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最終章 数多の未来への選択編

※※※(奏輔視点)

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「それじゃあ、私は調査に行ってくるわね。あ、そうそう。あっちに見えるドアがトイレで反対側に見えるドアがキッチンね。あと向うに見えるのがお風呂場へ向かうドア。ここにあるものは自由に使ってくれても構わないから。食材も母さんに運んで貰ってるし」
「了解です」
俺が頷くと満足気に頷いて佳織さんはまたスキルを使ってその場から消えた。
……さて。
あの野郎の事は佳織さんに任せる事にして。
念の為に。
姫さんを抱き上げて一旦椅子に座らせて、靴を脱いでベッドに乗り上げた。
俺達が落ちて来た穴。
あれを塞ぐ。
魔法とかで塞ぐって事も出来なくはないが、何かあった時の逃げ道を失くしたくはないから、そこらにあった何も書いていない段ボールをテープで貼り付けるだけにしておく。
そっと入って来られてもこれで気付く。
(けどこれだけやと不安や…。何かスキル、ないんか?)
自分のスキル一覧の所を見ると、【盾(シールド)】の上位互換スキルに【結界(バリア)】がある。
ステータスを開いて、結界(バリア)を習得して、この部屋全域に発動させる。
これで誰が来ても解るし、不要な侵入者も防げる。
守りをそれなりに作り上げてから、ベッドを少しだけ移動させて、もう一度そこへ姫さんを戻した。
セーブの本を開いて、もう一度中を確認する。相変わらずハートのマークは点滅している。そこに逆に安堵を覚えた。これが点滅してる限りは姫さんはまだ意識を保っている証拠だから。
そのセーブの本を姫さんの枕の横に置いて、俺は中央の机に戻り佳織さんが用意してくれた書類に向き合った。
(さっきは佳織さんと話を合わせたけど…正直、佳織さんを信用出来ない部分がある。確かに佳織さんは姫さんを救う為にはなんでもする。それは間違いない。けどそれは【佳織さん】の感情であって、ゲームでの【佳織さん(ラスボス)】ではない。姫さんが言っていたヒロイン補正。それが何処で出てくるかなんて解らない。そもそも俺が疑ってるのはそこだ。【ゲームの主軸から外れた】と。それは本当なんだろうか?)
何も書いていない紙とペンを持ち、疑問に思った事をつらつらと書きとめて行く。
(もし主軸から外れたとしたら、佳織さんがあんなにスキルを使いこなせている理由にはならないんや。セーブの本が戻っている。姫さんが主人公ではない。それだけでゲームの主軸から離れたと言ってええんやろか?もしこれが、【セーブの本が戻っていて、姫さんも主人公でなくなり、スキルや登場キャラとしての能力が全て消え失せた】言うなら俺も納得した。だが中途半端に能力だけが残っているし、セーブの本も未だ姫さんの命を表している。…もしかしたら【主軸から外れた】んやなくて、【主軸に他の何かが介入された】が認識として正しいんじゃないか?)
(その介入したものが、あの男だとして。じゃああの男は何者だって話になる。けどそこが分かったら苦労はせんよなぁ…。介入出来るなんてそれこそ神の御業かラノベで言う異世界の人間とかに決まって……うん?ちょっと待ちや?姫さんの前世を考えるに、俺等が今暮らしているこの世界とは別の世界だって存在する。それは姫さんの存在が実証している。…アイツ、もしかして前世の記憶持ちなんちゃうか?…そうや。姫さんを【華】と前世名で呼んどった。となると前世の記憶持ちって事は確実や)
ペンを置いて、姫さんの側に行き姫さんと額を合わせる。
「姫さん、ちょっと聞いてええか?」
(うぐぐ…紙とペン。紙とペンが欲しいぃ~っ。脳内で処理出来るレベルの問題じゃないぃ~っ)
「おーい、姫さーん?聞いとるかー?」
(2が4になるから…うん?奏輔お兄ちゃん?呼んだ?)
「呼んだ。姫さん。ちょっと質問なんやけど。姫さんの前世の世界ってのは魔法とかスキルとかある世界だったん?」
(え?ないよ、ないない。普通の、この世界よりもよっぽど普通の日本だったよ)
「この世界よりも?」
(うん。もっと地味な世界だった。髪の色とか普通に黒、茶が普通だったし、目の色も同等。顔が整ってる人間なんて数えるのにそんなに指要らないって位で)
「そうなんか…」
(うん。そう。でもなんで?)
「…姫さんを狙った男が姫さんの前世を知ってたやろ?」
(……うん。華って言ってた)
