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最終章 数多の未来への選択編

※※※

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「鈴ちゃんっ」
葵お兄ちゃんが私のいるFIコンツェルンの役員室に飛び込んで来た。
「どうしたの?葵お兄ちゃん。優兎くんの居場所が分かった?」
優兎くんに仕込んでいたGPSは途中で捨てられたのか、壊されたのか、反応は途切れてしまっていた。
だから、別の方法で優兎くんの居場所を皆で探っていたんだけど。
焦って飛び込んで来たからその居場所が判明したのかな?って思ったんだけど…あれ?
何か反応が違う。
優兎くんの代わりに馬鹿がやらかした悪事を消して元の形に、何だったら前よりも少し良い感じに取り戻しているのを一旦切り上げて顔を上げると、葵お兄ちゃんがキョロキョロと何かを探していた。
「葵お兄ちゃん?」
「華菜ちゃんは何処にっ?」
「華菜ちゃん?華菜ちゃんなら隣の…」
秘書室にいるよ、と答えようとしてピンと来た。
「…何?葵お兄ちゃん。もしかして」
「そう。そのもしかして、だよ。一応逢坂くんに側に行って貰ったけど」
「……そう。ありがとう、葵お兄ちゃん。…鴇お兄ちゃん」
私はゆっくりと椅子から立ち上がると、鴇お兄ちゃんは直ぐに動いてくれて。
「こっちは問題ない。金山はそっちに向かわせておく」
「ありがとう。…華菜ちゃんの所に行こう。葵お兄ちゃん。あ、それから棗お兄ちゃんに、猪塚先輩の現在地分かったって伝えてくれる?戦力は多い方が良いからね」
「分かった。…鈴ちゃん?」
「?、なぁに?葵お兄ちゃん」
「…落ち着いてね?」
「ふみ?」
一瞬何を言われたのか解らなかった。
だって、私だいぶ落ち着いてるよ?
本気で分からないって顔してたんだろうな。葵お兄ちゃんがふっと苦笑した。
「…珍しいよね。鈴ちゃんがこんなに怒ってるの」
「ふみみ?」
「鈴ちゃんは本気で怒るって事、あんまりしないもんね。ここまで冷静に怒ってるのは僕も始めて見たかも」
「怒ってる…?」
「無自覚?」
尋ねられても、解らない。
でも確かに言われてみたら…私ずっと怒ってる、かも?
「……まぁ、怒って当然だけどね。優兎を攫われた訳だしね」
「だよね。…だけど、そうだね。こう言う時こそ冷静に、だよね?」
「え?あ、違うよ、鈴ちゃん」
「ふみ?違うの?」
「うん。違う。僕はこう言う時こそ声を上げて良いと思うんだ。もっと怒ってるって前面に出していいと思う。だって…僕達皆怒ってるからね」
「葵お兄ちゃん…」
葵お兄ちゃんが言いたいのは怒るなとか冷静になれとかじゃなくて、ただ怒りも共有しようよ、って言ってくれてるんだ。
相変わらず優しいお兄ちゃんに私は怒る所か笑みが溢れた。
そんなこんなで会話している内に、私達は秘書室の前に付きドアを開けた。
「……美鈴ちゃん」
震えた声だ。
「華菜ちゃん。大丈夫。…絶対大丈夫だから」
私は華菜ちゃんの側に駆け寄りその両手を握った。
何なら逢坂くんをふっとばしつつ、華菜ちゃんを抱きしめる。
「絶対に、絶対に大丈夫っ!華菜ちゃんにも華菜ちゃんの大事な人にも手出しさせないからっ!私を信じてくれる?」
きつくきつく抱きしめて、そう告げる。
「…信じるっ。私が美鈴ちゃんを信じないなんてあり得ないものっ!」
「うんっ。ありがとう、華菜ちゃんっ」
「……おれ、旦那だった気がするんだけど…」
「逢坂くんは黙っててくれる?」
「ひでぇなっ!?こっちも親友攫われてるんだがっ!?」
「あ、親友で思い出した。美鈴ちゃん。ちょっと時間かかっちゃったけど、優兎くんの居場所分かったよっ!」
「本当にっ!?流石華菜ちゃんっ!」
「えっへんっ!」
きゃーっ!
華菜ちゃんと全力で抱き合う。
隅の方で逢坂くんが葵お兄ちゃんに慰められてるけど、私には見えないっ!
「じゃあ、早速助けに行こうっ!場所は何処っ?」
「場所は、ロサンゼルス…ロスの南だね」
「ロスの南…成程。あそこ、か」
「…もしかして美鈴ちゃん、解ってた?」
「ううん。解ってた訳じゃないよ。ただ、犯人達が隠れやすそうな場所を関連から紐付けて予測していただけ」
「……美鈴ちゃん。もしかして、私が思ってる以上に…」
「ふみ?」
「…ううん。私は怒ってる美鈴ちゃんも好きっ!」
「私も華菜ちゃん大好きーっ!」
ぎゅーっ!
大好きだからこそ、絶対に守るからねっ!
勿論優兎くんは絶対に助け出して見せるよっ!
華菜ちゃんを逢坂くんに返して、逢坂くんに華菜ちゃんから絶対に目を離さないようにと釘を刺して秘書室を出た。
携帯を出すと新しい情報が鴇お兄ちゃんから流れて来た。
「葵お兄ちゃん。樹先輩が見つかったらしいの。頼んで良い?」
「…僕としては鈴ちゃんの側にいたい所だけど、龍也なら僕が行くしかないね」
「うん。お願い。連れて戻ってきたら、日本にいる桃達と合流して欲しいな」
「解ってるよ。鈴ちゃん、無理だけはしないで」
「大丈夫。それに今一番無理をしているのは多分、優兎だから」
「…そうだね。戻ってきたらこれ以上ないってくらい可愛がってやらないと」
「ふふっ。そうだね、そうしよう。優兎は寂しがり屋だから」
葵お兄ちゃんと役員室の前で別れて、私は部屋の中へ入った。
「美鈴。直ぐに行くか?」
「勿論。時間かかっちゃったもん。直ぐに行かなきゃ」
「分かった。ヘリを手配する」
「うん。お願い」
鴇お兄ちゃんは入れ替わりに部屋を出て、私は机に戻り、決済処理を続ける。
その間に電話を取りだして、誠パパへかけた。
誠パパは私が説明しなくても状況を理解してくれていて、もう既に動いていると教えてくれた。流石パパ。
電話を切ると同時に今度は出て行った鴇お兄ちゃんが戻って来た。
「行くぞ、美鈴」
「うん」
私と鴇お兄ちゃんが行っていたFIコンツェルン立て直しに関しては一時優兎くんの補佐として一緒に学んでいた逢坂くんに任せ(私の呼んだあの人が来るまで頑張れ)屋上へと向かう。
屋上に待機していたヘリに乗りこみ、一直線に優兎くんが捕らわれている場所へと向かった。

