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最終章 数多の未来への選択編
※※※
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涙が溢れる。
だけど今は泣いている場合じゃない。
私にはまだやれる事が、やらなきゃいけないことが一杯ある。
お姉様達を助けてあげなきゃいけないし、猪塚先輩のお祖父ちゃんを全力で殴らなきゃいけない。
それに何より、猪塚先輩を救い出さなきゃ…。
でも、足が動かない。
だって、私にはまだ出来る事があったかもしれないのに。後悔が私の脳内をぐるぐる回って足を止める。
『…立ち止まってる時間はないんじゃないですか?』
肩を叩かれて、そう言われて。
私はゆっくりと振り返った。
マリアさんが私の肩をゆっくりと抱いてくれた。
『時間が経てば経つほど、坊ちゃんを助ける事は不可能になります。今、動かなくては白鳥総帥は後悔なさいますよ』
『後悔…』
そうだ。これ以上の後悔は、したくないっ!
私は涙を拭いて、歩きだす。
猪塚先輩を助けなきゃっ!
『マリアさん。悪いんですが車の手配お願い出来ますか?』
『任せて下さい』
『ソフィアさん。電話をお借り出来ますか?』
『電話ですか?ですが電波が』
『そうですね。車で移動しつつ電波が戻り次第電話をしたい人がいるんです』
『解りました』
『ジュリアさんは紙とペンを用意して貰えますか?地図を書きます』
『地図を?かけるんですか?』
『ざっくりですけどね。それからアウローラさんは相手を錯乱させる為に、上司に任務は完了したと報告を』
『え?でも…私達が白鳥総帥の側についたともう分かられている気が』
『それでも良いんです。相手を混乱させる事に意味があるんです。さぁ、動きましょうっ』
『『『『了解』』』』
動き始めた四人の行動を見つつ、私は振り返ってジッと崩壊した建物を見つめた。
「絶対に助けに来るからね。猪塚先輩。待っててね」
言葉を口に出して宣言して。
私は走った。
マリアさんが用意してくれた車をこちらから迎えに行き乗り込んで、走らせる。
車をまずは人通りのある場所に移動させる。
ソフィアさんに電話を借りて私はある場所に電話する。
…出てくれるかなぁ…?
知らない電話番号だろうし…。
コール音、一回。
『美鈴ちゃんっ!今何処っ!?無事っ!?』
「か、華菜ちゃん。詐欺電話だったらどうするの…」
『そんなの相手から逆に奪い取るに決まってるじゃないっ!それよりも、無事なのっ!?怪我はっ!?』
「私は怪我らしい怪我は何もないんだけど、実は猪塚先輩が…」
『あ、そっちはどうでもいい。あれは殺しても死なないから』
「おぉーい、華菜ちゃーん」
『それよりも何処にいるのっ!?』
「今さっくりと地図かいて送るから」
『そのスマホにマップ機能ないの?』
「うん?マップ機能…いや、これ携帯電話だけどスマートフォンじゃないから」
『ガラパゴスなの?』
『え、いや…昭和なの』
そう滅茶苦茶デカい昭和に出たハンドバックサイズの携帯電話。これよく海越えて電話出来てるよね…。
つい遠い目をしてしまった。
『…通信料、電話代…』
「……まぁ、これは私持ちじゃないから」
『それもそうか。え?じゃあどうやって地図を書いておくるつもりでいたの?』
「……ふみっ!?」
……そう言われたらそうだ。
なんてこったい。私馬鹿過ぎる…。
『ふふふっ。美鈴ちゃんったら天然なんだからっ。でも安心してっ!美鈴ちゃんにこっそり取り付けたGPSがちゃんと役割を果たしてるからっ!』
「……うん。華菜ちゃん。後でゆーっくりお話しようね?」
『美鈴ちゃんがそのイヤリング外さないでくれて良かったー』
成程。これか…。
何処にいるか知られて困るような事はないから良いけどね。私は。
でも他の人にそれやってたらお説教案件だよ、華菜ちゃん。
『それでね、美鈴ちゃん』
「うん?」
