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最終章 数多の未来への選択編
※※※
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樹先輩がトイレから出て来た姿を確認して、ちょっと驚いた。
まさか、あの樹先輩がこんな汚れるまで動くとは思わなかったから。いや、だって、樹先輩だよ?
「美鈴。一先ず俺が持って来たものと、内容を確認してくれ。あと、これは俺がメモって来た内容だ」
「了解」
樹先輩が、これはえっとバスタオルかな?の包みを床に置いてくるっと今来たトイレに戻ろうとした。
え?ちょっと待って。そんな直ぐにまた行くの?危なくないっ?
「樹先輩、ちょっと待っ」
「美鈴。風呂、借りるぞ。この埃だらけの状況耐えられない」
「……あ、うん。どうぞ」
なんだ、心配させんな、樹先輩の馬鹿。
でも、お風呂?タオルとかどうするんだろ?
とは思ったけれど、それ以上にある事に気付く。
「樹先輩?着替え、どうするの?」
「……確かに」
樹先輩の足が止まった。着替えがないと結局汚れた服を着なきゃいけない。
それはお風呂に入る意味があるのか?って話になるよね。
でも何か気持ち悪い物にでも触れたんだよね、きっと。だから洗い流してしまいたいって気持ちも解る。
「全身浴びるのは我慢して、何か適当な布で拭くだけにしたら?幸い、樹先輩が持って来たバスタオルがあるし。これを溜めたお湯で洗って絞って吹けば良いよ」
「…そうする」
「早く脱出して、広いお風呂に入ろう」
「おう…」
樹先輩がぐったりしてる。けどこればっかりはどうする事も出来ない。
それにお風呂がちゃんと機能するかどうかも私は調べてないしね。だって元々使う予定が欠片もなかったから。
さてさて。私は樹先輩が持って帰って来た物を調べる事にしよう。
樹先輩が持って来た物を床に置いて、バスタオルは先輩に預ける。
えっと、樹先輩が持って来たのは…ウェストポーチとあ、靴だっ。しかも清潔…って言うか洗剤の匂いしない?もしかして樹先輩見つけて洗ってくれたのかな?樹先輩が優しい。なんてこったい。
試しに靴を履いてみると、問題なく履ける。サイズの問題もない。おぉー。樹先輩良く見つけてくれたなぁ…ありがたい。
で、他には?えーっと、あ、ボトルだ。スプレーの。確かにこれあればあの薬液を噴きつけられるかも。……でも絵面が…い、いや。考えちゃ駄目よ、私。樹先輩が体張って取って来てくれたんだもの。大事にしなきゃ。あぁ、でもなぁ。これだと間合いが問題だね。接近しないと使えないもんね。んむむ…改良、すべきか。
後はえーっと…あ、小さいタオル系もある。なんだ、あるんじゃない。樹先輩こっち持ってったら良かったのに…ってもしかして、私の為?これ、私の分?足とか洗えって事かな?後で使わせて貰おう。
他には?他には…地図だっ。
四つ折りにされてるのを開くと、この建物全域の地図があった。成程。ここは四階建てなのかー。
…私と樹先輩がいるのが、恐らくここの天秤座の部屋。ペンで現在地と書いておく。
「乙女座の部屋がどっちだろう?」
「乙女座の部屋は俺が今行った隣の部屋だ」
「あれ?樹先輩、もういいの?」
「あぁ。それよりもだ。俺がダクト穴を通じて進んだ隣の部屋は乙女座の鍵を使って部屋から出る事が出来た。だから隣が乙女座の部屋だ」
「そうなんだ。じゃあ、この並びだと樹先輩の部屋が蠍座の部屋かな?」
「可能性は高いな。あぁ、そうだ」
さっき渡し忘れたんだがと言って、樹先輩はジャラッと鍵をポケットから取り出した。
「え?何か多くない?何で?」
