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最終章 数多の未来への選択編

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泣きじゃくる紫さんを抱き上げて、私が奪い取って来た車に乗りこむ。
電気も動いてるし、家の中で話しても良かったんだけど。紫さんがこっちに寝返ったって事がバレると厄介だから。…正しくは紫さんが寝返った事がバレて、紫さんに攻撃が行ったらヤバいんです。
私達はこういう事態に正直慣れっこだし、人質に取られるような弱い人間はいないからいいとして。まぁ、私の場合男が来られるとあれだけど。
紫さんを後部座席の中央に乗せて、私は運転席に…。
「おい、美鈴。お前は後ろだ」
「ふみ?何で?」
「お前の運転は怖い。良いから葵と一緒に後ろに乗れ」
運転しようと思ったのに、樹先輩に後部座席に押し込まれた。ふみー…。
「もしかして、この車鈴ちゃんが運転して来たの?」
「うん。そだよー」
「鈴ちゃん、無免許、だよね?」
「うん。そだよー」
「そだよー、じゃないって。どうしてそんな無茶したの?」
あ、これ、葵お兄ちゃんの説教パターンだ。なんとかして話を逸らさねばっ。
「あ、あのねっ。葵お兄ちゃんっ。今は兎に角紫さんの話を聞かないとっ」
「話を逸らしても駄目だよ」
「え、えーっと…」
「鈴ちゃん」
「う、うぅっ…だって、だって、葵お兄ちゃんが…」
「僕の事が心配だったの?でも鈴ちゃん知ってるよね?僕が強い事。信じられなかったの?」
「ち、違うもんっ!だって、葵お兄ちゃんが紫さんに盗られるなんて許せなかったんだもんっ!」
ハッ!?
しまったっ!私今すっごく恥ずかしい事言わなかったっ!?
「鈴ちゃん…それって…」
「ふみみみみっ!!」
間に座ってる紫さんを盾にして私は隠れた。
「……美鈴。葵。じゃれあってないで目的地言え」
ほっ…。樹先輩の言葉に助けられた。これ以上この場所で言葉の意味を問われたら私恥ずかしくて死んじゃう。さっきあれだけの事言って置いてとは言わないように。あれはあれでちゃんと本心ですのであしからず。
「目的地は、白鳥の実家」
「実家?でも実家って結構遠いよ?」
そう、遠い。しかも昔良子お祖母ちゃんが家に来てから一切立ち寄りもしていない場所。本来はもう誰もいない場所のはず。
「白鳥の実家は、順一朗が取り戻したいものの象徴でしょう?一番権威を奮っていた時だもの。そして、それは伯父伯母も同じはず」
「ふん。成程な。だが、いいのか?真っ直ぐ向かっても」
「それは、私も、聞きたい。…いいの?私を連れて行っても…。私が貴女達を騙している可能性も…」
紫さんが涙を拭きながら私に問う。騙している、ねぇ。この状況で騙せるような人では無さそうだけど…。
もそもそと葵お兄ちゃんから見えないように隠していた体を起こし、私は紫さんの顔を見て唇の端だけ上げて笑った。
「紫さん。本当に騙している人間はそんな事言わないよ。それに私をそう簡単に騙せるなんて思わない事ね」
「鈴。佳織母さんの生き写し状態だよ」
「ええっ!?それはなんかやだー」
助手席に座る棗お兄ちゃんを後ろからガタガタと揺さぶる。
「ふ…ふふふっ…」
笑い声…?不思議に思って振り返ると紫さんが口を隠して笑っていた。その顔がとても可愛い。ほんと白鳥家の人間って美男美女揃いだよね。伯父伯母だって顔は整ってたし。ただ内面で全てを駄目にしている。
紫さんも色々な不遇が重なってその綺麗な顔を曇らせていた。けれど、今の笑顔は彼女の素の顔で。とても可愛かった。こんなにも可愛い人を…あの伯父伯母は苦しめていたと。まっ、元を正せば全て順一朗爺の所為だけどねっ!潰すっ!
そっと紫さんの頭に触れる。
「…ほんと、頑張ったんだね。これからは私が味方だからね。紫さん。…んー…従妹なんだから、紫お姉ちゃん、かな?えへへ」
「お姉ちゃん、か。…なら、私も美鈴ちゃんでも良いかな?」
「うん。呼び捨てでも構わないよっ。もう私達は家族なんだから」
ぎゅっと紫さんの手を握って微笑むと、紫お姉ちゃんもはにかんだ笑みを私にくれた。
「さぁっ、行こうっ。文美伯母様を助けにっ!爺以下屑伯父伯母をぶっ潰しにっ!樹先輩、レッツゴーっ!」
レッツゴーゴーッ!!
と折角意気込んだのに。
「いや、だからな、美鈴。お前忘れてるかもしれないが、遠いイコール市外に行くんだぞ?」
「ふみ?」
「地雷があるだろうが」
あぁ、そっか。成程。伝えてなかったわ。
「ないよ」
私の言葉に全員がへ?って顔をする。紫お姉ちゃんまでも同じ顔。何故に?…いや、知らされてないのか。
説明する必要があるね。
「正しくは地雷は置かれてるけれど、大きく爆発するものではないって事」
「と言うと?」
