来たんだよ」
「ははっ。違う意味の礼っぽそうだな」
「誰がお前にそんな事するかよ、めんどくせぇ」
……んー?
ちょっと待ってー?
透馬お兄ちゃんの口調がちょっと違うんだけどー?
「お前、急になんだよ、その口調」
「あ?まだ解ってねぇのかよ。相変わらず鈍いな、カンちゃん?」
「あ?……あぁっ!?お前まさかトマかっ!?」
あーれー?
もしかして二人知り合い説?
「おうよ。そのトマだ。ってか直ぐに気付けよ、馬鹿」
「あぁ?気付く訳ねーだろ。会ったのいつ振りだとおもってんだ」
「確か最後に会ったのが、小6の時か?」
「そんな前だったか?だったら尚更わかんねーわ。で、何?お前、ここで何してんの?」
「さっきも言っただろうが。アイツのマネージャーだよ」
「あー?お前シルバーアクセの職人になりたかったんじゃねーのかよ?」
「ちゃんとそれもやってるぜ?お前だってつけてるじゃねーか。俺が作った指輪」
「は?はああああっ!?マジでっ!?これお前が作ったのかっ!?」
………何かとっても仲良しなんだけど…?
取りあえず、縁舞のリーダーは透馬お兄ちゃんと仲良し、と。
「はー、すげぇな。お前は相変わらず。ななみんも相変わらずか?」
「お前、その呼び方。アイツも一応もう人妻だからな。本人目の前で言うなよ?」
「人妻ぁーっ?誰だよ、あんな豪傑と結婚出来る男って。ハハッ、不死身な奴じゃねぇと無理だろっ」
「安心しろ。不死身の奴と結婚したから」
「マジかよ」
とってもとっても仲良しなんだけど。
これ私いつ出て行ったら良いのかしら?
遠い目をして待機しています。
「はぁー、色々と変わってんなぁ。時代って奴か?」
「おっさんくせぇ事言ってんなよ。お前一応アイドルなんだろうが」
「あれなー。事務所の爺の方針だっつーから我慢してアイドルやってっけど。年齢的に限界だと思うんだよな」
「お前、40過ぎてる癖に童顔で見た目20代って言う完全な詐欺師だからな」
「うるせーよ。俺は芝居がしたかっただけだっつーのに」
あらま、そうなの?
じゃあ、そっちにシフトしましょうか?
「もしかして、芝居の仕事が舞い込んでる海里に嫉妬して喧嘩してたのか?」
「ちげぇっての。あの猿がキーキーと突っかかって来たんだよ。俺は本当にあの現場の前を偶然通りかかっただけ」
「ほぉ?んじゃ、なんでお前の服、濡れてんだ?」
ピタッとカンちゃん?さん?の声が止まった。
「あの場所の前にいたら嫌でも濡れるだろーが」
「まぁ濡れるよな。足なら、な。お前が濡れてるのは腕と胸だ。何でだ?」
「………チッ。お前、ほんっと質悪ぃな」
「褒め言葉として受け取っとく。んで?犯人は誰だ?」
一瞬の間。
深いため息が聞こえて、一拍置いた後また声が届いた。
「……俺がぶつかったのは、デカいフード付きのパーカーとマスクにサングラス付けた俺より少し小柄な奴。それしか知らねぇよ」
デカいフード付きのパーカーを着ているマスクとサングラス装備の人。
「そいつとどこでぶつかったんだ?」
「俺の部屋のベランダだ」
「因みにお前の部屋は?」
「水が溢れてた階の二階上の部屋だ。俺がベランダで一服してたら急に飛び込んできやがった。明らかに不審者だったから捕らえようとしたんだがな。逃げられた」
「そうか。犯人がナイフとか持ってなくて良かったな」
「お前、こえーこと言うなよ」
「仕方ねぇだろ。お前が言い争ってたガキの兄弟がそいつに殺されかけたんだから」
「さっきのガキも似たような事言ってたな。お前が殺そうとしたのか、って。どう言う意味だ?」
「詳しく説明するとだな…」
透馬お兄ちゃんが状況をかいつまんで彼に説明した。結果。
「ありえねぇだろっ。人を殺そうとする奴が同じ事務所にいるってのかっ?」
「いるな。間違いなく」
「兄弟を殺されそうになったらキレる意味も解る。言っとくが俺は本当に関与してねぇぞ。芝居やりたくてここにいるのに、自分からその環境を捨てる訳ねぇだろ」
「解ってる。悪ぶってるのに意外と正義感が強いのがお前だからな」
「うるせー。俺はな、トマ。前の社長があれな人物でも感謝してるんだ。あの社長が俺をスカウトしてくれて、様々な事をやらされたけど、だからこそ今の俺がある」
「ふぅん?それで?お前はその社長を庇う、と?」
「いや。そうは言わねえ。あの人がやってたのは犯罪だった。けどなぁ。恩人と犯罪ってのは同じ土俵に立てるもんじゃねぇってのも理解してる。前の社長に義理立てしてたが、お前の話を聞くと、お前もお前のダチも、あのガキ共や現社長が信用しているその白鳥美鈴って女を信じてみるべきかって思っちまうな」
「姫は、良い女だぜ?」
透馬お兄ちゃん…。
嬉しくて顔が火照る。
「姫。出て来て良いぞ」
ふみっ!?