『手元に紙とペンがあるんだよね?それに今から私が美鈴ちゃんの現在地と向かいたい場所を口頭で説明するからメモして』
「え?何で行きたい所まで解るの?」
『…猪塚先輩のGPSの反応が動いていないからね。何かあったんでしょう?美鈴ちゃんが私に電話してくるって事でも、閉じ込められた場所の位置とか国とか色々考えると辿り着くのは一か所だしね』
「流石華菜ちゃんだね」
『じゃあ伝えるよ』
「オッケー」
私は華菜ちゃんが伝えてくれる内容を地図にして紙におこし、それを運転手のマリアさんに伝えて貰う。マップはちゃんとスペイン語でも書いてますよ。
イタリア語と一緒にね。
横でアウローラさんが上司に電話してるのを聞きながら、華菜ちゃんの声を聞きつつ地図を書く。
出来上がった地図をジュリアさんが私の手から抜き取って、それを前の助手席に座っているソフィアさんに渡して、マリアさんに説明してくれる。
運転しながら見る事の出来なかった文字は私が声に出す。
そうして私達は目的地に辿り着いた。
場所は市街地の中心部。
とは言えど、中心部の裏路地。
いかにもな闇街だ。今の世でもまだあるんだね、こんな場所。
…日本だって見えてないだけであるんだから、他の国にあっても当然か。
私は車から降りて、ピンと背を伸ばし立つ。
目的の屋敷の門前には屈強な肉体を持った男性が二人。黒スーツにサングラス。パッと見はSPに見えなくもないけれど。
猪塚先輩の無事がかかっている。今ここでこの二人に邪魔される訳にはいかない。
指をパチンと鳴らし、「真珠さん」と一言。すると、
「御呼びですか?お嬢様」
「…中へ行きます。蹴散らして」
「はっ」
私の言葉を即理解して、目の前のSP風用心棒をあっさりと投げ飛ばしてくれた。
突然現れた真珠さんにお姉様方がフリーズしていたけれど、今は進む方が先だからスルーする方向で。
何で今まで真珠さんを呼ばなかったのかって?
だって真珠さんの気配を感じたの、今なんだもの。
真珠さんが襲ってくるチンピラ集団を全てなぎ倒してくれるおかげで私は真っ直ぐ目的地に向かえる。
それに、恐らく私が今会いに向かっている人がいる場所に近づく度に用心棒達が増えて行くから目的地に戸惑う事も無いし。
とっても解りやすくて助かる。
そして立派なお屋敷の一番立派なドアの前に辿り着いた。
ノック?しないよ。
遠慮も何もせずにドアを開けるよ。
勿論、足でねっ!
バァンッ!
良い音が鳴るねっ!
『……ドアをノックする礼儀も知らぬとは…』
『あら?ごめんなさい?貴方方に礼儀が必要とは知りませんでしたの』
ニッコリ。
笑って答えても、相手は革張りの立派な椅子に腰かけて、私に背を向けているんだけどね。
でもまぁ、好都合だよね。
一歩二歩と進んで、私はその爺が座っている椅子の前にある、これまた立派な机を蹴り飛ばした。
『格好つけずにこっちを向いて貰いましょうか』
『おまけに躾もなっておらん。全く、こんなのと要が結婚だとは…呆れてものも言えん』
ゆっくりと振り返った猪塚先輩のお祖父ちゃんは、猪塚先輩の面影がある。
と言うか、目つきの悪さはまんまお祖父ちゃん譲りらしい。
『礼儀に躾ですか?人を誘拐するような人間にそんな事言われたくありませんわ。それに、彼女達の家族を人質にしたりやりたい放題してたのは貴方の方ではありませんか?』
机を蹴飛ばしていた足を降ろし、腕を組み見降ろす。
『まぁ、今はそんな事はどうでもいいです。それよりも、貴方の大事な孫を助ける為に人をあの場所へ回して下さい』
『孫を助けるじゃと?』
『…一から説明しないと解らないんですか?』
はぁと大きい溜息をこれ見よがしについてみると、猪塚先輩の祖父ちゃんはそこでやっと私達の周りに猪塚先輩がいない事に気付いた。
『小娘っ!要はどうしたっ!?』
『見て解りません?いませんよ』
『貴様っ、要を、自分の夫を見捨てたのかっ!』
その言葉に私は素直にカチンと来た。
なに、その言い種っ!