紫お姉ちゃんが聞き返してくる。私は紫お姉ちゃんの手を握って、そのまま座席の背もたれにもたれかかった。
「大きな地雷ってのは、諸刃の剣なんだよ。設置してもそう安易に取り外しは出来ない。未だに世界に戦争の遺物として地雷が残っているのは、発動しないと解らないからなんだよ。危険過ぎるの。味方をも殺す、下手すると自分すら死に至らしめる道具に簡単に手は出せない。けれど、だからこそ『地雷』って言葉は強い意味を持つ。相手を威嚇するには調度いい。例え威力が弱くても、ね。私は遠隔操作説と同時に爆弾の威力を考えていたの。確かに紫お姉ちゃんが捨て身の覚悟ならば周りを一気に爆破して消すような地雷もあり得た。でも…紫お姉ちゃんの狙いは文美伯母様の安全と救出。ならそこまで大きな地雷を使う事はない。となると、地雷は私達を脅す言葉としてのみか音がする程度の何かって所と判断した。けどね。そう予想はしてみたものの、紫お姉ちゃんの反応を見ると、地雷は紫お姉ちゃんが仕掛けた訳でもなさそうなんだよね
「私は爆弾関係に関しては一切手を出していないわ。私の爆破宣言はあくまでも人を使って、誰もいなくなった場所を爆破するただの陽動のつもりだったから」
「うん。だからこそ尚更地雷説は低くなる。あの馬鹿共がそこまで考えてやるとは思えないからね。自分の死を覚悟した行動なんてあんな奴らにとれる訳ないない。という訳で市外へゴー」
「何がと言う訳なんだか…まぁいい。発進するぞ」
手慣れた手つきで樹先輩が車を動かした。
スムーズな運転にちょっとイラッとする。
「樹先輩。免許持ってたの?」
「高校卒業してすぐにとったからな。葵と棗だって持ってるだろ」
「持ってるけど」
「自分で運転する事は少ないからね」
「うそー。私も取っておけば良かった」
「………」
ちょっと樹先輩。その沈黙はどう言う意味?
棗お兄ちゃんもどうしてゆっくり瞳を閉じてるのかな?
「……この事件終わったら免許取りに行く」
「うん。それは駄目だよ、鈴」
「ふみっ!?なんでっ!?」
「危険だから。…周りが」
「だな」
「棗、龍也。鈴ちゃんの運転ってどうだったの?」
どうだったって言われても普通だったよね?うんうん。だって私ちゃんと前世で車に乗ってたもん。こういうのって自転車と同じで感覚で覚えてるものじゃない?
「まぁ、一言で言うなら…スピード狂?」
「しかも今回は車がいないから、ガンガン飛ばしてたし」
「夜道で100出すってどんだけだよ」
「えー。もっと出しても良かったんだよ~」
「鈴ちゃん。運転禁止決定だね」
「ふみーっ!?」
そんなぁっ!?
「免許も必要ないね」
「ふみみーっ!?」
横暴だぁーっ!
……と抗議しようとしたけれど、葵お兄ちゃんの目がやべぇ。マジに怖い。うん。諦めます。うぅぅ…。
「鈴ちゃん、そんなにしょんぼりしないの。今度から行きたい所には僕が連れてってあげるから」
「葵お兄ちゃん…。約束?」
「うん。約束」
「なら、…いいかな。えへへ」
むぎゅっ。
う、うん?何かいきなり紫お姉ちゃんに抱きしめられたんだけど?
「……葵君。美鈴ちゃん可愛いね。このギャップヤバい」
「ヤバいでしょう?鈴ちゃんの可愛さは悪人も善人にするよ」
「葵。それは言い過ぎだろ」
「うん。私もそう思うよ、葵お兄ちゃん」
抗議したものの、棗お兄ちゃんが葵お兄ちゃんの方に参戦してしまったが為に、樹先輩が説得されてしまい、結局私は羞恥で死にそうになる程可愛いと言われ続けた。そんなことないのにぃーっ、こんなに腹黒なのにぃーっ、ふみみーっ!!
そして気付けば車は何の問題もなく市外へ進む。
夜な事。それからこのジャック事件の所為で車は一台も走っておらず、スムーズに進んで行く。
市外は普通に電気が通っているから、街灯が道を照らしている。ふと振り返ると私達の住んでいる市が異様な程闇の中で。
「ねぇ、美鈴ちゃん…?」
「なぁに、紫お姉ちゃん」
「…………」
さっきから紫お姉ちゃんはこれを繰り返す。きっと何か聞きたい事とか、不安な事とかあるんだと思う。それでも、聞くに聞けないんだろうな…。私から切りだしても良いんだけど、それだと紫お姉ちゃんは益々委縮しちゃうだろうから。
私は話だしてくれるのを待つ事にする。
「ねぇ、美鈴ちゃん…?」
「うん。なぁに、紫お姉ちゃん」
「………私が、怖く、ないの?私の事、嫌じゃ、ないの?」
「どうして?」
「だって…。私は、美鈴ちゃんを、殺そうとしたんだよ?あんな風に、脅したり、したのに。葵君に、迫ったりしたの、に」
「……紫お姉ちゃん」
ふふっ。可愛いなぁ、紫お姉ちゃんは。
紫お姉ちゃんに抱き付く。うわお。がりがりだ。栄養も十分にとれない状況にいたんだって事がありありと実感出来る。…爺潰すっ。
