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最終章 数多の未来への選択編

※※※

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これが、右上で…このピースが最後の一つ、と。
よしっ、出来たっ。
これは一体何の写真だろう?
んー?多分この真ん中に、ベッドの真ん中にいるのが優兎くんだよね?
私と初めて会った時よりは幼いかも。
ベッドで眠ってる優兎くんの姿を見るとそう思う。
優兎くんの側に女性が手を握って眠ってる。この人って優兎くんのお母様だよね?
守る様に寝てる…抱きしめてる。

パズルが光る。
そうして私はまた光に飲みこまれて行った。

ガシャンッ!!
突然の何かが壊れる音に、私は目を開く。
二回目の経験だからか、現状の把握は速かった。
前回のアルバイトの姿ではないみたいだけど…私は一体誰になったの?
いや、それよりも速く、音のした方に行かなきゃっ。
場所は前と一緒。優兎くんが両親と暮らしていた頃の家だ。
だとしたら場所はちゃんと把握済み。
走って、音がした部屋に飛び込むと、そこには優兎くんを庇うように抱き締めている優兎くんのお母様と拳を握り胸を張って威圧している優兎くんの父親(屑)がいた。
優兎くんのお母様の顔には殴られた青痣がいくつもあった。
顔にこれだけの痕が付いているのなら体は…。
優兎くんが怯えている。当然だよね。こんな暴力を振るう男が側にいたら怖いに決まっている。
「優兎を寄越せっ。そいつは私の息子だっ」
何でだろう?この言葉を真っ直ぐ受け止められないのは…。
息子と書いて駒と読む、みたいな?
「嫌ですっ!!優兎はお母様の下へ行かせますっ!お母様なら、ちゃんと上に立つ者として教育して下さいますっ!それに、私の家では代々女主が子供を教育すると決まっているのですっ!」
ん?そんな事美智恵さん言ってたっけ?
…いや、記憶にないな。って事は優兎くんのお母様が優兎を助ける為に言った嘘って事か。
「うるさいっ!先代が死んで、鬱陶しいお前の兄ももうすぐ死ぬっ!そうなればこのFIコンツェルンの頭首は私だっ!私の言う事に従えっ!」
わお。馬鹿じゃん?
大きな企業ほど世襲制なんて馬鹿な事はしないってのに。
優兎くんのお母様はキッと優兎くんの父親を睨みつけた。
それが気に食わなかったんだろう。
拳を振り上げて、
「奥様っ!」
私は思わず間に入って、その手を掴み思い切り背負い投げを決め込んだ。
「うぐあっ!?」
更に倒れた上から思い切りジャンプして踏みつけてやった。
鳩尾一発ふぁいおーっ!
泡拭いて倒れてくれたから、良しとする。
そんな私に驚いた二人。
動きを止めていたけれど、直ぐに我に返って駆け寄ってきた。
「ルナっ。大丈夫なのっ!?こんな無茶してっ!!」
今回の私はルナさんらしいよっ!?
ルナさんはこの二人とどう言う関係ですかーっ!?
私、さっき奥様って言っちゃったけど、間違ってるかもしれなーいっ。
「怪我はっ!?」
欠片もしてないので首を振る。
「もうっ、ルナがこうして一人で家に来るなんてっ。兄さんは自分の子をほったらかして何してるのっ!?」
兄さん?
あれ?もしかして、私、優兎くんの従姉に入ってるのかな?
「ルナおねえちゃん、ご、めんなさ、い…。ぼく、なにも、できなくて…」
優兎くんがお姉ちゃんって言ってるからその可能性は高そうだ。
『言ったでしょっ!優兎は私が守るってっ!』
胸を張って言ったその言葉は私の言葉じゃない。
恐らくルナさんが実際に優兎くんに言ったセリフなんだろう。
ルナさんは優兎くんの手を握って勝気に笑った。

