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最終章 数多の未来への選択編
※※※(奏輔視点)
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俺がいつまでも抵抗を止めずにいたからか、最終的に俺は近江の薬で眠らされ。
意識が戻って視界に映ったのは、見慣れた天井だった。
(俺の部屋や…)
大地達が運んだんだろうと想像がつく。
起き上がると軽く頭が痛む。
薬の所為か、はたまた暴れた所為なのか。まぁ、理由はなんでもいい。
痛む頭を今は無視して、視界がぼやけてることに気付き、眼鏡を探す。
いつも俺が置く定位置に眼鏡がある。
(あいつら変なとこで律儀やな…)
苦笑しながら眼鏡を付ける。
周囲を見渡しても、変化は何もない。
ベッドから足を降ろして、座りながらまずは時間を確認する。ベッドヘッドボードに置かれたデジタル時計を確認すると、どうやら翌日の朝らしい。
「……ん?」
俺は基本的に部屋の中は綺麗に定位置管理するタイプだ。
だからこそ透馬達は俺の眼鏡を置く場所を知っている。それほどいつも同じ場所に同じ物を置くようにしているのに、俺のベッドヘッドボードに見慣れないものが置かれていた。
「なんや、これ…?」
手を伸ばしてそれを取ってみると、本だった。
何処かで見た事がある。
『これがセーブの本か?』
『うん』
『見えへんね』
『だねー。姫ちゃんが何か書いてるのは解るんだけどー』
記憶の中にあった会話がふと思い出される。
そうや。思い出したで。
「これ姫さんのセーブの本や。確か俺達には何も見えなかったはずや。それにこれは姫さんの…」
姫さんの部屋にあったはず。何で俺の枕元に?
不思議に思いつつも一先ず本を開いてみる。
するとあの時見えなかった文字が、何故か見えるようになっている。
早速その文字を追う。
大した事は書いてないな…。姫さんが俺に話してくれた内容が大半や。でも…。
(このハートのんマークが気になる。半分に割れたハートが点滅してる)
電気でも通ったりしない限り、本の、しかも紙に描かれた物が点滅するなんてまずあり得ない事だ。
念の為に裏にしたり、角度を変えて見たり、全てのページを確認したりもしたが、他におかしな所なんてない。普通の本だ。
(…姫さんは何て書いてる?このハートについて…ライフ?)
ページを戻して、姫さんが書き込んだ内容をもう一度読みこむと、そう、書いてあった。
(ライフってーと、あれか?一回死んでも復活出来るってあれやろ?姫さんもセーブした所から戻ってとか言っとった)
けど確か姫さんは、そのライフを使いきったとか言ってたような気がする。
ほんなら、この点滅はなんや?
考えて、辿り着いた答えにハッとする。
(姫さんの命が消えかけてるって事かっ!?)
普通に考えるとそうや。
姫さんが死んだと思ってしまえば、普通に棺桶に突っ込まれてしまう。
そしてそのまま…。
最悪の事態に血の気が引く。
(行かな…行かなあかんっ!)
立ち上がり本を手に抱えて、俺は部屋を飛び出した。
「奏輔っ、あんた何処行くんっ!?」
桜お姉の声が聞こえたが、俺の耳はそれを全力で拒否り白鳥邸へと走った。
昔から通い慣れた道だ。
時間なんて大してかからない。
坂道を登りきった先に白鳥邸が見えた。
スピードを上げて門に飛び込むと、目の前が真っ暗にっ!?
「って、ちょっ、重おおおおおっ!?」
真っ暗ってより、何か俺の顔面にぶつかってきたでっ!?
眼鏡してる奴の顔面に大きいものは反則やろっ!?
首がもげるっ!
倒れるのは何とか回避したものの、俺の顔面に乗っかってるものが重過ぎるのでペイッと横に放り捨てる。
「一体、なんなん…透馬?」
捨てたのはどうやら目を回した透馬だったらしい。一体何がどうなって…。
「うおぁっ!?」
また前方から声がして、次は回避しようと眼鏡を直しつつ横へとずれる。
すると俺がさっき立っていた場所に今度は大地が目を回して落下した。
こいつらが追い出されてるって事は、原因は鴇達か?