「解らん。ただ、どれもあのクローン達が溶けた跡にあった」
「そうなんだ…」
樹先輩から受け取った鍵は、蠍座と乙女座の鍵だった。乙女座の鍵が1つに蠍座の鍵が2つ。
「蠍座の鍵って多分」
「俺の部屋の鍵だろうな」
「だよねぇ。私の予想あながち間違いじゃなかったって事かなぁ。…あれ?」
「どうした?」
「乙女座と蠍座の鍵は良いんだけど、天秤座の鍵は?」
「?、お前持ってるって言ってただろ?」
「あ、うん。持ってるよ。持ってるけど…これって合鍵とかじゃないのかな?だとしたら、天秤座だけ一つだけなのおかしくない?」
「言われてみたらそうだな」
「あ、でも乙女座も一つだけだね。それじゃあ合鍵とかじゃないのかな?」
「いや、乙女座も鍵は二つあった。ただ」
言いながら樹先輩は私の広げた地図の一か所にレ点を入れた。
「ここにあった両替機みたいなボックスの中に入れてみたんだ」
「両替機みたいなボックス?」
「あぁ。真っ黒で特に何か書いてる訳でもないんだが、鍵を入れれそうな穴があったんだ。幸い乙女座の鍵が二つあったし、一個入れてみた。そうしたらこれが」
そう言って樹先輩がポケットから出したのは、乙女座のマークが書かれているメダルだ。
「メダル?ちょっと見ても良い?」
「あぁ」
樹先輩の手の平からメダルを取り、裏表角度を変えてまじまじと観察する。乙女座のマークに乙女の絵。
なんだろう。おかしな所はなさそうなんだけど…これ、何に使うのかな?
「それから、話は変わるがここ」
「?、乙女座の部屋?」
「あぁ、ここに鍵のかかっているドアがあった」
「鍵のかかった部屋。気になるね。って言うか鍵のかかった部屋多過ぎない?」
「そうか?けど、ここと俺達の部屋以外に鍵はかかってなかったぜ?」
「え?そうなの?」
「あぁ…ん?いや、もう一つあったな。ここのドアだ」
「非常階段のドアに鍵?それもう非常口じゃないじゃない」
「まぁな」
閉じ込める気満々じゃん。
でも私達が来たから鍵をかけたのかな?それとも、別の理由が?…ふみ~…解らん。
「樹先輩、他には?」
「他には、薬品が置いてある備品室があったな。9つの薬瓶があった。アルファベットじゃなくて今度は数字で管理されていて、尚且つ色は全て無色だった」
「色がない?…それは使うのが怖いね。今は下手に弄らない方がいいね」
「あぁ。後は、隣の部屋に、【外。下×。上○】って殴り書きみたいな文字があった」
「外…これ、このままで受け取るなら、外へ行くのに下は駄目だ、上に行けって感じにとれるけど…」
「下はクローンだらけだからな。下に行くのはリスクしかない。だが、かと言って上に行って逃げ道があるのかと言われると」
「まず無いよねぇ。ヘリでも来てくれるなら別だけどさー」
「今見てきた限りだとこんな感じか」
「そっかぁ」
ちょっと解らない事が多いけど、一先ず解決出来そうな所からやっていくしかないよね。
それに非常階段がある事が解ったならそこから下の階に行けそうだし。
「下の階の探索、行こうか。この部屋に鍵は付いてるし。この部屋を拠点にして動こう」
「そう言えば鍵が付いてるって言ってたな。だが天秤座の鍵で開けられるんだろ?」
「それがねー。ちょっと来て、樹先輩」
樹先輩を手招きしながら、一緒にドアの前に行く。
「この真ん中のが天秤座の鍵で開けられるんだけど、ほら、上と下」
「…鍵がかかってるのか。しかも形式の違うカギだな」
「そうなの。だから開けられないんだー」
「……ん?ちょっと待て」
「ふみ?」
「この鍵、おかしくないか?」
「え?何が?」
「普通閉じ込める目的なら、鍵を【外から開けられる】ようにつけないか?」
「……あ、言われてみれば」