―――情けなかった。

あ、優兎くんの声…。

―――本当は僕が皆を守りたかったのに。

…うん、そうだね。

―――僕はいつも守られてばかりで、……。

優兎くんの声が聞こえなくなった。
ルナさんが優兎くんの手を離したからだね。
とにかく今は優兎くんのお母様の手当てが先。
ここへ走ってくる時に念の為に頼んでおいたから家政婦さんが救急箱を持って来てくれた。
二人が家政婦さんに手当てされている最中に場面が歪み、一気に目の前の光景が切り替わった。
今度は一体どんな場面で?
何処かのお屋敷の一室?
私が向かい合ってるのは、誰?
一度も見た事のない男性だけど…。
それに窓の外は真っ暗…夜?
「…やはり優兎だけでも引き取った方が良いと思うんだが…」
『それじゃあ駄目よ、お父様っ。引き取った所で私達の家にはあの女がいるわっ』
私の口が勝手に動く。
と言う事はこれはルナさんの言葉って事だ。
そして、ルナさんがお父様と言うって事は彼は優兎くんの伯父って事になる。
言われてみたら美智恵さんと似ている。
「だが…」
『逃げるなら徹底的に逃げなければっ。美智恵お祖母様と叔母様、優兎、そして私とお父様。五人で逃げましょうっ!今なら間に合うわっ!』
「ルナ…」
『大丈夫っ。逃げる場所なら確保しているのっ』
「ルナ?逃げる場所って」
「ルナおねえちゃん」
この声は優兎くん?
伯父さんの声を遮る様に声をかけて部屋に入って来た優兎くん。
私の位置から優兎くんの姿が見える。見えるんだけど、目が…あの目を私は知ってる。
昔、美智恵さんにナイフを突き付けた時の、あの意思のない目だ。
『優兎、どうしたの?』
ルナさんが優しく問いかける。
でも、それじゃあ駄目。そんな声では、優しさを向けては優兎は目を覚まさない。
「ルナおねえちゃんは、どこかに、いっちゃうの?」
『え?どうして?どこにも行かないよ?私はずっと優兎の側にいるよ?』
「……嘘つき」
『え?』
「おとうさまがいってたんだ。ルナおねえちゃんは、ぼくたちかぞくをばらばらにしようとしてる、って」
『そんな訳ないじゃないっ!私はっ』
「うん。そうだよね。ルナおねえちゃんが、そんなことするわけない、よね?」
『そうよっ!だって私は優兎の事大好きだものっ!』
「でも、おとうさまは…」
『「アイツっ!!」』
思わず私も口に出してしまった。
あの男は碌な事しないね、ホントっ!!
「…そうだ。ためして、みよう…」
「優兎?」
ふらっと優兎が揺れた。
そして、いきなり駆け出したかと思うと、ドスッ…と鈍い音が耳についた。
「……ッ……?」
『お父様っ!?』
今度ふらついたのは優兎くんの伯父さんで。
そのお腹には赤い液体が…。
「…ぐっ」
口からも血が溢れる。
ルナさんが勢いよく立ち上がり駆け寄る。
『優兎っ!?なんでっ!?』
椅子から崩れる様に落ちた優兎くんの伯父さんを庇うようにルナさんは立った。
なんで、と問うたその口から次の言葉は出なかった。
「あ、ぅ…。あ、ああぁ…、ぼく、ぼくは、な、にを…なにを、なんで、おじさ、おじさん、おじさんっ」
泣きながら、自分の手を遠ざけるようにして、叫ぶ優兎くんの姿が映ったから。
そして、賢かったルナさんは察した。
優兎くんが操られていると。
ルナさんは優兎くんに駆け寄り抱きしめた。

―――来ないでっ!お願いだから来ないでっ!駄目なんだっ!ここでルナお姉ちゃんは僕に殺されちゃうんだっ!この時の僕はお父様に洗脳されていた。それでもそんなの言い訳にもならないっ!僕が、ルナお姉ちゃんを殺したんだっ!

『「そんな訳ないでしょ」』

―――え?

『「私(ルナさん)が優兎なんかに殺される訳がないでしょ」』

―――ルナお姉ちゃん?

『「良く、思い出してみなさい」』

抱き締めている優兎の瞳が大きく見開かれた。
ルナさんが笑う。
涙で濡れる優兎の頭をわしわしとかき混ぜて、ルナさんは優兎くんを担ぎ上げて走りだした。
「おねえ、ちゃんっ、おじさんがっ」
『後でっ!今は優兎を逃がす方が先っ!』
「だ、って、だってっ」
優兎くんを家の外に連れ出して、庭のシャワーで手を洗わせる。
「優兎っ、ルナっ」
『叔母様っ、お願い、優兎をっ』
そう言いながら、優兎くんを駆けつけた優兎くんのお母様に預け、ルナさんは建物の中に戻った。
きっとルナさんは知っていた。
操られた優兎くんが来ると言う事は、アイツがもう家の中にいるんだって事を。
家の中へ戻ると、倒れた自分の父の側で母と叔父が笑っていた。
一気に抑えていたルナさんの怒りが膨らんで爆発した。
父を刺したナイフを拾い、母親に向かってナイフを突き刺した。
「きゃああああああっ!!」
叫び声が聞こえるが、ルナさんの感情が動く事はなかった。
「は、ははおやを、さす、なんてっ!!」
『誰が母親よっ!アンタは私達家族を蝕むただの寄生虫よっ!優兎だけに辛い思い何てさせないっ!!お父様だけ逝かせたりしないわっ!!私が、今っ、ここでっ、全て終わらせてやるっ!!』
ルナさんのナイフが再び母親に向かった。
『知らないとでも思ったっ!?貴女が私のお母様を殺した事をっ!!お母様の仇よっ!!私の手で殺してやるっ!!』
…ルナさんのナイフは、義母の動きが止まるまで動き続けた。
そのまま、視線は優兎くんの父親へと向く。
だけど、悲しいかな、体格差があった。
女子の力は大人の男の力には敵わなかった。
ナイフを奪い取られ、刃はルナさんの胸へと埋め込まれた。
「…生意気な糞餓鬼め」
痛みと苦しみが同時に体を巡る。
ガハッと空気のかわりに血が吐き出された。
そのまま床へと投げ捨てられる。
「…証拠は隠滅しないとなぁ」
ボタボタボタと何か液体が撒かれる。
この匂いは、石油…?
「ハハハハハッ」
液体を撒きつつ、高笑いを上げながら勝ち誇ったように優兎くんのお父さんは出て行った。
足音が聞こえなくなると同時に、何かが焦げる匂いが、煙が充満し始める。
火を、放たれたようだ。
ルナさんは力の入らないはずなのに、その手をきつくきつく握りしめた。
ルナさんの感情が中に入っている私にはダイレクトに伝わってくる。分かり過ぎて、辛い。
「ル、ナ……ッ、すまな、い…」
『お、とう、さま…ッ…く、やしい、…くやしいぃよぉっ…ッ』
「ルナ…る、な…っ」
優兎くんの伯父さんはルナさんを抱きしめた。
目の前に優兎くんの伯父さんの血に濡れたシャツがある。
悔しさで、涙で、視界が歪む。
そこで私は、あ、引き離されるなぁ、と感覚で理解した。

