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最終章 数多の未来への選択編
御曹司編おまけ小話 コンツェルン跡取りの夢
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「いや、あのね。美鈴ちゃん」
「ふみ?」
「僕、これでももう二十歳を過ぎた男なんだよ」
「うん」
「だからね?これはもう無理だと思うんだ」
「奏輔お兄ちゃんも出来たから大丈夫だよっ!グッ!」
「いや、グッ!じゃなくて…」
どうして、今更女装をしなければならないんだ…。
僕はがっくりと肩を落とした。
いや、これから立食パーティだってのは解ってる。
そして、僕も美鈴ちゃんもそれぞれ違う立食パーティに出なくてはならない。
それも理解している。
更に言えば、僕の立食パーティは参加者が皆女性。逆に美鈴ちゃんが出なければならない立食パーティは参加者が全て男性なのだ。
正直今の僕達にはきつい。
一応全て理解している。
だからどうにかして、互いの出るパーティを交換できないだろうか?
と考えた結果。
じゃあ、女装、男装すれば良いんじゃん?
と美鈴ちゃんが出した突拍子もない案に、何故か誰も反対をせず…。
今に至る…。
「……美鈴ちゃん、本気?」
「本気っ!」
「最初から、手紙か何かで双方不都合の為参加出来ませんが変わりに相方を参加させます、で良くない?」
「良くない。場の会話と雰囲気を知る事が大事なの」
「視線が違うと知りたい内容も変わるのでは…?」
「良しっ、優兎の髪型完成っ!バッチリ美少女っ!」
「嬉しくないよ…。でも、美鈴ちゃんはカッコいいよ」
「ありがとうっ!」
胸を張る美鈴ちゃんが可愛いと思う時点で僕はもう末期なんだろうな…。
仕方なく美鈴ちゃんの案に乗り、僕達は各々パーティ会場へと向かった。
相手は男。
女装なんて中学時代に培われた能力で何の問題もない。
パーティでは男達にやたらとちやほやされて終わった。
あいつら何しに来てるんだろ。
大事な商談の一つもせずに。…まぁ、僕の目から見たら取引できそうなのは三社くらいかな?
帰りの車の中で僕はタブレットで手早く今日の結果を書きとめて、スマホで美鈴ちゃんに連絡をする。
するとあっちも似たようなもんだったらしい。
しかも結果はこっちよりも悪い。
車を回して貰い美鈴ちゃんを迎えに行くと、僕の隣に乗りこんだ美鈴ちゃんはぐったりとしていた。
「すんごい貪欲な女子しかいなかったんだけど…交換して正解だったね、優兎」
「美鈴ちゃん。口紅の痕だらけだよ」
「うん。めっちゃチューされた。本当にあの子ら一体何しに来てんのよ」
ぐて~…と美鈴ちゃんは体を後部座席に沈めた。
「当たりはいた?」
「………んー…一人だけ、いたかな。でも、周りに流されてるようだったから、まだ断定はしない」
「そっか。分かった」
「さて、ホテルに帰って、今度は挨拶回りかな?一旦着替えようか、優兎」
「うん。ドレスはどうする?僕の今回のネクタイとチーフはこの色にしようと思うんだけど」
「その色ね?解った。だとしたら…」
次の予定に合わせて打ち合わせをする。
美鈴ちゃんとコンツェルンの立て直しをし始めて結構な月日が経ったけれど。
僕達の関係性はあれからちっとも変化が無い。
勿論、僕も美鈴ちゃんも相手を想って、その距離を保っているってのもあるんだけど。
正直、僕は…何もないのが少し、寂しい…。
僕達は互いに一歩を踏み出すのは、辛いししんどい。
でも…だからこそ、そろそろその一歩を踏み出す勇気を持ちたい。
ホテルに帰りついて、僕達はそれぞれ自分の部屋に戻り着替える。
そして部屋を出て美鈴ちゃんを待っていると、美鈴ちゃんは綺麗なドレスに着替えて僕の顔を見て止まり、そして笑った。
え?何で?どこかおかしい?