「ここの鍵は【内側から開けられる】ようになってる。それを開ける鍵が有る無いは別にしてもだ」
「なんでだろう…?」
「俺が解る訳ないだろ。ただ言えるのは、この鍵は開けない方が安全って事だ。この鍵がある限り、ドアを破壊したりされなければ、クローン連中は入って来れない」
「そっか。なら尚更ここを拠点にした方が良いね。手に入れた道具はここに置いておこう。それで、出入りは樹先輩の部屋からにしよう」
「それが良いかもな」
元の位置に戻り、改めて地図を見る。
「この階の調査は樹先輩がしてくれたから、次は下か上、だよね」
「あぁ」
「でも行き方、解らないよね」
「そうだな。階段の鍵がどうにかなれば行けそうだが」
「階段の鍵、かぁ…。…どんなだろう?実際見てみないと何とも言えないし…」
「…行ってみるか?この階のクローンは俺が見る限りそんな数はいなかった。今ならお前も靴を履いたし、動けなくもないだろ」
動けなくはない。…けど…。
自然と視線が足に向く。鎖は切れたけど、足枷はまだついたまま、なんだよね…。
「俺が気付かなくてもお前が何か有益な情報に気付く可能性もある。むしろ俺なんかより余程頭の回るお前の方が気付くだろう。それにお前だって自分の目で確かめたいタイプだろ」
「それは、そう。…うん。行く」
ここで留まっていてもどうしようもないって事も、ちゃんと分かってる。なら行くしかないよね。
「時計がないから時間が解らないけど、今大体お昼くらいだよね?」
「あぁ。夜になる前にここに戻って来た方が良いだろうな。あいつらを見る限り、昼はどうにも動きが鈍い。だが、逆に夜になると活性化するきらいがある」
「クローンと言えど男の人だし。慎重に動かなきゃ」
「そうだな。じゃあ、早速行くぞ」
「うん」
頷いて、先に歩きだした樹先輩の後を追う。
ダクト穴を通って、樹先輩のいた蠍座の部屋へ入り、そこから鍵を使って外に出る。
本当だ。誰もいない。
これだけいないならそっと歩く必要はないかも。
素早く走り、脱出経路である非常階段のある場所へ繋がるドアの前へと行く。
一先ずドアノブを回すけど、確かに樹先輩の言った通り鍵がかかってる。
これはどんな鍵なのかな?
周囲の警戒は樹先輩に任せて、私はドアノブの周囲を調べた。
鍵穴…そう言えばこのドア鍵穴がない。
あれ?って事はもしかして鍵を差し込んで開けるタイプじゃないって事?
え?じゃあどうやって開けるの?
私はより注意深くそのドアを調べると、ドアノブの付け根の所に細い穴が開いている事に気付いた。
よくよく見るとまるで自販機のコインを入れる穴、みたいな…あ、そうか。
私は念の為にポケットに入れていた乙女座のメダルを取りだした。そして、その穴に入れる。すると、
―――ガチャッ。
鍵が開く音がした。
「樹先輩っ、鍵開いたっ」
「マジか?どうやった?」
「メダルをここの隙間に入れたら開いたの」
「メダル?…あぁ、確かにここに穴があるな」
「このメダル、消費制かな?一度使ったらもう取り戻せないタイプかも」
「中に入れるタイプだしな。…いっそ鍵を壊しておくか。ドアノブを取るとかして」
「でも、それってクローンの侵入も許す事にならない?」
「最悪、二つある鍵の一つをメダルに変えるって手段もあるぞ」
「あ、確かに。…それじゃあ今から蠍座のメダルを取りに行って、二手に分かれる?」
例えば一回りしたらこのドアの前で待ち合わせして、とか。
「…いや。いざと言う時の事もある。俺がまず下の階を調べに行ってくるから、美鈴はこの階をもう一度調べろ」
「……平気?」
「少なくとも男の側に行けないお前よりはな」
「むむっ。正論過ぎるっ」
