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最終章 数多の未来への選択編
※※※(透馬視点)
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「透馬。起きとるか?」
階段を登り奏輔がベッドの影から顔を出した。
「起きてる」
「姫さんは?」
完全に階段を登り切る事はせず、階段の最上段で奏輔は姫を痛ましそうに見た。
「さっき一度目を覚ました。背中の傷が辛いようだったから、もう少し眠る様に言った」
「そうか。矢が背中に刺さっとったんや。当然やね」
「奏輔」
「なんや?」
「どうやら姫の中で毒が確実に浸透してるっぽい。…会話の最中に鳴き声が混ざっていた」
「…真面目に受け取らなければ、可愛いで済むとこなんやろうけど…ヤバいな」
俺も奏輔も真面目に頷く。
姫の体の中にある毒が着実に侵攻していると言う事だから、笑い事じゃねぇ。
腕の中の姫の様子を見てから、窓の外へと目を向ける。
「今、どの辺りだ?」
「山の中腹辺りか」
「なら、もう少しで着くな」
「大地が運転ミスってなければ、の話やけどな」
「……確認しとけよ」
「わかっとる」
トントンッと音を立てて奏輔は階段を降りて行った。
「…姫。もう少し我慢してくれな。もう少しで、ゆっくり休める場所につくからな」
ゆっくりと金色の髪を撫でると、姫は擽ったそうに俺の胸に額を擦りつけた。…反則的に可愛いだろ。
鴇、お前は何年もこの可愛いのを近くで見てきたのか。狡ぃぞ、この野郎。そして、棗。お前は確実に仙人だ。良く理性を持ちこたえさせたもんだ。
どうでも良い事を考えながら、俺はただ姫が寝やすい様にとベッドに徹した。
そうこうしてる間にいつの間にか俺はまた姫と一緒に眠ってしまっていた。
おかげで車の揺れが収まっている事に一切気付かず、むしろ、
「透馬お兄ちゃん、起きるにゃ」
ペシペシと頬を叩かれて姫に起こされる始末。
目を擦って、目をぱちりと開くと、そこには姫がきょとんと小首を傾げて俺を見ていた。可愛い。
「朝にゃ?」
朝って言うか、窓の外を見る限り太陽光が強く、日が登り切っているので最早昼である。
「王子ー。天川先生ー、起きてるー?」
下の階から新田の声がして、
「起きてるぜー。今行くわー」
しっかりと答えてから、体を起こす。勿論姫に負担をかけないように、だ。
「姫。背中はどうだ?」
「痛くにゃいにゃっ。起きれるにゃっ。愛奈達の薬がほんと怖いっ」
「…そっか。一先ず薬の効能に関しては置いといて、大丈夫そうなら下行くか」
「オッケーにゃっ」
キャンピングカーの二階はそんなに天井が高くない。昨日姫を寝せる時も苦労したが、天上が低いのは身長がある俺達には結構きつい。俺と姫はベッドの上を四つん這いで進み階段に足を降ろす。
姫に先に降りる様に促して、姫が下まで降りたのを確認してから俺も降りる。
それからひざ掛けを取りだして、姫に渡した。
何でかって?
姫に尻尾が出来たからだ。
尻尾がボトムの中に隠せるなら別に良いんだが、まず隠せないし何より驚いたりすると膨らんでピンと上方向に伸びてしまう。今は長めのワンピースを着ているし、驚いたり興奮するような状況ではないから問題ないとは思うが、流石に立って歩き回るとなると…念の為に、な。
姫はひざ掛けを腰に巻いてキョロキョロと辺りを見渡した。
確かに姫はこの車の内装を知らないから物珍しいかも知れない。俺は一応昨日の段階で結構見て回ったしな。
「ホテルにゃ…。ホテルのリビングがここにあるにゃ…」
「奥にトイレと風呂、洗面所がある」
「にゃんと…。ホテルにゃ。ホテルがあるにゃ」
姫が楽しそうに目を輝かせて探索を始めた。…楽しそうで何よりだ。
ぐるりと辺りを見渡す。
ソファが向かい合って置かれて、真ん中のテーブルには朝食らしきものが置かれている。時間的にもう昼食だが、恐らくアイツらが残しておいてくれた俺と姫の朝食だ。
ふと外から声がして窓の外を見るとアイツらが外で誰かと話している。
あれは…ヨネ祖母さんか?
外でアイツらと何かしら話しているヨネ祖母さんが俺の視線に気付いた。とりあえず手を振ってみると、微笑んで手を振り返してくれて、そのまま皆を連れて家の中へと入って行った。
置いて行かれた?…いや、違うか。飯を食う時間をくれた訳だな。
「ふにゃっ!?ご飯にゃっ!?」
探索から戻って来た姫が嬉しそうにテーブルに駆け寄った。
「そうだな。まずは腹ごしらえしようぜ。腹が減ってたら戦も満足に出来ねぇしな。そっから祖父さんと祖母さんに話を聞きに行こう。幸い状況の説明は一足先に行ったあいつ等がしてくれるだろ」
言うと姫はコクコクと頷いて、いそいそとソファに座った。
「美味しそうにゃっ。トースト、目玉焼き。これはにょっけて食べるしかにゃいにゃ」
ソファにちょこんと座る姫が凄まじく可愛いが、今は可愛がりたい衝動を抑えて食事に必要なものを用意する。
トーストに目玉焼き、サラダにウィンナー、か。洋食なら飲み物は牛乳がいいか。念の為にホットミルクにしておこう。
高級キャンピングカーのおかげで、当然の様にあるコンロに鍋を置いて牛乳を注いで温める。温まった所をカップに注いで、砂糖と少しのきな粉を入れる。
出来上がったカップを持って、姫の前に座る。うん?何故、俺の分のトーストにも目玉焼きが乗ってるんだ?まぁ、良いけどよ。
「ほら、姫」
「ありがとうにゃ」
「ちょっと温めにしてあるけど、気を付けて飲めよ?」
「ふみゅ?」
「姫。今体が猫化してるんだ。もしかしたら猫舌になってるかも、だろ」
「あ、にゃるほど。分かったにゃ。気を付けてふーふーして飲むにゃ」
両手でカップを受け取り、姫は嬉しそうに笑う。
しかし、何でトーストの上に目玉焼き?
「トースト、キャンプ、と来たら三つ編みおさげの女の子に目玉焼きトーストと相場が決まってるにゃ」
「あー…、あれか?有名アニメ映画の」
「それにゃっ。やらにぇばにゃらにゃいっ」
キリッとしている姫が無性におかしくて、俺はそうかと頷きつつもそっと横を向いて笑いを堪えた。
あむっ。
姫がトーストに齧りつき、ちゅるんと音を立てて目玉焼きだけを先に口の中に含んでしまう。
いや、確かにあの映画はそうやって食べてたけどな。けどそうやって食べるとトーストとの比率がおかしくならないか?それに俺達は別に天空の城に行く訳じゃないぞ?急いで口に含む必要もないと思うが…。
「………しまったにゃ」
目の前の残ったトーストに、気付いた姫がしょんぼりした。
あんなに頭の良い姫が、と思うと。しかもトースト片手にしょんぼりと。混み上がる笑いを我慢なんて出来なかった。
「…くっ…ははっ、あははははっ」
「と、透馬お兄ちゃんっ、笑わにゃいでっ。ううぅ~っ」
顔を真っ赤にカリカリとトーストに齧りつく姫がとにかく可愛かった。
確か、ジャムあった筈だよな。
笑いを堪えつつ、コンロの側にある冷蔵庫からイチゴのジャムを取りだす。あれ?新品だった筈だが封が開いてる。誰か食ったのか?まぁ、良いけどよ。
「ほら、姫。市販のだから姫が作るのよりは美味くはないかもだけど」
「も、もう、透馬お兄ちゃん、口、笑ってるにゃっ」
「ははっ、悪い悪い」
「もー、絶対悪いって思ってにゃいにゃっ。いいもん、にゃにゃみお姉ちゃんに透馬お兄ちゃんに苛められたって言いつけるもん」
「うぐっ。姫。それを出してくるのは反則だろ」
互いに顔を見合わせて、何故かそれもまたおかしくて。同時に噴き出した。
一頻り笑い合い、姫は俺から受け取ったジャムを塗って、嬉しそうにトーストを食べ始めた。
俺は折角姫が乗せてくれた目玉焼きなので、バランス良くトーストを食べ切った。
出された物を食べ終え、俺は自分の分にと入れていたコーヒーを飲む。
するとホットミルクを飲んでいた姫がコテンと首を傾げた。
「ふみみ?透馬お兄ちゃん、これ、にゃにか入ってる?砂糖の味じゃにゃいにゃ。…きな粉?」
「当たりだ。美味いだろ?」
「うん。美味しいにゃ」
こうしていつまでもまったりしていたい所だが…、そうもいかないな。
食べ終えた食器を軽く拭いて、食洗器へと入れる。
そして俺と姫は車を降りて、素早く佳織さんの実家である源祖父さんの家へと入った。
出迎えてくれたのはヨネ祖母さんで。俺達が最初に出会った頃と全く変わらないのが、素直に怖ぇ。
「透馬ちゃん。何か言ったかしら?」
「言ってない、言ってない」
口に出してないのに何で伝わるんだ。
「それよりお久しぶりねぇ、美鈴ちゃん、透馬ちゃん」
「お祖母ちゃんっ」
むぎゅっと抱き付く姫を微笑ましく見守っていると、奥からやっぱり見た目全く変わらない源祖父さんが出て来た。
「…ふむ。聞いていた通りのようじゃな。美鈴。ちょっと来なさい」
源祖父さんが真面目な顔をしている。滅多にない表情にちょっとびっくりした。
どうやら姫も同じようで目を真ん丸くしていた。
中へと入ると、居間に案内され、そこで既に中にいた奏輔達と合流する。アイツらは揃って円卓を囲み、青い顔をしている。一体何を見てそんな顔をしてるんだ?
「どうした?一体何があった?」
問うと、五人は何とも言い難いような顔をして、こちらを見た。
一体何を見ていたんだ?
俺達もその円の中に入れて貰い、机の上に広がっている紙を覗き込んだ。
巻物か?
えっと、何々?
『秘伝の巻物、毒と解毒編。
毒は禁忌。作るべからず。手を付けねばならぬなら、必ず解毒の手段も同時に編み出すべし。毒とは諸刃の剣。戦いと同義。狙うならば狙われると心得よ』
達筆で、しかも古語で読み辛いが、多分書いてあるのはこう言う事だろう。
…言葉の意味は後で源祖父さんに確かめるとして、今は先を読む。講釈も後回し。
先に、姫の毒に関する項目を探して読んでしまおう。
巻物をおくっていき、毒の種類一覧に辿り着く。
恐らく、こいつらが固まっている理由はここにある。
『変化の毒。効能、狙った相手を望んだ姿に変化させることが出来る。
材料、吸水花、鮫の逆歯、変化させたい生き物の一部(数が多ければ多い程効果が高い)、最古の氷、聖杯。
精製方法、吸晶花(すいしょうか)を乾燥させ、鮫の逆歯と変化させたい生き物の一部を擦り潰し、粉状にする。粉が上手く混ぜ合わさると色が変化する。微々たるものだから要注視。変化したらそこへ最古の氷を溶かした水滴を一滴ずつ混ぜ合わせ、完全に混ぜ合ったら聖杯へ入れる。月の光が当たる場所へ持って行き、月の光を一日浴びせ、全ての光を飲みこむ様になったら完成である』
材料名を聞いたこともなければ、かかる手間暇も驚きだ。
しかし、ここまで確かに驚く事だが、俺達ならある程度想像つくし、何なら近江が驚くような事じゃないだろ。
一体何に驚いてたんだ?
他に載ってる事は?
『変化させたい生き物の一部 例、猫ならば最低でも100匹から一部を取りだす必要あり』
ここか。
100…。下手すると100匹殺してる可能性もあるって事か?
「許さにゃいにゃっ。もふもふを殺す奴は万死に値するにゃっ」
パシパシッ。
姫の尻尾が不満を訴えている。
けどなぁ。ここもまぁ、驚くと言えば驚くが…そこまでか?
奏輔に視線だけで問うと、首を振られ、巻物を更におくられた。
解毒方法?