「ごめんね、紫お姉ちゃん。私、全然怖くないんだ。女の人にどんなに喧嘩売られても全く怖くないの。むしろ全力で叩き潰したくなっちゃう。売られた喧嘩は買う方なんだ」
私がにっこり笑って言うと、葵お兄ちゃんが苦笑した。
「ほんと鈴ちゃんは見た目に寄らず好戦的だよね。…さっきからずっと気になってたんだけど、この足下に転がってる大根って」
「武器」
「食べ物を武器にしちゃ駄目だよ、鈴ちゃん」
「大丈夫。後で美味しく頂きます。それから、えっと何だっけ。あ、そうそう。葵お兄ちゃんに迫った事?うん。それ自体は腹が立ったから割って入ったけど、でも、紫お姉ちゃんと話してたら、葵お兄ちゃんをどう見ているかが解ったから。今は腹も立ってないよ。紫お姉ちゃんは葵お兄ちゃんに救いを求めてたんだよね。自分を必要としてくれる人を求めたんだよね。でも、葵お兄ちゃんは強くなっちゃったし、何より弟みたいな意識の方が強かったんじゃない?弟とか天使とか、さ」
紫お姉ちゃんは、少し切なそうな顔をして頷いた。
勿論、恋情がなかった訳ではないと思う。それでも、やっぱりどちらかと言えば、私の言った必要とされたいって感情の方が強いんだと思う。
「紫お姉ちゃんには、あれだね」
「あれ?」
「何があっても動じない人が良いかも知れないね。うん。私良い人知ってるから今度紹介するね。本当に何があっても動じない、だけど超イケメンがいるから。あっちも多分紫お姉ちゃんみたいな人がタイプだと思うから絶対相性良いよ」
「えっ?えっ?」
「うふふ~♪さっさと爺共を潰して、イケメン彼氏作ろうねっ!」
人の恋バナは楽しいねっ!!
真っ赤になった紫お姉ちゃんを抱きしめたまま、ごろごろと甘える。そんな私を紫お姉ちゃんは微笑んで撫でてくれた。その笑顔は本当に綺麗で。髪だって、色々あって真っ白になってしまってはいるけれど、それもまた美しく輝いていた。
「……美鈴」
神妙な声で樹先輩が私を呼んだ。
……この声だけで何かあったのだと理解して、私は体を起こした。
バックミラーを覗き込むと、ぴったりと追随する車がある。
「……分かりやす。紫お姉ちゃんが逃げたのが解ったのか、はたまた私達が襲撃した事に気づいたのか。まぁ、どちらにせよ、暫く様子見ね。樹先輩、ちょっとスピードを上げてみてくれる?」
「解った」
「相手に気付かれ辛い様にね。場所を考えて」
「解ってる」
車はカーブを曲がった辺りから下り道になっている。そこから加速する分には気付かれ辛いだろう。下り道はどんな乗り物でも加速するようになっているからね。
樹先輩は徐々にスピードを上げていく。にしても樹先輩、運転上手だなぁ。こんなにスピードだしてるのに安定してるなんて。
さて。背後の連中はどうかな?
再びバックミラーで姿を確認すると、やはりぴったりとくっついて来ている。
「…葵お兄ちゃん」
葵お兄ちゃんはただ頷き紫さんを抱き寄せ座席から見えないように隠す。
すると、後ろの車は急にスピードを上げてきた。
「気付いたな」
棗お兄ちゃんがぼそりと呟く。
「…大丈夫、なの…?」
紫お姉ちゃんの震える声が聞こえる。怖いんだよね。でも、大丈夫。
「大丈夫だよ。紫お姉ちゃん。想定内だから」
「想定、内?」
「そう。私はさっき樹先輩にこう指示を出したでしょ?相手に気付かれ辛い様にスピードを出して、と」
「えぇ…」
「気付かれない様に、とは言ってないの。完全に気付かれなくすると紫お姉ちゃんがこっちにいる事を相手に気付かせることが出来なくなるからね。もし紫お姉ちゃんがまだあっちにいて、動いていると思わせてしまうと、それを利用して何をしでかすか解らない。だったら今こちらにいると思わせて、市にいる敵を全てこちらに引きつけた方が、市を解放しやすい。あちらには私の仲間がいるから絶対に大丈夫だしね」
だから、大丈夫。
紫お姉ちゃんが不安になるような事なんて、もう一つもないからね。
ぽんぽんと背を叩いて。私は再びバックミラーで追ってくる車を確認する。中に誰がいるの?…うん?一典伯父と勢津子伯母?運転手は別だけど、その後ろで何やら指示を出してる。
「美鈴。どうする?」
「そのまま引きつけるように走って。多分、私の予測が正しければ、白鳥の実家にいるのは三郎伯父ね」
「三郎伯父?待って、美鈴ちゃん。どうしてそう思うの?今までの指示は全て」
「一典伯父が出していた、でしょう?だから黒幕は一典伯父、もしくは順一朗元総帥が指示を出していたと思いがちだけど。それは違う。こう言う時に一番怪しいのは、裏で行動を見張っている人間なんだよ。その証拠に、彼は紫お姉ちゃんの情報を操作したのは三郎伯父でしょう?」
言うと、紫お姉ちゃんもだけど葵お兄ちゃんも驚いた。
「鈴ちゃん。なんで、それ…」
「誠パパが言っていた紫お姉ちゃんの性格と文美伯母様の教育の仕方を考えると、自然とね。性格って人が言う程変え易いものじゃないんだよ。根底に根付くものを変えるって事はその人は今までの生き方を全て否定して覆す事になるんだから。余程の覚悟がない限り人間変われはしない」