この階は既に樹先輩が調査済みで、逃げ込める場所もある。その点、違う階に行ったら私は直ぐに対処出来ないかもしれない。と言うかクローンが男だけだったらもう動けなくなる。うん。確実。
「じゃあ、樹先輩に任せる。上の階と下の階、どっちに行くの?」
「どっちに行けばいい?上か、下か」
うぅ~ん…悩むなぁ。
一つ解るのは下に行けば行く程きっとクローンは増えるんだよね。窓から下覗いたら一杯いたもんね。
逆に上に行けばクローンは減ると思うの。だってここみたいに鍵がかかってるだろうから。
だけど、下に行けばもっと良い脱出道具を手に入れれる可能性が高い。
「うぅー…下でっ!」
「下だな。解った」
「でも、でもでも待ってっ。道具っ。出来るだけ万全な状態で行ってっ」
私は樹先輩を伴って、急いで来た道を戻り、ウエストポーチの中に、紙やらペンやらを詰めて必要になるであろう鍵類も各種一つずつ入れた。
「おい、美鈴。鍵は」
「持ってってっ。私は、大丈夫だから。私は隣の乙女座の部屋を調べるから。樹先輩が戻って来るまで何とか出来る。この階で位なら大丈夫だよっ」
「……解った。無理はするなよ」
「それは私のセリフだよ。絶対無理しないでね。無理そうだったら直ぐに戻って来て。解った?樹先輩」
くわっと言い返した私の何が面白かったのか解らないけど、樹先輩は笑った。
「…解った。それじゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
トイレのダクト穴から移動した樹先輩を見送り、私もトイレのダクト穴を通じて乙女座の部屋へと侵入した。
「確かに、応接間…みたいだね」
私も念の為にウエストポーチを腰に巻いて、ポーチの中にクローン用の薬液を入れて来た。
まずは、先輩の言ってた開かないドア、だよね。
慎重に近づいてドアノブを捻る。ガチンと途中で止まったのでやっぱり鍵はかかっているらしい。
他に、何かないかな?
さっきみたいにドアの周辺に何か穴とかあるかもしれないし。
ドアノブの周りを見てみると、ちょっと怪しい所がある事に気づく。
鍵穴がドアノブにあるのに、サイズ感がおかしい。だってこの大きさと幅。鍵が入る穴じゃなくない?
かといってメダルが入るような穴でもないよね。
………もしかして。
私は立ち上がり、ドアノブを掴み、ドアを横にスライドさせた。
ガラリ。
「こんなにあっさり開くんかいっ!」
誰もいないのに思いっきり突っ込みを入れてしまった。
開いたドアの先はあまり大きくない。
入った先にはデスクトップ型のパソコンが引出しも何もない机の上に鎮座していた。
「結構型が古いパソコンだね。OSとかも古いのかな?」
試しに起動ボタンを押してみたけれど、動かない。
電気が通ってないのかな?
コンセント…コンセント、っと。
机の下に潜るとパソコンの電源コードはしっかりとコンセントに刺さっていた。
「あれ?って事はロックかもしくは電気がコンセントに通ってないか。一先ずちょっと弄ってみようかな」
私は樹先輩が戻るまで、このパソコンと格闘する事に決めた。
まさか、あの樹先輩がこんな汚れるまで動くとは思わなかったから。いや、だって、樹先輩だよ?
「美鈴。一先ず俺が持って来たものと、内容を確認してくれ。あと、これは俺がメモって来た内容だ」
「了解」
樹先輩が、これはえっとバスタオルかな?の包みを床に置いてくるっと今来たトイレに戻ろうとした。
え?ちょっと待って。そんな直ぐにまた行くの?危なくないっ?
「樹先輩、ちょっと待っ」
「美鈴。風呂、借りるぞ。この埃だらけの状況耐えられない」
「……あ、うん。どうぞ」
なんだ、心配させんな、樹先輩の馬鹿。
でも、お風呂?タオルとかどうするんだろ?
