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最終章 数多の未来への選択編
※※※
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どうにかこうにか。
『んーっ!』
最後アウローラさんを引っ張り上げて、私達はどうにか観戦室に戻ってくる事が出来た。
水も恐らく調度いい位で止まってる。
後は、猪塚先輩だっ。
私は急いで猪塚先輩のいる叩き割った窓の方へと駆け寄る。
すると、猪塚先輩も流石でちょうどこっちに飛び移ろうとしている瞬間だった。
「猪塚先輩っ」
私が名を呼ぶと猪塚先輩は直ぐに気付いてくれて観戦室に跳んできた。
『猪塚先輩っ。良かった、無事でっ』
『それはこっちのセリフですっ。白鳥さんこそ無事で良かった…』
手を伸ばそうとしたけど、流石の身体能力できっちり着地してくれる。
『どこも怪我はありませんか?』
『それはこっちのセリフだよ。何処も怪我してない?かぶれたりは?』
緑色の球体が色んな意味で危険そうだったから問うと、大丈夫だとハッキリ答えてくれた。
ホッと一安心。
さて、色々事情を知るにもまずはここから出ないと。
『マリアさん。ここから出るにはどうすればいいか解りますか?』
『この部屋からと言う意味なら、そちらから』
言って指さしたのは奥のドア。
『だけど』
『だけど?』
『この建物から出ると言う意味ならば、反対です』
言いながら指さしたのは、恐らく私を攫って来た時に入って来たドア。
『でもそっちは』
『白鳥総帥が以前やったブロックが落ちてくる場所、ありますよね?』
『うん』
『そちらの部屋をステージ10までクリアしたら脱出経路が現れます』
『それって…』
本当なの?
と出かかった言葉を飲みこんだ。
マリアさんの目は真剣で嘘を言っている様には見えないからだ。
となると、騙されている可能性がある。
だって、あそこ手動でやってたんだよ?
それをステージ10までって、下でゲームしてる人間も上でブロックを落としている人間も疲労困憊で死んでしまう。
『白鳥さん。彼女は何て?』
『あ、あぁ、そうか。あのね?』
マリアさんの言葉を私は猪塚先輩にイタリア語で通訳する。
良く考えたら他の三人も解らないか。
三人にも通訳するように声を少し大きめにして通訳すると、三人が首を傾げた。
『私が聞いたのと違うわ』
『私も』
『私も違う』
『…どゆこと?』
もっと情報を交換する必要がありそうだ。
『……女性が五人か。守り切れるか?』
ぼそりと猪塚先輩が呟いた。
『大丈夫だよ。猪塚先輩。私達そこまで弱くないから。ただ、男性が来たら相手お願い』
『それは勿論守るに決まってるっ!』
猪塚先輩が任せてと胸を張る。
ふと思う。
猪塚先輩ってお兄ちゃん達に隠れてしまって解り辛いけど実は強いんだよね。
そもそも攻略対象者で御曹司組の中の喧嘩番長担当だった訳だし。
今はゲームの時の面影は殆どないに等しくなっちゃったけど、それでも喧嘩の強さは健在な訳で。
猪塚先輩が良い方に変化してくれたのが嬉しい。
『頼りにしてるね。猪塚先輩』
にこにこ微笑んで言うと。
「………くぁわぃぃ…っ!!」
…なんだって?