『そもそも貴方が私と猪塚先輩を一緒に攫わなければこんな事にはならなかったんですよっ!!自分の孫の性格も解らないんですかっ!?猪塚先輩が女性を見捨てられる訳がないでしょうっ!!』
『うぬぬっ』
『うぬぬっ、じゃないわよっ!!良いからさっさと人をあの建物に向かわせなさいっ!!最後のトラップ、鰐に猪塚先輩は飛び込んで行ったのよっ!私達の代わりにっ!!』
『なんじゃとっ!?』
『驚くのは後で良いって言ってるでしょうっ!?』
さっさと動けっ!!
猪塚先輩を助けに行けっ!!
今こんな事で時間を使っている場合じゃないのっ!!
私は何度もそう言ったけれど、爺は動かない。
なんなの、この爺っ。
孫が可愛くないのっ!?心配してたのもただのフリっ!?
だったら、私にも考えがあるんだけど…?
『これだけ言っても動かないのね?』
『……』
爺は私を睨み付けるのみ。
『…そう。ならもう良いわ』
こんな話の通じない爺ならこうしてるだけ時間の無駄だわ。
パチンと指を鳴らし、もう一度真珠さんを呼ぶ。
「御呼びですか?お嬢様」
「ここを壊滅させ、そこの爺をママの実家の牢へぶち込むから準備して」
「はっ。かしこまりました」
また直ぐに動き姿を消した真珠さんを見届けてから私はもう一度携帯電話を手に取りある場所へと連絡する。
ある場所とは勿論、
「…あ、源お祖父ちゃん?」
『おおー、美鈴かー。どうしたー?祖父ちゃんが恋しくなったかー?』
「ううん、そうじゃなくてー」
『そうじゃないんかー…』
「実はねー?」
『ふむ?』
私はざっくりと状況を説明する。すると、源お祖父ちゃんが電話を変われと言ってきた。
え?誰と?…猪塚先輩の祖父ちゃんと?
良く解らないけど言われた通り電話を渡すと、怪訝そうな顔をしながらも電話を受け取り、最初は困惑。次に喜び、最後に焦りに変わり最終的に頭を抱えて電話だけ戻された。
いや、これ私の電話じゃないんだけど、ま、まぁいいか。
けど、あれ?さっきと様子がまるで違うんだけど…?
「一体どう言う事?」
『ガブちゃんにはしっかり言うたから安心せい。それより美鈴。祖父ちゃんと話をせんかー?久しぶりに話を』
「うんうん。後でねー」
通話切断、と。
はて?
源お祖父ちゃんのガブちゃんとは?
私が視線を猪塚先輩の祖父ちゃんへと戻すと、そこには未だ頭を抱えて考え込んでいる姿があった。
『まさか、ゲンちゃんの孫だったとは…だが…ここまでして、いや、…でも』
何かブツブツ言ってるなー?
かと思えばいきなり立ち上がり、懐から携帯電話を取りだすと素早く誰かと連絡を取っている。
『いいから早く行けっ!!儂の命令だっ!』
命令?
何の事?
『儂の孫を助けに行くのじゃっ!でないとっ』
あ、やっと人を動かしてくれる気になってくれたっ!
嬉しくて私が猪塚先輩の祖父ちゃんに話かけようとした、その時。
『その必要はありません』
声がした。
この声は…この声はっ!