とは思ったけれど、それ以上にある事に気付く。
「樹先輩?着替え、どうするの?」
「……確かに」
樹先輩の足が止まった。着替えがないと結局汚れた服を着なきゃいけない。
それはお風呂に入る意味があるのか?って話になるよね。
でも何か気持ち悪い物にでも触れたんだよね、きっと。だから洗い流してしまいたいって気持ちも解る。
「全身浴びるのは我慢して、何か適当な布で拭くだけにしたら?幸い、樹先輩が持って来たバスタオルがあるし。これを溜めたお湯で洗って絞って吹けば良いよ」
「…そうする」
「早く脱出して、広いお風呂に入ろう」
「おう…」
樹先輩がぐったりしてる。けどこればっかりはどうする事も出来ない。
それにお風呂がちゃんと機能するかどうかも私は調べてないしね。だって元々使う予定が欠片もなかったから。
さてさて。私は樹先輩が持って帰って来た物を調べる事にしよう。
樹先輩が持って来た物を床に置いて、バスタオルは先輩に預ける。
えっと、樹先輩が持って来たのは…ウェストポーチとあ、靴だっ。しかも清潔…って言うか洗剤の匂いしない?もしかして樹先輩見つけて洗ってくれたのかな?樹先輩が優しい。なんてこったい。
試しに靴を履いてみると、問題なく履ける。サイズの問題もない。おぉー。樹先輩良く見つけてくれたなぁ…ありがたい。
で、他には?えーっと、あ、ボトルだ。スプレーの。確かにこれあればあの薬液を噴きつけられるかも。……でも絵面が…い、いや。考えちゃ駄目よ、私。樹先輩が体張って取って来てくれたんだもの。大事にしなきゃ。あぁ、でもなぁ。これだと間合いが問題だね。接近しないと使えないもんね。んむむ…改良、すべきか。
後はえーっと…あ、小さいタオル系もある。なんだ、あるんじゃない。樹先輩こっち持ってったら良かったのに…ってもしかして、私の為?これ、私の分?足とか洗えって事かな?後で使わせて貰おう。
他には?他には…地図だっ。
四つ折りにされてるのを開くと、この建物全域の地図があった。成程。ここは四階建てなのかー。
…私と樹先輩がいるのが、恐らくここの天秤座の部屋。ペンで現在地と書いておく。
「乙女座の部屋がどっちだろう?」
「乙女座の部屋は俺が今行った隣の部屋だ」
「あれ?樹先輩、もういいの?」
「あぁ。それよりもだ。俺がダクト穴を通じて進んだ隣の部屋は乙女座の鍵を使って部屋から出る事が出来た。だから隣が乙女座の部屋だ」
「そうなんだ。じゃあ、この並びだと樹先輩の部屋が蠍座の部屋かな?」
「可能性は高いな。あぁ、そうだ」
さっき渡し忘れたんだがと言って、樹先輩はジャラッと鍵をポケットから取り出した。
「え?何か多くない?何で?」
「解らん。ただ、どれもあのクローン達が溶けた跡にあった」
「そうなんだ…」
樹先輩から受け取った鍵は、蠍座と乙女座の鍵だった。乙女座の鍵が1つに蠍座の鍵が2つ。
「蠍座の鍵って多分」
「俺の部屋の鍵だろうな」
「だよねぇ。私の予想あながち間違いじゃなかったって事かなぁ。…あれ?」
「どうした?」
「乙女座と蠍座の鍵は良いんだけど、天秤座の鍵は?」
「?、お前持ってるって言ってただろ?」
「あ、うん。持ってるよ。持ってるけど…これって合鍵とかじゃないのかな?だとしたら、天秤座だけ一つだけなのおかしくない?」
「言われてみたらそうだな」
「あ、でも乙女座も一つだけだね。それじゃあ合鍵とかじゃないのかな?」
「いや、乙女座も鍵は二つあった。ただ」
言いながら樹先輩は私の広げた地図の一か所にレ点を入れた。
「ここにあった両替機みたいなボックスの中に入れてみたんだ」
「両替機みたいなボックス?」
「あぁ。真っ黒で特に何か書いてる訳でもないんだが、鍵を入れれそうな穴があったんだ。幸い乙女座の鍵が二つあったし、一個入れてみた。そうしたらこれが」
そう言って樹先輩がポケットから出したのは、乙女座のマークが書かれているメダルだ。
「メダル?ちょっと見ても良い?」
「あぁ」
樹先輩の手の平からメダルを取り、裏表角度を変えてまじまじと観察する。乙女座のマークに乙女の絵。
なんだろう。おかしな所はなさそうなんだけど…これ、何に使うのかな?