今猪塚先輩は何語を発音した?日本語?イタリア語?何て言ったの?…わからん。
『口を挟んでいいかしら?』
『あぁ、そうだった。…前に進むか後ろに進むか、だよね。因みに皆はどっちが出口って聞いてるの?因みにこの建物を出るって意味でね』
訊ねるとお姉様方の意見は真っ二つ。
マリアさんはさっきも言ってたように来た道のあるドアを。同じくソフィアさんもそちらを指さす。
逆にアウローラさんとジュリアさんはまだ行った事の無い道を指さしていた。
『…どっちだろう?』
『詳しく聞きたいんだけど、そんな時間もなさそうなんだよね』
私はそっと視線をガラス窓の外へと向けた。
どちらもどんどん球体が詰み上がって行っている。しかも落ちて来たのが勝手に三つくっ付いて消えて行っている物もあるから水位も上がって来ている。
簡潔に言うとヤバい。
『…一先ず進んでみようか。マリアさんが言うように、この部屋を出るにはあっちのドアだと言われたなら、逆のドアは開かない可能性もあるもの』
『僕は白鳥さんの意見に従うよ』
『じゃあ一先ず皆あっちに行こうっ』
言って私は走りだす。イタリア語で会話しているから、マリアさんの手を取って走る。
ドアを開けてその部屋を出るとそこは今まで見たような普通の廊下に出た。
キョロキョロと周囲を確認。
特に怪しい物や場所はなさそうだ。
かと言って、どこか休める場所…ってのもなさそうだし。
仕方なく私達はドアの前で円を作って休むことにした。
室内じゃなきゃたき火作ってた所だわ。
『それじゃあ、情報のすり合わせをしよう』
『マリアさんには私が通訳するから安心してね』
『ここにいて水が来たりしないかしら?』
『それは大丈夫でしょう。あの場から人がいなくなった時点でゲームクリア、もしくは終了って事になってるだろうから』
『そ、そう。なら良かったわ』
『それじゃあ、まずそちらから話を聞いても良い?どうして、私を…正しくは猪塚先輩を誘拐したのか。大体の想像はついてるけど一応ね』
『想像ついてるって白鳥さん?』
突っ込みたいのは解るけど今は話を聞こうか、猪塚先輩。
口元に人差し指を当てて、シーッと伝えると、猪塚先輩が赤い顔をして全力で頷いた。猪塚先輩、お熱?
えっと…猪塚先輩はおいといて、きっと話しやすいのはマリアさんだよね。
私はマリアさんにまず問いかけた。
『マリアさんは、上司になんて言われたの?どうして、人を誘拐するような事をしたの?』
『私の家は、工場を経営しているの。昔ながらの玩具…積み木を作っているのよ』
『へぇ~っ。どんな?どんな?』
『え?どんなってちょっと待ってね』
マリアさんは携帯を取りだして手早く操作すると画像を見せてくれた。おぉ、デザインもシンプルなモノからキャラクターモノまで多種多様。
『可愛いっ』
『でしょう?お父さんは幼児向けにこの積み木を作る事に生き甲斐を感じていたの。そんなお父さんを私は尊敬していたし一人娘の私はその跡を継ごうと思っていたわ。だけど、急にある企業から圧力がかけられたの』
『圧力…』
『日本の企業で、しかもその人達は白鳥財閥と名乗っていたわ』
『へぇ…?おかしいわね?私はそんな風に言う社員を雇っていた覚えはないのだけれど』
ヒョオオオオ…。
私の周囲に吹雪が見える?気の所為でしょ。うふふふふ…。
『そ、それで、私達の上司が声をかけてくれたの。自分の所の坊ちゃんと結婚してくれたら、助かるって。助けてくれるって』
『……ふぅん』
ゴオオオオオ…。
え?私の背中に鬼が見える?気の所為だって。ウフフフフ…。
『でも、坊ちゃんは私に会う前に結婚してしまったと。しかも脅されるように結婚したんだって上司が聞いて。しかも、私の他にも婚約者に名を上げた女がいるって聞いて。どうしたらいいかと慌てた私に上司が婚約者候補は他にもいるが私が一番だって。だからまずは脅すように結婚した白鳥のお嬢様をどうにかすべきだって。だからここに連れ込んで息の根を止めろって言われて』
『成程、ね…』
ピシャァンッ!!