『変化の毒。解毒方法。材料、水晶花(すいしょうか)、鋸刺鮭の金鱗、戻りたい生き物の一部(変化の薬に使われた一部の倍)、天上の氷、聖杯。
精製方法、水晶花に戻りたい生き物の一部を触れさせた水を与える。すると水晶花が水晶球を生成する。生成された水晶球を天上の氷と共に鋸刺鮭の金燐をくべて起こした火で炙り溶かす。液状化した物を聖杯に入れて、日の光を受ける社に置いて一日置く。光を放つ様になったら完成である。
尚、戻りたい生き物の変わりに、その生物を生み出しし生き物の命でも構わない』
成程。ここか。
確かに青くなる。
その生き物を生み出しし生き物の命。
姫を生み出したのは、佳織さんだ。佳織さんの命は流石に、
「あり得にゃいっ。ママの命を使う位なら、ちょっと遠いけど源お祖父ちゃんをっ」
「こらこら。姫さん。本音が出とるで」
「あっちで源祖父さん、ショックで固まってるよー」
「大丈夫だよ、美鈴ちゃん。まだ、作る時間は残されてるよっ」
「けど、正直な所、王子の薬の回り方が予想出来ないのよ」
「それに本当に猫100匹なのかも疑わしい所でござる。数は多ければ多いほどと書いているでござるよ?もしかしたらもっと数を集めている可能性があるでござる」
「もふもふを苛める奴は万死に値するにゃっ」
…会話がループしたな。
兎に角、だ。
「おーい、源祖父さーん?固まってないで、詳しい所を聞かせてくれ」
「はっ!?、そ、そうじゃったっ」
いそいそと俺達の円の中に入り、…むしろ姫と俺の間にはまりこみ座った。
「ちょっと診せてみい」
言いながら姫の手を取り、耳を調べ、目を覗き込む。
「…ふむ。そうじゃな。まだ、そこまで侵攻はしておらぬようじゃが…。毒を入れられたのが背中と言うのが幸いしたな。美鈴と透馬が来る前にこうなった経緯は聞いたが。表門と裏門の争いが未だ続いているとは思わなんだ。あそこの忍びは何も変わらんな」
「…申し訳ないでござる」
「儂は言ったはずじゃ。争いを治める為に『藤硬貨』をそなたらに譲ると」
「うぅぅ…」
「何か言いたい事はあるか?儂の孫娘を命の危機にさらした。どれに値するだけの言い訳はあるのか?」
…やべぇ、源祖父さんが珍しく怖ぇぞ。
逆らえない威圧感を体中から発して、それを一身に受けている近江は小さくなる一方だ。
「と、言いたい所じゃが、お前さんに言っても意味はないじゃろ。…金山は説教じゃな」
「お祖父ちゃんっ、愛奈の彼、いじめちゃ駄目にゃっ」
「ごふぉっ!?」
姫のエルボーが源祖父さんのみぞおちにクリーンヒット。
源祖父さん、結構な歳だよな?手加減必要なんじゃないか?姫よ。
「ほらほら。馬鹿な爺は放っておいて、まずは美鈴ちゃんを元に戻す方が重要でしょう?手始めに何を用意したらいいのかしら?」
ヨネ祖母さん最強説。
優しく言いながら倒れた祖父さんの腹の上に座って追い打ちをかけてる。流石だ…。
「私は佳織も美鈴も勿論透馬ちゃん達も、皆が大事なのよ。だから皆が幸せになる道を探しましょう?」
「お祖母ちゃん…大好きにゃっ!」
「あらあら。私も大好きよ」
……姫。微笑ましい場面なのかもしれないが、姫の重さも加わった祖父さんが泡噴いてるぞ。祖父さんの幸せは…いや、これはこれで幸せなんだろう、きっと。多分。
「ほら。あなた。いつまで泡噴いてるの。さっさと話を進めなさいな」
「…だったらまず退いてあげて欲しいでござる…」
近江の言葉に俺達男は頷いた。
二人が退くと、シャキッと復活した祖父さんが口を開いた。まず口の端からだらだらと溢れてる泡を拭いてくれ。
見兼ねたヨネ祖母さんに台布巾で顔をガシガシ拭かれた祖父さんはキリッとして会話を続けた。
「まずこれを教えておく。忍びの里で伝わる薬、『丸薬』と『毒』は全くの別物。丸薬はあくまでも死に至る事がない効果をもたらす物で、毒は殺す為の物じゃ。毒は戦いで敵に使った物なのじゃ。毒は丸薬で治す事は出来ない」
「え?でも」
「確か新田嬢ちゃんが使ったのは、丸薬だと言ったな?」
「はい」
「ふむ。…近江の。お前さんは丸薬を作っていると言っておったな。それは、そちの里の…裏門に伝わる秘伝書の内容か?」
「そうでござる」
「ならば、それは丸薬の精製方法ではない。毒の精製方法だったのじゃろう。毒を精製するにあたり、必ず必要なものがある。それが聖杯じゃ」
「聖杯…」
「そうじゃ。それがない、普通の器で精製したものは毒として完成せん。勿論、毒の精製方法で作った物は丸薬にもならない。丸薬は丸薬の精製法があるからじゃ」
言われてみたら近江の丸薬、術は全て失敗していたな。金山さんや真珠さん達は丸薬を使わない、以前から伝わる丸薬だけを使っていた。成程。毒の精製で丸薬を作ろうとしたら失敗するのは当然。近江の失敗が多かったのはそう言う理由からか。
「新田嬢ちゃんの作った丸薬が美鈴に効いたのは、きっと忍びの人間ではないのが決め手じゃろう」
「?」
「忍びの人間はね?体から特殊な物質を放っているらしいの。人には視えないもの。本人にも視えないのだけど。動物なんかは稀に見えるのがいるらしいけどどうなのかしらね」
やんわりとした口調で話すけど、ヨネ祖母さんの言っている事はちょっと鳥肌が立つ。それは世に言う所の守護霊とか幽霊とかそう言うたぐいのものでは…?いや、考えるな、俺。そう言う存在だと納得しろ、俺。
「結果として新田嬢ちゃんの作った丸薬は、『一般人と忍びの者が協力して作りだした新たな薬』と言う所かの」
それはある意味、姫に効かなかった可能性もあるって事だよな。姫に忍びの血が入っていた事がせめてもの救いだったのかもしれない。運が良かったとしか言いようがない。
「もし丸薬と毒が間違って伝わっていたのなら、表門の忍びが美鈴に用いたのは新たに生成されたものではなさそうじゃ。忍びとして生きている裏門の連中ですらまともに作れない毒を表門の人間が作れる筈がないからな。昔の裏門の人間が作り今まで受け継がれた『毒』である可能性は高いじゃろう」
「結論として、美鈴ちゃんには『毒』が使われたと言う事でいいのね?そして解毒に必要なモノは、ここに、忍びの里であるこの場所に全てあるってとらえても良いのよね?」
「そうじゃ」
「だったら最初からそう言いなさいな。大体あなたは昔から話と鼻の下が長いのよ」
「ショーックッ!!」
「それで?もう一つ、重要な所があるでしょう?表門の忍びの子がかかっている病について。さっさと口を割りなさい」
そうか。姫の事で忘れていたがその問題もあったな。
そもそもそいつらが病にかかったから、姫の生き血が必要だと襲って来た訳で。
「病院に行っても治らなかったと言っていたのよね?」
「ふむ。とは言え、恐らくその件に関しては美鈴は無関係じゃろう」
「そうなの?」
「うむ。恐らくその病は…いや、病と言うよりは『呪い』と言った方が正しい」
「呪い?あらあら。もしかして、何処かの封印解いちゃった感じかしら?」
「うむ。世の中に決して手を出してはならぬと言われている忍びの祠がいくつか点在しておる。それらは日本各地にある。その忍びの祠には確かに金銀財宝が封印されている。じゃがそれと一緒に数多くの呪われた品が封印されておるんじゃ。むしろ金銀財宝は呪われた品を供養する為に集められたと言っても良い。場所によっては呪いが強過ぎて封印を解除するだけで呪いの餌食になる場所もある位じゃ」
「確か、表門の集落の側にあったわね、祠が。そこはかなりの金銀財宝が一緒に封印されていた気がするわ。あらあらまぁまぁ。表門の忍びはいつも金策で困っていたから、これ幸いにと探しにでも行ったのかしら」
「で、呪いにやられたんじゃろうなぁ。封印は正しい解呪方をせねば、逆に自分の身が危ないと言うに。アホじゃのぅ」
源祖父さんが目を細め自分の顎髭を擦っている。
封印を強引に解いたから、封印にかけられた罠と中にある呪いを同時に受けたのか。
確かにアホだな。
「けど、源祖父さん。表門の人間も忍びの力の先祖返りがいたぞ?俺達もそいつらに仕掛けられたし」
「透馬よ。きゃつらは忍びの力があると勘違いしているようじゃが。表門の忍びも、裏門の忍びも。今の奴らは運動能力の高い人間に過ぎんよ。忍びの本当の力はその程度のものではない」
口元は笑みを浮かべつつも、祖父さんはスッと目を細め俺を睨んだ。瞬間に感じた殺気にぞわりと鳥肌が立つ。やべぇ…。
一瞬でも感じた祖父さんの本気と、その本気を「あらやだわ」と言いながらぶん殴って止めるヨネ祖母さんに微かな恐怖を覚えた。もう一度言っておく。ヨネ祖母さん最強説。
「あ、でもよ。源祖父さん。俺達そいつらとやりあってる時に、その呪いを解呪方?とか言うの見つけたぜ?」
「ふむ?そんなものが残っているとは思えんが…。ここにはあるが、門外に出しているとは思えん」
「そうなのか?でもなぁ…。な?姫」
同意を求めると姫はコクリと頷きポケットを探った。猫手では取り辛いんだろう。ポケットに手をやって暫くもたついて、最終的には爪で刺すと言う荒業を駆使してメモを取りだした。
「これにゃっ」
「えっと、確か内容は『聖なる乙女の生き血を捧げよ。さすれば、扉は開かれん。 聖なる乙女は黄金を持つ。 聖なる乙女は美しさを持つ。 聖なる乙女は清さを持つ。 聖なる乙女は慈しみの心を持つ。 聖なる乙女は明日を持つ。聖なる乙女の生き血は我を呼ぶ。聖なる乙女の生き血を捧げよ。さすらば、扉は開かれん。扉の先には、汝が望む全てがあるだろう』だっけか?」
紙を開きつつ、内容を伝えると何故か、
「むっ」
「あらーっ!?」
祖父さんが眉を寄せ、祖母さんが嬉しそうに笑った。なんだ、この両極端の反応は。
ヨネ祖母さんが頬に手を当て、きゃっきゃと少女の様にはしゃいでいる。
まさかの反応に思わず姫と顔を見合わせてしまう。
ちょっと見せて頂戴と言われ、俺は素直にその紙をヨネ祖母さんへと手渡す。…嬉しそうだな。ヨネ祖母さん…。
一体この文章はなんなんだ?
「何処に隠したかと思ってたら、あの祠に隠してたのねぇ。お義父さんったら照れ屋なんですから~。うふふ…相変わらず可愛いわねぇ。お義父さんの恋文」
「こっ!?」
恋文っ!?これがっ!?嘘だろっ!?
俺達は揃って目を点にする。
そんな俺達を全く気にせずに、源祖父さん達は懐かしそうに盛り上がる。
「死ぬまで探しておったのぉ~。儂の父が初恋の相手に出した恋文でのぉ~。金髪の美人で、とにかく優しくて、自分に厳しい、しかもその初恋が実って、今ここに儂がいる訳だから。何があるか解らんのぉ~」
「まさかにょ恋ばにゃっ!!お祖母ちゃん、後で詳しくっ!!」
「うふふ。後でね。お義父さんのお墓の前で話しましょうね」
死んでからも尚、嫌がらせっ!?
もしかして、あれか?嫁姑問題があって、それを助けなかったとかそう言う確執が…?
