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最終章 数多の未来への選択編

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七階の横穴に入って、真っ直ぐ進む。
先頭に近江くん。後ろに陸実くんがいるんだけど…あれ?近江くんが少し下がってきた。
うぅん…ちょっと私も歩くペース落とした方が良さそう、かな?
近江くんと一緒に歩くスピードを落としたんだけど、一人それに一切気付かずにスピードアップしてる人がいる。
…止めた方がいいのかな?
でもこれはこれで面白…げふんげふんっ。
近江くんが反応してないし大丈夫だよね、うん。
ずんずんずんずん。
私を追い越し、近江くんを追い越し。
ゴンッ!
「ほぎゃっ!?」
陸実くんが何かにぶつかった。
壁?石壁?そんな道の真ん中に壁ある?
「ちょっと待つでござる」
言いながら近江くんは、簡単に手元に明かりを灯す。何処から出したの?そのランタン。
大きさ的にポケットに入る大きさじゃないよね?それは突っ込み入れて良い事?悪い事?
私が突っ込みすべきかむずむずしている間に近江くんは灯りと一緒に進み、おでこを擦っている陸実くんと並んだ。
二人の後ろから私も覗くけれど、壁らしいものはなさそ…うん?
今何かが反射した?
近江くんが手を出して、ドアをノックする要領で目の前を叩く。
コンコン。
まさかの音がした。
え?ちょっと待って。そこに壁があるって事?
私は陸実くんの横から顔を出して、手を伸ばしてみる。
そこには目には見えない透明な壁があった。
「水族館の水槽みたいだな」
「確かにアクリル板っぽいよね…」
コンコン。
私も叩いてみるが、かなり頑丈っぽい。
「何にしても行き止まりだよね?引き返す?」
「一本道でござるからなぁ。一つ上の階に行ってみるでござるか?」
「近江先輩、壁壊せたりしねーの?」
「ここの地下全部を破壊なら出来るでござるっ」
どやっ!
近江くん。それ胸張って言う事じゃないわー。
「おぉっ!じゃあ、それで行こうぜっ!」
「行けるかっ!」
思わず突っ込み入れちゃったじゃんっ!
「冗談でござる」
「えっ!?冗談だったのかっ!?」
「……近江くん。反省して」
「申し訳ないでござる」
陸実くんの前で不用意な事を言ってはいけない。
近江くんをしっかり反省させた所で、私は何か良い案がないかと腕を組んで確かめる。
そもそも何でここに透明な壁が出来たんだろう?
だってさ?
周りを見る限り、そこまでの人工物をここに入れこむのは不可能だと思うのね?
って事は忍び関係の力かな?って思うんだけど…結界と言うには頑丈過ぎだよね?これ。
…うぅ~ん…物は試しって言うし。
キョロキョロと辺りを見渡して、自分の希望に近い先の尖った石を拾う。
「せーのっ!」
力一杯振り上げて、とんがった先を壁にぶつける。
車のガラスを割ったりするのと同じ理論で一点集中で傷つけようとしてみたけど、そこは全く傷なんてなく、ツルリンとムカつくくらい傷のきの字もなかった。
うぅーん、ただの壁ではないとは思ってたけど、ここまで無傷だと腹立つなぁー。
こんなにはっきりと触れたり叩けたりするって事は結界説もかなり低そう。そもそも結界なら触れた瞬間弾かれそうなんだよねー。
ぺしぺし。
意味もなく叩く。
いや手の平で叩いたくらいで、この壁がなくなるとは思ってないけどさ。
こうガラスとかって、手開いて叩きたくならない?私だけかな?
ぺしぺし。ぺしぺしぺし。ぺしぺしぺしぺしぺ、すかっ。
「うんっ?」
すかすかっ。
「あれ??壁何処行った?」
「どうしたでござる?」
「あ、いや、その…壁がなくなったよ?」
手を振ってみるも、やっぱりそこにあった壁はなくなっている。
…あ。もしかして。
私は駆け足で来た道を戻ると、そこには無かった筈の階下へ行く階段が出来ていた。
「ああー…そっか、納得」
恐らくこれは、ゲームのショートカットコースの『調整』って奴だ。
多分、大地お兄ちゃんが七階にまだいたから『階の踏破』はしたけれど『イベントが発生』してるか何かで他の人間の介入を出来なくしている、って事だと思う。
私は試しに階段を降りてみる。すると行き止まりで、しかも横穴がない。
って事は、大地お兄ちゃんは下に降りたばっかりって事だね。で、イベントも終了してるから、階に入る事も可能になった。
だとしたら今急げは大地お兄ちゃんに追い付けるって事だねっ。
急いで階段を駆け上がり、近江くんと陸実くんがいる所まで戻り、更に足を進めて前に進むと、広い空間に出た。
その空間の中央には、何か焼ける匂いが充満している。正直良い匂いではない。
地面や壁のえぐれ具合を見ると、ここで戦闘があった事がありありと解る。
かなり、大きいのと戦闘したらしい。
「……大地お兄ちゃん…」
「大丈夫でござるよ。丑而摩先生はその程度では死なないでござる」
「そうそう。美鈴センパイの兄貴に本気で殴られてもケロッとしてるんだから大丈夫だって」
ケタケタ笑う陸実くんの言葉に私はどう反応していいか戸惑う。鴇お兄ちゃんは基準にする程超人じゃないよと突っ込みを入れるべきか、それとも大地お兄ちゃんがそこまで頑丈な超人じゃないと突っ込みを入れるべきか。悩み所だ。
っと、そんな事で悩んでる場合じゃないよね。
二人の絶対大丈夫と言う言葉を信じて、私は辺りを見渡す。
きっと何処かに梯子か何か…あっ、あったっ!
