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最終章 数多の未来への選択編

※※※(大地視点)

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パァッと光が放たれ、佳織さんの呪いが消えて行く。
それにオレは一先ず安堵した。佳織さんがちゃんと飲んでくれた事に。オレを信用していてくれた事に心から安堵して感謝する。
けれど、それは当然オレから見た安心感で。佳織さんは呪いの解かれていないオレを見て愕然とした。ついで、怒りにきりきりと目が吊り上がって行く。
「どういうことかしら?大地くん」
「どう言う事って?」
「…どうして、貴方の呪いが解けてないの?私を騙したの?」
オレは素直に頷く。
すると、すかさず拳が飛んでくる。
慌ててそれを回避すると、怒りに任せたままの追撃がまたオレの顔面目掛け飛んできた。
拳を手で受け止めて、その力を横に流すが、佳織さんは流される事なく、蹴りを仕掛けてくる。
それを逆手でまた受け止める。
佳織さんが疲れるまで、攻撃を受け流し続けた。
流石は佳織さんと言うべきか、攻撃は一発一発が重い。怒りが込められているから尚更だ。本当なら何発でも受け入れてやりたい。が、駄目だ。
今オレは倒される訳にはいかないから。例え相手が佳織さんだとしても、だ。
暫く、攻撃を受け流していると、佳織さんはオレが何もしてこない事に気付き、攻撃の手を止めた。
「何故…?何故、こんな事したの?薬は一体何処に?」
「小次郎に渡した。オレが持ってたのは小次郎が飲んだ薬の空瓶だ」
言ってオレは佳織さんの目の前に持っていた空瓶を見せた。
この瓶良く見ると、一つ一つに分かる様に目印が付いている。間違う事の無いように念入りにしていた証拠だ。
オレはそれを隠すようにして飲むふりをしたからバレなかったが、これがもしバレていたら、佳織さんは自分で薬を飲まずオレに飲ませただろう。
もしくは直ぐに小次郎を追ったかもしれない。
小次郎もあれでかなりの力を持った忍者だ。とは言え佳織さんはきっとそれの上を行く。直ぐに追い掛けられたら追い付かれたかもしれないが、これだけ時間があけばまず追い付けない。
佳織さんの姫ちゃんを救う手立てをオレは全て消してしまった。
怒られても仕方ない事だ。
「…佳織さんは、また、姫ちゃんに自分が死ぬ姿を見せるんですか?」
「…ッ…」
「佳織さんの愛してやまない娘は、自分を優先して人が死ぬ事を喜ぶ人間ですか?」
「…だって、だって仕方ないじゃないっ!私は、私は『美鈴』に、『華』に幸せになって欲しいのよっ!もう、誰かに殺されたり、恐怖を味わったりして欲しくないのっ!私は娘に幸せに生きて欲しいだけなのよっ!それの何が悪いのよっ!」
「別にオレは姫ちゃんを不幸にさせたい訳じゃない」
「どの口でそんな事が言えるのっ!?現にあなたの所為で私の娘には死しか待っていないじゃないっ!こんな短い人生が幸せだとでも言うのっ!?」
「人によっては幸せかもしれない。でもオレが言いたいのはそう言う事じゃない。騙したのは悪かったけど、でも、オレは姫ちゃんを死なすつもりはない。まだ方法があるかもしれない。諦めたくねぇんだよっ。全員が幸せになる方法をっ」
「そんなご都合主義な展開になる訳がないでしょうっ!」
「してみせるんだっ!絶対にっ!」
「ただの理想論で、私は自分の娘を殺したくないのよっ!」
パンッと佳織さんが拳を鳴らした。
「もう…一か八かよ。大地くんを通じて侵された呪いなら、その中継者がいなくなれば、もしかしたら…」
ズバァンッと佳織さんの横に雷が落ちる。
…来る、か。
今まで佳織さんと全力でぶつかり合った事はない。
女の人相手に本気で殴れる訳がない。ましてや、大事にしている子の母親であれば尚更。
けど…今は、やるしかないか。
拳を構える。
互いに、間合いを取りつつ、相手の出方を窺う。
ジリジリと襲う威圧に、背中を冷汗が伝った。
オレは自分が強い方だと自負していた。
絶対に勝てない相手が…鴇がいたから世界一強いなどと己惚れる事はなかったにせよ、それでも強い方だと解っている。
そんなオレが未だ一歩も踏み出す事が出来ない。
ほんっとどこまでも規格外だ。佳織さんは。
これが、姫ちゃんが言っていた所のゲームでの佳織さん。ラスボスの強さなのかと身をもって実感している。
ふわっ。
小さく空気が動いた。
―――来るっ!
佳織さんがオレの頭上に雷を落とそうとするが、動いたオレはそれを回避し、オレがさっきまで立っていた場所に雷が落ちる。
こちらへ向かってくる佳織さんにこちらも全力で立ち向かう。
互いに繰り出した拳が、大きな衝撃波を飛ばしながらぶつかり合う。
力がぶつかり合い、互いが生み出した衝撃波と力に弾かれた様に後方へ体が飛ぶ。
着地すると同時に、雷が来る事を予測して、こちらから打って出る。
佳織さんの出した拳を交わして腕を掴み、背負い投げる。
が、それを難なく着地されて逆にオレの腕がとられる。
力勝負で負けるつもりはない。
掴まれた腕を逆に掴んで、もう一度投げる。
だが、掴んだ腕から電流が流れ込み、オレは慌てて距離を取り、佳織さんの雷をやり過ごす。
佳織さんは雷属性持ちって事か?
だとしたら、やり返せるのは、水って事になるんだが…。
…でも、佳織さんとは拳でぶつかって勝ちたい。佳織さんに納得して貰う為にも拳で勝負したい。となると使うのはこれしかないか。
『攻撃力アップ』のスキルを発動させる。ついでに習得していた『加速度アップ』と『防御力アップ』も同時に発動させる。
急激にスピードが上がったオレに、佳織さんが構え直しこちらへ挑んでくる。
それをオレは真っ向から受け止める。
さっきは互角だった。
けど今は。