首を傾げると、美鈴ちゃんはゆっくりと鞄から何かを取りだしてそれを唇に触れさせた。
驚いて動きを止める。
だけど直ぐに意味が解って、今度は顔を赤くした。
「ちょ、ちょっと待っててっ。僕、化粧落として無かったよねっ!?」
「うん。顔だけとても綺麗なままだよ。はい、化粧落とし」
「ありがとうっ!」
慌てて部屋に戻り洗面台の前に立って急いで化粧を落とした。
髪をもう一度整え直して、今度こそ外に出る。
「これで、大丈夫かなっ?」
「うん。オッケー。優兎は変な所で抜けてるよね」
くすくす可愛く笑う美鈴ちゃん。
僕としてはちょっと情けない気分である。
勇気を出す所か、むしろ慰められてるとか…。
…くよくよしてても駄目だ。
これからFIコンツェルンの為の挨拶回りなんだから。切り替えて行かないと。
美鈴ちゃんと二人、会場へ。
挨拶は恙なく終了し、僕達は再びホテルへと帰って来た。
何時もは部屋に入って即解散。
何だけど…今日は、勇気を出すって決めていた。
「美鈴ちゃん。その…」
「なぁに?優兎」
「その、…今日は同じ部屋で寝ない?」
「え?」
「僕は美鈴ちゃんが好き。だけど、やましい事は一切しないから…だから一緒に寝ない?」
「いいよ?」
ドキドキと緊張MAXでかけた言葉に、途轍もなくあっさりとした返事が美鈴ちゃんから返って来て正直拍子抜けした。
「優兎とならいいよ?」
「ほ、本当に?」
「うん」
揺るぎなく頷く美鈴ちゃんの表情は少し赤くなっていて。
意味が分かった上で頷いてくれているって事が僕にも伝わって、僕も顔に熱が灯る。
「じゃあ、準備だけしてくるね」
「う、うん。じゃあ、僕の部屋の鍵渡しておくね」
僕は部屋の鍵を開けてから、鍵を美鈴ちゃんに渡した。
それを受け取って美鈴ちゃんが一旦自室へと消える。
見送ってから部屋に入って、バクバクとなる心臓を抑える為にもシャワールームへ飛び込んだ。
気を落ち着けてから、美鈴ちゃんにやましい事はしないと言ったんだからとしっかりパジャマに着替える。
一緒のベッドで二人だけで寝た事はないけれど、一緒に暮らしていた訳だから美鈴ちゃんのパジャマ姿だって見慣れてる。
うん、イケるっ!
荷物を片付けて、ついでに明日の予定と今日の残務処理をする。
すると、ガチャッと鍵が開く音が聞こえて美鈴ちゃんが入って来た。
「お待、たせ、優兎」
「あ、あ、うんっ」
おかしいな。
あんなに見慣れていた筈なのに、一気に心臓がバクバクと…。
美鈴ちゃん、可愛い過ぎる。
もこもこのパーカーに同じもこもこのショートパンツ。普通は、普通はルームソックスとか履いてるものなんだろうけど、美鈴ちゃん素足っ!
視線のやり場に困る…と、僕は視線を逸らしかけて、その間に美鈴ちゃんの顔が見えて逸らすのを止めた。
「美鈴ちゃん?」
さっき別れた時と違って今にも泣きそうな顔をしている。
「どうしたの?何があったの?」
慌てて駆け寄って美鈴ちゃんの手を握る。
「……優兎。…報告が、入ったよ」
「報告?一体何の…?」
美鈴ちゃんはポケットから四つ折りの紙を取りだして、僕へと差し出した。
意味が解らずとも、きっとその紙に意味が書かれているんだと理解している僕は直ぐにその紙を受け取り開いて、動きを止めた。
「………死亡、を、確認…?」
「鴇お兄ちゃん、殺された、って…」
「そ、んな、まさか…だって、あの鴇兄だよっ!?」
死ぬ訳ないっ!
美鈴ちゃんを残して鴇兄が死ぬ訳がないっ!
「でも、でもっ!この報告書は、…金山さんがっ…」
「金山さんが、確認してくれたの?」
こくりと震えながらも美鈴ちゃんは頷いた。
金山さんの情報が間違っていた事なんて、ほぼ聞いたことがない…。
じゃあ、本当に…本当で…。
「こ、れ…。私宛と優兎宛の、手紙。金山さんが鴇兄の部屋に置いてあったって…」
「美鈴ちゃん宛のはもう読んだの?」
こくりとまた頷く。
僕は急いで受け取った手紙を開けた。
そこには一言。
『優兎。美鈴は、任せた』
とただ、それだけで。
鴇兄が僕に美鈴ちゃんを任せたって、葵兄や棗兄もいたのに、僕に美鈴ちゃんを…。
美鈴ちゃんへの僕の気持ちに気付いていて。
自分が死んでしまうであろう事も鴇兄は解っていて…鴇兄は僕に美鈴ちゃんを任せてくれたの?