何処かに雷が落ちた?私の後ろ?まさかまさか、気の所為に決まってるじゃない。おほほほほっ。
『私も同じよ。私も実家を救う為っ』
『私もっ』
『私もよっ。だから、私達は皆で手を組んでまずは貴女をどうにかしようと』
『人を殺すなんて無理だから、せめて再起不能にしようと』
『だけど、やっぱり出来ないし。頑張って行動したら間違っちゃうし』
『もう、諦めるしかないのって思って…』
四人が四人共肩を落として泣き始めてしまった。
『…酷いな。そもそもその坊ちゃん?とか言う男も良い奴かなんて解らないのに』
『う~ん。まぁ、悪い人でもないけどね。ちょっと真っ直ぐ過ぎて、ちょっとカーブを知らなくて、ちょーっと人の話を聞かないくらいで』
『え?白鳥さん、その坊ちゃんを知ってるのっ?』
うん、まぁ、誰しも皆気付くよね。
私達女は一斉に猪塚先輩に視線をぶつけた。
全員の視線が自分に集まった事で、猪塚先輩の顔色は段々と悪くなり、だらだらと冷汗をかきはじめた。
『……ぼ、く?』
『です。私が猪塚先輩と結婚した事により、彼女達は助かる術を失った、って事です』
『えええっ!?』
『とは言えど。明らかにおかしな所ばっかりです。まず第一に、最初に圧力をかけた企業。それはうちではありません。と言うか、そんな事してたら私が率先してこの財閥を消滅させます』
にっこり。
えぇ、責任もって消しますとも。
そんな害悪な企業は要らない。必要ない。
『そしてそれを行ったのが、知り合いの企業、提携先の企業、白鳥に関する企業である限り、その企業も潰します』
にっこり。
隣で猪塚先輩が真っ青になっているけれど、放置。
『私はそこまで徹底しています、が。それは私の代になってからの話。もしそれが祖父、白鳥順一朗の世代だと話は変わってくるんだけど…どうなんだろう?ねぇ、猪塚先輩?』
『な、何かな?』
『うちのイカレタ祖父と猪塚先輩のお祖父ちゃんは関係あったのかな?』
『え?なんでお祖父ちゃん?』
『なんでって、この一連の流れは猪塚先輩のお祖父ちゃんが首謀者だよ?』
『えええええっ!?』
『まぁ、確かに身内がこんなことするとは思わないもんねー。うんうん。解る解る』
しっかりと頷いておく。
祖父ちゃんに面倒をかけられるのはもう孫の宿命なのかしら?
『…僕のお祖父ちゃんと白鳥さんのお祖父ちゃん?白鳥さんのお祖父ちゃんってあれだよね?昔、一騒動起こした』
『そうそう。ビルで爆弾騒ぎ起こしたアレ』
『いや、ないと思うけど…そもそも僕のお祖父ちゃんは』
『うん。まぁ、そうだよね。だとしたら、最初の圧をかけた辺りから全部猪塚先輩の祖父ちゃんの仕業確定だね。自分の可愛い孫が自分の選んだ嫁じゃない、しかも威張り散らしている女を選んだって思ってるんじゃない?』
『……祖父ちゃん』
ぐしゃっと地面に崩れ落ちた猪塚先輩だった。
そんな先輩を無視して私は考える。まず絶対的に必要なのは。
『一先ず、さっきも伝えたようにここから出たら、皆の実家は私が責任を持って助けます。最初は買い取る形になるかもしれないけど、傘下に入るのが嫌だったら直ぐにそちらに戻すから安心してね』
『本当にっ!?』
『うん。結婚も…えーっと、皆に恋人とかは?』
『実は…います』
『私も…』
『私なんて本当は既婚者です』
アウローラさんの発言が皆に沈黙をもたらす。
そらそうだ。
って言うか既婚者でもいいんかいっ!猪塚先輩の祖父ちゃんはっ!
『…お祖父ちゃん…?』
あ、猪塚先輩が復活した。
額に怒りマークを浮かべて。
『私はいません。けど…正直坊ちゃんは好みじゃないんです』
マリアさんの断言。
それに三人が頷く。
あ、あの、それ以上は言わないであげて。猪塚先輩が死んじゃう。
『なら婚約の話も全て白紙に戻しましょうっ!』
嬉しそうに四人の目が輝く。
美人さんだから皆とても綺麗だった。
『今は口約束だけだけど、必ず書面にして渡すからね。猪塚先輩。ちゃんと承認になってね。後日、私の兄達と一緒に彼女達の実家回って貰うからね』
『解りました』
『さて、じゃあ信用して貰いたいし、私達の状況も掻い摘んで説明するね』
私はなるべく短く解りやすく端的に現状を四人に教えた。
とは言えお姉様方にはほぼ関係ない内容だ。理解してくれなくてもいい。
あ、でも男性恐怖症って事だけは理解して欲しいっ。説にっ!