実際、私だって『美鈴(今の私)』を作っているのは『華(前世の私)』だ。そしてそれを覆して生きる程の覚悟は私にはない。ある種の死なんだよ、性格を変えると言うのは。以前の自分の死なのだ。
「けれど根柢は変えられなくても、その上に幕をはって覆い隠す事は出来る。その覆いは本来ならば、穴などないようにするものだけど…まぁ、順一朗爺の血を引く人間なだけあって、阿呆だよね。網で覆いを作ってる。穴だらけで簡単に見抜く事が出来てしまった」
「網…」
「うん。網。しかも鮫とかを捕らえる様なでっかい投網ね。むしろ穴の方が主体みたいな」
「ぶくっ…くくくっ…」
皆が口を抑えて笑いを堪えている。そう。それだけ行動が筒抜けなのである。紫お姉ちゃんの性格と明らかに真反対の性格を紫お姉ちゃんに植え付けたら誰だって怪しいと思うでしょ。
怪しいからこそ、情報の操作とか考えるでしょ?で、紫お姉ちゃんに一番情報操作しやすい奴を考えるでしょ?
まず一典伯父と勢津子伯母は削除。そんな事を考えるような人間なら紫お姉ちゃんを作ろうなんて考えない。実の父と母であるをごり押ししたりもしないはずだ。
次に喧し三伯母。これもある意味真っ向勝負しかしないし、何より葵お兄ちゃんと言う違う人間に目を付けているのだから紫お姉ちゃんを狙う理由がない。
順一朗の爺は、もう寝たきりだと思う。年齢的にもそんな素早く動けないはず。
となると残るは三郎伯父と二治伯父。けど二治伯父は誠パパの話を聞く限りだと三伯母に近いっぽいので、多分難しい事を考える事は不可能だ。
以上の事を踏まえると…三郎伯父に絞られる。
「良くある自分は賢いと思ってる部類の馬鹿だと思うの。ナルシス馬鹿?」
「鈴ちゃん。さっきから容赦ないね」
「そう?仕方ないよ。だって紫お姉ちゃんをこんな目に合わせたんだから。それに、多分ママも思ってると思うんだけど。…もっと早くに紫お姉ちゃんの存在に気付けていれば、って自分に腹が立つの」
「美鈴ちゃん…?」
「…私は紫お姉ちゃんの存在を知っていたら。紫お姉ちゃんの境遇を知っていたら。どんな事をしてでも助け出して、欲しいのなら白鳥総帥の座を喜んで明け渡したよ。紫お姉ちゃんをもっと早くに家族に出来た。なのに、こんな状況になるまで気付けなかったんだよ?いくら誠パパが隠していたと言っても、私ならどうにか出来たはずなのにっ」
ぐっと拳を握る。
「あぁっ、もうっ、腹立つっ!樹先輩後で三発、ううんっ、三十発殴って良いっ!?」
「駄目に決まってるだろっ!お前の長兄にでも齧りついとけよっ!」
「八つ当たりは、害のない人間にすべきだと思うのっ!」
「害あるだろっ!俺は樹財閥の総帥だぞっ!これでもっ!」
ぐるるるるる…。
「唸るなっ!」
ちっ。樹先輩回避が上手くなったわね。折角の八つ当たり先が…。
「とにかく、だ。今はあいつらを引きつけながらお前の親父さんの実家へ向かえばいいんだろ?」
「うん。よろしく、樹先輩」
「これは貸しだからな、美鈴」
にやりと笑う樹先輩を、
「え?龍也。何ふざけた事言ってるの?龍也、鈴ちゃんにどれだけ貸しあるか分かってる?蹴るよ?」
蹴るよ?と疑問形で問いつつも、既にゲシゲシと運転席を蹴り飛ばしている。それに樹先輩が反論し、横から棗お兄ちゃんが葵お兄ちゃんの援護に入り、車が滅茶苦茶蛇行して、紫お姉ちゃんが三人を叱ると言うカオス状態になった。
うんうん。白鳥家に馴染んできたようで何よりである。自然と笑顔が浮かんでいる紫お姉ちゃんの姿を見て私も満足。
車は蛇行に蛇行を重ねながらも、目的地へと到着した。とは言え、真っ直ぐそこに行っても怪しいので。後ろの一典伯父と勢津子伯母に白鳥の実家へ向かってるんですよ~と思わせつつ、その車を撒いた。恐らく屋敷へ向かっている事を伝える為に彼らは先に到着しているだろうから、私達はあえて少し離れた所に車を停めて、コソコソと移動する。
「鈴ちゃん。紫さん。大丈夫?」
葵お兄ちゃんが心配そうに振り返る。けど、ここには私が恐怖している男はいないし、周りをお兄ちゃん達が固めてくれてるから問題ない。ぐっと親指を立てて置いた。
それに頷いて、葵お兄ちゃんを先頭に屋敷へと侵入する。以前はここで披露宴をしたけれど。今はただの草原だ。当然と言えば当然。管理している人間がいないもん。侵入する分にはありがたいけど。
屋敷の壁に背をつけて。こっそりこっそりと屈みながら、窓の下へと移動する。…窓が開いてる。これは誘いこんでいるのか、単なる馬鹿なのか。本来なら罠と思うべきなんだろうけど、単なる馬鹿の可能性もあり過ぎて、どうにも…。一先ず様子見、かな。
窓の下でじっとしていると、足音と話し声が聞こえてくる。

