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最終章 数多の未来への選択編

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「お茶、のみ、まスか?」
『いえ、結構ですよ。それに無理に日本語で話さなくても私イタリア語話せますよ』
「……?」
あれ?私を担いでここに駆け込んだお姉さんが首を傾げてるよ?
私イタリア語使い方間違ってたかな?それとももしかしてお姉さんイタリア語話せない?
『イタリア語で大丈夫、だそうよ?』
もう一人のお姉さんが通訳してくれた。通訳してくれた言葉はスペイン語?
成程。お姉さんはスペインの人なんだね。
『スペイン語の方が良いですか?』
にっこり笑って言うと、
『『えっ!?』』
二人のお姉さんが振り返った。
『それからお茶は今はいりません。お水を飲んだので。そんな事よりも、何故私はここに連れて来られたのでしょう?』
にっこり再び。
笑顔で圧。
『えっと…?』
おう、スペイン語だけだと周りに伝わらないね。
私は座らされた椅子で姿勢を正して、周囲をぐるっと見回した。
全員で四人。一人リーダーっぽいブラウンのウェーブ髪を一纏めにしたボンキュッボンのお姉さん。
一人は私を担いだ黒髪ショートのスペイン語を話すお姉さん。
もう一人は、金色ストレート髪の細身のお姉さん。
そして最後に赤茶の腰まである髪を一本の三つ編みにしてる身長がちょっと低めのお姉さん。
以上の四人。皆共通して黒スーツに黒ネクタイ、黒手袋とSPを彷彿とさせる恰好をしている。黒のパンプスで走れる技術、凄いよね。
でもね。
私もね。こう…総帥生活も結構長い事してきて、しかも前世からこっち襲われる回数の方が普通に過ごす日数より多いんじゃないか?と言う生活を送ってきた身としてはね?
『…もう一度問いましょうか。何故、私はここに連れて来られたのでしょう?』
イタリア語でハッキリと。
にっこりと微笑みながら問う。
笑顔で圧っ!
棗お兄ちゃんの得意技っ!どやっ!!
…鴇お兄ちゃんもやってるか。葵お兄ちゃんもしてる?…棗お兄ちゃんの得意技改め白鳥家の秘奥義っ!!どやっ!!
『……お答えしかねます』
おや?リーダーなお姉さんが、圧返ししてきたぞ?
ふふふ…でも弱い弱い。私に圧返ししたいのであればママ位の迫力を持ってこないと。
『お答しかねます、かぁ…。私にはそれを知る権利もない、と?』
『……』
『……舐められたものだわ。私を白鳥の総帥と知った上で、貴女方の上司はそう言っているのよね?』
『お嬢様はただの跡継ぎでございましょう?跡を継いでいない人間はまだその権威を持ってはいません』
『あら?それは失礼致しました。改めて自己紹介しましょう』
私はスッと椅子から立ち上がり、いつも会社の皆の前に立つように背を伸ばし言った。
『前白鳥財閥総帥白鳥良子から、継承され総帥として暫く経営しておりました白鳥美鈴と申します。以後お見知りおきを』
目を細めて私はそこにいる四人を部下を見る視線で見降ろす。
『我々の様な者には情報は命と同意。この程度のこと、日本の企業ではある程度の常識だと思っておりましたが、貴女方の上司はそれすらも認識していないの様子。そんな事だから猪塚グループはハッキング。情報を抜き取られるのです』
『ッ!?』
『気付かないとお思いですか?私は貴女方が私を攫った時点で理解しておりましたよ。こんな事をしたのが誰かと言う事を』
『そ、それはっ』
『更に言えば、きっと貴女方の上司が攫えと言ったのは、猪塚グループの御曹司であるお坊ちゃんの方で、私ではない筈です』
『『『『えっ!?』』』』
あらー?四人共キョトンとしてるー。
『…はぁ。指示をもう一度確認してみてください』
私に言われて四人はおずおずと携帯を取りだして指示を読み直した。
『…ドンから指示が出た。速やかに白鳥の娘を隔離せよ、としか…』
『間違っていない』
『本当に?例えば、その指示の画面はスクロール出来たりしません?』
『スクロール……あっ!!』
やっぱりね。
絶対詳細な指示ってあると思ったんだよ。
『白鳥の娘はPの部屋へ誘導。坊ちゃまは観戦室にて保護』
全く逆じゃない。
多分私がいるここが観戦室なんだろう。
両サイドに大きめな窓があるし。
……あの、お姉さま方?私の方を見てどうしようとか疑問の視線を投げつけられても、私被害者の方なので答えは出せませんよ?