『…実家が盾にされないと分かった今』
『あの人達に従う理由はないわ』
『だったら一時でも上司になる貴女を』
『私達は全力で守るわ。普通の男達からなら幾らでもっ!』
やだ、カッコいい。
お姉様達に惚れそうだわっ!
嬉しくて笑うと、お姉様方もとても綺麗な笑みを浮かべてくれた。
『じゃあ、結束も高まった所で、次の行動に関してなんだけど』
『まずこの場所から脱出しなきゃいけないよね?』
『うん。でも皆が言うには脱出する場所や条件が違うみたいなんだよね?』
問うと四人は顔を見合わせ頷く。
『さっきマリアさんはブロックパズルの所をステージ10までクリアしろって言ってたよね?』
『それ、私は今いた球体パズルの所をステージ10までクリアしろって聞いたわ』
『私はブロックパズルをステージ5までクリアしろって言われた』
『私は球体パズルをステージ5までって』
『見事にバラバラだね』
『でもさっきも思ったんだけど、ブロックパズルは手動だよ?ステージ10って無理があると思うの』
『それは、確かに』
『で、今の球体パズル。あれもそのままだと水責めにならない?クリアより先に溺れると思うんだけど』
私の言葉に皆が青褪める。
だよねぇ?
普通に考えると先に待つのは過労死か溺死か、ってなっちゃう。
『でも、パズルをクリアするまでは出られない、これは間違いない様な気がするんだよね』
『…?どう言う事?白鳥さん』
『これを言うとお姉様方を脅かす事になっちゃうかもしれないんだけどね?多分、本当の事を言ってはいるけれど、脱出をさせない為には、って事だと思うの』
『それはつまり、四人が言った脱出方法を、実行する場所が別にあるって事ですか?』
『そう。そうすれば、彼女の上司達は【自分達は脱出する方法を教えていた】が【実行しなかったのは彼女達】だと言い訳する事が出来る』
『……卑怯すぎる』
『絶対次のパズルの場所があるはず。まずはそこに行こう』
立ち上がり言うと、皆も頷いて立ち上がってくれた。
絶対絶対脱出して、猪塚先輩の祖父ちゃんにお仕置きしてやるんだからーっ!!
心の中で叫びつつ、私は足を動かした。
『んーっ!』
最後アウローラさんを引っ張り上げて、私達はどうにか観戦室に戻ってくる事が出来た。
水も恐らく調度いい位で止まってる。
後は、猪塚先輩だっ。
私は急いで猪塚先輩のいる叩き割った窓の方へと駆け寄る。
すると、猪塚先輩も流石でちょうどこっちに飛び移ろうとしている瞬間だった。
「猪塚先輩っ」
私が名を呼ぶと猪塚先輩は直ぐに気付いてくれて観戦室に跳んできた。
『猪塚先輩っ。良かった、無事でっ』
『それはこっちのセリフですっ。白鳥さんこそ無事で良かった…』
手を伸ばそうとしたけど、流石の身体能力できっちり着地してくれる。
『どこも怪我はありませんか?』
『それはこっちのセリフだよ。何処も怪我してない?かぶれたりは?』
緑色の球体が色んな意味で危険そうだったから問うと、大丈夫だとハッキリ答えてくれた。
ホッと一安心。
さて、色々事情を知るにもまずはここから出ないと。
『マリアさん。ここから出るにはどうすればいいか解りますか?』
『この部屋からと言う意味なら、そちらから』
言って指さしたのは奥のドア。
『だけど』
『だけど?』
『この建物から出ると言う意味ならば、反対です』
言いながら指さしたのは、恐らく私を攫って来た時に入って来たドア。
『でもそっちは』
『白鳥総帥が以前やったブロックが落ちてくる場所、ありますよね?』
『うん』
『そちらの部屋をステージ10までクリアしたら脱出経路が現れます』
『それって…』
本当なの?
と出かかった言葉を飲みこんだ。
マリアさんの目は真剣で嘘を言っている様には見えないからだ。
となると、騙されている可能性がある。
だって、あそこ手動でやってたんだよ?