『……まだ来ていない?なら目的はここじゃなかったって事なのっ?』
『そんな訳ないだろう。ここには文美がいるんだ。あいつらの狙いが紫と文美であるならば必ずここに来るはずだ』
『だが、兄さん、勢津子。もし、それが目的で無かった場合はどうする気だ?応援を呼びに行った可能性だってあるだろ』
『問題ない。あちらには園江達がいるからな』
『本当に大丈夫なのか?』
『あの三人だって三郎ほどではないが、頭が良い。白鳥の人間は皆一様に賢いからな。気にしなくても大丈夫だ』

…伯母様三人達だったら多分今ママのビンタ喰らって顔パンパン状態で縛り上げられているかと…。
そもそもこの人達って何を根拠に賢いと言っているんだろう?頭が良いってもしかして中身じゃなくて物理的に、なのかな?丈夫って意味なのかも。
パチンと電気がつき、足音が三つ。足音が増えないのを考えるに中に三人しかいないんだろう。一人は勢津子伯母、一人は一典伯父、そしてもう一人は
突入出来なくもないけど…相手にしない方が良さそうだ。
再び会話に耳を傾ける。

『にしても、こんな事を考えるなんて。流石三郎と言うべきか…』
『でも兄さん。下手すると私達も捕まる可能性もあるのよ?』
『全くだ。昔爺に加担した所為で園江姉さん達も一度捕まってるんだぞ?』
『それこそ、いざとなったら全て三郎と紫に押し付けたら良い。紫を作ったのは何の為だと思っている?』
『こういう時の捨て駒の為なのよ。おーっほっほっほっ』

あ、うん。殺…げふんっ。全力で潰そうっ!
隣にいる紫お姉ちゃんの手をそっと握る。そのひんやりとした細い手は微かに震えているけれど、私の手を握り返してくれた。

『誠も馬鹿な奴だ。大人しく私達に協力するか、子供を差し出せばこんな目に合わなくても済んだというのに』
『それを言うなら兄さん、大人しく私に総帥の座を譲ればの間違いでしょう?』
『何を言うっ!総帥の座は私のモノだっ!』
『私のよっ!私に総帥の座を寄越すから子を作れと言ったのは兄さんよっ!』
『おいっ!財産は山分けだと約束しただろっ!兄さんっ!勢津子っ!』
『そんな約束覚えてないわっ!』
『覚えてようがいまいが関係ないねっ!親父の所にちゃんと書類があるんだよっ!』
『まぁっ!?だったら今すぐ破棄してやるっ!!父様は文美と一緒に寝かせてるのよねっ!!二階の父様の部屋よっ!!』