視界が歪む。
ボロボロと涙が溢れた。
「……っ、ふっ……、しんじ、たく、ないっ…。みすず、ちゃんっ、しんじたく、ないよっ…」
「わ、たしも…っ。こん、な、ひとことだけ、のこして、いなくなるなんて、そんなの、ないよっ…ふ、ぅっ」
美鈴ちゃんが僕に抱き付いてきて。
それを僕も受け止めて。でも受け止めキレなくて。
一緒に床に崩れた。
こんな、こんな事って。
僕と美鈴ちゃんはただただ泣いた。泣き続けた。
涙は止まらなかった。
だけど…僕達は泣いてだけはいられない。
そんな立場にいるのだから。
二人で何とか立ち上がって。
最初の予定通りベッドで二人で寝る事にした。
ぎゅっときつく抱きしめ合って。
「……美鈴ちゃんには、鴇兄、は、なんて?」
「…幸せに、なれ、ってただ、それだけ」
「そっか…」
「優兎、には?」
「…美鈴ちゃんを任せた、って」
零れる涙と嗚咽。
辛い…。辛くて堪らない。
「どうして、鴇兄が、死ななきゃいけなかったんだろう…?」
「優兎…?」
「だって、意味が解らない。納得が出来ない…」
「優兎…。うん、私も…」
「……僕達はまだFIコンツェルンの立て直しの最中で、力もまだまだ足りない。だけど…」
僕の言いたい事を理解したのか、美鈴ちゃんは手の甲で目を擦って涙を拭い、僕の目を真っ直ぐ見て頷いた。
「探そう。鴇兄が殺された理由も、鴇兄を殺した奴も」
「うん。優兎」
「…頑張ろう、美鈴ちゃん」
ぎゅっと僕は美鈴ちゃんを抱きしめた。
すると美鈴ちゃんも僕を抱きしめ返してくれて。
「……ねぇ、優兎」
「なに?美鈴ちゃん」
「私のこと、美鈴って呼んで」
「え?」
「私の為にとかで私を置いて行かないで。嫌なの。私はそんな事望んでないのに」
「……」
「側にいるって、約束の意味も込めて、呼んで。美鈴って。お願い…お願いだから…」
「分かった。―――ずっと側にいるよ。約束する。絶対に美鈴より先には死なないから」
「うん…うん。優兎。約束だからね」
「うん。約束。絶対に守るよ」
美鈴の髪を撫でて僕も、そして美鈴も互いに心を落ち着かせていく。
そして、ゆっくりと眠りに落ちた。
今だけは、夢も何も見ずに眠れますようにと、二人で祈る様に抱き合いながら…
「ふみ?」
「僕、これでももう二十歳を過ぎた男なんだよ」
「うん」
「だからね?これはもう無理だと思うんだ」
「奏輔お兄ちゃんも出来たから大丈夫だよっ!グッ!」
「いや、グッ!じゃなくて…」
どうして、今更女装をしなければならないんだ…。
僕はがっくりと肩を落とした。
いや、これから立食パーティだってのは解ってる。
そして、僕も美鈴ちゃんもそれぞれ違う立食パーティに出なくてはならない。
それも理解している。
更に言えば、僕の立食パーティは参加者が皆女性。逆に美鈴ちゃんが出なければならない立食パーティは参加者が全て男性なのだ。
正直今の僕達にはきつい。
一応全て理解している。
だからどうにかして、互いの出るパーティを交換できないだろうか?
と考えた結果。
じゃあ、女装、男装すれば良いんじゃん?
と美鈴ちゃんが出した突拍子もない案に、何故か誰も反対をせず…。
今に至る…。
「……美鈴ちゃん、本気?」
「本気っ!」
「最初から、手紙か何かで双方不都合の為参加出来ませんが変わりに相方を参加させます、で良くない?」
「良くない。場の会話と雰囲気を知る事が大事なの」
「視線が違うと知りたい内容も変わるのでは…?」
「良しっ、優兎の髪型完成っ!バッチリ美少女っ!」
「嬉しくないよ…。でも、美鈴ちゃんはカッコいいよ」
「ありがとうっ!」
胸を張る美鈴ちゃんが可愛いと思う時点で僕はもう末期なんだろうな…。
仕方なく美鈴ちゃんの案に乗り、僕達は各々パーティ会場へと向かった。
相手は男。
女装なんて中学時代に培われた能力で何の問題もない。
パーティでは男達にやたらとちやほやされて終わった。
あいつら何しに来てるんだろ。
大事な商談の一つもせずに。…まぁ、僕の目から見たら取引できそうなのは三社くらいかな?