「姫?トマ、お前誰の事呼んでんだ?」
この状況で出て行かない訳にもいかないじゃない。
真っ赤な顔のまま私はドアの影から出て、屋上に入った。
煙草をふかしている童顔の男性と透馬お兄ちゃんが私を見て笑っている。
「透馬お兄ちゃん。タイミング的に最悪の呼び出しなんだけど」
じとーっと顔を手で隠しつつ指の隙間から透馬お兄ちゃんを睨む。
「今までの話全部聞いてただろ?どう思う?」
透馬お兄ちゃんが苦笑いしつつ私に言う。
はぁー…。一回落ち着こう。…うん。良し。
顔から手を外して。
「まぁ、明らかにカンさんにぶつかった人が犯人で、カンさんに罪をなすりつけようとしたんだろうなって感じですよね」
「やっぱりそうなるよな」
「それにこの件に関しては前社長は関係なさそうですね。…と言うよりも、前社長の罪にあやかろうとしてる誰かがいる気がします。だから、多分カンさん達みたいに私と面談しなかった前社長派の人間に罪を着せようとしている」
ってのが私の考えかな?
まぁ、ぶっちゃけその誰かってのはさーっぱり解らないんですけどね。
うんうんと頷いていると、何故かカンさんは口をぽーっかりあけて私を見ていた。
えっと…これは一体どんな反応なんで?
「おい、トマ」
「あ?なんだよ」
「白鳥美鈴、か?これ」
吸いかけの煙草で私を指して言うので、私はにっこりと笑って頷き。
「はい。これが白鳥美鈴ですよっ」
と明るく言うと、何故か更にまじまじと顔を覗かれた。
距離を詰めて来ないだけ優しい。けど怖いから一歩下がる。
「マジか。滅茶苦茶可愛いじゃねぇか」
「姫だからなっ」
「意味わからねぇ自慢してんじゃねぇよ」
「確かにっ!」
その通りと頷くと、カンさんはまたキョトンとして。そこから黄髪を揺らして笑った。おお、高校生と言われても納得出来るファニーフェイス。これで40代…詐欺だ。
「面白ぇーな、アンタ。なんだよ、こんなノリが良いならさっさと面談受けりゃ良かったぜ」
「いつでも受け付けますよ」
ニコニコ笑って言うと、カンさんは豪快に笑った。ギャップが凄い。
「トマが気にいるのも解るぜ。決めたっ。トマ。俺も犯人探し協力してやるよ」
「あ?いきなりなんだ?」
「あの海里ってガキを俺が見張っててやるよ」
「そりゃ助かるが、良いのか?」
「おう。その間にお前は犯人を探し出したらいい」
本当顔に似合わず豪胆な人らしい。
私と透馬お兄ちゃんは自然と顔を向かい合わせて苦笑していた。
「じゃあ協力を頼むか」
「だね。宜しくお願いします。改めて、白鳥財閥総帥白鳥美鈴です」
「縁舞のカンだ。本名は天川環(てんかわかん)。そいつの従兄だ」
「従兄だったんですね。納得です」
手が差し出された。
握手…。うん、頑張るっ。
私もそっと出された手に触れ、握り返した。

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