…優兎くんが捕らわれていると知った場所は、ロスの中でも比較的治安が悪い場所にある。
街は柄の悪い人に溢れ、綺麗な建物なんて一つもない。
所謂闇街って奴だ。
「美鈴。絶対離れるなよ」
「うん。鴇お兄ちゃん」
治安の悪い場所には治安の悪い場所に合った格好ってのがある。
私達は何処の夜の店で働いているんですか?と思いたくなるような格好で歩いていた。
鴇お兄ちゃんはスーツ、私は露出の多めのドレス。鴇お兄ちゃんがいなければこんな格好で歩かないからねっ!
ツカツカと靴を鳴らして、辿り着いたのは闇カジノ。
「ここまで明らかに悪人然とされてると溜息が出るな」
「本当だよね。どうする?鴇お兄ちゃん。スタッフとして入り込む?」
「いいや?折角この格好で来たんだ。しっかりと上客として入り込むぞ」
「あー、確かに、いいねっ♪そうしようっ♪」
こう言う時、私と鴇お兄ちゃんは多分強い。
入口の人間に嘘の会員カードを見せて、堂々と中に侵入していく。
その時に見せるカードなんて何でも良いんだよ。どう誤魔化せるか、だからね。
「でも鴇お兄ちゃん。いくら黒いカードだからって、それ近所のジムのポイントカード」
「ばれなかっただろ?」
ニヤリと笑った鴇お兄ちゃんは完全に悪い人でした。
案内された場所へ向かうのにガードマンから顔バレを避ける為か、仮面を渡された。
…細工出来るものではないかもしれないけど、念の為私達は自分で持って来たからと仮面をポケットから取り出した。
ベネチアンマスク…を模して作った白猫の仮面っ!因みに鴇お兄ちゃんはちゃんとベネチアンマスクでございます。
…これでタキシードだったら有名セーラー女子アニメのヒロイ…ヒーローと一緒だねぇ。
とかどうでも良い事を考えてしまう。
一階はルーレット?
二階はトランプ…カードゲームだね。
三階からはVIPルームみたい。
エレベーターに書かれてるのは一階と二階の案内だけ。
鴇お兄ちゃんとエレベーターに乗りこんで顔を見合わせる。
「カードか?」
「カードだね」
「額は?」
「8、行けるなら10」
「面白い。勝負するか?」
「絶対鴇お兄ちゃんには勝つっ!」
二階に降りて、私と鴇お兄ちゃんは背中合わせになる場所に座り、自分のお金でベットする。
多分、ここはイカサマが横行しているだろうから、こっちもイカサマで勝たせて貰おう。
二人で大金を稼げばあっさりとVIPルームに通されると思うんだよね。
そうしてカードゲームを初めて一時間。
今稼いだのは、大体百万くらい。目標の8桁まではまだちょっと足りない、かな?
『おい、こいつ凄いぞっ!』
『この短時間で一千万越えてるぞっ!』
『こっちの嬢ちゃんも凄いと思ってたが、そっちのもかっ!?』
…なぬぅ?
鴇お兄ちゃんもう8桁稼いだの?
ぐるぅりと後ろを振り返り、鴇お兄ちゃんの肩に齧りついた。
「…美鈴。痛いぞ」
「がるるるる…」
あぎあぎ。
鴇お兄ちゃんの肩を齧りつつ、私は鴇お兄ちゃんのカードの行方を見ていたんだけど、とってもとっても王様のゲームだった。
そうこうしている間に鴇お兄ちゃんが10桁、私が8桁稼いだ辺りで執事っぽい男性が私と鴇お兄ちゃんを呼びに来た。
『オーナーが御呼びです。よろしければVIPルームにてもう一稼ぎ致しませんか?』