触れちゃ駄目なとこだなっ。
「って事は、これはなんの事はないただの恋文、ラブレターって奴なのか?」
聞くと二人は大きく頷く。
「けど、そんな文章には見えないぞ?『聖なる乙女の生き血を捧げよ。さすれば、扉は開かれん』って如何にもな感じだが?」
「ふむ。儂の父風に訳すなら、『とっても綺麗な貴女は指の先、血の一滴さえも美しい。どれだけ言葉を贈れば貴女は心のドアを開いてくださいますか?私の好きな貴女はとても綺麗な金色の髪をして、誰よりも美しい。その心も清流の如く清らかで、慈しみの心に何度心を打たれたことか。明日また会いましょうと手を振る貴女を私は家に帰る事なく待ち続けている。貴女が困難に立ち塞がれ、血の涙を流したとしたなら直ぐに側に参ります。私は貴女を何者からも守る事を誓います。だから貴女を下さい。その心を私にだけ開いてください。私の全てを貴女に捧げますから、私を望んで下さい』って所かの」
「いやいやいやっ!えっ!?どこにそんな情熱的な中二病文章がこれに隠れてるんだよっ!?」
「儂の父は、文章を書くのが苦手でのぉ」
「程があんだろっ!良くこれで源祖父さんが産まれたなっ?」
「ふっ。忍びは代々、あれがうま、ごふぉっ!」
「あらあら、まぁまぁ。今何か聞こえたかしら?」
……源祖父さんがふっとんだぞ?二の舞は嫌だから口には出さないが。
結果として、本当にラブレターだったようだ。って事は、だ。
「私狙われぞんにゃっ!?」
って事だよな。ラブレターを勝手に解呪の方法だと勘違いして、姫は命を狙われた訳だ。ほんっと呆れかえる。
そもそも、白鳥は昔から忍びを雇っていた方の人間だろう。だとしたら主に反旗を翻した訳だ?昔なら殺されてる所だ。しかも、姫は忍びの里の長の血筋。尚更処罰を受けてもおかしくない状況だ。
「…金山さんと真珠さんがあいつらバカだって言ってた理由が分かった気する」
「ござるな。拙者今ほど忍びである事を後悔した事ないでござる…」
沈黙。不確かな物を調べもせずに信じ、命をあっさりと狙ってくるような、あんな馬鹿共に巻き込まれたらたまったもんじゃないもんな。新田が近江にぴったりとくっついた。
「でも、良かったね。あっちは金山さんに任せて大丈夫って事だよね?あ、でも呪い…」
「金山に儂の部下を向かわせた。解呪の仕方を教えに行かせたから問題なかろう」
「金山さんは忍びの力、あるの?」
「金山、銀川は微かに残っておる」
「え?って事は?」
視線は近江に集まる。近江の視線は源祖父さんに向いている。
祖父さんは大きく頷く。それに近江は嬉しそうに笑った。今の頷きの意味する所。それは近江にその忍びの力がしっかりと遺伝していると言う意味だろう。忍者としての能力が劣っていると思っていた近江には嬉しい結果だろう。
「それじゃ、美鈴ちゃんは治す事だけ集中出来るのね?」
姫第一のぶれない花崎の言葉に皆は苦笑しつつ頷く。
「ふむ。では早速材料についての説明に移ろうかの」
源祖父さんの言葉に俺達は一言一句聞き逃さないよう、耳を澄ませた。
源祖父さんから色々情報を貰って。
キャンピングカーに戻って来た俺達はテーブルを挟んでメモをした紙を覗き込んでいた。
「手に入れた情報をまずは整理するで?」
頷く。
「一先ずここが、忍者の里ってのは間違いなさそう」
「だな。まさか、源祖父さんが全ての忍びの長だとは思わなかったが」
でも言われてみたら、あの年で冗談みたいな身のこなし。それに膨大な知識量。何より姫の姿を見た瞬間に全て理解して、一瞬だが顔を顰めた。厄介な毒だと気付いたからこその表情だった。
それに、大地の言葉に戻るが、ここが忍者の里だと言うのも、納得だ。そもそもがおかしな村だったんだ。あの膨大な本の量を維持する図書館。警察がいない代わりの絶対的なルールと罰する為の牢獄。昔源祖父さんが言っていた、外に出た人間は必ずと言って良い程村へと戻ってくるってのも、納得がいく。恐らく外の人間と合わないんだろう。こんな人知れない里で強靭に鍛えられた人間が外の世界で上手くいく筈がない。
「異様な村だと思ってたけど、忍者の里だと考えれば色々納得が行き過ぎる…」
「全くや」
「ここが忍者の里だって確定したんだから、村の解明は一先ず置いておいて。今は美鈴ちゃんを元の姿に戻すことを優先っ。まずは美鈴ちゃんの毒を取り除かないとっ」
花崎の言う事ももっともだ。頷いて、取り出した新たなメモ用紙に一つ目の材料名を書く。
一つ目は、『鋸刺鮭の金鱗』だ。
「『鋸刺鮭』って何て読むでござる?」
「ピラニアって読むにゃ」
姫があっさりと答える。が、言葉と相反して顔は険しい。当然だ。ピラニアは日本の魚じゃない。しかも、だ。ただでさえ狭い門の中の、金色の鱗を獲らねばならない。
「たまに水族館とかで金色の鱗のピラニアがいると聞いた事があるけど」
「んな遠くまでは行ってられねぇな」
「近場でいないのかな?」
「近場って言ったってなぁ。そもそもここ電波ほとんどねぇから調べられねぇぞ?」
「えっ!?」
今電波がない事実に気付いた花崎が慌ててパソコンを開いて、ネットに繋ごうとして失敗し崩れ落ちた。
「私、超役立たず…」
「大丈夫にゃっ。華菜ちゃんにぃは私にぃ癒しを与えると言う大事な仕事があるにゃっ」
「美鈴ちゃん…っ」
「華菜ちゃんっ」
ひしっ。
…抱きしめ合って友情確かめてる所悪いんだが、話が全然進んでないぞ。
しかし、ピラニア、ねぇ…。何か引っかかるな。
記憶のどこかに、引っ掛かりを覚えると言うか…。
ふと外を見ると、源祖父さんが走ってる姿が見えた。相変わらずのようだ。ここにこうしていると、また豊穣祭があるだの言って来そうだな。
思いだして笑いかけて、ふととあることに思い至った。思わず動きが止まる。
「そういや、いるな。ここにピラニア」
「は?透馬、何言うとん?」
「思いだしてみろよ。ここで昔豊穣祭に出ただろ?」
「それがどないしてん?」
「その時、俺が担当したエリア」
「あっ!思いだしたにゃっ!確かにぃあの湖にぃピラニアと鮫がいたにゃっ!」
「松宮湖かっ」
探してみる価値はあるだろう。それに忍者の里だ。他の生き物にも奇跡的な異変が起きていてもおかしくない。
「なら、そこには拙者が行くでござるっ。幻の品を探すのは得意でござるっ」
「不安過ぎるから私もついて行く」
新田が行くなら、近江が担当すると言う不安もだいぶ軽減する。
「次は、天上の氷か」
「正直何の事か全く見当もつかないな」
「近江は何か知らないか?」
「毒に使う『最古の氷』なら知ってるでござるが…『天上の氷』…聞いた事ないでござる」
早速行き詰った。その壁を破ったのは自分の事だと言うのに気を使って極力明るい声で言った姫の案だった。
「解らないなら調べるしかないにゃ」
「調べる?」
「そうにゃ。図書館行くにゃ。あの図書館にぃにゃら何かあるはずにゃ」
「あぁ、確かに。あそこならありそうや」
「調べ物なら私も役に立てるっ」
思い立ったが吉日。
解毒に必要な材料他二つについても解らなかったこともあり、俺達は直ぐさま、図書館へと向かった。
以前来た時よりも大きくなった図書館に俺達は呆然としつつも、中へと入った。圧倒的に増えた蔵書の中から、『天上の氷』『聖杯』『水晶花』について載っている本を探す。
あいつらはこう言う事が得意だから、しかも奏輔と花崎がいる。調査を得意中の得意とする奴が二人いるのだから任せてもなんら問題もないだろう。
材料の調査をあいつらに任せ、俺は別の物を探す事にする。
『忍びについて』の本だ。
どうして、これを探るのか。それは万全を期しておきたいからだ。姫の体を戻すのに万が一にも失敗は許されない。なら、情報が多い方が良い。祖父さんの持っていた巻物が間違いなわけがない。ただ手段が一つだけってのは心もとない。
ここは忍びの里だ。なら、忍びに関する情報ならば必ずあるはずだ。少しでもヒントを集めておくことは悪い事ではない筈だ。情報は武器だ。戦いに挑むのに武器が一つしかないなんて考えられないだろ。
さて、何処にあるかな。まずは…一番奥を探してみるか。
一階の一番隅に向かって歩きだす。
奥へ行けば行く程、アイツらの足音も話し声も聞こえなくなっていく。
どんだけ奥深いんだ、ここの図書館は。でも、電気はちゃんと通ってるんだよな。
「こりゃ、ちゃんと現在地把握してねぇと迷うな」
「そうにゃ。でも、大丈夫にゃっ。私がちゃんと覚えてるにゃっ」
「まぁ、俺も覚えてるし、一直線に来てるから迷いようも…ん?」
独り言のつもりで口に出したのに返事が返ってきた上に、振り向くとそこには姫の姿が。
「姫?何で俺に付いて来てるんだ?」
「多分、透馬お兄ちゃんと同じ事考えてるにゃ」
「毒か?」
「そうにゃ。お祖父ちゃんが見せてくれたあの巻物に重要な事が書かれてなかったにゃ」
俺を追い越して歩きだす姫の後を追いながら、姫の言葉の続きを待つ。
「呪いにぃ使った『猫の量』にゃ」
「数は多ければ多いほど良いって書いてたな」
「そうにゃ。……数によっては、私は覚悟を決めにゃきゃにゃらにゃいにゃ」
「覚悟…?」
思わず足が止まる。姫に必要な覚悟が何か、解らないからではない。解るからこそ、だ。
姫も足を止めて、振り返る。金のほわほわがふんわりと翻る。
「猫として生きる覚悟、だよ。透馬お兄ちゃん」
辛い癖に、それを押し隠して微笑む姫。
そんな辛そうな笑みですら綺麗なのが、俺の胸をより一層苦しくさせた。
そんな事言うな。
そんな覚悟を決めるな。
絶対に助けてみせるから。
「美鈴」
名を呼ぶと驚き、姫の目が開かれる。
姫の腕を引いて自分に抱き寄せる。
細い…。
もし神様と言う者がいるのなら、胸倉掴んで問い質したい。
姫にどれだけの試練を負わせるのかと。
こんな細くて華奢な女の子にどれだけの…。
「透馬お兄ちゃん…?」
希望を持たせるのが、良い事なのか悪い事なのか、正直解らない。けれど、姫にはいつもの姫でいて欲しい。
「…どんな結果になろうと、俺が必ず姫を戻してみせる。だから、そんな覚悟しなくていい。しないで良い。姫はただ俺を信じていたらいいんだ」
「透馬お兄ちゃん…」
姫の目を覗き込むと、一瞬揺れて。けれど直ぐにそんな弱さを引っ込めて、姫は笑った。
「透馬お兄ちゃん、かっこいー」
「…茶化すなっての」
…深刻になっていたくないのなら、それに付き合うさ。
今は何よりも姫の気持ちが大事だ。
俺は姫の体をゆっくりと離して、強気に笑った。対して姫ははにかみ、ゆっくりといつもの優しい笑みを浮かべた。
そこから俺達はまた奥に向かって歩きだした。
それにしても長い通路だな。奥が全く見えねぇんだが…。外からは奥行きが見えなくなってるが、この図書館は外から見ると一体どうなってるのか。少し気になって来た。後で全てが片付いたら見てみよう。それはそれとして。
「だいぶ奥に進んできたな」
「やっと半分が見えて来たにゃ」
「…ん?まだ半分にも到達してねぇのか?」
こくこく。
頷く姫を可愛いと思うべきか、まだ半分も来ていない続く通路に落胆すべきか。
「透馬お兄ちゃん。ストップにゃ」
「うん?」
止まれと言われたら止まる。俺は足を止めて、横に並ぶ姫を見た。
…気の所為か?姫、少し身長縮んでる気がする。本来姫は俺の肩の位置に頭が来ていた。だが今はそれよりも低い気がする。…気の所為であって欲しい。
「透馬お兄ちゃん。ここから先は気を付けるにゃ」
「ん?何でだ?」
つい姫の身長に意識がいって、姫の言葉の真意を探れなくて聞き返す。
「危険だからにゃ」
「危険?図書館の中なのに、か?」
信じ難くて言うと、姫はもう一度コクリと頷いた。
「証拠をみせるにゃ。まずは、3歩進むにゃ」
「3歩?」
1、2、3。
言われたまま足を進め、止まって振り返る。
「今度は右にぃ1歩」
「右1」
「更にぃ前にぃ4歩」
「4歩進む」
「そこにょ足下にぃスイッチがあるにゃ」
「おお、あるな」
指示の通りに動いて、足下を見ると解りやすい赤いスイッチが置いてある。押してみるか。
カチッ。
ガコッ。
がこ?
あれ?足下がすーすーして、
「のわああああああっ!!」
落とし穴ああああっ!?
俺、落ちてますっ!
何て冗談言ってる場合じゃねぇっ!
幸いそんな大きな穴じゃなかったから、直ぐに着地態勢に入り着地する。
「透馬お兄ちゃーん」
上の方から声がして、ぴょこんと猫耳が見え、次いで穴に落ちた俺を覗き込む姫の顔が見える。
「スイッチ押すと落とし穴が出来るから気を付けてにゃー」
「そう言う事は口で言ってくれっ!」
「言う前にぃボタンを押したにょはお兄ちゃんにゃー」
ひらっと穴に姫が降りてくる。
あっさりと着地して、尻尾をふりふり。…意識してねぇんだろうなぁ。
「えっとー」
落とし穴の壁を姫が撫でてる。
姫の耳がぴくぴくと動いてる。…可愛いな。
「ふみゃっ!?」
「っと悪い。つい、可愛くて」
誘われるように、ついつい姫の耳を触ってしまっていた。
「駄目にゃっ。触っちゃ駄目にゃっ」
ペシペシと叩かれても痛くも痒くもない。何だ、この抗議は。ただただ可愛い。
まぁ、姫が嫌そうだからもうしない。…多分しない。…頭を撫でるだけなら許されるか?
…ふらふらと誘われそうになるふわふわにぐっと耐える。
そんな俺の心境を知らない姫は、お目当ての物が見つかったのか嬉しそうに跳ねた。
「あったにゃっ」
ポチッと発見されたボタンを押す。すると壁にいきなり梯子が現れた。…浮かび上がってきた、が正しいかも知れない。
一体どう言う仕組み…いや、考えたら負けか。
「登るにゃー」
「姫。無理は」
するなよ、と言う前に登りきってしまった。
「猫の力は凄いにゃー」
上の方できゃっきゃっ喜ぶ姫に、若干呆れつつ俺も梯子を登る。
「こっから先はこういう罠が多いにゃ。気を付けるにゃー」
と言いながら姫はテンション高く進む。
最初、姫の真横を歩こうとした。何かあったら直ぐに対処出来る様にと。
しかし、横に並ぶ度に多方向からバライティ―に富んだ多種多様の罠が発動。たらいが飛んできたり、あると気付かないスイッチを押して罠を作動させてしまったり、碌でもない結果しか生まない上にむしろ危険が増すので並ぶのは諦めた。姫の後ろをぴったりとついて行くことにする。
「…RPGと言えば、ダンジョン、パーティ、縦歩きにゃ」
「確かに…」
事実今縦に並んで歩いてるしな。
RPGっぽい。主人公である姫が前を歩いてるし。歩くたびに耳と尻尾が動くのが気になって仕方ない。
衝動をぐっと堪えながら、姫の歩く道をただついて行く。
「なぁ、姫?」
「にゃぁに?透馬お兄ちゃん」
「何で罠のある場所知ってるんだ?」
「スキルにゃ。多分こにょ毒を喰らった時、新しいスキルを入手したにゃ」
「スキル?」
「『罠回避』ってスキルが入ってたにゃ」
「あぁ、成程な」
そのスキルのおかげで姫はすんなり歩ける訳だ。
尻尾をふりふり姫が進むまま、後をついて行くと、やっと行き止まり。最奥に辿り着いた。
これだけ奥に来たのに、電気のおかげで明るい。
本棚の間にある通路をずっと歩いてきたけれど、本棚が途切れることなく、行き止まりもまた本棚だった。
「ここにぃは忍びにぃ関する報告書一覧があるらしいにゃ」
「この目の前の本棚に、か?」
「そうにゃ。今回にょ事件は皆、忍び絡みにゃ。だとしたらここにょ資料が一番にゃはずにゃ」
「なら一先ず表門について調べるか。そうしたら何か芋蔓式に何か解るかもしれねぇし」
「そうするにゃ。えーっと…表門…表門…」
姫が下からなら俺は上から順番に見て行くか。
一番上の左から…『祠の管理報告書』『消えた忍びの里管理報告書』『土地売買契約の報告書』…報告書を一綴りにしている所為か、一冊がでかくて厚い。
一番上にはそれらしきものはないな。二段目は…『忍び戸籍謄本』…で埋まってる。三段目は…。
「にゃ?」
「どうした?姫」
「これ怪しいにゃ」
下から二番目の棚。左側から姫が一冊の本を取りだした。表紙には『更新報告ー毒編ー』と書いてある。
「確かにそれっぽいな。姫、開いてみろよ」
「そうするにゃ」
姫がパラパラと流し読みしながらページを開いて行く。
そこには新たに生成された毒など、様々な毒について載っていた。
ページを進めて行くと、『変化の毒ー猫ー』と書いたページに辿り着いた。
「これか?」
「っぽいにゃ」
えーっと何々?結構昔の出来事だな。表門と裏門が別れる前にその時の長が作ったものだ。材料は変わらない。で、重要な変化する生物の使用された部分は…。
「猫の髭」
「九千本っ!?」
嘘だろっ?