帰りの車の中で僕はタブレットで手早く今日の結果を書きとめて、スマホで美鈴ちゃんに連絡をする。
するとあっちも似たようなもんだったらしい。
しかも結果はこっちよりも悪い。
車を回して貰い美鈴ちゃんを迎えに行くと、僕の隣に乗りこんだ美鈴ちゃんはぐったりとしていた。
「すんごい貪欲な女子しかいなかったんだけど…交換して正解だったね、優兎」
「美鈴ちゃん。口紅の痕だらけだよ」
「うん。めっちゃチューされた。本当にあの子ら一体何しに来てんのよ」
ぐて~…と美鈴ちゃんは体を後部座席に沈めた。
「当たりはいた?」
「………んー…一人だけ、いたかな。でも、周りに流されてるようだったから、まだ断定はしない」
「そっか。分かった」
「さて、ホテルに帰って、今度は挨拶回りかな?一旦着替えようか、優兎」
「うん。ドレスはどうする?僕の今回のネクタイとチーフはこの色にしようと思うんだけど」
「その色ね?解った。だとしたら…」
次の予定に合わせて打ち合わせをする。
美鈴ちゃんとコンツェルンの立て直しをし始めて結構な月日が経ったけれど。
僕達の関係性はあれからちっとも変化が無い。
勿論、僕も美鈴ちゃんも相手を想って、その距離を保っているってのもあるんだけど。
正直、僕は…何もないのが少し、寂しい…。
僕達は互いに一歩を踏み出すのは、辛いししんどい。
でも…だからこそ、そろそろその一歩を踏み出す勇気を持ちたい。
ホテルに帰りついて、僕達はそれぞれ自分の部屋に戻り着替える。
そして部屋を出て美鈴ちゃんを待っていると、美鈴ちゃんは綺麗なドレスに着替えて僕の顔を見て止まり、そして笑った。
え?何で?どこかおかしい?
首を傾げると、美鈴ちゃんはゆっくりと鞄から何かを取りだしてそれを唇に触れさせた。
驚いて動きを止める。
だけど直ぐに意味が解って、今度は顔を赤くした。
「ちょ、ちょっと待っててっ。僕、化粧落として無かったよねっ!?」
「うん。顔だけとても綺麗なままだよ。はい、化粧落とし」
「ありがとうっ!」
慌てて部屋に戻り洗面台の前に立って急いで化粧を落とした。
髪をもう一度整え直して、今度こそ外に出る。
「これで、大丈夫かなっ?」
「うん。オッケー。優兎は変な所で抜けてるよね」
くすくす可愛く笑う美鈴ちゃん。
僕としてはちょっと情けない気分である。
勇気を出す所か、むしろ慰められてるとか…。
…くよくよしてても駄目だ。
これからFIコンツェルンの為の挨拶回りなんだから。切り替えて行かないと。
美鈴ちゃんと二人、会場へ。
挨拶は恙なく終了し、僕達は再びホテルへと帰って来た。
何時もは部屋に入って即解散。
何だけど…今日は、勇気を出すって決めていた。
「美鈴ちゃん。その…」
「なぁに?優兎」
「その、…今日は同じ部屋で寝ない?」
「え?」
「僕は美鈴ちゃんが好き。だけど、やましい事は一切しないから…だから一緒に寝ない?」
「いいよ?」
ドキドキと緊張MAXでかけた言葉に、途轍もなくあっさりとした返事が美鈴ちゃんから返って来て正直拍子抜けした。
「優兎とならいいよ?」
「ほ、本当に?」
「うん」
揺るぎなく頷く美鈴ちゃんの表情は少し赤くなっていて。
意味が分かった上で頷いてくれているって事が僕にも伝わって、僕も顔に熱が灯る。
「じゃあ、準備だけしてくるね」
「う、うん。じゃあ、僕の部屋の鍵渡しておくね」
僕は部屋の鍵を開けてから、鍵を美鈴ちゃんに渡した。
それを受け取って美鈴ちゃんが一旦自室へと消える。
見送ってから部屋に入って、バクバクとなる心臓を抑える為にもシャワールームへ飛び込んだ。
気を落ち着けてから、美鈴ちゃんにやましい事はしないと言ったんだからとしっかりパジャマに着替える。
一緒のベッドで二人だけで寝た事はないけれど、一緒に暮らしていた訳だから美鈴ちゃんのパジャマ姿だって見慣れてる。
うん、イケるっ!
荷物を片付けて、ついでに明日の予定と今日の残務処理をする。
すると、ガチャッと鍵が開く音が聞こえて美鈴ちゃんが入って来た。
「お待、たせ、優兎」
「あ、あ、うんっ」
おかしいな。
あんなに見慣れていた筈なのに、一気に心臓がバクバクと…。
美鈴ちゃん、可愛い過ぎる。
もこもこのパーカーに同じもこもこのショートパンツ。普通は、普通はルームソックスとか履いてるものなんだろうけど、美鈴ちゃん素足っ!