「近江くん、陸実くん、こっちっ」
二人に呼びかけて、梯子がかかっている穴へと向かう。
覗き込むと、誰かの頭が見える。
誰?
私達三人の視線に気付いたのか、あちらもこちらを見上げた。
……知らない男。
静かに陸実くんの後ろに隠れる。
「……表門の人間でござるな」
「そうだよー」
近江くんとその男性の温度差が凄い。
警戒して、陸実くんと私をその背に庇う。陸実くんも見慣れない人間に警戒をしている。
そんな私達とは裏腹にその男性は…のほほんとしていた。この雰囲気…気のせいかな。どっかで似たようなのを感じた事があるような…?
「……ふはー。降りるのと違って登るのは相変わらずしんどいー…って、ん?」
え?何?なんで私の顔をそんなじっくり見てるの?
「あぁっ!?誰かと思ったら大地さんの大事な子じゃないっスかーっ!」
「えっ!?大地お兄ちゃんの事知ってるのっ!?」
「マジで可愛いっスねーっ!うわーうわーっ!」
「ちょ、あのっ」
「いや、でも俺っちは彼女一筋なんでっ!」
「そう、それは重畳…って違うっ!ねぇ、大地お兄ちゃんを知ってるんでしょうっ!?何処にいるのっ!?」
近寄るのは体が怯えてしまう事を知っているから、一先ずは近江くんと陸実くんの影から体を出して彼に問いかける。
すると、彼は一瞬眉を寄せ苦しそうな顔をして、それを直ぐに笑顔で覆い隠してしまった。
一体何故?
しかし、彼はもう顔に笑顔以外、態度には柔らかさ以外を出す事をしない。
「大地さんなら、この上の層にいるっスよー。何でも、『姫ちゃん』に伝えたい事がある、とかで」
「上に…?」
「俺っちも今から追い掛けるとこなんス。一緒に行くっスか?」
にこにこと笑顔で問いかけてくる。
近江くんと陸実くんは探している人物の手がかりが見つかったじゃないかと喜ばし気だけど…私は素直に喜べない。
だって、だってこの人…。
「……私も舐められたもんだわ」
はぁと大きくため息をついた。
だってそうじゃない?
財閥の総帥である私が、こんな解りやすい嘘を見抜けない訳ないのに。
腕を組み、目の前の笑顔を浮かべる男を睨みつける。
「…どうしてそんな解りやすい嘘を?」
「え?」
「申し訳ないけれど、私にそんな嘘は通用しないわ。大地お兄ちゃんは、下の階層にいるのね?」
私がそう言うと、彼は解りやすく青褪めた。
「…大地お兄ちゃんと一緒にこの中を探索していたのかしら?貴方から少し火の匂いがする」
「……」
「下で何かきっとあるのね。……で、何らかの理由があって貴方を先に外に出した。理由を考えるなら、貴方では対処できない何かって所か、もしくは貴方に何か急ぐ理由があってそれを優先するように言ったのか。…大地お兄ちゃんが人一人守れないような人じゃない事を考えると、後者かしらね」
「………全然隠せないじゃないッスかー。一体何もんなんスかー?大地さんの大事な子はー」
「ふふっ。ごめんねー。毎日毎日狸な連中と舌戦を繰り広げてたら、嘘の一つや二つあっさり看破よー。まして、表門の人達って解りやすいんだもん。尚更ね」
笑うと、今度こそ諦めた彼は両手を上げて私と向き合った。
「表門の事を知っていると言う事は、貴女が裏門の頭の主っスよね?」
「うぅーん、まぁ、そうなる、のかな?」
「なるでござるな。金山が仕えているのは白鳥家でござるから、実質は頭首である白鳥誠殿になるでござろうが」
「まぁ、私も総帥としての仕事はしてるけど、家の一番偉いのはとなると誠パパになるよね」
「……総帥…?」
「あれ?知らなかった?えーっと…初めまして。白鳥財閥総帥白鳥美鈴と申します。以後お見知りおきを」
ニッコリと笑うと、彼は『嘘だろー。なんつー所に手ー出したんだよ、あいつらー…ぶつぶつぶつ』と何か呟いていたが、直ぐに我に返り私の方を見て頭を下げた。
「謝罪は後できちんとするっス。でも今はこれで勘弁して欲しいっス。それから…大地さんは貴女のお母さんと今頃一戦交えてると思うっス。…俺っちは自分の事を優先させたっス。そして今も尚、自分の彼女を優先したい。…この穴から大地さんの所へ行って、二人を止めて欲しいっス」
「ママと大地お兄ちゃんがっ…?」
「はいっス…」
驚きはしたけれど、何処かでこうなる気もしていた。
乙女ゲームの中のママの立ち位置を考えるとこうなる気がしていたんだ。
「ありがとう。詳しくは戻ってから聞くね。今は…行かせて貰う。じゃあ、またね」
頭を下げたままの彼に手を振って、先に進んだ近江くんに続いて梯子に足をかける。
「あ、そうそう」
「?」
「彼女さんに今度合わせてね。可愛い子は大好きっ」
ぐっと親指を上げて言うと、彼は一瞬目を丸くしてから、今度は嬉しそうな顔で大きく頷いてくれた。
それに笑顔で答えて私は梯子を降り穴に潜って行った。
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