散々っぱら言い合って、部屋を飛び出して行った。
「………(全部言ってったな)」
「………(馬鹿丸出しだね)」
「………(お兄ちゃん達。もうとっとと行こうよ。いっそ正面突破でも良さそうだけど)」
「………(うん。もうさ。ここから入っちゃおうか?)」
「………(祖父の部屋なら私案内出来るわ)」
全員でひそひそ。
結論。面倒だからこの窓から侵入します。
まずは葵お兄ちゃんが中に入って誰もいないのを確認して、私と紫お姉ちゃんが入るのを棗お兄ちゃんが手伝ってくれて。棗お兄ちゃんが入った後、最後に樹先輩が入った。
人の気配はしない。
誰も見張りを置いてないとか。どれだけ油断してるの?馬鹿なの?馬鹿だわ。
念の為にばれないよう、こそこそと移動する。爺の部屋は二階の奥にあるらしい。
ドアに隠れ、植木鉢に隠れ。こそこそ移動。…でもハッキリ言ってコソコソする必要はあまりなかった。
だって油断しまくりで誰もいないんだもの。
あっさりと爺の部屋の前まで辿り着いてしまった。
聞き耳を立ててみる。

『ほーら、これで契約は、ぎゃあっ!?』

ぎゃあ?
ちょっと待って。一体何が起こってるの?

『三郎っ!何のつもりだっ!?ぐふっ!?』

続いた声にまたくぐもった声が。しかもその後全く声が聞こえなくなる。

『や、待て待てっ!俺は契約を覆すつもりはなかったぞっ!俺はっ、ひぃっ!!』

バタバタバタッ。
足音が近づき、私達は慌てて壁に背を預けて隠れた。
すると…。

ダンッ!!