バァンッ!!

拳がぶつかり再び衝撃波が生まれる。
だが、今回はそれだけでは終わらせない。
オレの拳が少しずつ、佳織さんを押していく。
「……くっ…!」
佳織さんが、少しずつオレの力に押し負け体が後退する。
それでも拳を引かないのは、佳織さんの意地なのだろう。
けど、オレだって姫ちゃんの為には譲る事が出来ないんだ。
もう一つ、スキルを発動させる。
『攻撃力アップ・改』を。攻撃力アップの上位互換スキル。
オレの力が更に増す。
それに気付いた佳織さんが目を真開く。
「オ、レはっ、負ける訳にはっ、いかねえんだ、よっ!!」
気合と根性と全て出しきって、オレは全力で拳を押し込んだ。
その波動は佳織さんを押し返し、体ごと吹き飛ばした。
佳織さんは声を上げる事なく、壁に叩きつけられて跳ね返り地面に墜ちる。
衝撃で空間が揺れて、パラパラと天井から砂が落ちた。
警戒を解かず、佳織さんに近づく。
動く気配はない。
(動く気はなさそうだけど、意識はあるな)
一体何を考えてるのか、解らない。
オレを殺す気はなさそうだ。さっきあった怒気も感じられない。
なら一体何を考えている?
ふと佳織さんの倒れている側に視線をやると、そこには穴があった。もう見慣れている穴だ。梯子が立てかけられている穴。更に下層がある?
ちらりと佳織さんに視線を向ける。
動く気配は相変わらずない。
だとしたら、もしかして佳織さんはオレを狙ってるのではなく、オレの視線が佳織さんに向くのを待っている?
何故か?
佳織さんがオレの油断を誘いつつ行かねばならない所があるからか?
行くべき場所…そこか?
そこに一体何がある?
…行ってみなければ解らない、か。
オレは足をそちらへ向ける。
すると、慌てたように起き上がった佳織さんがオレに雷を仕掛けた。
しかし、防御力アップをしているオレにそれは効かない。
歩を止める事なく進むオレに、佳織さんが声をかける。
「待ちなさいっ!駄目よっ、大地くんっ。そっちに行っては駄目っ!」
止める佳織さんの言葉を受け入れる事はせず、オレは穴へと向かい、梯子へ足をかけた。
「大地くんっ!!」
「…佳織さん。この下に、何があるんですか?」
「…言わないわ。でも駄目よ。危険なの。貴方だって無事に済むか解らない。行っては駄目。絶対に」
「言えない。だけど、危険。…何かいるって事ですね?」
佳織さんは口を噤む。
それじゃあ肯定している様なものなのに。
苦笑が浮かぶ。
佳織さんがそこに挑まずに上階だけでどうにかしようとした。
と言う事はこの下にあるのは、佳織さんですら避けて通りたくなる場所だと言う事。
どんなモノがいるか、あるのか、さっぱり解らない。
だけど、想像は付く。
恐らくゲームには良くある、ラスボスの後に登場する真打ちだ。ラスボス以上の力を持った敵がいる。
それに佳織さんが止めると言う事は、他にも何か危険な事があると言う事。毒かもしれないし、新手の呪いかもしれない。それ以上に危険な何かかもしれない。