だとしたら、俺も覚悟をしなければならないな。守れなかったのは俺も一緒や…。
一歩前へ踏み出すと、
「ッ!」
「くっ!」
「うぐっ!」
赤、金、金の順で家の中から吹っ飛んできた。
三人共仲良く積み上がって目を回してる。鴇まで目を回してるなんて珍しい事もあるもんだ。
って言うか、飛ばしたのは誰だ?
こいつら揃って倒せるなんて、俺は佳織さんくらいしか…。
「揃いも揃って情けないっ。男ならこの状況を覆す事の一つや二つ言い出せないのかっ」
「ま、誠さんっ、落ち着いてっ」
んん?
佳織さんが止めてる?
しかも玄関で仁王立ちしてるの誠さんって…マジ?
えーっと…あかん。頭が停止しとるわ…。
「どいつもこいつもっ!頭を冷やせっ!」
あ、やべっ。ドアが閉められるっ。
「誠さん、佳織さんっ」
「奏輔くん?」
「姫さんの様子は」
この惨状を聞くより先に大事な事を聞いてしまう。
「美鈴なら、美鈴の部屋で寝かせてるわ」
「見に行っても?」
「勿論よ」
一応誠さんに視線をおくって許可を問うと、誠さんは鴇にそっくりな笑みを浮かべて頷いた。
許可も出たから早速誠さんと佳織さんの脇を通って、靴を脱いで中に上がらさせて貰う。
姫さんの部屋は二階。
階段を駆け上がって、姫さんの部屋を一応ノックしてから入る。
そこには相変わらず冷え切っている姫さんが静かに横たわっていた。
昨日別れた時と服装は変わらない。
静かにけれども急ぎ足で、姫さんの額かかる髪を手で避けてから、額同士を触れ合わせる。
(喧嘩してないよね…。鴇お兄ちゃん達意外と喧嘩っ早いし…。誠パパいるから大丈夫だとは思うけど、でも…う~ん…)
「姫さん…」
相変わらずの姫さんにホッと一息つく。
(ふみ?奏輔お兄ちゃん?)
「そや。遅くなって悪かったな」
(ううん。大丈夫。それより何かあった?お兄ちゃん達喧嘩したりしてない?)
……誠さんに家から追い出された…とは流石に伝えれへんし…。
「姫さんが心配するような事はなんもないよ。姫さんは自分の体の事だけを心配しぃ」
(それはそうなんだけど…正直真っ暗だし。ゲームもないし、本もないし…やることない)
「まぁ、そりゃそうやろうけど…」
思考しかないってのは確かに暇かもしれない。危機感がないのはいただけないが…それを隠すのも姫さんらしいし。何とも言えない気分になる。
少しだけ姫さんらしさに触れて自分が知らず笑っていた事に気付いたが、今はそんな場合じゃないからと姫さんに話を振った。
「ほんなら今から姫さんに情報を流すわ。そっから姫さんも体を戻す方法を考えて」
(うんっ。任せてっ)
「とは言うても、今解ってる事はそんなないんやけど…」
一先ず、状況の説明を姫さんにするか。
今の状況をなるべく詳しく細かく説明した。
姫さんはうんうんと頷きながらも、途中「紙とペンが欲しいぃ~っ!」と唸っていたが、どうしようもないから我慢して姫さんの記憶力に期待しておく。
(でもそっか。私このままだとお兄ちゃん達に火葬されちゃうんだね)
「ケロッと言うがな、姫さん。体がなくなったら、そこでもう終了なんやで?」
(ん。それは確かに)
「今の所佳織さんと佳織さんの絶対的味方である誠さんが協力してくれているけど、それかていつまで持つか…」
(…限界があるよね…。それに私の体だって凍らさせられてるとは言え、いつかは腐るだろうし)
「姫さん。だからケロッと言うなって」
(事実だから仕方ないよ。…そもそもどうしてアイツは魔法使えたのかな?)