視線のやり場に困る…と、僕は視線を逸らしかけて、その間に美鈴ちゃんの顔が見えて逸らすのを止めた。
「美鈴ちゃん?」
さっき別れた時と違って今にも泣きそうな顔をしている。
「どうしたの?何があったの?」
慌てて駆け寄って美鈴ちゃんの手を握る。
「……優兎。…報告が、入ったよ」
「報告?一体何の…?」
美鈴ちゃんはポケットから四つ折りの紙を取りだして、僕へと差し出した。
意味が解らずとも、きっとその紙に意味が書かれているんだと理解している僕は直ぐにその紙を受け取り開いて、動きを止めた。
「………死亡、を、確認…?」
「鴇お兄ちゃん、殺された、って…」
「そ、んな、まさか…だって、あの鴇兄だよっ!?」
死ぬ訳ないっ!
美鈴ちゃんを残して鴇兄が死ぬ訳がないっ!
「でも、でもっ!この報告書は、…金山さんがっ…」
「金山さんが、確認してくれたの?」
こくりと震えながらも美鈴ちゃんは頷いた。
金山さんの情報が間違っていた事なんて、ほぼ聞いたことがない…。
じゃあ、本当に…本当で…。
「こ、れ…。私宛と優兎宛の、手紙。金山さんが鴇兄の部屋に置いてあったって…」
「美鈴ちゃん宛のはもう読んだの?」
こくりとまた頷く。
僕は急いで受け取った手紙を開けた。
そこには一言。
『優兎。美鈴は、任せた』
とただ、それだけで。
鴇兄が僕に美鈴ちゃんを任せたって、葵兄や棗兄もいたのに、僕に美鈴ちゃんを…。
美鈴ちゃんへの僕の気持ちに気付いていて。
自分が死んでしまうであろう事も鴇兄は解っていて…鴇兄は僕に美鈴ちゃんを任せてくれたの?
視界が歪む。
ボロボロと涙が溢れた。
「……っ、ふっ……、しんじ、たく、ないっ…。みすず、ちゃんっ、しんじたく、ないよっ…」
「わ、たしも…っ。こん、な、ひとことだけ、のこして、いなくなるなんて、そんなの、ないよっ…ふ、ぅっ」
美鈴ちゃんが僕に抱き付いてきて。
それを僕も受け止めて。でも受け止めキレなくて。
一緒に床に崩れた。
こんな、こんな事って。
僕と美鈴ちゃんはただただ泣いた。泣き続けた。
涙は止まらなかった。
だけど…僕達は泣いてだけはいられない。
そんな立場にいるのだから。
二人で何とか立ち上がって。
最初の予定通りベッドで二人で寝る事にした。
ぎゅっときつく抱きしめ合って。
「……美鈴ちゃんには、鴇兄、は、なんて?」
「…幸せに、なれ、ってただ、それだけ」
「そっか…」
「優兎、には?」
「…美鈴ちゃんを任せた、って」
零れる涙と嗚咽。
辛い…。辛くて堪らない。
「どうして、鴇兄が、死ななきゃいけなかったんだろう…?」
「優兎…?」
「だって、意味が解らない。納得が出来ない…」
「優兎…。うん、私も…」
「……僕達はまだFIコンツェルンの立て直しの最中で、力もまだまだ足りない。だけど…」
僕の言いたい事を理解したのか、美鈴ちゃんは手の甲で目を擦って涙を拭い、僕の目を真っ直ぐ見て頷いた。
「探そう。鴇兄が殺された理由も、鴇兄を殺した奴も」
「うん。優兎」
「…頑張ろう、美鈴ちゃん」
ぎゅっと僕は美鈴ちゃんを抱きしめた。
すると美鈴ちゃんも僕を抱きしめ返してくれて。
「……ねぇ、優兎」
「なに?美鈴ちゃん」
「私のこと、美鈴って呼んで」
「え?」
「私の為にとかで私を置いて行かないで。嫌なの。私はそんな事望んでないのに」
「……」
「側にいるって、約束の意味も込めて、呼んで。美鈴って。お願い…お願いだから…」
「分かった。―――ずっと側にいるよ。約束する。絶対に美鈴より先には死なないから」
「うん…うん。優兎。約束だからね」
「うん。約束。絶対に守るよ」
美鈴の髪を撫でて僕も、そして美鈴も互いに心を落ち着かせていく。
そして、ゆっくりと眠りに落ちた。
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