じー…と音が聞こえそうな視線から、えぐえぐと涙の音に切り替わって行く。
いや、だからね?
そんな視線をぶつけられてもさ。
じゃあ私自分から罠にかかりにいきまーすなんて言える訳な…あれ?
右側の窓の方から何か音が聞こえた。
私は急いでそちらへ駆け寄ると、そこには猪塚先輩の姿がっ。
えっ!?ちょっと待ってっ、猪塚先輩落ち着いてっ!
あ、うん、そうっ。それで良いっ!今までと同じだからっ。こっちの方に来たら絶対また閉じ込められるからっ!
足を止めた猪塚先輩にホッとしてると、猪塚先輩がこっちを見た。
あ、ヤバ…嫌な予感が…。
『白鳥さんっ』
駆け寄って来ちゃったよーっ!!
来るなーっ!と窓ガラスを叩いて意思表示するも、猪は直進するものなんだよね…。
あうー…。
がっくりと肩を落とす。猪塚先輩って本当、私の声が届かないよねー…。
……ん?
あれ?
猪塚先輩の後ろに何か落ちたっ!?
おっきい球体っ。
何あれっ!
しかも猪塚先輩気付いてないしっ!
届けーっ!私の叫びーっ!!
『猪塚先輩、後ろっ、後ろーっ!』
必死にジェスチャー交えて後ろに何かあるぞーっと伝えると、察してくれた猪塚先輩が振り返った。
あ、うん。戸惑うよね。そりゃそうだ。
って言うか、あれ、なんだろう…?
……もしかして、あれかな?私やお兄ちゃん達が昔やりまくったゲーム?
だってブロック積みもあの有名ゲームなら、今度だって。
……猪塚先輩、解るかな?解ってくれるかな?
三つ同じ色をくっつければ消えると思うの。
大きさが大きさだし、多分上に積んでいくって事はないと思うから、落ちて来た物をちゃんとくっつければ余裕でクリア出来るはず。
心配で窓から私は猪塚先輩の動向を見守る。
あ、猪塚先輩が黄色の球体に、うんっ!?
あれっ、今光らなかったっ!?
「もしかして、電流でも通ってるのっ?」
そのパターンで言えば、じゃあ青は冷気、今落ちて来た赤は熱、ってのが定石っ。
猪塚先輩の動きを見ると、それは間違いなさそうだ。
でもじゃあ、緑は?
動きを見ていると、何かが手につき痒そうにしている。
は?緑は痒み?かぶれるって事?
猪塚先輩っ、手は使っちゃ駄目だよっ!
そんな謎物質に遠慮する事ないっ!足で蹴っちゃえっ!
で、三つ、今ある青を三つくっつけてっ!そうっ!それでオッケーっ!!
やったーっ!
ちゃんと消してくれたーっ!
『猪塚先輩、その調子ーっ!』
きゃあきゃあ喜びつつ両手を振ると、猪塚先輩は笑って答えてくれて、そこからまたスッと真剣な表情になって目の前の球体と対峙した。
その横顔に、ドクンッと胸が鳴った。
あ、あれ?
なんか、ちょっとカッコいい…?
い、いや、猪塚先輩の見た目は昔からカッコいいよね?
そもそも攻略対象者の皆様は全員見目が麗しくらっしゃるし…?
な、なんで今猪塚先輩の真剣な表情にちょっとドキッとした?