「それは…確かに」
(それにアイツ、誰?私あんな知り合いいないよ?)
「姫さんは有名人やし。どっかから勝手に惚れられたんちゃう?」
(有名人って言っても一部でしょう?)
「経済界、学校界隈、位か?」
(うん)
「そう言われたらそうかも…?や、でも一般人よりは知れ渡っとるで?」
(ふみみ…?)
自覚なし、と。
姫さんの一般的と世間の一般的にはちょっと、かなり差がありそうだ。
「…話を戻すで。色々おかしな部分はあるが、今考えるべきはあいつが何処の誰かって事よりも、使った魔法の方やね」
(うん。…普通ーに考えるなら、魔法とか夢物語だよね)
「普通に考えるなら、な。けど俺等は今『スキル』を使っとる。既に普通ではない状況や」
(だね。となると、アイツが私に使ったのは『スキル』って事になる)
そう、考えるのが妥当だ。
俺だってそれは考えた。
ストーリーに関係してくる奴なのかと。
(アイツの正体も含めて、一旦ママに確認した方が良いんじゃないかな?)
「佳織さんに?」
(そう。私は『無限ーエイトー』については何も知らないんだよね。派生作品の方が本作だと思ってたくらいだし。だけどその点ママはハードゲーマーだったから詳しいと思うの。私には言えない事でも奏輔お兄ちゃんなら話してくれる可能性もあるし…)
「成程…。確かに佳織さんは全て知ってそうや」
姫さんの言葉に頷きながらも俺はそうだろうかと疑問も覚えていた。
佳織さんが全て知っているなら、姫さんのこの状況も想定内だった筈だ。
だが、その割には佳織さんは今尚落ち着きなく動いている。誠さんに助けを求めているのが良い証拠だ。
佳織さんですら想定していなかった何かが起きていると思った方が良いんじゃないだろうか?
(奏輔お兄ちゃん…?)
何も話さなくなったからか、姫さんが心配そうに伺いを立ててくる。
駄目だ。今の姫さんは俺と佳織さんの声しか届かないのだから、変に不安に思わせたらいけない。
「大丈夫や。姫さん。俺今から佳織さんと話してくるからちょっと待っとってな。話し終えたらまた戻ってくるわ」
(うん。解った)
「あぁ、そうそう。暇やったら一つクイズ出したるわ」
(ふみ?)
「正解者にはご褒美として鴇の苦手なもん教えてやるで」
(さぁ、奏輔お兄ちゃんっ!どんとこいっ!)
「おぉ、やる気満々やな。ほんなら第一問…」
姫さんに問題をサクッと出して、俺は額を離した。
屈んだ態勢で会話をしていたから、固まってしまった筋肉を伸ばして、そっと姫さんの体の下に手を入れた。
勿論セクハラじゃない。
姫さんを連れて逃げる為だ。
姫さんとの会話中、ずっと下で誠さんとの攻防戦の声と音が響き渡っていた。
あの五人相手に全く動じない誠さんも凄いが、アイツらは頭脳戦を仕掛けてくる可能性もある。
だったらまず姫さんを先に逃がさなければ…。
佳織さんと合流して二人で逃げる。今アイツらに姫さんを渡す訳にはいかない。
姫さんを抱き上げて、俺は静かに部屋を出た。
どこから逃げるか…。
どの道から逃げても、直ぐに追い付かれそうだ。
一気に遠くまで行く必要がある。
悩んでいると、姫さんの様子を見る為に佳織さんが階段を駆け上がってきた。
「奏輔くん?……そうね。良い判断だわ」
佳織さんは俺の姿を見て、瞬時に察してくれた。
「一緒に逃げましょうか。逃げ場所は既に父さんに確保して貰ってるわ。行きましょう」
言ってる間に佳織さんは特大の魔法陣を形成した。
これは一体?
なんて思わせる間もくれず、一瞬にして俺達はその場から姿を消した。
(…空間移動するならするとそう言うてくれへんかな…?)