って事は、姫を戻すには最低九千一人の女が触れた水。より完璧にするには一万人の手を借りないと危ないって事か?
「他にぃも色々書いてあるにゃ。これを持って皆にょ所にぃ戻って、もう一度相談するにゃ。一先ず猫の生え代わって落ちた髭を使ったって書いてあったから一安心にゃ。もふもふ、苛めたら許さにゃいにゃっ」
姫はにっこりと微笑んで来た道を戻り始める。
俺はそんな姫を視線で見送りつつ、再び本棚に視線を戻した。
「…『幻の素材発見場所報告書』『解毒失敗時結果報告書』『毒効果継続時間情報更新一覧』…この辺りの情報はどれも必要か。それ以外にも何冊か必要そうな物があるな」
ステータス画面を開き、『スキル』を発動させる。
使うスキルは、『複製』だ。ここあたりの必要書物達を『複製』し、アイテムボックスへと収納しておく。
一通り必要と思われる書物は全て複製し、俺は姫の後を追い掛けた。
皆のいるであろう場所まで、引き返して来たものの…誰もいねぇ。
「皆まだ本を調べてるにゃ?ここにょ本、一から調べてたら人生終わるにゃ?」
「……確かに」
あんな奥まで本を置いてる訳だしな。一生かかっても全部読み切るのは不可能だ。
「んー…ちょっと皆を呼ぶにゃ」
「姫?」
本を抱きしめつつ、入口の受付の様な所まで移動して、机の中から何かを取りだした。
ん?マイク?
カチッと何かスイッチを押す音がして。
『にゃんにゃんにゃんにゃーん。館内で資料をお探しにょ皆様~。図書館入口までお集まりください。繰り返します。館内で資料をお探しにょみにゃさま~。図書館入口までお集まりくださいませにゃ~。にゃんにゃんにゃんにゃー』
姫。チャイムまでちゃんとやるのか…。
そこは突っ込んで良いのか?それとも流すべきなのか?
俺が判断に迷っている間に、あいつらはそれぞれ時間に差はあれど、各々本を持って戻って来た。
「姫さん。さっきのチャイム可愛かったけど、昼寝してた爺さんがビクゥッと体跳ねさせて、心臓麻痺起こしそうだったで?」
「ふみゅ?それはお爺ちゃんにぃ悪い事しちゃったにゃ」
最後に奏輔が来た所で全員が集まった。俺達は本を持って、増設されたと言う談話室に入る。
座りながら話すのもまどろっこしく、小さなテーブルに俺達は集めた本を置いて、全員でそれを覗き込んだ。
「それらしい本が多過ぎて、逆に探し辛かったわ」
「全くだよねー」
言いながら小さいテーブルは各々が持って来た本で埋まっていく。
「まずは材料にょ入手方法にゃ」
「だな。ピラニアに関しては、一先ず松宮湖を調べてみるから置いとくとして。『天上の氷』に関する資料を見つけた奴はいるか?」
「あるで」
手を上げたのは奏輔だった。
「かなり奥の方に置かれた本だったから探すのに苦労したんよ、ホント。…っと確か、…」
奏輔がパラパラとページを捲る。目当てのページに辿り着いたのか、捲る手を止めて俺達の前、机の中央に置いた。
っと何々?天上の氷とは…。
『天上の氷 太古の昔からある氷のこと。誰も辿り着いたことがない洞窟の奥深くの日の当たる場所で精製される氷である。その氷はどんな熱にも溶けない氷で、神の流した涙との一説もある』
洞窟?
そんなものあったか?
「洞窟ってどこにょ洞窟にゃ?」
姫も同じ所を疑問に思っていたらしい。
「それなんだけど、姫さん、覚えとるか?」
「ふみゅ?」
「高校生の時、近江達と一悶着あった場所。勉強合宿で行ったやろ?」
「あ、もしかして、私が意識失って流れた場所っ?」
「あぁ、確かにあそこ、洞窟だった」
俺と大地、奏輔の視線は近江に注がれた。近江はどきまぎしているが、重要なのはあの地が『近江と姫のイベントが合った場所』だと言う事だ。
そこにならば姫の解毒の何かが、幻の何かがあってもおかしくない。
「探してみるかー。そこにはオレが行ってくるよー」
大地なら誰が襲ってきても問題ないだろうし、適役だな。
「大地お兄ちゃん、無理はしにゃいでね?」
「大丈夫ー。熊位なら倒せるよー」
うん、まぁ、倒せるだろうけどな。姫が遠い目してるから自重しとけ、大地。
兎に角、これは大地に任せるとして、次だ。
「次は、聖杯にゃ?」
「聖杯の情報は、私が持って来たよ、美鈴ちゃん」
もう最初からそのページを開いて持って来たのか、奏輔の本を閉じて寄せた場所に花崎は本を置いた。
「聖杯って、どんな器でも良いんだって」
「そうにゃの?」
「うん。ただし、その器を清める事が大事なんだって」
「清める?」
「その清める場所って何処なんや?普通に神社とかでもええんか?」
「え?清めるって普通神社だよね?」
花崎の言葉に俺達は黙り込む。
普通ならそうだろう。だが、今のこの状況を普通とは言い難い。そもそも姫が猫化しているのも普通ではあり得ないのだ。あの毒にしてもだ。だと言うのに普通の清めで良いのか?
「源祖父さんに要確認だな」
「やね。次に行こうや。一番重要な『水晶花』や」
「一応、花の図鑑は持って来たけど」
「まぁ、当然と言えば当然でござるが、一切載ってなかったでござる」
「だろうな。どれも幻級の品物だ。図鑑に載ってたら苦労しねぇわな」
「もう一度それらしいの探してみる?」
「花の図鑑の所に皆で挑んでみよう」
花崎の言葉に姫、新田、近江が頷き歩いて行った。
俺達はもう少しこの図鑑を調べると告げ、態とその場に残る。
「で?透馬。お前が得た情報はなんや?」
「流石に秘匿されている本を持ち出すのは気が引けたんでな。コピーして来た」
ステータス画面を開き、複製した本をアイテムボックスから取りだした。
「『幻の素材発見場所報告書』?えらいもん見つけて来たな。何処にあったんや?」
「この図書館の奥の奥の奥だ」
「この短時間でどんだけー」
「姫が一緒だったからな」
「姫ちゃんが一緒だったとしても、ここ変な罠あるぜー?大丈夫だったん?」
「姫が毒を喰らった影響で『罠回避』のスキルを得てたから問題なかった」
「姫さんが罠回避?成程。猫化の効果も相俟ってるのかもしれへんな」
「そう言う事だ。それよりも、だ」
俺は更に数冊の本を取りだした。『解毒失敗時結果報告書』『毒効果継続時間情報更新一覧』『裏世界への行き方』『絶対禁止要項』の四冊。
大地も奏輔も。本のタイトルを見た瞬間顔を顰めた。まぁ言いたい事は解る。本のタイトルだけを見るとまるで姫を治す事を諦めたかのような文字列だからな。
でも、俺は諦める気なんてこれっぽっちもない。
「もしもの時の起死回生を求める為にも、最悪の事態の対処の仕方も同時に考えておきたい。そう思うのは間違った事じゃないだろ。まぁ、鴇みたいに内容を頭に突っ込んでおくとか出来ないから複製したし、お前らにも協力させる気満々だけどな」
「協力するに決まってるだろー」
「言うまでもないやろ。はよう中確認するで。姫さん達が戻って来てまう」
頷き合い、まずは『幻の素材発見場所報告書』だ。
最初に索引があり、五十音順になっているので順番に調べて行く事にする。
まずは、『水晶花』だな。あ、か、さ…し、す…すい…。
目だけで文字を追って。
「あった。これか、『水晶花』。何ページだ?」
「六十八ページや」
手早くページを捲り、開く。
古い報告書だが、絵付きで載っているから解りやすい。
「水晶花。水を注ぎ続けると水晶球が生成される不思議な花。生態はいまだに謎である。群生する花ではあるが、咲く場所は一つの場所に留まらない。群生する場所は何時も謎だが、共通点はある。湖の奥底の空間に生える。尚、吸晶花と酷似している為気を付ける事」
「湖の奥底?どうやって行けと?」
「待て待て。下にもまだ書いてある。…水晶花は裏世界の吸晶花である、だと」
「裏世界の、吸晶花?」
俺達は一冊の本に視線を送る。
そしてもう一つ。とある可能性に辿り着く。
それを確信するには、もう少し他の素材を調べるしかない。
『聖杯 表世界では、神社のお神酒に浸された器の事。裏世界では、聖なる泉沈む聖なる器の事』
『天上の氷 太古の昔からある氷のこと。誰も辿り着いたことがない洞窟の奥深くの日の当たる場所で精製される氷である。その氷はどんな熱にも溶けない氷で、神の流した涙との一説もある。尚、表世界の最古の氷とは同じである』
『鋸刺鮭の金鱗 鋸刺鮭という巨大魚の金の鱗。昔から莫大な金額で取引される幻の鱗。邪なるものを全て吸収すると言われている。裏世界の生き物である』
何を話していいか解らないまま、俺達の視線を再び集めていた本を手に取った。
『裏世界への行き方』
まさか、そんな世界があるとは思わなかったが…。こんなファンタジーな状況で、更に姫が言っていたここがゲーム世界だと言うのなら、完全に否定なんて出来やしない。
その本は物凄く薄く、本と言うより数枚紙が挟まれたファイルみたいなものだ。
それを開いて、俺達は上から順に読んでいく。
『裏世界への行き方 裏世界への扉を管理している『忍びの長』から『鍵』を受け取り、湖の側にある小屋の中にあるドアに使って中に入る』
…簡単だな。で?戻り方は?
少し読み進める。
『ドアを抜けた先は裏世界である。戻り方は裏世界にある『裏世界への行き方』を参照すべし』
「って、載ってないんかいっ!」
奏輔、代表で突っ込みご苦労。
「他にも載せるべき、時間の流れとか色々あるだろうに、全く載ってないー」
「時間の流れ、か。でもそこは問題なさそうだ。表記でもそうだが、あくまで『裏世界』って書かれてる。鏡世界とか異世界とか書かれていないのを鑑みるに、そこは『裏』なんだ。この世界の『裏面』なんだろう」
「成程な」
「想像に過ぎないけどな」
パラレルワールドとか昔からよく聞くが、そういう物なんだろうか?
だが、裏と書かれていると言う事は、同じ時間軸、同じ世界枠だよな。…そこら辺が今一理解出来ない。
「とにかく、や。一先ず素材が何処にあるか分かったんや。後は取りに行ってから考えればええ」
「だな。あくまでも表裏一体って事だろ?なら探す場所も直ぐに見つけられるだろ」
「念の為に禁止要項も読んで置こー」
大地の言葉に、即行動を踏み止まり、持って来ていた『絶対禁止要項』と言う薄い本を開いた。
「結構どうでも良い事ばっかりだな」
「長の孫を嫁に貰おうと思ってはならぬ、とか。確かにどうでも良いー。何ならこれ最近書き足されたでしょー」
「確かにどうでも……うん?」
ペラペラとページを送っている手がとある所で止まった。
「おい、これ…」
「…『裏世界の物を表世界に持ち帰ってはいけない。持ち帰った瞬間に持ち帰った物は消える』」
「マジか…」
「これが本当なら、例え解毒薬が出来ても持ち帰れないんじゃねー?」
「確かに」
大地の言う通りだ。けど、この世界に、この解毒薬を使った形跡がこうして本として残っているのだから、何らかの方法で持ち帰ったと言う事だろ?