「そやろ?でもおかしいんや。なんであの男スキルを使えたんやろ、って」
(ゲームに出てたんじゃないの?)
「…佳織さんは見覚えがないようだったで」
(?、モブの可能性は?)
「なくはないやろうけどな。そもそもスキルってのは恐らく【忍術】の事を言うんやと俺は踏んどるんや」
(忍術?)
「せや。忍びの人間は『皆マジで人なん?』と突っ込み入れたくなるような技使うてたやろ?」
(うん。使ってた。それをお兄ちゃん達が抑え込んでたから、そんなに凄くないのかも?と思いがちだけど普通は出来ないよねって事多かった)
「他人事の様に言うてるけど、姫さんも俺等と似たり寄ったりやからな」
(ふみみーっ!?そんなことないもんっ!!)
「まぁ、それは今は置いとくとしてや。話し戻して、もしあの男が忍びの連中の誰かならば、佳織さんが反応する筈やん?」
(うん。そうだね。ママはゲーム内の事だったら調べ尽くしてそうだし)
「せやけど、反応せぇへんかった。実際佳織さんに聞いて確かめても解らない言うとったしな」
(…つまり、さっきの質問を加味して、奏輔お兄ちゃんが問いたかったのは、『私の前世繋がりの人間なのか?』ってこと?)
「そこからもう一歩進んで『姫さんの前世の内の一つに関わった人間なんやないか?』って事や」
(ふみ?)
「姫さん。前世ってのは一つに限らないやろ。人は良く、一つ前を生の記憶を持っているからそれだけにスポットを当てて前世の記憶と言いがちや。せやけど、その前世の自分にかて前世はあるはず。ちゃうか?」
(ううん。そうだね。その可能性だってあるよね。そっか。私の前世のどこかしらでもしかしたら私は魔法の使える世界にいて、あいつはその前世の記憶と力を持っていたら、って可能性もあるわけだ。もし、奏輔お兄ちゃんのその仮定が正しかったとすると、そいつはその世界での力を今使ってるって事になるの?それは可能なのかな?)
「うん?どう言う事や?」
(だって、良くあるじゃない?この世界には私達が使っている力の源がない、みたいなセリフがさ。ラノベとかゲームとかに。でも実際そうじゃない?私の今使えるスキルを前世の世界で使えるかって言ったら多分使えないし)
「けど事実、あいつは使っとったで?姫さんかて、その所為でこんな目におうとる」
(うん。それはそうなんだけど。…再構築、したんじゃないかな?)
「再構築?」
(この世界にはスキルを使う為の力作用がある。でもそれってさ、誰にでもあるものではないじゃない?それこそ忍びの人しか使えない。だけど、前世の記憶でこの力に近い能力を持っていたのなら、違う理論でこの世界の力を使う事が出来る。前世の世界で使った能力をこの世界に当てはめて再構築させて使った、って事じゃないのかな?)
「成程…」
姫さんの説明に納得する。
別世界の能力をこの世界で再構築、か。
「けど、姫さん。その理論で言ったら、姫さんに使われたその技が何か理解出来ないと姫さんを治してやれるスキルが何か解らんことになってまうで」
(そうなんだよねー…。【凍結(フリジット)】って言ってたっけ?発動する時)
「言うてたな。因みに佳織さんから貰った資料によると、そんなスキルはなかったし、それに近い氷属性スキルも水属性スキルもなかった」
(……時スキルは?)
「時?」
(そう。こう良くあるじゃない?【行動速度を早くする】とか【相手の出方を遅くする】とかのあれ)
「…そんなくくりはなかった、と思うで?」
ちゃんと確かめてみないと何とも言えへんけど…。
さっき見る限りだと無かったと思う。
「けど、なんで【時】?」
(んー…。【凍結(フリジット)】って氷とかそう言う意味の言葉だよね?)
「まあ、ざっくり言うとそうやね」
(ゲームとか作られた用語だと【凍結】って意味がある時もあるよね?)
「確かに、なくは……凍結?」
(そう。凍結、なの。それって物を保存する時にも使われたりする用語だったりもするよね)
凍結…とうけつ。凍り付く事。資金などの移動を止める事の事を言う。
と辞書では良く書かれているが…。
(もし、私を殺す気でいたのなら、凍結ではなくてもっと確実に殺す術を使う筈。そこを敢えて凍結させた。…何か意図がありそうじゃない?)
「確かに…。良し、解ったで。時のスキルを中心的に、姫さんを治すスキルを見つけ出して見せる。だからもうちょっとだけ頑張ってな?」
(いいともーっ)
「……古いで、姫さん」
(もう、古くなっちゃったのね…しくしくしく)
姫さんの額から額を離し、俺は机に戻り、もう一度スキルを確認する事にした。