私と鴇お兄ちゃんは顔を見合わせ、口元だけで笑みを浮かべると同時に、
『その言葉を待っていた』
『是非。喜んで』
ニッコリと笑みを浮かべて呼び出しに承諾した。
念の為に稼いだ額を現金に換えてアタッシュケースに入れて受け取っておく。
お金は金山さんと真珠さんに預けて置いた。
自分のハンドバックだけをまた手に取り、鴇お兄ちゃんと一緒にエレベーターに乗り込む。
ニヤニヤしている執事が押したボタンは5階のボタン。
出来るだけ私は鴇お兄ちゃんの側に寄り、何だったら腕を組んでぴったりとくっつく。
エレベーターは上昇して、ドアが開いた。
『どうぞ』
執事はそう言ってエレベーターから降りようとしない。
『…悪いな。ちょっと先に降りてくれるか』
鴇お兄ちゃんはそう言うと、執事の腕を掴みエレベーターのドアの外へと放り投げた。
瞬間。
ガンッ!
何かが上から降りて来た。
「柵?」
「のようだな。見ろ、美鈴。奥に犬がいるぞ。多種多様の」
「犬?」
『だ、出せぇーっ!!』
執事が降りて来た柵、鉄格子を掴みこっちへと手を伸ばす。
その必死の形相の後ろには、鴇お兄ちゃんが言う所の犬であるド―ベルマンやハスキー犬が。そしてもう一つ鴇お兄ちゃんが言う下僕(イヌ)が数人執事の男を見て笑っていた。
『や、止めろっ!くるなっ!!』
「行くぞ、美鈴。後はお前が見る必要はない」
言って、鴇お兄ちゃんはエレベーターのドアを締めた。
『ぎゃああああああっ!!』
鴇お兄ちゃんが押した最上階である7階のボタン。
上昇するエレベーターに執事の叫び声は遠ざかった。
「あの階で犬をけしかけて金を奪い取る。解りやすいやり方だな」
「確かにね。でも何であの執事っぽい男の人は犬に狙われたのかな?」
「考えられるのは、アイツもカジノで金をすったが上に上手く取り入って返済せずに働いていた、ってとこだろうな」
「あぁ、納得ー」
エレベーターが上昇する中、今私と鴇お兄ちゃんしかいないから少し気を緩める。
「さて、七階には何がいるかなー?」
「…当たりは?」
「叔父だね」
「外れは?」
「妻、かな」
「まぁ、そうだろうな」
頷き合う。
出来れば当たりが来る事を祈って、私達は到着したエレベーターから一歩踏み出した。
大して道もなく歩いた先に立派なドアが一つ。
鴇お兄ちゃんがそのドアを遠慮も何もなく蹴破った。
そして、そこにいたのは、男二人と女が一人。
『どなたかしらぁ?』
男の一人が女の手を、もう一人が靴にキスをしていた。
私と鴇お兄ちゃんは一気に眉を顰めた。
「…ハズレだね」
「あぁ。ちっ、面倒だな」
ぼそぼそと三人から目を話す事なく呟く。
『ここは選ばれた人しか入れない特別なお部屋よぉ?…って、あらぁ?貴方、もしかしてすっごくイケメンなんじゃなぁい?』
鴇お兄ちゃんの顔を見た瞬間、男二人を置いて、女は嬉しそうにお尻を振りながらゆっくりとこっちへと向かって来た。
そして鴇お兄ちゃんの目の前に立つと、大きな胸を鴇お兄ちゃんに押し付けるようにして鴇お兄ちゃんの顔へと手を伸ばして、仮面を奪い取った。
そっと鴇お兄ちゃんの顔を横目で見ると、無表情。
鴇お兄ちゃん、強い。
『いいわぁ。とても好きよ。貴方の顔。特別に私を抱く権利をあげるわぁ。朝までちゃんと私を満足させて頂戴ねぇ』
………うん。