それをステージ10までって、下でゲームしてる人間も上でブロックを落としている人間も疲労困憊で死んでしまう。
『白鳥さん。彼女は何て?』
『あ、あぁ、そうか。あのね?』
マリアさんの言葉を私は猪塚先輩にイタリア語で通訳する。
良く考えたら他の三人も解らないか。
三人にも通訳するように声を少し大きめにして通訳すると、三人が首を傾げた。
『私が聞いたのと違うわ』
『私も』
『私も違う』
『…どゆこと?』
もっと情報を交換する必要がありそうだ。
『……女性が五人か。守り切れるか?』
ぼそりと猪塚先輩が呟いた。
『大丈夫だよ。猪塚先輩。私達そこまで弱くないから。ただ、男性が来たら相手お願い』
『それは勿論守るに決まってるっ!』
猪塚先輩が任せてと胸を張る。
ふと思う。
猪塚先輩ってお兄ちゃん達に隠れてしまって解り辛いけど実は強いんだよね。
そもそも攻略対象者で御曹司組の中の喧嘩番長担当だった訳だし。
今はゲームの時の面影は殆どないに等しくなっちゃったけど、それでも喧嘩の強さは健在な訳で。
猪塚先輩が良い方に変化してくれたのが嬉しい。
『頼りにしてるね。猪塚先輩』
にこにこ微笑んで言うと。
「………くぁわぃぃ…っ!!」
…なんだって?
今猪塚先輩は何語を発音した?日本語?イタリア語?何て言ったの?…わからん。
『口を挟んでいいかしら?』
『あぁ、そうだった。…前に進むか後ろに進むか、だよね。因みに皆はどっちが出口って聞いてるの?因みにこの建物を出るって意味でね』
訊ねるとお姉様方の意見は真っ二つ。
マリアさんはさっきも言ってたように来た道のあるドアを。同じくソフィアさんもそちらを指さす。
逆にアウローラさんとジュリアさんはまだ行った事の無い道を指さしていた。
『…どっちだろう?』
『詳しく聞きたいんだけど、そんな時間もなさそうなんだよね』
私はそっと視線をガラス窓の外へと向けた。
どちらもどんどん球体が詰み上がって行っている。しかも落ちて来たのが勝手に三つくっ付いて消えて行っている物もあるから水位も上がって来ている。
簡潔に言うとヤバい。
『…一先ず進んでみようか。マリアさんが言うように、この部屋を出るにはあっちのドアだと言われたなら、逆のドアは開かない可能性もあるもの』
『僕は白鳥さんの意見に従うよ』
『じゃあ一先ず皆あっちに行こうっ』
言って私は走りだす。イタリア語で会話しているから、マリアさんの手を取って走る。
ドアを開けてその部屋を出るとそこは今まで見たような普通の廊下に出た。
キョロキョロと周囲を確認。
特に怪しい物や場所はなさそうだ。
かと言って、どこか休める場所…ってのもなさそうだし。
仕方なく私達はドアの前で円を作って休むことにした。
室内じゃなきゃたき火作ってた所だわ。
『それじゃあ、情報のすり合わせをしよう』
『マリアさんには私が通訳するから安心してね』
『ここにいて水が来たりしないかしら?』
『それは大丈夫でしょう。あの場から人がいなくなった時点でゲームクリア、もしくは終了って事になってるだろうから』
『そ、そう。なら良かったわ』
『それじゃあ、まずそちらから話を聞いても良い?どうして、私を…正しくは猪塚先輩を誘拐したのか。大体の想像はついてるけど一応ね』
『想像ついてるって白鳥さん?』
突っ込みたいのは解るけど今は話を聞こうか、猪塚先輩。
口元に人差し指を当てて、シーッと伝えると、猪塚先輩が赤い顔をして全力で頷いた。猪塚先輩、お熱?