まずは水属性スキルから。
怪しい物だけ抜粋する。

【流水(ウォーター)】⇒【氷結(フリーズ)】
【津波(ウェーブ)】⇒【大津波(タイダルウェーブ)】
【癒水(ケア)】⇒【聖水(ホーリー)】
【毒水(ポイズン)】⇒【猛毒水(バイオ)】

水属性は基本的に水を進化させるものが多いな。
説明を読む限りだと、体に異変が出やすいものが多い。
状態異常系のスキルも多いな。
氷属性はどうや?

【滅氷弾(アイスボム)】
【氷乱舞(フリーズダンス)】

…二つだけだ。
しかもこれは攻撃スキルで、しかも広範囲攻撃スキルだ。
氷属性のスキルはそもそもが水属性の上位互換スキルだからなのかもしれない。
ゲーム内だと役立ちそうなスキルやんな。
で更に姫さんが気にしとった時スキル。
……ないな。やっぱり。
しいてあげるなら、

【移動速度UP】⇒【瞬間移動】⇒【空間移動】
【加速度UP】⇒【加速度UP・改】
【停止(ストップ)】⇒【即死(デス)】

の三つ、くらいか?
移動速度と加速度の何が違うかと言うと、単純な話使う人間の違いや。
移動速度は透馬の、加速度は大地の覚えるスキル。
因みに俺はどちらも覚える事が出来るが使用してもあんまり意味をなさない。
そもそもが移動速度が遅いから、らしいが、ちゃうで。あいつらが早過ぎるんや。俺が遅い訳やない。
と、言い訳しつつもピックアップしたものを紙に書き記す。
さて、こっからや。
こっから、姫さんとも話した再構築の話に戻る。
姫さんは再構築したと言った。
俺はそもそも、スキルを変化させたのだろうと思っていた。
姫さんの意見と俺の意見は似ているようで少し違う。
俺の場合は、【今あるスキルを変化させたモノ】だと思っていた。けど姫さんが言うには【この世界にない能力を新たに再構築したモノ】だと言う。
俺の意見も姫さんの意見もどちらが正解なのか判断はつかない。
けど、もしかしたらどちらも正解かもしれへんし、間違いかもしれへん。
やってみなければ解らない。
なら、やってみるしかないやろ。
試しにスキルを発動してみるかと、ステータス画面を開く。
…ステータスが開けるのもおかしいよな。
佳織さんの言う通り、姫さんが主人公でなくなったのならこうやってステータスを開くのも出来なくなってる筈なんや。
スキルだって使えるのもおかしい。
これは、バグなのか…それとも…。
…いや、それを考えるのは後でええ。
今は姫さんを治す術を探す方が先や。
兎に角使えるものはなんでも使う。
調べられるものはなんでも調べて行く。
絶対に姫さんを助けるんやっ!

俺は早速一つ目のスキルを発動させた。

(【氷結(フリーズ)】)

目の前の紙一枚に発動させると紙の表面に氷の膜が張られ始める。

(と同時に【停止(ストップ)】)

急ぎもう一つのスキルを発動させる。
すると、氷の膜が中途半端な位置で膜を張るのを止めた。
「……確かに、氷って停まったわ。…けど望んでるのはこうやないねんっ!」
ついつい突っ込みを入れつつも、念の為にどんだけ氷ってるのか確かめようと手を紙に伸ばす。
「っ!?」
氷が手に触れただけで指先に小さな切り傷が出来た。
「……小さくても攻撃スキルは攻撃スキルって事やね」
この程度の傷なんて傷の内に入らん。
適当に拭って、今度は慎重に氷を確かめる為に手を伸ばした。
触れる場所は紙の部分、紙の部分、っと…。
様子を確かめて、メモをする。
姫さんの状況とは違う事が解ると、次へと進む。

こうして俺は姫さんを救う為に、研究へと没頭するのだった。
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