ドアが震えた。
部屋の中から何かがぶつかった音らしかった。
圧力がドアにかかり、そのままドアが倒れ…そこには、胸をナイフで一突きされ、命を失った二治伯父の姿があった。
「ヒッ」
息を飲み、叫びそうになる紫お姉ちゃんの口を咄嗟に塞ぐ。
「ああ…汚れてしまった…。紫にあげる家なんだから綺麗にしておきたかったのに…」
この声、爺…?まさか、こんなに動ける訳が…。
そっと視線をドアを挟んで向こう側にいる葵お兄ちゃんと合わせる。その視線がそっと私の手元に…紫お姉ちゃん?
ガタガタと震えてる?こっちまで振動が伝わってくる。なんでこんなに…あぁ、そうか。人が死んだ姿を見た恐怖。それともう一つ殺した人間が誰か解るから尚更なんだね。
親子だから声だって似る可能性がある訳だ。
今の声は三郎伯父の声だったんだ。
「……なぁ、親父?紫が産まれたのは、親父がいたからだ。感謝しまくりだ。だがなぁ、親父の所為で俺の手に入るはずだった財産も紫も全部あとから来た売女に持って行かれたんだ。正しくは売女の娘に、だけどよ。おかげで俺がこうやって動かなきゃならなくなったじゃねぇか。どう責任とってくれるんだよ」
この人…相当やばいな。紫お姉ちゃんが怯えるのも解る。怖いもの。後ろから口を塞ぐ形になってたから、くるっと回転させて私は紫お姉ちゃんをきつく抱きしめる。口を肩口で塞げるようにして、ぎゅっと。…あんまり力入れると折れそうだから程々に…。
「知ってるか?俺の声が親父に似てる所為で、紫は俺を見る度に顔を顰める。ほんっとどうしてくれんだよ。ただでさえ金がねぇってのに、親父を生かす為にこうやって維持装置買ってよぉ。ほんっと参るわ…」
独り言、ではなさそうね。この感じだと、気付いてる。
「なぁ、そう思うだろ?坊ちゃん達よぉ」
ほらね。声がこっちを向いた。
でも達って事は、私の存在には気付いてなさそう。
葵お兄ちゃんと視線で会話する。
「(僕達が行くから)」
「(私達は隠れてる)」
互いの視線で意図を読み取り、スッと葵お兄ちゃんが動く。
それと同時に私の後ろに守る様に立っていてくれた棗お兄ちゃんも動いた。ドアを挟んだ向こう側には樹先輩が残っている。もしもの時の為の戦力だ。
「…はぁ。正直、僕達にとってはその爺が生きてる方が面倒なんですがね」
「僕達にとっては邪魔以外の何物でもないからね」
面倒臭そうに眼鏡を上げる葵お兄ちゃんとその横に立って三郎伯父を睨みつける棗お兄ちゃん。
二人がドアを乗り越えて中へ入っていく。
「むしろ、こんな事をしでかしてくれたおかげで、僕達の明日からの仕事が山積み決定で頭が痛いですよ」
「最近仕事量がただでさえ多いって言うのに。大学に通い続ける事が出来るか不安でしょうがないですね」
うんうん。私もそれ考えるだけで頭痛がするわ。
反対側で樹先輩も頭を抱えているから同じ気持ちなんだろう。でも樹先輩はこっちに来る前に出来る限り対処して来たでしょ?こっちはそれすら出来てないんだから…遠い目。まぁ、ある程度は鴇お兄ちゃんがどうにかしてくれてるでしょう、うん。してなかったら齧る。
「…どっちが葵だぁ?」
お兄ちゃん達の話なんて丸無視なんだね。もう狂いきってるのかもしれないな。
「紫が惚れてるのはどっちだぁ?まぁ、どっちでも良いかぁ。どっちも殺してしまえば問題ないだろぉ」
ビクッ!
紫お姉ちゃんの体が大きく震えた。
…大丈夫だよ、紫お姉ちゃん。あんなのに負ける様なお兄ちゃん達じゃないから。
安心出来る様にと紫お姉ちゃんの背を撫でる。
「貴方が?」
「僕達を?」
『あり得ないね』
うんうん。私と樹先輩が頷く。いつも化け物みたいなママと戦って体を鍛えてる二人がこんな狂人に負ける訳がない。
ガタンッ。
何かが倒れた音を皮切りに、争いの音が聞こえ始めた。
二対一の勝負。ましてや相手はあの葵お兄ちゃんと棗お兄ちゃんだ。力の差は歴然だろう。
ジッと争いが終わるまで待機していると―――争いの音が止んだ。
終わったのかな?でも直ぐに出て行くのも…危険だよね。更に気配を消してじっとしていると。
「…こう言う所、爺の血だなって思うよ」
「確かに。まぁ、その大元の血の所有者は瀕死状態だけどね」
「瀕死と言うか、もう生きてないんじゃない?ほら、酸素吸入器のコード」
「あ、もしかして?」
「そう。三郎伯父が躓いた時に抜けたみたいだよ」
お兄ちゃん達は余裕そうだ。怪我もなさそうな会話だし。ほっと胸を撫で下ろす。一方争っていた相手はというと…。
「痛いじゃねぇか…。あぁっ、ここで、こいつを出すつもりはなかったのに…なぁ、文美」
文美?文美伯母様の事だよね?……葵お兄ちゃんが爺の血がどうのって言ってた。もしかして文美伯母様を盾にした?…最低だ。
そうなるとお兄ちゃん達は動けないよね。
「……いい加減出て来いよぉ、紫ぃ。そこにいるのは知ってるんだぜぇ?お前の大事な母親が俺に殺されても良いって言うんなら、話は別だがなぁ」
解りやすい挑発。これで出て行ったら紫お姉ちゃんを奪われてしまう。そんな事は出来ない。それはきっと紫お姉ちゃんも理解していた。だから一歩も動かずじっとしていた。だけど…。
「…強情っぱりも程々にしねぇとなぁ、紫ぃ?いつも、お前にしてることを文美にしても良いんだぜぇ?」
そう、三郎伯父が口に出した瞬間、紫お姉ちゃんは私の腕から飛び出していた。
「止めてっ!!お母さんに手を出さないでっ!!」
「紫お姉ちゃんっ!」
飛び込んでいく紫お姉ちゃんを追って、後ろから引きとめる。ここまで出てしまってはもう身を隠すのは無駄だろう。慌てて飛び出してきた樹先輩に紫お姉ちゃんを託す。
お兄ちゃん達も直ぐに私の側に駆け寄って来てくれた。
爺がベッドに寝せられて、酸素吸入器や点滴等…様々な生命を維持する装置がつけられている。だけどさっきお兄ちゃんが言ったようにコードやコンセントはどこにも刺さっていない。辛うじて点滴が動いてる程度かな。
一方その反対にある窓際のベッドには文美伯母様が寝ていた。…綺麗な人だ。ただその人の前に立っている血みどろのサバイバルナイフを持った三郎伯父が邪魔だけれど。
しかも、狂ったその眼以上に口元が気持ち悪い。だらだらと涎を垂れ流して。葵お兄ちゃん達に殴られて顔や腕に大きな痣を作ってるのにそれすらも気にとめず、ニタニタと。
「初めまして。三郎伯父。私が白鳥美鈴です」
「ひゃはっ。売女の娘が自らお越し頂き有難ぇこって」
「紫お姉ちゃんと文美伯母様が大変お世話になったみたいで。でもこれからは私達が二人を守りますので、三郎伯父は引っ込んでて下さいませね?」
「そら無理なお話だぜ。むしろアンタが引っ込めよ。親父に総帥の座を戻せ。その後俺がきちんと手続きをして紫に跡を継がせ、俺が財産も紫も全てを手に入れる。俺は『紫の全てを知り尽くしてる』んだからなぁ」
三郎伯父の言葉に全て察した。
紫お姉ちゃんが飛び込んだ理由も。
「…成程。紫お姉ちゃん。怖かったよね。こんなので失ったのなら、恨みたくもなるよ。白鳥を嫌にもなるし、葵お兄ちゃんに救いを求めたくなるね。綺麗な物を求めたくなるね。本当に全てを投げ出したくなるね」
嫌と言う程、その気持ちを理解出来るから。
前世の自分と紫お姉ちゃんが重なって見えて、怒りがふつふつと腹の底から込み上げる。
「美鈴、ちゃん…」
「……これから、男って奴は嫌なのよっ!特にこんな腐った男はっ!!」
恐怖より怒りが勝っていた。
手近にあった爺の点滴を掴んで三郎伯父に向かって叩きつけていた。
しかし寸での所で回避される。いっそ振り回してやるっ!
そう思ったのに、背後から抱き止められた。
「鈴ちゃん。落ち着いて。今、あいつの後ろには文美伯母がいるんだ。ここであいつが誤って文美伯母を傷つけたら、それこそ紫さんは立ち直れなくなる」
解ってる。そんな事は解ってるけど。でもっ、殴らないと私の気が済まないのっ!
「それから美鈴。気付いてるかもしれないが敢えて言わせろ。点滴の先にまだ白鳥前総帥が刺さってんぞ」
樹先輩が何か言ってるけど、無視無視。葵お兄ちゃんに殴りたいと素直に言ってみたけれど、緩く頭を振られて却下された。
「へ、へへっ。お前らもやっぱり文美がいると手は出せないんだなぁ。なら話は早い」
「…何する気?」
三郎伯父は私が睨みつけるのを気にも止めず、むしろわざと見せ付けるように文美伯母様の上に乗り上げて、持っていたナイフを首へと突き付けた。
「お母さんっ!」
「紫ぃ。文美を殺されたくなかったら、大人しくこっちへ来いよ」
紫お姉ちゃんは動かない。正しくは動けない、だ。
多分足を進めようとはしているんだろう。けれど、樹先輩が紫お姉ちゃんを力で押しとどめている。
「どぉしたぁ?何で動かない?」
紫お姉ちゃんから意識逸らさないと…。
「三郎伯父?ちょっと聞きたい事があるんだけど」
「ふんっ。今更命乞いか?」
「いや、命乞いなんてしないから。ただ気になってる事があるの。どうして文美伯母様は眠っているのかしら?文美伯母様に何をしたの?」
ちょっとした時間稼ぎ。棗お兄ちゃんと葵お兄ちゃんが動ける位置に移動するまでの…そう思ってたんだけど。三郎伯父と文美伯母様の後ろの窓を一瞬何かが通り過ぎた。あれは、もしかして、もしかすると…。
完全に勝利を確信出来た私は、時間稼ぎに専念する。
「どうして、文美伯母様は愛しい娘がここにいるのに起きないの?」
「そんなの決まってるだろぉっ。昨日まではこの家の地下に監禁していたが、今日は役に立って貰う為に薬で眠らせて連れてきたのさ」
「ふぅん…」
「昔から文美は可愛い女だったが、今も見ろよ。こんなに綺麗で。堪らずに喰っちまった」
べろんと舌なめずりするそいつの姿に鳥肌が立つ。喰っちまった、って言った…?って事はあの毛布の下は…。
眠らせて無意識の女の人を犯したの?……許せない。
「…こんな男。生かしておく必要ない。―――やっちゃって。ママ」
私が呟いた瞬間。