パリィンッ!!
「―――ッ!!」

また空間が割れた。
何もない空間に戻される。
…今の優兎くんの記憶には色々不思議な所があるなぁ。
まずは最初の優兎くんの父親のセリフ。
「うるさいっ!先代が死んで、鬱陶しいお前の兄ももうすぐ死ぬっ!そうなればこのFIコンツェルンの頭首は私だっ!私の言う事に従えっ!」
って奴。あれの鬱陶しいお前の兄ももうすぐ死ぬっ!って所。
どうしてあのセリフを言えたのかな?
優兎くんを操って殺すって自分から犯行声明出したって事?だとしたら馬鹿じゃね?
それとも優兎くんの伯父さんに他にも何か仕掛けてたって事かな?
…考えるだけでスッゴイ胸糞…ごほんっ、スッゴク気分悪いんだけどっ!?
…そっちは置いといて。次に、ルナさんの存在だよね。
優兎くんに馬鹿以外の従姉がいるなんて初耳だった。
私結構優兎くんの家の事情には詳しい方だと思ったんだけどなぁ?
優兎くんの伯父さんに奥さんが二人いたってのも知らなかった。
ルナさんが言ってたよね?後妻の、ルナさんの義理の母親が殺したって。って事は、あのビットとか言う馬鹿を産んだのはその後妻って事かー。
でも、後妻は生きてるのよね…?
どうやって逃げ出したのかな?
優兎くんの伯父さんもルナさんもこの時に亡くなったんだと思うんだけど…。優兎くんもそう思ってるから、ここで記憶は途切れてるんだよね?
二人は怪我をして動けなくなってる。それ以上の怪我を負っている後妻は絶対動ける訳がない。だとしたら誰かが助けに来ない限りは助からないと思うんだけど…。…その説は高そうだなぁ…。
あとさ、優兎くんを外に放り投げたのに、どうして優兎くんはここの会話を知っているのだろう?
これが一番疑問だよね。
前の記憶の場合は優兎くんがお母様から聞いたんだろうって解るんだけど。
今回はそれもなさそうだし…。
ハテナマークが頭上に何個か浮かんでそうだ。
うぅ~ん…謎解けるかな~?
腕を組んでふみふみ唸っていると、手に何か握られている事に気付いた。
「あ、兎…」
そう言えば光に包まれた後、この兎は手からなくなってた。
手にある兎を覗き込むと、中で鼓動しているハートが少し大きくなっている事に気付く。

―――あsdfghjkんよ、hjk;やf。

…?
また声が聞こえたけれど、何て言っているのか、聞き取れない。
この兎から聞こえるってのは確かみたい。
兎に耳を近づけると、小さいけど、ほんっとに小さいけど優兎の声で何か呟いているのは聞こえるの。
何を言ってるのかはまだ聞き取れないけど。
前回よりは聞き取りやすくなってるって事は…。
私はまた足下に広がっているパズルを見た。
これを組み立てたら、また光が広がって次の記憶を見る事が出来るかもしれない。
うん。やろうっ!
少しずつピースが増えて来てる気がするけど、大丈夫。
私パズル得意だからっ!
ぺたんと座って、私は周囲にあるパズルのピースを集める。
前回に比べてピースが増えてる。
きっと優兎くんの記憶量に比例してるんだろうな。
気合を入れる為に腕まくりをして、私はパズルに向かった。
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