「仮説に過ぎないが、もしかしたら持ち帰ってないのかもしれへんよ?」
「どう言う事だ?」
「この世界があくまでも表裏一体なのであれば、裏世界で作った薬は、同じ物が表世界で作られている可能性がある」
奏輔が本をパシパシと指ではじく。
「裏世界で解毒薬ならば、表世界ならば毒薬になる」
「それが?」
「例えばや。裏世界と表世界、リンクする場所があればどうや?」
「リンク?」
「せや。表世界と裏世界で同時にその場所に表裏一体のものを置けば?」
「奏輔ー。回りくどい。解りやすくっ」
「覚えとるか?薬の作り方。毒と解毒薬。両方とも最後に一日おいとるやろ。あれはもしかして、表世界と裏世界で物が入れ替わるのに必要な場所と時間なんじゃないんやろか?」
あぁ、そうか。成程。
解毒薬の作り方は日の光を受けてる社に、毒の作り方は月の光を受けている場所に。時間が経過して、太陽と月の交代。その時に地球丸ごと裏と表が入れ替わってる時に、そのリンクしている場所に行けば、その入れ替わりに反映されて、徐々に薬も入れ替わっているって事か。
出来上がった薬が別物のようになるのは、本当に別物になるからなのか。
「奏輔の仮説を元に考えるなら、こっちでも同時に毒を作る必要がある」
「それに表裏一体の世界。人もまた表裏あると考えた方が良いだろうな」
「ちょっとまとめよー。順番にやる事を考えよう」
大地の言葉に頷く。
まず第一条件として、俺達が探していた解毒に必要な材料はこちらの世界にはないと言う事。そして、それは裏世界にあると言う事。
更に解毒薬の材料として、必要なのが水晶花(すいしょうか)、鋸刺鮭の金鱗、戻りたい生き物の一部(変化の薬に使われた一部の倍)、天上の氷、聖杯の五つの中の、戻りたい生き物の一部はこちらで集めなければならない。
そして、その為には『裏世界に行って解毒薬を作るチーム』と『表世界に残り毒を作るチーム』と『戻りたい生き物の一部の収集』の三つに人員を割く必要がある。
同時にリンク場所を探し出し、作った解毒薬、毒薬を精製し、こちらと裏世界のリンクする場所に同時に設置する必要がある。
最後に元の世界に戻り、姫に完成した薬を使って回復させれれば成功だ。
「…後は試してみるしかないなー」
「チーム分けしよか」
「姫達に危険な事をさせる訳にはいかないからな。裏世界に関しては触れないで置くぞ。裏世界に行くには俺達の内誰かで良い」
「解っとる」
「了解ー」
頷き合って、俺達は持っていた複製本をしまい、図鑑を探しているであろう姫達の所へと向かった。
階段を登り奏輔がベッドの影から顔を出した。
「起きてる」
「姫さんは?」
完全に階段を登り切る事はせず、階段の最上段で奏輔は姫を痛ましそうに見た。
「さっき一度目を覚ました。背中の傷が辛いようだったから、もう少し眠る様に言った」
「そうか。矢が背中に刺さっとったんや。当然やね」
「奏輔」
「なんや?」
「どうやら姫の中で毒が確実に浸透してるっぽい。…会話の最中に鳴き声が混ざっていた」
「…真面目に受け取らなければ、可愛いで済むとこなんやろうけど…ヤバいな」
俺も奏輔も真面目に頷く。
姫の体の中にある毒が着実に侵攻していると言う事だから、笑い事じゃねぇ。
腕の中の姫の様子を見てから、窓の外へと目を向ける。
「今、どの辺りだ?」
「山の中腹辺りか」
「なら、もう少しで着くな」
「大地が運転ミスってなければ、の話やけどな」
「……確認しとけよ」
「わかっとる」
トントンッと音を立てて奏輔は階段を降りて行った。
「…姫。もう少し我慢してくれな。もう少しで、ゆっくり休める場所につくからな」
ゆっくりと金色の髪を撫でると、姫は擽ったそうに俺の胸に額を擦りつけた。…反則的に可愛いだろ。
鴇、お前は何年もこの可愛いのを近くで見てきたのか。狡ぃぞ、この野郎。そして、棗。お前は確実に仙人だ。良く理性を持ちこたえさせたもんだ。
どうでも良い事を考えながら、俺はただ姫が寝やすい様にとベッドに徹した。
そうこうしてる間にいつの間にか俺はまた姫と一緒に眠ってしまっていた。
おかげで車の揺れが収まっている事に一切気付かず、むしろ、
「透馬お兄ちゃん、起きるにゃ」
ペシペシと頬を叩かれて姫に起こされる始末。
目を擦って、目をぱちりと開くと、そこには姫がきょとんと小首を傾げて俺を見ていた。可愛い。
「朝にゃ?」
朝って言うか、窓の外を見る限り太陽光が強く、日が登り切っているので最早昼である。
「王子ー。天川先生ー、起きてるー?」
下の階から新田の声がして、
「起きてるぜー。今行くわー」
しっかりと答えてから、体を起こす。勿論姫に負担をかけないように、だ。
「姫。背中はどうだ?」
「痛くにゃいにゃっ。起きれるにゃっ。愛奈達の薬がほんと怖いっ」
「…そっか。一先ず薬の効能に関しては置いといて、大丈夫そうなら下行くか」
「オッケーにゃっ」
キャンピングカーの二階はそんなに天井が高くない。昨日姫を寝せる時も苦労したが、天上が低いのは身長がある俺達には結構きつい。俺と姫はベッドの上を四つん這いで進み階段に足を降ろす。
姫に先に降りる様に促して、姫が下まで降りたのを確認してから俺も降りる。
それからひざ掛けを取りだして、姫に渡した。
何でかって?
姫に尻尾が出来たからだ。
尻尾がボトムの中に隠せるなら別に良いんだが、まず隠せないし何より驚いたりすると膨らんでピンと上方向に伸びてしまう。今は長めのワンピースを着ているし、驚いたり興奮するような状況ではないから問題ないとは思うが、流石に立って歩き回るとなると…念の為に、な。
姫はひざ掛けを腰に巻いてキョロキョロと辺りを見渡した。
確かに姫はこの車の内装を知らないから物珍しいかも知れない。俺は一応昨日の段階で結構見て回ったしな。
「ホテルにゃ…。ホテルのリビングがここにあるにゃ…」
「奥にトイレと風呂、洗面所がある」
「にゃんと…。ホテルにゃ。ホテルがあるにゃ」
姫が楽しそうに目を輝かせて探索を始めた。…楽しそうで何よりだ。
ぐるりと辺りを見渡す。
ソファが向かい合って置かれて、真ん中のテーブルには朝食らしきものが置かれている。時間的にもう昼食だが、恐らくアイツらが残しておいてくれた俺と姫の朝食だ。
ふと外から声がして窓の外を見るとアイツらが外で誰かと話している。
あれは…ヨネ祖母さんか?
外でアイツらと何かしら話しているヨネ祖母さんが俺の視線に気付いた。とりあえず手を振ってみると、微笑んで手を振り返してくれて、そのまま皆を連れて家の中へと入って行った。
置いて行かれた?…いや、違うか。飯を食う時間をくれた訳だな。
「ふにゃっ!?ご飯にゃっ!?」
探索から戻って来た姫が嬉しそうにテーブルに駆け寄った。
「そうだな。まずは腹ごしらえしようぜ。腹が減ってたら戦も満足に出来ねぇしな。そっから祖父さんと祖母さんに話を聞きに行こう。幸い状況の説明は一足先に行ったあいつ等がしてくれるだろ」
言うと姫はコクコクと頷いて、いそいそとソファに座った。
「美味しそうにゃっ。トースト、目玉焼き。これはにょっけて食べるしかにゃいにゃ」
ソファにちょこんと座る姫が凄まじく可愛いが、今は可愛がりたい衝動を抑えて食事に必要なものを用意する。
トーストに目玉焼き、サラダにウィンナー、か。洋食なら飲み物は牛乳がいいか。念の為にホットミルクにしておこう。
高級キャンピングカーのおかげで、当然の様にあるコンロに鍋を置いて牛乳を注いで温める。温まった所をカップに注いで、砂糖と少しのきな粉を入れる。
出来上がったカップを持って、姫の前に座る。うん?何故、俺の分のトーストにも目玉焼きが乗ってるんだ?まぁ、良いけどよ。
「ほら、姫」
「ありがとうにゃ」
「ちょっと温めにしてあるけど、気を付けて飲めよ?」
「ふみゅ?」
「姫。今体が猫化してるんだ。もしかしたら猫舌になってるかも、だろ」
「あ、にゃるほど。分かったにゃ。気を付けてふーふーして飲むにゃ」
両手でカップを受け取り、姫は嬉しそうに笑う。
しかし、何でトーストの上に目玉焼き?
「トースト、キャンプ、と来たら三つ編みおさげの女の子に目玉焼きトーストと相場が決まってるにゃ」
「あー…、あれか?有名アニメ映画の」
「それにゃっ。やらにぇばにゃらにゃいっ」
キリッとしている姫が無性におかしくて、俺はそうかと頷きつつもそっと横を向いて笑いを堪えた。
あむっ。
姫がトーストに齧りつき、ちゅるんと音を立てて目玉焼きだけを先に口の中に含んでしまう。
いや、確かにあの映画はそうやって食べてたけどな。けどそうやって食べるとトーストとの比率がおかしくならないか?それに俺達は別に天空の城に行く訳じゃないぞ?急いで口に含む必要もないと思うが…。
「………しまったにゃ」
目の前の残ったトーストに、気付いた姫がしょんぼりした。
あんなに頭の良い姫が、と思うと。しかもトースト片手にしょんぼりと。混み上がる笑いを我慢なんて出来なかった。
「…くっ…ははっ、あははははっ」
「と、透馬お兄ちゃんっ、笑わにゃいでっ。ううぅ~っ」
顔を真っ赤にカリカリとトーストに齧りつく姫がとにかく可愛かった。
確か、ジャムあった筈だよな。
笑いを堪えつつ、コンロの側にある冷蔵庫からイチゴのジャムを取りだす。あれ?新品だった筈だが封が開いてる。誰か食ったのか?まぁ、良いけどよ。
「ほら、姫。市販のだから姫が作るのよりは美味くはないかもだけど」
「も、もう、透馬お兄ちゃん、口、笑ってるにゃっ」
「ははっ、悪い悪い」
「もー、絶対悪いって思ってにゃいにゃっ。いいもん、にゃにゃみお姉ちゃんに透馬お兄ちゃんに苛められたって言いつけるもん」
「うぐっ。姫。それを出してくるのは反則だろ」
互いに顔を見合わせて、何故かそれもまたおかしくて。同時に噴き出した。
一頻り笑い合い、姫は俺から受け取ったジャムを塗って、嬉しそうにトーストを食べ始めた。
俺は折角姫が乗せてくれた目玉焼きなので、バランス良くトーストを食べ切った。
出された物を食べ終え、俺は自分の分にと入れていたコーヒーを飲む。
するとホットミルクを飲んでいた姫がコテンと首を傾げた。
「ふみみ?透馬お兄ちゃん、これ、にゃにか入ってる?砂糖の味じゃにゃいにゃ。…きな粉?」
「当たりだ。美味いだろ?」
「うん。美味しいにゃ」
こうしていつまでもまったりしていたい所だが…、そうもいかないな。
食べ終えた食器を軽く拭いて、食洗器へと入れる。
そして俺と姫は車を降りて、素早く佳織さんの実家である源祖父さんの家へと入った。
出迎えてくれたのはヨネ祖母さんで。俺達が最初に出会った頃と全く変わらないのが、素直に怖ぇ。
「透馬ちゃん。何か言ったかしら?」
「言ってない、言ってない」
口に出してないのに何で伝わるんだ。
「それよりお久しぶりねぇ、美鈴ちゃん、透馬ちゃん」
「お祖母ちゃんっ」
むぎゅっと抱き付く姫を微笑ましく見守っていると、奥からやっぱり見た目全く変わらない源祖父さんが出て来た。
「…ふむ。聞いていた通りのようじゃな。美鈴。ちょっと来なさい」
源祖父さんが真面目な顔をしている。滅多にない表情にちょっとびっくりした。
どうやら姫も同じようで目を真ん丸くしていた。
中へと入ると、居間に案内され、そこで既に中にいた奏輔達と合流する。アイツらは揃って円卓を囲み、青い顔をしている。一体何を見てそんな顔をしてるんだ?
「どうした?一体何があった?」
問うと、五人は何とも言い難いような顔をして、こちらを見た。
一体何を見ていたんだ?
俺達もその円の中に入れて貰い、机の上に広がっている紙を覗き込んだ。
巻物か?
えっと、何々?
『秘伝の巻物、毒と解毒編。
毒は禁忌。作るべからず。手を付けねばならぬなら、必ず解毒の手段も同時に編み出すべし。毒とは諸刃の剣。戦いと同義。狙うならば狙われると心得よ』
達筆で、しかも古語で読み辛いが、多分書いてあるのはこう言う事だろう。
…言葉の意味は後で源祖父さんに確かめるとして、今は先を読む。講釈も後回し。
先に、姫の毒に関する項目を探して読んでしまおう。
巻物をおくっていき、毒の種類一覧に辿り着く。
恐らく、こいつらが固まっている理由はここにある。
『変化の毒。効能、狙った相手を望んだ姿に変化させることが出来る。
材料、吸水花、鮫の逆歯、変化させたい生き物の一部(数が多ければ多い程効果が高い)、最古の氷、聖杯。
精製方法、吸晶花(すいしょうか)を乾燥させ、鮫の逆歯と変化させたい生き物の一部を擦り潰し、粉状にする。粉が上手く混ぜ合わさると色が変化する。微々たるものだから要注視。変化したらそこへ最古の氷を溶かした水滴を一滴ずつ混ぜ合わせ、完全に混ぜ合ったら聖杯へ入れる。月の光が当たる場所へ持って行き、月の光を一日浴びせ、全ての光を飲みこむ様になったら完成である』
材料名を聞いたこともなければ、かかる手間暇も驚きだ。
しかし、ここまで確かに驚く事だが、俺達ならある程度想像つくし、何なら近江が驚くような事じゃないだろ。
一体何に驚いてたんだ?
他に載ってる事は?
『変化させたい生き物の一部 例、猫ならば最低でも100匹から一部を取りだす必要あり』
ここか。
100…。下手すると100匹殺してる可能性もあるって事か?
「許さにゃいにゃっ。もふもふを殺す奴は万死に値するにゃっ」
パシパシッ。
姫の尻尾が不満を訴えている。
けどなぁ。ここもまぁ、驚くと言えば驚くが…そこまでか?
奏輔に視線だけで問うと、首を振られ、巻物を更におくられた。
解毒方法?