相変わらずな佳織さんに知らずため息が零れた。
意識が戻って視界に映ったのは、見慣れた天井だった。
(俺の部屋や…)
大地達が運んだんだろうと想像がつく。
起き上がると軽く頭が痛む。
薬の所為か、はたまた暴れた所為なのか。まぁ、理由はなんでもいい。
痛む頭を今は無視して、視界がぼやけてることに気付き、眼鏡を探す。
いつも俺が置く定位置に眼鏡がある。
(あいつら変なとこで律儀やな…)
苦笑しながら眼鏡を付ける。
周囲を見渡しても、変化は何もない。
ベッドから足を降ろして、座りながらまずは時間を確認する。ベッドヘッドボードに置かれたデジタル時計を確認すると、どうやら翌日の朝らしい。
「……ん?」
俺は基本的に部屋の中は綺麗に定位置管理するタイプだ。
だからこそ透馬達は俺の眼鏡を置く場所を知っている。それほどいつも同じ場所に同じ物を置くようにしているのに、俺のベッドヘッドボードに見慣れないものが置かれていた。
「なんや、これ…?」
手を伸ばしてそれを取ってみると、本だった。
何処かで見た事がある。
『これがセーブの本か?』
『うん』
『見えへんね』
『だねー。姫ちゃんが何か書いてるのは解るんだけどー』
記憶の中にあった会話がふと思い出される。
そうや。思い出したで。
「これ姫さんのセーブの本や。確か俺達には何も見えなかったはずや。それにこれは姫さんの…」
姫さんの部屋にあったはず。何で俺の枕元に?
不思議に思いつつも一先ず本を開いてみる。
するとあの時見えなかった文字が、何故か見えるようになっている。
早速その文字を追う。
大した事は書いてないな…。姫さんが俺に話してくれた内容が大半や。でも…。
(このハートのんマークが気になる。半分に割れたハートが点滅してる)
電気でも通ったりしない限り、本の、しかも紙に描かれた物が点滅するなんてまずあり得ない事だ。
念の為に裏にしたり、角度を変えて見たり、全てのページを確認したりもしたが、他におかしな所なんてない。普通の本だ。
(…姫さんは何て書いてる?このハートについて…ライフ?)
ページを戻して、姫さんが書き込んだ内容をもう一度読みこむと、そう、書いてあった。
(ライフってーと、あれか?一回死んでも復活出来るってあれやろ?姫さんもセーブした所から戻ってとか言っとった)
けど確か姫さんは、そのライフを使いきったとか言ってたような気がする。
ほんなら、この点滅はなんや?
考えて、辿り着いた答えにハッとする。
(姫さんの命が消えかけてるって事かっ!?)
普通に考えるとそうや。
姫さんが死んだと思ってしまえば、普通に棺桶に突っ込まれてしまう。
そしてそのまま…。
最悪の事態に血の気が引く。
(行かな…行かなあかんっ!)
立ち上がり本を手に抱えて、俺は部屋を飛び出した。
「奏輔っ、あんた何処行くんっ!?」
桜お姉の声が聞こえたが、俺の耳はそれを全力で拒否り白鳥邸へと走った。
昔から通い慣れた道だ。
時間なんて大してかからない。
坂道を登りきった先に白鳥邸が見えた。
スピードを上げて門に飛び込むと、目の前が真っ暗にっ!?
「って、ちょっ、重おおおおおっ!?」
真っ暗ってより、何か俺の顔面にぶつかってきたでっ!?
眼鏡してる奴の顔面に大きいものは反則やろっ!?
首がもげるっ!
倒れるのは何とか回避したものの、俺の顔面に乗っかってるものが重過ぎるのでペイッと横に放り捨てる。
「一体、なんなん…透馬?」
捨てたのはどうやら目を回した透馬だったらしい。一体何がどうなって…。
「うおぁっ!?」
また前方から声がして、次は回避しようと眼鏡を直しつつ横へとずれる。
すると俺がさっき立っていた場所に今度は大地が目を回して落下した。
こいつらが追い出されてるって事は、原因は鴇達か?