―――バリィィンッ!!

窓ガラスが破られて、

「くらいなさいっ!!」

ガラス片の中をまるでターザンのようにロープを掴んだママが、三郎伯父に全力の蹴りを噛ました。
来るとは想像だにしなかった方向から蹴られた三郎伯父は私達の方へと吹っ飛んでくる。それを咄嗟に避けた私達は直ぐに我に返って点滴の管を使って三郎伯父を縛り上げた。
「間に合った……訳でもなさそうね。義兄と義姉はもう無理そうだし、爺は虫の息って所かしら?…それから、文美お義姉様は…成程ね」
ママはシーツごと文美伯母様をを包み、棗お兄ちゃんに抱き上げる様に言う。
そしてそのままカツカツとハイヒールを響かせて、順一朗爺の側に行くと。
「まだ息はしているようね。…とは言えもう限界っぽそうだけど」
爺ははひゅーはひゅーと荒い呼吸を繰り返している。
「…?、何か呟いてるわね?…り、お、こ…?りおこって誰?」
「ママ。もしかして、良子、じゃない?」
「あら?今更良子お義母様の事を呼んでいるの?あらあらあら。残念ね。お義母様はもう日本にはいないのよ。おほほほほっ」
「…おほほほってママ…。まぁ、いいや。どっちにしても届いてなさそうだし」
私が呆れながらもママから視線を外し、お兄ちゃん達に向ける。
「帰ろっか。これで事件は終わったんだし。…ちょっとでも早く帰宅して、山の様な仕事をこなそう…」
「あぁ、うん…」
「だね。帰ろうか…」
「うん。皆で帰ろう。ね?紫お姉ちゃん」
樹先輩と一緒にいる紫お姉ちゃんに笑顔を送ると、紫お姉ちゃんも頷いて微笑んでくれた。

こうして、盛大そうでホントまるっきり無計画な白鳥家の御親戚に寄る一連のぐだぐだ騒動は収束したのだった。

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