『変化の毒。解毒方法。材料、水晶花(すいしょうか)、鋸刺鮭の金鱗、戻りたい生き物の一部(変化の薬に使われた一部の倍)、天上の氷、聖杯。
精製方法、水晶花に戻りたい生き物の一部を触れさせた水を与える。すると水晶花が水晶球を生成する。生成された水晶球を天上の氷と共に鋸刺鮭の金燐をくべて起こした火で炙り溶かす。液状化した物を聖杯に入れて、日の光を受ける社に置いて一日置く。光を放つ様になったら完成である。
尚、戻りたい生き物の変わりに、その生物を生み出しし生き物の命でも構わない』
成程。ここか。
確かに青くなる。
その生き物を生み出しし生き物の命。
姫を生み出したのは、佳織さんだ。佳織さんの命は流石に、
「あり得にゃいっ。ママの命を使う位なら、ちょっと遠いけど源お祖父ちゃんをっ」
「こらこら。姫さん。本音が出とるで」
「あっちで源祖父さん、ショックで固まってるよー」
「大丈夫だよ、美鈴ちゃん。まだ、作る時間は残されてるよっ」
「けど、正直な所、王子の薬の回り方が予想出来ないのよ」
「それに本当に猫100匹なのかも疑わしい所でござる。数は多ければ多いほどと書いているでござるよ?もしかしたらもっと数を集めている可能性があるでござる」
「もふもふを苛める奴は万死に値するにゃっ」
…会話がループしたな。
兎に角、だ。
「おーい、源祖父さーん?固まってないで、詳しい所を聞かせてくれ」
「はっ!?、そ、そうじゃったっ」
いそいそと俺達の円の中に入り、…むしろ姫と俺の間にはまりこみ座った。
「ちょっと診せてみい」
言いながら姫の手を取り、耳を調べ、目を覗き込む。
「…ふむ。そうじゃな。まだ、そこまで侵攻はしておらぬようじゃが…。毒を入れられたのが背中と言うのが幸いしたな。美鈴と透馬が来る前にこうなった経緯は聞いたが。表門と裏門の争いが未だ続いているとは思わなんだ。あそこの忍びは何も変わらんな」
「…申し訳ないでござる」
「儂は言ったはずじゃ。争いを治める為に『藤硬貨』をそなたらに譲ると」
「うぅぅ…」
「何か言いたい事はあるか?儂の孫娘を命の危機にさらした。どれに値するだけの言い訳はあるのか?」
…やべぇ、源祖父さんが珍しく怖ぇぞ。
逆らえない威圧感を体中から発して、それを一身に受けている近江は小さくなる一方だ。
「と、言いたい所じゃが、お前さんに言っても意味はないじゃろ。…金山は説教じゃな」
「お祖父ちゃんっ、愛奈の彼、いじめちゃ駄目にゃっ」
「ごふぉっ!?」
姫のエルボーが源祖父さんのみぞおちにクリーンヒット。
源祖父さん、結構な歳だよな?手加減必要なんじゃないか?姫よ。
「ほらほら。馬鹿な爺は放っておいて、まずは美鈴ちゃんを元に戻す方が重要でしょう?手始めに何を用意したらいいのかしら?」
ヨネ祖母さん最強説。
優しく言いながら倒れた祖父さんの腹の上に座って追い打ちをかけてる。流石だ…。
「私は佳織も美鈴も勿論透馬ちゃん達も、皆が大事なのよ。だから皆が幸せになる道を探しましょう?」
「お祖母ちゃん…大好きにゃっ!」
「あらあら。私も大好きよ」
……姫。微笑ましい場面なのかもしれないが、姫の重さも加わった祖父さんが泡噴いてるぞ。祖父さんの幸せは…いや、これはこれで幸せなんだろう、きっと。多分。
「ほら。あなた。いつまで泡噴いてるの。さっさと話を進めなさいな」
「…だったらまず退いてあげて欲しいでござる…」
近江の言葉に俺達男は頷いた。
二人が退くと、シャキッと復活した祖父さんが口を開いた。まず口の端からだらだらと溢れてる泡を拭いてくれ。
見兼ねたヨネ祖母さんに台布巾で顔をガシガシ拭かれた祖父さんはキリッとして会話を続けた。
「まずこれを教えておく。忍びの里で伝わる薬、『丸薬』と『毒』は全くの別物。丸薬はあくまでも死に至る事がない効果をもたらす物で、毒は殺す為の物じゃ。毒は戦いで敵に使った物なのじゃ。毒は丸薬で治す事は出来ない」
「え?でも」
「確か新田嬢ちゃんが使ったのは、丸薬だと言ったな?」
「はい」
「ふむ。…近江の。お前さんは丸薬を作っていると言っておったな。それは、そちの里の…裏門に伝わる秘伝書の内容か?」
「そうでござる」
「ならば、それは丸薬の精製方法ではない。毒の精製方法だったのじゃろう。毒を精製するにあたり、必ず必要なものがある。それが聖杯じゃ」
「聖杯…」
「そうじゃ。それがない、普通の器で精製したものは毒として完成せん。勿論、毒の精製方法で作った物は丸薬にもならない。丸薬は丸薬の精製法があるからじゃ」
言われてみたら近江の丸薬、術は全て失敗していたな。金山さんや真珠さん達は丸薬を使わない、以前から伝わる丸薬だけを使っていた。成程。毒の精製で丸薬を作ろうとしたら失敗するのは当然。近江の失敗が多かったのはそう言う理由からか。
「新田嬢ちゃんの作った丸薬が美鈴に効いたのは、きっと忍びの人間ではないのが決め手じゃろう」
「?」
「忍びの人間はね?体から特殊な物質を放っているらしいの。人には視えないもの。本人にも視えないのだけど。動物なんかは稀に見えるのがいるらしいけどどうなのかしらね」
やんわりとした口調で話すけど、ヨネ祖母さんの言っている事はちょっと鳥肌が立つ。それは世に言う所の守護霊とか幽霊とかそう言うたぐいのものでは…?いや、考えるな、俺。そう言う存在だと納得しろ、俺。
「結果として新田嬢ちゃんの作った丸薬は、『一般人と忍びの者が協力して作りだした新たな薬』と言う所かの」
それはある意味、姫に効かなかった可能性もあるって事だよな。姫に忍びの血が入っていた事がせめてもの救いだったのかもしれない。運が良かったとしか言いようがない。
「もし丸薬と毒が間違って伝わっていたのなら、表門の忍びが美鈴に用いたのは新たに生成されたものではなさそうじゃ。忍びとして生きている裏門の連中ですらまともに作れない毒を表門の人間が作れる筈がないからな。昔の裏門の人間が作り今まで受け継がれた『毒』である可能性は高いじゃろう」
「結論として、美鈴ちゃんには『毒』が使われたと言う事でいいのね?そして解毒に必要なモノは、ここに、忍びの里であるこの場所に全てあるってとらえても良いのよね?」
「そうじゃ」
「だったら最初からそう言いなさいな。大体あなたは昔から話と鼻の下が長いのよ」
「ショーックッ!!」
「それで?もう一つ、重要な所があるでしょう?表門の忍びの子がかかっている病について。さっさと口を割りなさい」
そうか。姫の事で忘れていたがその問題もあったな。
そもそもそいつらが病にかかったから、姫の生き血が必要だと襲って来た訳で。
「病院に行っても治らなかったと言っていたのよね?」
「ふむ。とは言え、恐らくその件に関しては美鈴は無関係じゃろう」
「そうなの?」
「うむ。恐らくその病は…いや、病と言うよりは『呪い』と言った方が正しい」
「呪い?あらあら。もしかして、何処かの封印解いちゃった感じかしら?」
「うむ。世の中に決して手を出してはならぬと言われている忍びの祠がいくつか点在しておる。それらは日本各地にある。その忍びの祠には確かに金銀財宝が封印されている。じゃがそれと一緒に数多くの呪われた品が封印されておるんじゃ。むしろ金銀財宝は呪われた品を供養する為に集められたと言っても良い。場所によっては呪いが強過ぎて封印を解除するだけで呪いの餌食になる場所もある位じゃ」
「確か、表門の集落の側にあったわね、祠が。そこはかなりの金銀財宝が一緒に封印されていた気がするわ。あらあらまぁまぁ。表門の忍びはいつも金策で困っていたから、これ幸いにと探しにでも行ったのかしら」
「で、呪いにやられたんじゃろうなぁ。封印は正しい解呪方をせねば、逆に自分の身が危ないと言うに。アホじゃのぅ」
源祖父さんが目を細め自分の顎髭を擦っている。
封印を強引に解いたから、封印にかけられた罠と中にある呪いを同時に受けたのか。
確かにアホだな。
「けど、源祖父さん。表門の人間も忍びの力の先祖返りがいたぞ?俺達もそいつらに仕掛けられたし」
「透馬よ。きゃつらは忍びの力があると勘違いしているようじゃが。表門の忍びも、裏門の忍びも。今の奴らは運動能力の高い人間に過ぎんよ。忍びの本当の力はその程度のものではない」
口元は笑みを浮かべつつも、祖父さんはスッと目を細め俺を睨んだ。瞬間に感じた殺気にぞわりと鳥肌が立つ。やべぇ…。
一瞬でも感じた祖父さんの本気と、その本気を「あらやだわ」と言いながらぶん殴って止めるヨネ祖母さんに微かな恐怖を覚えた。もう一度言っておく。ヨネ祖母さん最強説。
「あ、でもよ。源祖父さん。俺達そいつらとやりあってる時に、その呪いを解呪方?とか言うの見つけたぜ?」
「ふむ?そんなものが残っているとは思えんが…。ここにはあるが、門外に出しているとは思えん」
「そうなのか?でもなぁ…。な?姫」
同意を求めると姫はコクリと頷きポケットを探った。猫手では取り辛いんだろう。ポケットに手をやって暫くもたついて、最終的には爪で刺すと言う荒業を駆使してメモを取りだした。
「これにゃっ」
「えっと、確か内容は『聖なる乙女の生き血を捧げよ。さすれば、扉は開かれん。 聖なる乙女は黄金を持つ。 聖なる乙女は美しさを持つ。 聖なる乙女は清さを持つ。 聖なる乙女は慈しみの心を持つ。 聖なる乙女は明日を持つ。聖なる乙女の生き血は我を呼ぶ。聖なる乙女の生き血を捧げよ。さすらば、扉は開かれん。扉の先には、汝が望む全てがあるだろう』だっけか?」
紙を開きつつ、内容を伝えると何故か、
「むっ」
「あらーっ!?」
祖父さんが眉を寄せ、祖母さんが嬉しそうに笑った。なんだ、この両極端の反応は。
ヨネ祖母さんが頬に手を当て、きゃっきゃと少女の様にはしゃいでいる。
まさかの反応に思わず姫と顔を見合わせてしまう。
ちょっと見せて頂戴と言われ、俺は素直にその紙をヨネ祖母さんへと手渡す。…嬉しそうだな。ヨネ祖母さん…。
一体この文章はなんなんだ?
「何処に隠したかと思ってたら、あの祠に隠してたのねぇ。お義父さんったら照れ屋なんですから~。うふふ…相変わらず可愛いわねぇ。お義父さんの恋文」
「こっ!?」
恋文っ!?これがっ!?嘘だろっ!?
俺達は揃って目を点にする。
そんな俺達を全く気にせずに、源祖父さん達は懐かしそうに盛り上がる。
「死ぬまで探しておったのぉ~。儂の父が初恋の相手に出した恋文でのぉ~。金髪の美人で、とにかく優しくて、自分に厳しい、しかもその初恋が実って、今ここに儂がいる訳だから。何があるか解らんのぉ~」
「まさかにょ恋ばにゃっ!!お祖母ちゃん、後で詳しくっ!!」
「うふふ。後でね。お義父さんのお墓の前で話しましょうね」
死んでからも尚、嫌がらせっ!?
もしかして、あれか?嫁姑問題があって、それを助けなかったとかそう言う確執が…?