だとしたら、俺も覚悟をしなければならないな。守れなかったのは俺も一緒や…。
一歩前へ踏み出すと、
「ッ!」
「くっ!」
「うぐっ!」
赤、金、金の順で家の中から吹っ飛んできた。
三人共仲良く積み上がって目を回してる。鴇まで目を回してるなんて珍しい事もあるもんだ。
って言うか、飛ばしたのは誰だ?
こいつら揃って倒せるなんて、俺は佳織さんくらいしか…。
「揃いも揃って情けないっ。男ならこの状況を覆す事の一つや二つ言い出せないのかっ」
「ま、誠さんっ、落ち着いてっ」
んん?
佳織さんが止めてる?
しかも玄関で仁王立ちしてるの誠さんって…マジ?
えーっと…あかん。頭が停止しとるわ…。
「どいつもこいつもっ!頭を冷やせっ!」
あ、やべっ。ドアが閉められるっ。
「誠さん、佳織さんっ」
「奏輔くん?」
「姫さんの様子は」
この惨状を聞くより先に大事な事を聞いてしまう。
「美鈴なら、美鈴の部屋で寝かせてるわ」
「見に行っても?」
「勿論よ」
一応誠さんに視線をおくって許可を問うと、誠さんは鴇にそっくりな笑みを浮かべて頷いた。
許可も出たから早速誠さんと佳織さんの脇を通って、靴を脱いで中に上がらさせて貰う。
姫さんの部屋は二階。
階段を駆け上がって、姫さんの部屋を一応ノックしてから入る。
そこには相変わらず冷え切っている姫さんが静かに横たわっていた。
昨日別れた時と服装は変わらない。
静かにけれども急ぎ足で、姫さんの額かかる髪を手で避けてから、額同士を触れ合わせる。
(喧嘩してないよね…。鴇お兄ちゃん達意外と喧嘩っ早いし…。誠パパいるから大丈夫だとは思うけど、でも…う~ん…)
「姫さん…」
相変わらずの姫さんにホッと一息つく。
(ふみ?奏輔お兄ちゃん?)
「そや。遅くなって悪かったな」
(ううん。大丈夫。それより何かあった?お兄ちゃん達喧嘩したりしてない?)
……誠さんに家から追い出された…とは流石に伝えれへんし…。
「姫さんが心配するような事はなんもないよ。姫さんは自分の体の事だけを心配しぃ」
(それはそうなんだけど…正直真っ暗だし。ゲームもないし、本もないし…やることない)
「まぁ、そりゃそうやろうけど…」
思考しかないってのは確かに暇かもしれない。危機感がないのはいただけないが…それを隠すのも姫さんらしいし。何とも言えない気分になる。
少しだけ姫さんらしさに触れて自分が知らず笑っていた事に気付いたが、今はそんな場合じゃないからと姫さんに話を振った。
「ほんなら今から姫さんに情報を流すわ。そっから姫さんも体を戻す方法を考えて」
(うんっ。任せてっ)
「とは言うても、今解ってる事はそんなないんやけど…」
一先ず、状況の説明を姫さんにするか。
今の状況をなるべく詳しく細かく説明した。
姫さんはうんうんと頷きながらも、途中「紙とペンが欲しいぃ~っ!」と唸っていたが、どうしようもないから我慢して姫さんの記憶力に期待しておく。
(でもそっか。私このままだとお兄ちゃん達に火葬されちゃうんだね)
「ケロッと言うがな、姫さん。体がなくなったら、そこでもう終了なんやで?」
(ん。それは確かに)
「今の所佳織さんと佳織さんの絶対的味方である誠さんが協力してくれているけど、それかていつまで持つか…」
(…限界があるよね…。それに私の体だって凍らさせられてるとは言え、いつかは腐るだろうし)
「姫さん。だからケロッと言うなって」
(事実だから仕方ないよ。…そもそもどうしてアイツは魔法使えたのかな?)