えっと…猪塚先輩はおいといて、きっと話しやすいのはマリアさんだよね。
私はマリアさんにまず問いかけた。
『マリアさんは、上司になんて言われたの?どうして、人を誘拐するような事をしたの?』
『私の家は、工場を経営しているの。昔ながらの玩具…積み木を作っているのよ』
『へぇ~っ。どんな?どんな?』
『え?どんなってちょっと待ってね』
マリアさんは携帯を取りだして手早く操作すると画像を見せてくれた。おぉ、デザインもシンプルなモノからキャラクターモノまで多種多様。
『可愛いっ』
『でしょう?お父さんは幼児向けにこの積み木を作る事に生き甲斐を感じていたの。そんなお父さんを私は尊敬していたし一人娘の私はその跡を継ごうと思っていたわ。だけど、急にある企業から圧力がかけられたの』
『圧力…』
『日本の企業で、しかもその人達は白鳥財閥と名乗っていたわ』
『へぇ…?おかしいわね?私はそんな風に言う社員を雇っていた覚えはないのだけれど』
ヒョオオオオ…。
私の周囲に吹雪が見える?気の所為でしょ。うふふふふ…。
『そ、それで、私達の上司が声をかけてくれたの。自分の所の坊ちゃんと結婚してくれたら、助かるって。助けてくれるって』
『……ふぅん』
ゴオオオオオ…。
え?私の背中に鬼が見える?気の所為だって。ウフフフフ…。
『でも、坊ちゃんは私に会う前に結婚してしまったと。しかも脅されるように結婚したんだって上司が聞いて。しかも、私の他にも婚約者に名を上げた女がいるって聞いて。どうしたらいいかと慌てた私に上司が婚約者候補は他にもいるが私が一番だって。だからまずは脅すように結婚した白鳥のお嬢様をどうにかすべきだって。だからここに連れ込んで息の根を止めろって言われて』
『成程、ね…』
ピシャァンッ!!
何処かに雷が落ちた?私の後ろ?まさかまさか、気の所為に決まってるじゃない。おほほほほっ。
『私も同じよ。私も実家を救う為っ』
『私もっ』
『私もよっ。だから、私達は皆で手を組んでまずは貴女をどうにかしようと』
『人を殺すなんて無理だから、せめて再起不能にしようと』
『だけど、やっぱり出来ないし。頑張って行動したら間違っちゃうし』
『もう、諦めるしかないのって思って…』
四人が四人共肩を落として泣き始めてしまった。
『…酷いな。そもそもその坊ちゃん?とか言う男も良い奴かなんて解らないのに』
『う~ん。まぁ、悪い人でもないけどね。ちょっと真っ直ぐ過ぎて、ちょっとカーブを知らなくて、ちょーっと人の話を聞かないくらいで』
『え?白鳥さん、その坊ちゃんを知ってるのっ?』
うん、まぁ、誰しも皆気付くよね。
私達女は一斉に猪塚先輩に視線をぶつけた。
全員の視線が自分に集まった事で、猪塚先輩の顔色は段々と悪くなり、だらだらと冷汗をかきはじめた。
『……ぼ、く?』
『です。私が猪塚先輩と結婚した事により、彼女達は助かる術を失った、って事です』
『えええっ!?』
『とは言えど。明らかにおかしな所ばっかりです。まず第一に、最初に圧力をかけた企業。それはうちではありません。と言うか、そんな事してたら私が率先してこの財閥を消滅させます』
にっこり。
えぇ、責任もって消しますとも。
そんな害悪な企業は要らない。必要ない。
『そしてそれを行ったのが、知り合いの企業、提携先の企業、白鳥に関する企業である限り、その企業も潰します』
にっこり。
隣で猪塚先輩が真っ青になっているけれど、放置。
『私はそこまで徹底しています、が。それは私の代になってからの話。もしそれが祖父、白鳥順一朗の世代だと話は変わってくるんだけど…どうなんだろう?ねぇ、猪塚先輩?』
『な、何かな?』
『うちのイカレタ祖父と猪塚先輩のお祖父ちゃんは関係あったのかな?』
『え?なんでお祖父ちゃん?』
『なんでって、この一連の流れは猪塚先輩のお祖父ちゃんが首謀者だよ?』
『えええええっ!?』
『まぁ、確かに身内がこんなことするとは思わないもんねー。うんうん。解る解る』
しっかりと頷いておく。
祖父ちゃんに面倒をかけられるのはもう孫の宿命なのかしら?