触れちゃ駄目なとこだなっ。
「って事は、これはなんの事はないただの恋文、ラブレターって奴なのか?」
聞くと二人は大きく頷く。
「けど、そんな文章には見えないぞ?『聖なる乙女の生き血を捧げよ。さすれば、扉は開かれん』って如何にもな感じだが?」
「ふむ。儂の父風に訳すなら、『とっても綺麗な貴女は指の先、血の一滴さえも美しい。どれだけ言葉を贈れば貴女は心のドアを開いてくださいますか?私の好きな貴女はとても綺麗な金色の髪をして、誰よりも美しい。その心も清流の如く清らかで、慈しみの心に何度心を打たれたことか。明日また会いましょうと手を振る貴女を私は家に帰る事なく待ち続けている。貴女が困難に立ち塞がれ、血の涙を流したとしたなら直ぐに側に参ります。私は貴女を何者からも守る事を誓います。だから貴女を下さい。その心を私にだけ開いてください。私の全てを貴女に捧げますから、私を望んで下さい』って所かの」
「いやいやいやっ!えっ!?どこにそんな情熱的な中二病文章がこれに隠れてるんだよっ!?」
「儂の父は、文章を書くのが苦手でのぉ」
「程があんだろっ!良くこれで源祖父さんが産まれたなっ?」
「ふっ。忍びは代々、あれがうま、ごふぉっ!」
「あらあら、まぁまぁ。今何か聞こえたかしら?」
……源祖父さんがふっとんだぞ?二の舞は嫌だから口には出さないが。
結果として、本当にラブレターだったようだ。って事は、だ。
「私狙われぞんにゃっ!?」
って事だよな。ラブレターを勝手に解呪の方法だと勘違いして、姫は命を狙われた訳だ。ほんっと呆れかえる。
そもそも、白鳥は昔から忍びを雇っていた方の人間だろう。だとしたら主に反旗を翻した訳だ?昔なら殺されてる所だ。しかも、姫は忍びの里の長の血筋。尚更処罰を受けてもおかしくない状況だ。
「…金山さんと真珠さんがあいつらバカだって言ってた理由が分かった気する」
「ござるな。拙者今ほど忍びである事を後悔した事ないでござる…」
沈黙。不確かな物を調べもせずに信じ、命をあっさりと狙ってくるような、あんな馬鹿共に巻き込まれたらたまったもんじゃないもんな。新田が近江にぴったりとくっついた。
「でも、良かったね。あっちは金山さんに任せて大丈夫って事だよね?あ、でも呪い…」
「金山に儂の部下を向かわせた。解呪の仕方を教えに行かせたから問題なかろう」
「金山さんは忍びの力、あるの?」
「金山、銀川は微かに残っておる」
「え?って事は?」
視線は近江に集まる。近江の視線は源祖父さんに向いている。
祖父さんは大きく頷く。それに近江は嬉しそうに笑った。今の頷きの意味する所。それは近江にその忍びの力がしっかりと遺伝していると言う意味だろう。忍者としての能力が劣っていると思っていた近江には嬉しい結果だろう。
「それじゃ、美鈴ちゃんは治す事だけ集中出来るのね?」
姫第一のぶれない花崎の言葉に皆は苦笑しつつ頷く。
「ふむ。では早速材料についての説明に移ろうかの」
源祖父さんの言葉に俺達は一言一句聞き逃さないよう、耳を澄ませた。
源祖父さんから色々情報を貰って。
キャンピングカーに戻って来た俺達はテーブルを挟んでメモをした紙を覗き込んでいた。
「手に入れた情報をまずは整理するで?」
頷く。
「一先ずここが、忍者の里ってのは間違いなさそう」
「だな。まさか、源祖父さんが全ての忍びの長だとは思わなかったが」
でも言われてみたら、あの年で冗談みたいな身のこなし。それに膨大な知識量。何より姫の姿を見た瞬間に全て理解して、一瞬だが顔を顰めた。厄介な毒だと気付いたからこその表情だった。
それに、大地の言葉に戻るが、ここが忍者の里だと言うのも、納得だ。そもそもがおかしな村だったんだ。あの膨大な本の量を維持する図書館。警察がいない代わりの絶対的なルールと罰する為の牢獄。昔源祖父さんが言っていた、外に出た人間は必ずと言って良い程村へと戻ってくるってのも、納得がいく。恐らく外の人間と合わないんだろう。こんな人知れない里で強靭に鍛えられた人間が外の世界で上手くいく筈がない。
「異様な村だと思ってたけど、忍者の里だと考えれば色々納得が行き過ぎる…」
「全くや」
「ここが忍者の里だって確定したんだから、村の解明は一先ず置いておいて。今は美鈴ちゃんを元の姿に戻すことを優先っ。まずは美鈴ちゃんの毒を取り除かないとっ」
花崎の言う事ももっともだ。頷いて、取り出した新たなメモ用紙に一つ目の材料名を書く。
一つ目は、『鋸刺鮭の金鱗』だ。
「『鋸刺鮭』って何て読むでござる?」
「ピラニアって読むにゃ」
姫があっさりと答える。が、言葉と相反して顔は険しい。当然だ。ピラニアは日本の魚じゃない。しかも、だ。ただでさえ狭い門の中の、金色の鱗を獲らねばならない。
「たまに水族館とかで金色の鱗のピラニアがいると聞いた事があるけど」
「んな遠くまでは行ってられねぇな」
「近場でいないのかな?」
「近場って言ったってなぁ。そもそもここ電波ほとんどねぇから調べられねぇぞ?」
「えっ!?」
今電波がない事実に気付いた花崎が慌ててパソコンを開いて、ネットに繋ごうとして失敗し崩れ落ちた。
「私、超役立たず…」
「大丈夫にゃっ。華菜ちゃんにぃは私にぃ癒しを与えると言う大事な仕事があるにゃっ」
「美鈴ちゃん…っ」
「華菜ちゃんっ」
ひしっ。
…抱きしめ合って友情確かめてる所悪いんだが、話が全然進んでないぞ。
しかし、ピラニア、ねぇ…。何か引っかかるな。
記憶のどこかに、引っ掛かりを覚えると言うか…。
ふと外を見ると、源祖父さんが走ってる姿が見えた。相変わらずのようだ。ここにこうしていると、また豊穣祭があるだの言って来そうだな。
思いだして笑いかけて、ふととあることに思い至った。思わず動きが止まる。
「そういや、いるな。ここにピラニア」
「は?透馬、何言うとん?」
「思いだしてみろよ。ここで昔豊穣祭に出ただろ?」
「それがどないしてん?」
「その時、俺が担当したエリア」
「あっ!思いだしたにゃっ!確かにぃあの湖にぃピラニアと鮫がいたにゃっ!」
「松宮湖かっ」
探してみる価値はあるだろう。それに忍者の里だ。他の生き物にも奇跡的な異変が起きていてもおかしくない。
「なら、そこには拙者が行くでござるっ。幻の品を探すのは得意でござるっ」
「不安過ぎるから私もついて行く」
新田が行くなら、近江が担当すると言う不安もだいぶ軽減する。
「次は、天上の氷か」
「正直何の事か全く見当もつかないな」
「近江は何か知らないか?」
「毒に使う『最古の氷』なら知ってるでござるが…『天上の氷』…聞いた事ないでござる」
早速行き詰った。その壁を破ったのは自分の事だと言うのに気を使って極力明るい声で言った姫の案だった。
「解らないなら調べるしかないにゃ」
「調べる?」
「そうにゃ。図書館行くにゃ。あの図書館にぃにゃら何かあるはずにゃ」
「あぁ、確かに。あそこならありそうや」
「調べ物なら私も役に立てるっ」
思い立ったが吉日。
解毒に必要な材料他二つについても解らなかったこともあり、俺達は直ぐさま、図書館へと向かった。
以前来た時よりも大きくなった図書館に俺達は呆然としつつも、中へと入った。圧倒的に増えた蔵書の中から、『天上の氷』『聖杯』『水晶花』について載っている本を探す。
あいつらはこう言う事が得意だから、しかも奏輔と花崎がいる。調査を得意中の得意とする奴が二人いるのだから任せてもなんら問題もないだろう。
材料の調査をあいつらに任せ、俺は別の物を探す事にする。
『忍びについて』の本だ。
どうして、これを探るのか。それは万全を期しておきたいからだ。姫の体を戻すのに万が一にも失敗は許されない。なら、情報が多い方が良い。祖父さんの持っていた巻物が間違いなわけがない。ただ手段が一つだけってのは心もとない。
ここは忍びの里だ。なら、忍びに関する情報ならば必ずあるはずだ。少しでもヒントを集めておくことは悪い事ではない筈だ。情報は武器だ。戦いに挑むのに武器が一つしかないなんて考えられないだろ。
さて、何処にあるかな。まずは…一番奥を探してみるか。
一階の一番隅に向かって歩きだす。
奥へ行けば行く程、アイツらの足音も話し声も聞こえなくなっていく。
どんだけ奥深いんだ、ここの図書館は。でも、電気はちゃんと通ってるんだよな。
「こりゃ、ちゃんと現在地把握してねぇと迷うな」
「そうにゃ。でも、大丈夫にゃっ。私がちゃんと覚えてるにゃっ」
「まぁ、俺も覚えてるし、一直線に来てるから迷いようも…ん?」
独り言のつもりで口に出したのに返事が返ってきた上に、振り向くとそこには姫の姿が。
「姫?何で俺に付いて来てるんだ?」
「多分、透馬お兄ちゃんと同じ事考えてるにゃ」
「毒か?」
「そうにゃ。お祖父ちゃんが見せてくれたあの巻物に重要な事が書かれてなかったにゃ」
俺を追い越して歩きだす姫の後を追いながら、姫の言葉の続きを待つ。
「呪いにぃ使った『猫の量』にゃ」
「数は多ければ多いほど良いって書いてたな」
「そうにゃ。……数によっては、私は覚悟を決めにゃきゃにゃらにゃいにゃ」
「覚悟…?」
思わず足が止まる。姫に必要な覚悟が何か、解らないからではない。解るからこそ、だ。
姫も足を止めて、振り返る。金のほわほわがふんわりと翻る。
「猫として生きる覚悟、だよ。透馬お兄ちゃん」
辛い癖に、それを押し隠して微笑む姫。
そんな辛そうな笑みですら綺麗なのが、俺の胸をより一層苦しくさせた。
そんな事言うな。
そんな覚悟を決めるな。
絶対に助けてみせるから。
「美鈴」
名を呼ぶと驚き、姫の目が開かれる。
姫の腕を引いて自分に抱き寄せる。
細い…。
もし神様と言う者がいるのなら、胸倉掴んで問い質したい。
姫にどれだけの試練を負わせるのかと。
こんな細くて華奢な女の子にどれだけの…。
「透馬お兄ちゃん…?」
希望を持たせるのが、良い事なのか悪い事なのか、正直解らない。けれど、姫にはいつもの姫でいて欲しい。
「…どんな結果になろうと、俺が必ず姫を戻してみせる。だから、そんな覚悟しなくていい。しないで良い。姫はただ俺を信じていたらいいんだ」
「透馬お兄ちゃん…」
姫の目を覗き込むと、一瞬揺れて。けれど直ぐにそんな弱さを引っ込めて、姫は笑った。
「透馬お兄ちゃん、かっこいー」
「…茶化すなっての」
…深刻になっていたくないのなら、それに付き合うさ。
今は何よりも姫の気持ちが大事だ。
俺は姫の体をゆっくりと離して、強気に笑った。対して姫ははにかみ、ゆっくりといつもの優しい笑みを浮かべた。
そこから俺達はまた奥に向かって歩きだした。
それにしても長い通路だな。奥が全く見えねぇんだが…。外からは奥行きが見えなくなってるが、この図書館は外から見ると一体どうなってるのか。少し気になって来た。後で全てが片付いたら見てみよう。それはそれとして。
「だいぶ奥に進んできたな」
「やっと半分が見えて来たにゃ」
「…ん?まだ半分にも到達してねぇのか?」
こくこく。
頷く姫を可愛いと思うべきか、まだ半分も来ていない続く通路に落胆すべきか。
「透馬お兄ちゃん。ストップにゃ」
「うん?」
止まれと言われたら止まる。俺は足を止めて、横に並ぶ姫を見た。
…気の所為か?姫、少し身長縮んでる気がする。本来姫は俺の肩の位置に頭が来ていた。だが今はそれよりも低い気がする。…気の所為であって欲しい。
「透馬お兄ちゃん。ここから先は気を付けるにゃ」
「ん?何でだ?」
つい姫の身長に意識がいって、姫の言葉の真意を探れなくて聞き返す。
「危険だからにゃ」
「危険?図書館の中なのに、か?」
信じ難くて言うと、姫はもう一度コクリと頷いた。
「証拠をみせるにゃ。まずは、3歩進むにゃ」
「3歩?」
1、2、3。
言われたまま足を進め、止まって振り返る。
「今度は右にぃ1歩」
「右1」
「更にぃ前にぃ4歩」
「4歩進む」
「そこにょ足下にぃスイッチがあるにゃ」
「おお、あるな」
指示の通りに動いて、足下を見ると解りやすい赤いスイッチが置いてある。押してみるか。
カチッ。
ガコッ。
がこ?
あれ?足下がすーすーして、
「のわああああああっ!!」
落とし穴ああああっ!?
俺、落ちてますっ!
何て冗談言ってる場合じゃねぇっ!
幸いそんな大きな穴じゃなかったから、直ぐに着地態勢に入り着地する。
「透馬お兄ちゃーん」
上の方から声がして、ぴょこんと猫耳が見え、次いで穴に落ちた俺を覗き込む姫の顔が見える。
「スイッチ押すと落とし穴が出来るから気を付けてにゃー」
「そう言う事は口で言ってくれっ!」
「言う前にぃボタンを押したにょはお兄ちゃんにゃー」
ひらっと穴に姫が降りてくる。
あっさりと着地して、尻尾をふりふり。…意識してねぇんだろうなぁ。
「えっとー」
落とし穴の壁を姫が撫でてる。
姫の耳がぴくぴくと動いてる。…可愛いな。
「ふみゃっ!?」
「っと悪い。つい、可愛くて」
誘われるように、ついつい姫の耳を触ってしまっていた。
「駄目にゃっ。触っちゃ駄目にゃっ」
ペシペシと叩かれても痛くも痒くもない。何だ、この抗議は。ただただ可愛い。
まぁ、姫が嫌そうだからもうしない。…多分しない。…頭を撫でるだけなら許されるか?
…ふらふらと誘われそうになるふわふわにぐっと耐える。
そんな俺の心境を知らない姫は、お目当ての物が見つかったのか嬉しそうに跳ねた。
「あったにゃっ」
ポチッと発見されたボタンを押す。すると壁にいきなり梯子が現れた。…浮かび上がってきた、が正しいかも知れない。
一体どう言う仕組み…いや、考えたら負けか。
「登るにゃー」
「姫。無理は」
するなよ、と言う前に登りきってしまった。
「猫の力は凄いにゃー」
上の方できゃっきゃっ喜ぶ姫に、若干呆れつつ俺も梯子を登る。
「こっから先はこういう罠が多いにゃ。気を付けるにゃー」
と言いながら姫はテンション高く進む。
最初、姫の真横を歩こうとした。何かあったら直ぐに対処出来る様にと。
しかし、横に並ぶ度に多方向からバライティ―に富んだ多種多様の罠が発動。たらいが飛んできたり、あると気付かないスイッチを押して罠を作動させてしまったり、碌でもない結果しか生まない上にむしろ危険が増すので並ぶのは諦めた。姫の後ろをぴったりとついて行くことにする。
「…RPGと言えば、ダンジョン、パーティ、縦歩きにゃ」
「確かに…」
事実今縦に並んで歩いてるしな。
RPGっぽい。主人公である姫が前を歩いてるし。歩くたびに耳と尻尾が動くのが気になって仕方ない。
衝動をぐっと堪えながら、姫の歩く道をただついて行く。
「なぁ、姫?」
「にゃぁに?透馬お兄ちゃん」
「何で罠のある場所知ってるんだ?」
「スキルにゃ。多分こにょ毒を喰らった時、新しいスキルを入手したにゃ」
「スキル?」
「『罠回避』ってスキルが入ってたにゃ」
「あぁ、成程な」
そのスキルのおかげで姫はすんなり歩ける訳だ。
尻尾をふりふり姫が進むまま、後をついて行くと、やっと行き止まり。最奥に辿り着いた。
これだけ奥に来たのに、電気のおかげで明るい。
本棚の間にある通路をずっと歩いてきたけれど、本棚が途切れることなく、行き止まりもまた本棚だった。
「ここにぃは忍びにぃ関する報告書一覧があるらしいにゃ」
「この目の前の本棚に、か?」
「そうにゃ。今回にょ事件は皆、忍び絡みにゃ。だとしたらここにょ資料が一番にゃはずにゃ」
「なら一先ず表門について調べるか。そうしたら何か芋蔓式に何か解るかもしれねぇし」
「そうするにゃ。えーっと…表門…表門…」
姫が下からなら俺は上から順番に見て行くか。
一番上の左から…『祠の管理報告書』『消えた忍びの里管理報告書』『土地売買契約の報告書』…報告書を一綴りにしている所為か、一冊がでかくて厚い。
一番上にはそれらしきものはないな。二段目は…『忍び戸籍謄本』…で埋まってる。三段目は…。
「にゃ?」
「どうした?姫」
「これ怪しいにゃ」
下から二番目の棚。左側から姫が一冊の本を取りだした。表紙には『更新報告ー毒編ー』と書いてある。
「確かにそれっぽいな。姫、開いてみろよ」
「そうするにゃ」
姫がパラパラと流し読みしながらページを開いて行く。
そこには新たに生成された毒など、様々な毒について載っていた。
ページを進めて行くと、『変化の毒ー猫ー』と書いたページに辿り着いた。
「これか?」
「っぽいにゃ」
えーっと何々?結構昔の出来事だな。表門と裏門が別れる前にその時の長が作ったものだ。材料は変わらない。で、重要な変化する生物の使用された部分は…。
「猫の髭」
「九千本っ!?」
嘘だろっ?
って事は、姫を戻すには最低九千一人の女が触れた水。より完璧にするには一万人の手を借りないと危ないって事か?