「それは…確かに」
(それにアイツ、誰?私あんな知り合いいないよ?)
「姫さんは有名人やし。どっかから勝手に惚れられたんちゃう?」
(有名人って言っても一部でしょう?)
「経済界、学校界隈、位か?」
(うん)
「そう言われたらそうかも…?や、でも一般人よりは知れ渡っとるで?」
(ふみみ…?)
自覚なし、と。
姫さんの一般的と世間の一般的にはちょっと、かなり差がありそうだ。
「…話を戻すで。色々おかしな部分はあるが、今考えるべきはあいつが何処の誰かって事よりも、使った魔法の方やね」
(うん。…普通ーに考えるなら、魔法とか夢物語だよね)
「普通に考えるなら、な。けど俺等は今『スキル』を使っとる。既に普通ではない状況や」
(だね。となると、アイツが私に使ったのは『スキル』って事になる)
そう、考えるのが妥当だ。
俺だってそれは考えた。
ストーリーに関係してくる奴なのかと。
(アイツの正体も含めて、一旦ママに確認した方が良いんじゃないかな?)
「佳織さんに?」
(そう。私は『無限ーエイトー』については何も知らないんだよね。派生作品の方が本作だと思ってたくらいだし。だけどその点ママはハードゲーマーだったから詳しいと思うの。私には言えない事でも奏輔お兄ちゃんなら話してくれる可能性もあるし…)
「成程…。確かに佳織さんは全て知ってそうや」
姫さんの言葉に頷きながらも俺はそうだろうかと疑問も覚えていた。
佳織さんが全て知っているなら、姫さんのこの状況も想定内だった筈だ。
だが、その割には佳織さんは今尚落ち着きなく動いている。誠さんに助けを求めているのが良い証拠だ。
佳織さんですら想定していなかった何かが起きていると思った方が良いんじゃないだろうか?
(奏輔お兄ちゃん…?)
何も話さなくなったからか、姫さんが心配そうに伺いを立ててくる。
駄目だ。今の姫さんは俺と佳織さんの声しか届かないのだから、変に不安に思わせたらいけない。
「大丈夫や。姫さん。俺今から佳織さんと話してくるからちょっと待っとってな。話し終えたらまた戻ってくるわ」
(うん。解った)
「あぁ、そうそう。暇やったら一つクイズ出したるわ」
(ふみ?)
「正解者にはご褒美として鴇の苦手なもん教えてやるで」
(さぁ、奏輔お兄ちゃんっ!どんとこいっ!)
「おぉ、やる気満々やな。ほんなら第一問…」
姫さんに問題をサクッと出して、俺は額を離した。
屈んだ態勢で会話をしていたから、固まってしまった筋肉を伸ばして、そっと姫さんの体の下に手を入れた。
勿論セクハラじゃない。
姫さんを連れて逃げる為だ。
姫さんとの会話中、ずっと下で誠さんとの攻防戦の声と音が響き渡っていた。
あの五人相手に全く動じない誠さんも凄いが、アイツらは頭脳戦を仕掛けてくる可能性もある。
だったらまず姫さんを先に逃がさなければ…。
佳織さんと合流して二人で逃げる。今アイツらに姫さんを渡す訳にはいかない。
姫さんを抱き上げて、俺は静かに部屋を出た。
どこから逃げるか…。
どの道から逃げても、直ぐに追い付かれそうだ。
一気に遠くまで行く必要がある。
悩んでいると、姫さんの様子を見る為に佳織さんが階段を駆け上がってきた。
「奏輔くん?……そうね。良い判断だわ」
佳織さんは俺の姿を見て、瞬時に察してくれた。
「一緒に逃げましょうか。逃げ場所は既に父さんに確保して貰ってるわ。行きましょう」
言ってる間に佳織さんは特大の魔法陣を形成した。
これは一体?
なんて思わせる間もくれず、一瞬にして俺達はその場から姿を消した。
(…空間移動するならするとそう言うてくれへんかな…?)
相変わらずな佳織さんに知らずため息が零れた。
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