「それから、話は変わるがここ」
「?、乙女座の部屋?」
「あぁ、ここに鍵のかかっているドアがあった」
「鍵のかかった部屋。気になるね。って言うか鍵のかかった部屋多過ぎない?」
「そうか?けど、ここと俺達の部屋以外に鍵はかかってなかったぜ?」
「え?そうなの?」
「あぁ…ん?いや、もう一つあったな。ここのドアだ」
「非常階段のドアに鍵?それもう非常口じゃないじゃない」
「まぁな」
閉じ込める気満々じゃん。
でも私達が来たから鍵をかけたのかな?それとも、別の理由が?…ふみ~…解らん。
「樹先輩、他には?」
「他には、薬品が置いてある備品室があったな。9つの薬瓶があった。アルファベットじゃなくて今度は数字で管理されていて、尚且つ色は全て無色だった」
「色がない?…それは使うのが怖いね。今は下手に弄らない方がいいね」
「あぁ。後は、隣の部屋に、【外。下×。上○】って殴り書きみたいな文字があった」
「外…これ、このままで受け取るなら、外へ行くのに下は駄目だ、上に行けって感じにとれるけど…」
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「…鍵がかかってるのか。しかも形式の違うカギだな」
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「……あ、言われてみれば」
「ここの鍵は【内側から開けられる】ようになってる。それを開ける鍵が有る無いは別にしてもだ」
「なんでだろう…?」
「俺が解る訳ないだろ。ただ言えるのは、この鍵は開けない方が安全って事だ。この鍵がある限り、ドアを破壊したりされなければ、クローン連中は入って来れない」
「そっか。なら尚更ここを拠点にした方が良いね。手に入れた道具はここに置いておこう。それで、出入りは樹先輩の部屋からにしよう」
「それが良いかもな」
元の位置に戻り、改めて地図を見る。
「この階の調査は樹先輩がしてくれたから、次は下か上、だよね」
「あぁ」
「でも行き方、解らないよね」
「そうだな。階段の鍵がどうにかなれば行けそうだが」
「階段の鍵、かぁ…。…どんなだろう?実際見てみないと何とも言えないし…」
「…行ってみるか?この階のクローンは俺が見る限りそんな数はいなかった。今ならお前も靴を履いたし、動けなくもないだろ」
動けなくはない。…けど…。
自然と視線が足に向く。鎖は切れたけど、足枷はまだついたまま、なんだよね…。
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「それは、そう。…うん。行く」
ここで留まっていてもどうしようもないって事も、ちゃんと分かってる。なら行くしかないよね。
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「うん」
頷いて、先に歩きだした樹先輩の後を追う。
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本当だ。誰もいない。
これだけいないならそっと歩く必要はないかも。
素早く走り、脱出経路である非常階段のある場所へ繋がるドアの前へと行く。
一先ずドアノブを回すけど、確かに樹先輩の言った通り鍵がかかってる。
これはどんな鍵なのかな?
周囲の警戒は樹先輩に任せて、私はドアノブの周囲を調べた。
鍵穴…そう言えばこのドア鍵穴がない。
あれ?って事はもしかして鍵を差し込んで開けるタイプじゃないって事?
え?じゃあどうやって開けるの?