「棗お兄ちゃんっ!!」
私は嬉しくて嬉しくて。
勢いよく振り返るとそこには私に向かって微笑む棗お兄ちゃんと、
「もしかしてその肩の俵…じゃなくて人は…猪塚先輩っ!?」
棗お兄ちゃんの肩に抱えられている猪塚先輩の姿があった。
だけど今は泣いている場合じゃない。
私にはまだやれる事が、やらなきゃいけないことが一杯ある。
お姉様達を助けてあげなきゃいけないし、猪塚先輩のお祖父ちゃんを全力で殴らなきゃいけない。
それに何より、猪塚先輩を救い出さなきゃ…。
でも、足が動かない。
だって、私にはまだ出来る事があったかもしれないのに。後悔が私の脳内をぐるぐる回って足を止める。
『…立ち止まってる時間はないんじゃないですか?』
肩を叩かれて、そう言われて。
私はゆっくりと振り返った。
マリアさんが私の肩をゆっくりと抱いてくれた。
『時間が経てば経つほど、坊ちゃんを助ける事は不可能になります。今、動かなくては白鳥総帥は後悔なさいますよ』
『後悔…』
そうだ。これ以上の後悔は、したくないっ!
私は涙を拭いて、歩きだす。
猪塚先輩を助けなきゃっ!
『マリアさん。悪いんですが車の手配お願い出来ますか?』
『任せて下さい』
『ソフィアさん。電話をお借り出来ますか?』
『電話ですか?ですが電波が』
『そうですね。車で移動しつつ電波が戻り次第電話をしたい人がいるんです』
『解りました』
『ジュリアさんは紙とペンを用意して貰えますか?地図を書きます』
『地図を?かけるんですか?』
『ざっくりですけどね。それからアウローラさんは相手を錯乱させる為に、上司に任務は完了したと報告を』
『え?でも…私達が白鳥総帥の側についたともう分かられている気が』
『それでも良いんです。相手を混乱させる事に意味があるんです。さぁ、動きましょうっ』
『『『『了解』』』』
動き始めた四人の行動を見つつ、私は振り返ってジッと崩壊した建物を見つめた。
「絶対に助けに来るからね。猪塚先輩。待っててね」
言葉を口に出して宣言して。
私は走った。
マリアさんが用意してくれた車をこちらから迎えに行き乗り込んで、走らせる。
車をまずは人通りのある場所に移動させる。
ソフィアさんに電話を借りて私はある場所に電話する。
…出てくれるかなぁ…?
知らない電話番号だろうし…。
コール音、一回。
『美鈴ちゃんっ!今何処っ!?無事っ!?』
「か、華菜ちゃん。詐欺電話だったらどうするの…」
『そんなの相手から逆に奪い取るに決まってるじゃないっ!それよりも、無事なのっ!?怪我はっ!?』
「私は怪我らしい怪我は何もないんだけど、実は猪塚先輩が…」
『あ、そっちはどうでもいい。あれは殺しても死なないから』
「おぉーい、華菜ちゃーん」
『それよりも何処にいるのっ!?』
「今さっくりと地図かいて送るから」
『そのスマホにマップ機能ないの?』
「うん?マップ機能…いや、これ携帯電話だけどスマートフォンじゃないから」
『ガラパゴスなの?』
『え、いや…昭和なの』
そう滅茶苦茶デカい昭和に出たハンドバックサイズの携帯電話。これよく海越えて電話出来てるよね…。
つい遠い目をしてしまった。
『…通信料、電話代…』
「……まぁ、これは私持ちじゃないから」
『それもそうか。え?じゃあどうやって地図を書いておくるつもりでいたの?』
「……ふみっ!?」
……そう言われたらそうだ。
なんてこったい。私馬鹿過ぎる…。
『ふふふっ。美鈴ちゃんったら天然なんだからっ。でも安心してっ!美鈴ちゃんにこっそり取り付けたGPSがちゃんと役割を果たしてるからっ!』
「……うん。華菜ちゃん。後でゆーっくりお話しようね?」
『美鈴ちゃんがそのイヤリング外さないでくれて良かったー』
成程。これか…。
何処にいるか知られて困るような事はないから良いけどね。私は。
でも他の人にそれやってたらお説教案件だよ、華菜ちゃん。
『それでね、美鈴ちゃん』
「うん?」