……き、気の所為だよね?気の所為って事にして置こう。うん。今芽生えさせちゃいけない感情な気がしてきたから。
『……だよね。もう、そうするしか…』
『でも、彼女は総帥だって言ってたわ。それに…』
『彼女に何かあったら坊ちゃんが悲しまないかしら?』
『だからって、私達があの方に抗ったら、私達は…』
…今、気になる言葉を言ってたね…。
私が猪塚先輩に集中してたからって会話を聞いていない訳じゃないのに。
彼女達は何処かやっぱり抜けている。
それは、恐らく彼女達が子の犯行に手慣れていない事を意味する。
『私達があの方に抗ったら、私達は…』と言うセリフから察するに、何か弱みを握られていると思った方がいいのかもしれない。
正直私は、私達をここに連れてくるように指示した彼女達の上司が誰か大体想定済みだ。
想定と言っているが、私の中ではほぼ確実だと思っている。
そしてその指示した黒幕である彼女達の上司が、私達白鳥財閥に敵う訳がないって事も想定済みである。
だから、まぁ、ハッキリ言えばここさえ出てしまえば、彼女達を救う事も黒幕に制裁を与える事も簡単に出来るんだけど…。
『…そうだっ!そっちに入れてしまえば命令違反にならないんじゃないっ!?』
『『『ハッ!?』』』
え?ちょっと待って?
何、その名案~みたいな顔は?
そういう時は、失敗を認めて直属の上司に相談でしょ?
あーあー駄目だこりゃ。
四人共目がギラギラしてる。
さて今一度この部屋の中を確認しよう。
特に目立ったものはない。ただ観戦用の窓と観戦者用の椅子と机、それからティポットなどの簡易食事の食器等々。
これと言って大きな棚も機械もない。
『落とし穴の用意をするのよっ!』
わお。ハッキリ口にしちゃってるよ。
私がイタリア語で話してるの忘れちゃったのかな?
どうしよう。お姉さま方がちょっとお馬鹿過ぎで逆に心配になってきた…。
私、上手く落とし穴に落とされるかしら?
『準備オッケーですっ!』
『じゃあ早速スイッチを入れるのよっ!』
『了解っ!』
『スイッチ、オーンっ!』
ガタンッ!!
床が開いた音が聞こえて、
『『『『きゃーーーーーっ!!!!』』』』
「だと思ったよっ!!」
思わず全力で突っ込み入れちゃった。
お姉さま方は見事落とし穴に落ちて、私の目の前から姿を消した。
「あー…どうしよう。正直助ける義理はないんだけど…ないんだけどさぁ…」
私はきっと落ちたであろう、猪塚先輩がいる側にある窓と逆の窓へと歩みより、そこから下を覗いた。
案の定四人のお姉さま方がわたわたと慌てている。
あのお姉様方、多分どう言う原理であの球体が消えるかとか理解してないよね~。
球体にも触れなさそう。
唯一、スペイン語を話していたお姉様だけが球体をどうにかしようと頑張ってるけど…。
…こう言う時、見捨てられないってのは損な性格だよね。
一先ずこの事を猪塚先輩に伝えないと。
窓ガラスなんて割ればいいんだし。
「あらよっと」
椅子を持ちあげて、そぉいっ!
ガチャンッ!!
派手な音を立ててガラスが割れたもんだから、猪塚先輩も驚いてこっちをみてくれた。
『白鳥さんっ!?』
『猪塚先輩っ!実はーっ』
私は声を張って今の流れを説明した。
流れのついでに、私が予測する彼女達の上司が誰かも伝えると、猪塚先輩は指で眉間を抑えて俯いた。
マジか―って言葉が聞こえてきそう。
『大体事情は分かりました。巻き込んですみません、白鳥さん』
『大丈夫。でね?猪塚先輩。私はそっちに落ちる事にするけど、そうする事によって、今の状態が変わって『対戦形式』になると思うのー』
『対戦形式?』
『そう。でそうなると何らかの変化が出ると思うの。そうなった時に一先ずの逃げ場として、ここを使おう』
『そこ、ですか?』
『私の予想だと、恐らくはここに登って来易くなると思うから。ちょっと大変かもだけど、頑張ってっ!私も頑張るからっ!』
『解りましたっ。白鳥さんっ、充分気を付けてっ!』
『猪塚先輩…うぅん、そちらも頑張ってねっ!旦那様っ!』
ちょっとした冗談を入れてウィンクをしつつ、私は踵を返して穴へと向かい飛び込んだ。
…私の旦那様発言で暫く猪塚先輩が再起不能になったと後で聞かされたけれど、その件についてはごめんねと聞いた直後ちゃんと謝ったから許して欲しい。


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