だが裏を返せば、そこに居る奴を倒せば、その場の謎を解けば…姫ちゃんを助ける手段が見つかるかもしれないと言う事だ。
ならオレに与えられた選択肢は一つだ。
行って、姫ちゃんの薬を手に入れる。それだけだ。
「本当に駄目よ。その下には一人でしかいけないの。危険過ぎる」
「だったら尚更オレが行かないとー。…佳織さんが死んだら姫ちゃんが悲しむ」
「そんなの、貴方が死んだって美鈴は悲しむのよっ」
「えっ?」
思わずキョトンとしてしまった。
で、佳織さんがそれを言ったことが面白くてつい笑ってしまう。
「アハハッ。佳織さん、さっきまでオレを殺そうとしてたのに、それを言うのー?」
「痛めつける気はあったけど殺す気はなかったわよっ」
「それは、いざ何かあっても、佳織さんはこの先で手に入れる何かがあればどうにかなると思ったから?」
問うと、佳織さんは口を噤んだ。
だからそれは肯定と一緒だって。
「…佳織さん。佳織さんが死ねば姫ちゃんが悲しむ。けど、オレは違う」
「え?」
「オレが死んで悲しむ姫ちゃんと佳織さんが死んで悲しむ姫ちゃん。どっちがより悲しむと思う?」
「そんなの」
「そう、佳織さんだ。だったらここに挑むのはオレだろ?オレは御三家の中で一番戦う力がある。体力もある。それに、もしもオレが死んだとしても姫ちゃんは助かる可能性がある。なら行くしかないだろ」
「大地くんっ」
「佳織さん。姫ちゃんに伝えてー。絶対に助けて見せるから、もう少しだけ待っててって」
今度こそ佳織さんの制止を聞かずに穴の中へと飛び込んだ。

降りた側から梯子が消えて行く。
誰も後を追ってこれないようになっているらしい。
どれだけ降りたのか解らない。
梯子が終わり地面に足をつけた。
今までの洞窟となんら変わりはなさそうだ。
一歩、また一歩と進む。
不思議と恐怖はない。
ただ、ここを乗り越えれば姫ちゃんを助ける事が出来る。その事だけがオレの中を占めていた。
暗闇の中。
赤く輝く光が二つ。
その光と視線があった瞬間。

『ヴォアアアアアアアッ!!!』

空間を揺るがす、咆哮が響き渡る。
ガァンガァンッ。
大きな何かが近づいてくる。
足音が止まった瞬間、一気に辺りが明るくなり、そいつの姿を照らす。
人、獣、、植物、無機物、全てが集まって出来た集合体。ゴーレムのような姿をして、こちらを見降ろしている。
「成程ねー。…でも、まっ、力型の敵ならどうにかなるだろー」
見た目蛙と恐竜並にサイズが違うが何とかなるだろう。
そう鷹をくくっていたのだが、それを否定するように咆哮が左右から同時に聞こえ耳を奮わせた。
「あちゃー…こんなにいるのか。でも、やるっきゃないよな」
パァンと手を打ち合わせて気合を入れる。
「絶対に薬を手に入れてやるからなっ!姫ちゃんっ!」
オレは目の前のゴーレムに向かって行った。
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