「他にぃも色々書いてあるにゃ。これを持って皆にょ所にぃ戻って、もう一度相談するにゃ。一先ず猫の生え代わって落ちた髭を使ったって書いてあったから一安心にゃ。もふもふ、苛めたら許さにゃいにゃっ」
姫はにっこりと微笑んで来た道を戻り始める。
俺はそんな姫を視線で見送りつつ、再び本棚に視線を戻した。
「…『幻の素材発見場所報告書』『解毒失敗時結果報告書』『毒効果継続時間情報更新一覧』…この辺りの情報はどれも必要か。それ以外にも何冊か必要そうな物があるな」
ステータス画面を開き、『スキル』を発動させる。
使うスキルは、『複製』だ。ここあたりの必要書物達を『複製』し、アイテムボックスへと収納しておく。
一通り必要と思われる書物は全て複製し、俺は姫の後を追い掛けた。
皆のいるであろう場所まで、引き返して来たものの…誰もいねぇ。
「皆まだ本を調べてるにゃ?ここにょ本、一から調べてたら人生終わるにゃ?」
「……確かに」
あんな奥まで本を置いてる訳だしな。一生かかっても全部読み切るのは不可能だ。
「んー…ちょっと皆を呼ぶにゃ」
「姫?」
本を抱きしめつつ、入口の受付の様な所まで移動して、机の中から何かを取りだした。
ん?マイク?
カチッと何かスイッチを押す音がして。
『にゃんにゃんにゃんにゃーん。館内で資料をお探しにょ皆様~。図書館入口までお集まりください。繰り返します。館内で資料をお探しにょみにゃさま~。図書館入口までお集まりくださいませにゃ~。にゃんにゃんにゃんにゃー』
姫。チャイムまでちゃんとやるのか…。
そこは突っ込んで良いのか?それとも流すべきなのか?
俺が判断に迷っている間に、あいつらはそれぞれ時間に差はあれど、各々本を持って戻って来た。
「姫さん。さっきのチャイム可愛かったけど、昼寝してた爺さんがビクゥッと体跳ねさせて、心臓麻痺起こしそうだったで?」
「ふみゅ?それはお爺ちゃんにぃ悪い事しちゃったにゃ」
最後に奏輔が来た所で全員が集まった。俺達は本を持って、増設されたと言う談話室に入る。
座りながら話すのもまどろっこしく、小さなテーブルに俺達は集めた本を置いて、全員でそれを覗き込んだ。
「それらしい本が多過ぎて、逆に探し辛かったわ」
「全くだよねー」
言いながら小さいテーブルは各々が持って来た本で埋まっていく。
「まずは材料にょ入手方法にゃ」
「だな。ピラニアに関しては、一先ず松宮湖を調べてみるから置いとくとして。『天上の氷』に関する資料を見つけた奴はいるか?」
「あるで」
手を上げたのは奏輔だった。
「かなり奥の方に置かれた本だったから探すのに苦労したんよ、ホント。…っと確か、…」
奏輔がパラパラとページを捲る。目当てのページに辿り着いたのか、捲る手を止めて俺達の前、机の中央に置いた。
っと何々?天上の氷とは…。
『天上の氷 太古の昔からある氷のこと。誰も辿り着いたことがない洞窟の奥深くの日の当たる場所で精製される氷である。その氷はどんな熱にも溶けない氷で、神の流した涙との一説もある』
洞窟?
そんなものあったか?
「洞窟ってどこにょ洞窟にゃ?」
姫も同じ所を疑問に思っていたらしい。
「それなんだけど、姫さん、覚えとるか?」
「ふみゅ?」
「高校生の時、近江達と一悶着あった場所。勉強合宿で行ったやろ?」
「あ、もしかして、私が意識失って流れた場所っ?」
「あぁ、確かにあそこ、洞窟だった」
俺と大地、奏輔の視線は近江に注がれた。近江はどきまぎしているが、重要なのはあの地が『近江と姫のイベントが合った場所』だと言う事だ。
そこにならば姫の解毒の何かが、幻の何かがあってもおかしくない。
「探してみるかー。そこにはオレが行ってくるよー」
大地なら誰が襲ってきても問題ないだろうし、適役だな。
「大地お兄ちゃん、無理はしにゃいでね?」
「大丈夫ー。熊位なら倒せるよー」
うん、まぁ、倒せるだろうけどな。姫が遠い目してるから自重しとけ、大地。
兎に角、これは大地に任せるとして、次だ。
「次は、聖杯にゃ?」
「聖杯の情報は、私が持って来たよ、美鈴ちゃん」
もう最初からそのページを開いて持って来たのか、奏輔の本を閉じて寄せた場所に花崎は本を置いた。
「聖杯って、どんな器でも良いんだって」
「そうにゃの?」
「うん。ただし、その器を清める事が大事なんだって」
「清める?」
「その清める場所って何処なんや?普通に神社とかでもええんか?」
「え?清めるって普通神社だよね?」
花崎の言葉に俺達は黙り込む。
普通ならそうだろう。だが、今のこの状況を普通とは言い難い。そもそも姫が猫化しているのも普通ではあり得ないのだ。あの毒にしてもだ。だと言うのに普通の清めで良いのか?
「源祖父さんに要確認だな」
「やね。次に行こうや。一番重要な『水晶花』や」
「一応、花の図鑑は持って来たけど」
「まぁ、当然と言えば当然でござるが、一切載ってなかったでござる」
「だろうな。どれも幻級の品物だ。図鑑に載ってたら苦労しねぇわな」
「もう一度それらしいの探してみる?」
「花の図鑑の所に皆で挑んでみよう」
花崎の言葉に姫、新田、近江が頷き歩いて行った。
俺達はもう少しこの図鑑を調べると告げ、態とその場に残る。
「で?透馬。お前が得た情報はなんや?」
「流石に秘匿されている本を持ち出すのは気が引けたんでな。コピーして来た」
ステータス画面を開き、複製した本をアイテムボックスから取りだした。
「『幻の素材発見場所報告書』?えらいもん見つけて来たな。何処にあったんや?」
「この図書館の奥の奥の奥だ」
「この短時間でどんだけー」
「姫が一緒だったからな」
「姫ちゃんが一緒だったとしても、ここ変な罠あるぜー?大丈夫だったん?」
「姫が毒を喰らった影響で『罠回避』のスキルを得てたから問題なかった」
「姫さんが罠回避?成程。猫化の効果も相俟ってるのかもしれへんな」
「そう言う事だ。それよりも、だ」
俺は更に数冊の本を取りだした。『解毒失敗時結果報告書』『毒効果継続時間情報更新一覧』『裏世界への行き方』『絶対禁止要項』の四冊。
大地も奏輔も。本のタイトルを見た瞬間顔を顰めた。まぁ言いたい事は解る。本のタイトルだけを見るとまるで姫を治す事を諦めたかのような文字列だからな。
でも、俺は諦める気なんてこれっぽっちもない。
「もしもの時の起死回生を求める為にも、最悪の事態の対処の仕方も同時に考えておきたい。そう思うのは間違った事じゃないだろ。まぁ、鴇みたいに内容を頭に突っ込んでおくとか出来ないから複製したし、お前らにも協力させる気満々だけどな」
「協力するに決まってるだろー」
「言うまでもないやろ。はよう中確認するで。姫さん達が戻って来てまう」
頷き合い、まずは『幻の素材発見場所報告書』だ。
最初に索引があり、五十音順になっているので順番に調べて行く事にする。
まずは、『水晶花』だな。あ、か、さ…し、す…すい…。
目だけで文字を追って。
「あった。これか、『水晶花』。何ページだ?」
「六十八ページや」
手早くページを捲り、開く。
古い報告書だが、絵付きで載っているから解りやすい。
「水晶花。水を注ぎ続けると水晶球が生成される不思議な花。生態はいまだに謎である。群生する花ではあるが、咲く場所は一つの場所に留まらない。群生する場所は何時も謎だが、共通点はある。湖の奥底の空間に生える。尚、吸晶花と酷似している為気を付ける事」
「湖の奥底?どうやって行けと?」
「待て待て。下にもまだ書いてある。…水晶花は裏世界の吸晶花である、だと」
「裏世界の、吸晶花?」
俺達は一冊の本に視線を送る。
そしてもう一つ。とある可能性に辿り着く。
それを確信するには、もう少し他の素材を調べるしかない。
『聖杯 表世界では、神社のお神酒に浸された器の事。裏世界では、聖なる泉沈む聖なる器の事』
『天上の氷 太古の昔からある氷のこと。誰も辿り着いたことがない洞窟の奥深くの日の当たる場所で精製される氷である。その氷はどんな熱にも溶けない氷で、神の流した涙との一説もある。尚、表世界の最古の氷とは同じである』
『鋸刺鮭の金鱗 鋸刺鮭という巨大魚の金の鱗。昔から莫大な金額で取引される幻の鱗。邪なるものを全て吸収すると言われている。裏世界の生き物である』
何を話していいか解らないまま、俺達の視線を再び集めていた本を手に取った。
『裏世界への行き方』
まさか、そんな世界があるとは思わなかったが…。こんなファンタジーな状況で、更に姫が言っていたここがゲーム世界だと言うのなら、完全に否定なんて出来やしない。
その本は物凄く薄く、本と言うより数枚紙が挟まれたファイルみたいなものだ。
それを開いて、俺達は上から順に読んでいく。
『裏世界への行き方 裏世界への扉を管理している『忍びの長』から『鍵』を受け取り、湖の側にある小屋の中にあるドアに使って中に入る』
…簡単だな。で?戻り方は?
少し読み進める。
『ドアを抜けた先は裏世界である。戻り方は裏世界にある『裏世界への行き方』を参照すべし』
「って、載ってないんかいっ!」
奏輔、代表で突っ込みご苦労。
「他にも載せるべき、時間の流れとか色々あるだろうに、全く載ってないー」
「時間の流れ、か。でもそこは問題なさそうだ。表記でもそうだが、あくまで『裏世界』って書かれてる。鏡世界とか異世界とか書かれていないのを鑑みるに、そこは『裏』なんだ。この世界の『裏面』なんだろう」
「成程な」
「想像に過ぎないけどな」
パラレルワールドとか昔からよく聞くが、そういう物なんだろうか?
だが、裏と書かれていると言う事は、同じ時間軸、同じ世界枠だよな。…そこら辺が今一理解出来ない。
「とにかく、や。一先ず素材が何処にあるか分かったんや。後は取りに行ってから考えればええ」
「だな。あくまでも表裏一体って事だろ?なら探す場所も直ぐに見つけられるだろ」
「念の為に禁止要項も読んで置こー」
大地の言葉に、即行動を踏み止まり、持って来ていた『絶対禁止要項』と言う薄い本を開いた。
「結構どうでも良い事ばっかりだな」
「長の孫を嫁に貰おうと思ってはならぬ、とか。確かにどうでも良いー。何ならこれ最近書き足されたでしょー」
「確かにどうでも……うん?」
ペラペラとページを送っている手がとある所で止まった。
「おい、これ…」
「…『裏世界の物を表世界に持ち帰ってはいけない。持ち帰った瞬間に持ち帰った物は消える』」
「マジか…」
「これが本当なら、例え解毒薬が出来ても持ち帰れないんじゃねー?」
「確かに」
大地の言う通りだ。けど、この世界に、この解毒薬を使った形跡がこうして本として残っているのだから、何らかの方法で持ち帰ったと言う事だろ?
「仮説に過ぎないが、もしかしたら持ち帰ってないのかもしれへんよ?」
「どう言う事だ?」
「この世界があくまでも表裏一体なのであれば、裏世界で作った薬は、同じ物が表世界で作られている可能性がある」
奏輔が本をパシパシと指ではじく。
「裏世界で解毒薬ならば、表世界ならば毒薬になる」
「それが?」
「例えばや。裏世界と表世界、リンクする場所があればどうや?」
「リンク?」
「せや。表世界と裏世界で同時にその場所に表裏一体のものを置けば?」
「奏輔ー。回りくどい。解りやすくっ」
「覚えとるか?薬の作り方。毒と解毒薬。両方とも最後に一日おいとるやろ。あれはもしかして、表世界と裏世界で物が入れ替わるのに必要な場所と時間なんじゃないんやろか?」
あぁ、そうか。成程。
解毒薬の作り方は日の光を受けてる社に、毒の作り方は月の光を受けている場所に。時間が経過して、太陽と月の交代。その時に地球丸ごと裏と表が入れ替わってる時に、そのリンクしている場所に行けば、その入れ替わりに反映されて、徐々に薬も入れ替わっているって事か。
出来上がった薬が別物のようになるのは、本当に別物になるからなのか。
「奏輔の仮説を元に考えるなら、こっちでも同時に毒を作る必要がある」
「それに表裏一体の世界。人もまた表裏あると考えた方が良いだろうな」
「ちょっとまとめよー。順番にやる事を考えよう」
大地の言葉に頷く。
まず第一条件として、俺達が探していた解毒に必要な材料はこちらの世界にはないと言う事。そして、それは裏世界にあると言う事。
更に解毒薬の材料として、必要なのが水晶花(すいしょうか)、鋸刺鮭の金鱗、戻りたい生き物の一部(変化の薬に使われた一部の倍)、天上の氷、聖杯の五つの中の、戻りたい生き物の一部はこちらで集めなければならない。
そして、その為には『裏世界に行って解毒薬を作るチーム』と『表世界に残り毒を作るチーム』と『戻りたい生き物の一部の収集』の三つに人員を割く必要がある。
同時にリンク場所を探し出し、作った解毒薬、毒薬を精製し、こちらと裏世界のリンクする場所に同時に設置する必要がある。
最後に元の世界に戻り、姫に完成した薬を使って回復させれれば成功だ。
「…後は試してみるしかないなー」
「チーム分けしよか」
「姫達に危険な事をさせる訳にはいかないからな。裏世界に関しては触れないで置くぞ。裏世界に行くには俺達の内誰かで良い」
「解っとる」
「了解ー」
頷き合って、俺達は持っていた複製本をしまい、図鑑を探しているであろう姫達の所へと向かった。
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