『…僕のお祖父ちゃんと白鳥さんのお祖父ちゃん?白鳥さんのお祖父ちゃんってあれだよね?昔、一騒動起こした』
『そうそう。ビルで爆弾騒ぎ起こしたアレ』
『いや、ないと思うけど…そもそも僕のお祖父ちゃんは』
『うん。まぁ、そうだよね。だとしたら、最初の圧をかけた辺りから全部猪塚先輩の祖父ちゃんの仕業確定だね。自分の可愛い孫が自分の選んだ嫁じゃない、しかも威張り散らしている女を選んだって思ってるんじゃない?』
『……祖父ちゃん』
ぐしゃっと地面に崩れ落ちた猪塚先輩だった。
そんな先輩を無視して私は考える。まず絶対的に必要なのは。
『一先ず、さっきも伝えたようにここから出たら、皆の実家は私が責任を持って助けます。最初は買い取る形になるかもしれないけど、傘下に入るのが嫌だったら直ぐにそちらに戻すから安心してね』
『本当にっ!?』
『うん。結婚も…えーっと、皆に恋人とかは?』
『実は…います』
『私も…』
『私なんて本当は既婚者です』
アウローラさんの発言が皆に沈黙をもたらす。
そらそうだ。
って言うか既婚者でもいいんかいっ!猪塚先輩の祖父ちゃんはっ!
『…お祖父ちゃん…?』
あ、猪塚先輩が復活した。
額に怒りマークを浮かべて。
『私はいません。けど…正直坊ちゃんは好みじゃないんです』
マリアさんの断言。
それに三人が頷く。
あ、あの、それ以上は言わないであげて。猪塚先輩が死んじゃう。
『なら婚約の話も全て白紙に戻しましょうっ!』
嬉しそうに四人の目が輝く。
美人さんだから皆とても綺麗だった。
『今は口約束だけだけど、必ず書面にして渡すからね。猪塚先輩。ちゃんと承認になってね。後日、私の兄達と一緒に彼女達の実家回って貰うからね』
『解りました』
『さて、じゃあ信用して貰いたいし、私達の状況も掻い摘んで説明するね』
私はなるべく短く解りやすく端的に現状を四人に教えた。
とは言えお姉様方にはほぼ関係ない内容だ。理解してくれなくてもいい。
あ、でも男性恐怖症って事だけは理解して欲しいっ。説にっ!
『…実家が盾にされないと分かった今』
『あの人達に従う理由はないわ』
『だったら一時でも上司になる貴女を』
『私達は全力で守るわ。普通の男達からなら幾らでもっ!』
やだ、カッコいい。
お姉様達に惚れそうだわっ!
嬉しくて笑うと、お姉様方もとても綺麗な笑みを浮かべてくれた。
『じゃあ、結束も高まった所で、次の行動に関してなんだけど』
『まずこの場所から脱出しなきゃいけないよね?』
『うん。でも皆が言うには脱出する場所や条件が違うみたいなんだよね?』
問うと四人は顔を見合わせ頷く。
『さっきマリアさんはブロックパズルの所をステージ10までクリアしろって言ってたよね?』
『それ、私は今いた球体パズルの所をステージ10までクリアしろって聞いたわ』
『私はブロックパズルをステージ5までクリアしろって言われた』
『私は球体パズルをステージ5までって』
『見事にバラバラだね』
『でもさっきも思ったんだけど、ブロックパズルは手動だよ?ステージ10って無理があると思うの』
『それは、確かに』
『で、今の球体パズル。あれもそのままだと水責めにならない?クリアより先に溺れると思うんだけど』
私の言葉に皆が青褪める。
だよねぇ?
普通に考えると先に待つのは過労死か溺死か、ってなっちゃう。
『でも、パズルをクリアするまでは出られない、これは間違いない様な気がするんだよね』
『…?どう言う事?白鳥さん』
『これを言うとお姉様方を脅かす事になっちゃうかもしれないんだけどね?多分、本当の事を言ってはいるけれど、脱出をさせない為には、って事だと思うの』
『それはつまり、四人が言った脱出方法を、実行する場所が別にあるって事ですか?』
『そう。そうすれば、彼女の上司達は【自分達は脱出する方法を教えていた】が【実行しなかったのは彼女達】だと言い訳する事が出来る』
『……卑怯すぎる』
『絶対次のパズルの場所があるはず。まずはそこに行こう』
立ち上がり言うと、皆も頷いて立ち上がってくれた。
絶対絶対脱出して、猪塚先輩の祖父ちゃんにお仕置きしてやるんだからーっ!!
心の中で叫びつつ、私は足を動かした。
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1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
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2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
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