私はより注意深くそのドアを調べると、ドアノブの付け根の所に細い穴が開いている事に気付いた。
よくよく見るとまるで自販機のコインを入れる穴、みたいな…あ、そうか。
私は念の為にポケットに入れていた乙女座のメダルを取りだした。そして、その穴に入れる。すると、
―――ガチャッ。
鍵が開く音がした。
「樹先輩っ、鍵開いたっ」
「マジか?どうやった?」
「メダルをここの隙間に入れたら開いたの」
「メダル?…あぁ、確かにここに穴があるな」
「このメダル、消費制かな?一度使ったらもう取り戻せないタイプかも」
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「でも、それってクローンの侵入も許す事にならない?」
「最悪、二つある鍵の一つをメダルに変えるって手段もあるぞ」
「あ、確かに。…それじゃあ今から蠍座のメダルを取りに行って、二手に分かれる?」
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「…いや。いざと言う時の事もある。俺がまず下の階を調べに行ってくるから、美鈴はこの階をもう一度調べろ」
「……平気?」
「少なくとも男の側に行けないお前よりはな」
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「じゃあ、樹先輩に任せる。上の階と下の階、どっちに行くの?」
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うぅ~ん…悩むなぁ。
一つ解るのは下に行けば行く程きっとクローンは増えるんだよね。窓から下覗いたら一杯いたもんね。
逆に上に行けばクローンは減ると思うの。だってここみたいに鍵がかかってるだろうから。
だけど、下に行けばもっと良い脱出道具を手に入れれる可能性が高い。
「うぅー…下でっ!」
「下だな。解った」
「でも、でもでも待ってっ。道具っ。出来るだけ万全な状態で行ってっ」
私は樹先輩を伴って、急いで来た道を戻り、ウエストポーチの中に、紙やらペンやらを詰めて必要になるであろう鍵類も各種一つずつ入れた。
「おい、美鈴。鍵は」
「持ってってっ。私は、大丈夫だから。私は隣の乙女座の部屋を調べるから。樹先輩が戻って来るまで何とか出来る。この階で位なら大丈夫だよっ」
「……解った。無理はするなよ」
「それは私のセリフだよ。絶対無理しないでね。無理そうだったら直ぐに戻って来て。解った?樹先輩」
くわっと言い返した私の何が面白かったのか解らないけど、樹先輩は笑った。
「…解った。それじゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
トイレのダクト穴から移動した樹先輩を見送り、私もトイレのダクト穴を通じて乙女座の部屋へと侵入した。
「確かに、応接間…みたいだね」
私も念の為にウエストポーチを腰に巻いて、ポーチの中にクローン用の薬液を入れて来た。
まずは、先輩の言ってた開かないドア、だよね。
慎重に近づいてドアノブを捻る。ガチンと途中で止まったのでやっぱり鍵はかかっているらしい。
他に、何かないかな?
さっきみたいにドアの周辺に何か穴とかあるかもしれないし。
ドアノブの周りを見てみると、ちょっと怪しい所がある事に気づく。
鍵穴がドアノブにあるのに、サイズ感がおかしい。だってこの大きさと幅。鍵が入る穴じゃなくない?
かといってメダルが入るような穴でもないよね。
………もしかして。
私は立ち上がり、ドアノブを掴み、ドアを横にスライドさせた。
ガラリ。
「こんなにあっさり開くんかいっ!」
誰もいないのに思いっきり突っ込みを入れてしまった。
開いたドアの先はあまり大きくない。
入った先にはデスクトップ型のパソコンが引出しも何もない机の上に鎮座していた。
「結構型が古いパソコンだね。OSとかも古いのかな?」
試しに起動ボタンを押してみたけれど、動かない。
電気が通ってないのかな?
コンセント…コンセント、っと。
机の下に潜るとパソコンの電源コードはしっかりとコンセントに刺さっていた。
「あれ?って事はロックかもしくは電気がコンセントに通ってないか。一先ずちょっと弄ってみようかな」
私は樹先輩が戻るまで、このパソコンと格闘する事に決めた。
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1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
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2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
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