キモッ!!

と心で盛大に叫んで置く。
「触るな、気持ち悪い」
おぅふっ。
鴇お兄ちゃん素直に口に出しちゃったよ。いや、その通りだろうからいいんだけでもっ!
『なぁに?何て言ったのぉ?』
『気持ち悪いと言ったんだよ。俺がお前に聞きたいのは一つだけだ。優兎は何処だ』
『……優兎?…あぁ、優兎ぉ。あらぁ、もしかして、貴方、優兎を取り戻しに来たのぉ?』
答えない。
鴇お兄ちゃんが相手をしているから私は黙って見守る。
『会いたいのなら会わせてあげるわよぉ』
その女の浮かべた笑みに私は嫌な予感がした。
…優兎くんは、乙女ゲームの攻略対象キャラ唯一バッドエンドがあるキャラだった。
実は私は、ずっとそれが気にかかっていた。
ママが言っていた私のプレイしてたゲームがファンディスクで、本編は大学生からだと。
もし今が本編であるならば、優兎くんのバッドエンドフラグってまだ消えてないんじゃないかって。
私は、私が結婚相手に優兎くんを選んだことによって、そのフラグを起動させてしまったんじゃないかって。
それがずっとずっと気になっていた。

―――パチンッ。

女が指を鳴らした。
すると靴にキスをした態勢のまま下を向いていた男がゆっくりと立ち上がった。
光の都合上判断つかなかったけど…今ハッキリと見えたその男の髪は胡桃色の…。

「優兎…?」

思わず呟いた名に反応した彼は真っ直ぐ私を見て言った。


「僕の名前を気安く呼ばないで。不快だから」

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