『手元に紙とペンがあるんだよね?それに今から私が美鈴ちゃんの現在地と向かいたい場所を口頭で説明するからメモして』
「え?何で行きたい所まで解るの?」
『…猪塚先輩のGPSの反応が動いていないからね。何かあったんでしょう?美鈴ちゃんが私に電話してくるって事でも、閉じ込められた場所の位置とか国とか色々考えると辿り着くのは一か所だしね』
「流石華菜ちゃんだね」
『じゃあ伝えるよ』
「オッケー」
私は華菜ちゃんが伝えてくれる内容を地図にして紙におこし、それを運転手のマリアさんに伝えて貰う。マップはちゃんとスペイン語でも書いてますよ。
イタリア語と一緒にね。
横でアウローラさんが上司に電話してるのを聞きながら、華菜ちゃんの声を聞きつつ地図を書く。
出来上がった地図をジュリアさんが私の手から抜き取って、それを前の助手席に座っているソフィアさんに渡して、マリアさんに説明してくれる。
運転しながら見る事の出来なかった文字は私が声に出す。
そうして私達は目的地に辿り着いた。
場所は市街地の中心部。
とは言えど、中心部の裏路地。
いかにもな闇街だ。今の世でもまだあるんだね、こんな場所。
…日本だって見えてないだけであるんだから、他の国にあっても当然か。
私は車から降りて、ピンと背を伸ばし立つ。
目的の屋敷の門前には屈強な肉体を持った男性が二人。黒スーツにサングラス。パッと見はSPに見えなくもないけれど。
猪塚先輩の無事がかかっている。今ここでこの二人に邪魔される訳にはいかない。
指をパチンと鳴らし、「真珠さん」と一言。すると、
「御呼びですか?お嬢様」
「…中へ行きます。蹴散らして」
「はっ」
私の言葉を即理解して、目の前のSP風用心棒をあっさりと投げ飛ばしてくれた。
突然現れた真珠さんにお姉様方がフリーズしていたけれど、今は進む方が先だからスルーする方向で。
何で今まで真珠さんを呼ばなかったのかって?
だって真珠さんの気配を感じたの、今なんだもの。
真珠さんが襲ってくるチンピラ集団を全てなぎ倒してくれるおかげで私は真っ直ぐ目的地に向かえる。
それに、恐らく私が今会いに向かっている人がいる場所に近づく度に用心棒達が増えて行くから目的地に戸惑う事も無いし。
とっても解りやすくて助かる。
そして立派なお屋敷の一番立派なドアの前に辿り着いた。
ノック?しないよ。
遠慮も何もせずにドアを開けるよ。
勿論、足でねっ!
バァンッ!
良い音が鳴るねっ!
『……ドアをノックする礼儀も知らぬとは…』
『あら?ごめんなさい?貴方方に礼儀が必要とは知りませんでしたの』
ニッコリ。
笑って答えても、相手は革張りの立派な椅子に腰かけて、私に背を向けているんだけどね。
でもまぁ、好都合だよね。
一歩二歩と進んで、私はその爺が座っている椅子の前にある、これまた立派な机を蹴り飛ばした。
『格好つけずにこっちを向いて貰いましょうか』
『おまけに躾もなっておらん。全く、こんなのと要が結婚だとは…呆れてものも言えん』
ゆっくりと振り返った猪塚先輩のお祖父ちゃんは、猪塚先輩の面影がある。
と言うか、目つきの悪さはまんまお祖父ちゃん譲りらしい。
『礼儀に躾ですか?人を誘拐するような人間にそんな事言われたくありませんわ。それに、彼女達の家族を人質にしたりやりたい放題してたのは貴方の方ではありませんか?』
机を蹴飛ばしていた足を降ろし、腕を組み見降ろす。
『まぁ、今はそんな事はどうでもいいです。それよりも、貴方の大事な孫を助ける為に人をあの場所へ回して下さい』
『孫を助けるじゃと?』
『…一から説明しないと解らないんですか?』
はぁと大きい溜息をこれ見よがしについてみると、猪塚先輩の祖父ちゃんはそこでやっと私達の周りに猪塚先輩がいない事に気付いた。
『小娘っ!要はどうしたっ!?』
『見て解りません?いませんよ』
『貴様っ、要を、自分の夫を見捨てたのかっ!』
その言葉に私は素直にカチンと来た。
なに、その言い種っ!
『そもそも貴方が私と猪塚先輩を一緒に攫わなければこんな事にはならなかったんですよっ!!自分の孫の性格も解らないんですかっ!?猪塚先輩が女性を見捨てられる訳がないでしょうっ!!』
『うぬぬっ』
『うぬぬっ、じゃないわよっ!!良いからさっさと人をあの建物に向かわせなさいっ!!最後のトラップ、鰐に猪塚先輩は飛び込んで行ったのよっ!私達の代わりにっ!!』
『なんじゃとっ!?』
『驚くのは後で良いって言ってるでしょうっ!?』
さっさと動けっ!!
猪塚先輩を助けに行けっ!!
今こんな事で時間を使っている場合じゃないのっ!!
私は何度もそう言ったけれど、爺は動かない。
なんなの、この爺っ。
孫が可愛くないのっ!?心配してたのもただのフリっ!?
だったら、私にも考えがあるんだけど…?
『これだけ言っても動かないのね?』
『……』
爺は私を睨み付けるのみ。
『…そう。ならもう良いわ』
こんな話の通じない爺ならこうしてるだけ時間の無駄だわ。
パチンと指を鳴らし、もう一度真珠さんを呼ぶ。
「御呼びですか?お嬢様」
「ここを壊滅させ、そこの爺をママの実家の牢へぶち込むから準備して」
「はっ。かしこまりました」
また直ぐに動き姿を消した真珠さんを見届けてから私はもう一度携帯電話を手に取りある場所へと連絡する。
ある場所とは勿論、
「…あ、源お祖父ちゃん?」
『おおー、美鈴かー。どうしたー?祖父ちゃんが恋しくなったかー?』
「ううん、そうじゃなくてー」
『そうじゃないんかー…』
「実はねー?」
『ふむ?』
私はざっくりと状況を説明する。すると、源お祖父ちゃんが電話を変われと言ってきた。
え?誰と?…猪塚先輩の祖父ちゃんと?
良く解らないけど言われた通り電話を渡すと、怪訝そうな顔をしながらも電話を受け取り、最初は困惑。次に喜び、最後に焦りに変わり最終的に頭を抱えて電話だけ戻された。
いや、これ私の電話じゃないんだけど、ま、まぁいいか。
けど、あれ?さっきと様子がまるで違うんだけど…?
「一体どう言う事?」
『ガブちゃんにはしっかり言うたから安心せい。それより美鈴。祖父ちゃんと話をせんかー?久しぶりに話を』
「うんうん。後でねー」
通話切断、と。
はて?
源お祖父ちゃんのガブちゃんとは?
私が視線を猪塚先輩の祖父ちゃんへと戻すと、そこには未だ頭を抱えて考え込んでいる姿があった。
『まさか、ゲンちゃんの孫だったとは…だが…ここまでして、いや、…でも』
何かブツブツ言ってるなー?
かと思えばいきなり立ち上がり、懐から携帯電話を取りだすと素早く誰かと連絡を取っている。
『いいから早く行けっ!!儂の命令だっ!』
命令?
何の事?
『儂の孫を助けに行くのじゃっ!でないとっ』
あ、やっと人を動かしてくれる気になってくれたっ!
嬉しくて私が猪塚先輩の祖父ちゃんに話かけようとした、その時。
『その必要はありません』
声がした。
この声は…この声はっ!
「棗お兄ちゃんっ!!」
私は嬉しくて嬉しくて。
勢いよく振り返るとそこには私に向かって微笑む棗お兄ちゃんと、
「もしかしてその肩の俵…じゃなくて人は…猪塚先輩っ!?」
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