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完結後の小話

後日談その二(子供)

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あぁ…やっと終わった…。
大学を卒業し、初恋の相手である美鈴も嫁にいき、どうしようもない切なさが込み上げて俺は海外に営業修行に出た。
傷心を癒す為に仕事に没頭していたら、あっという間に三年が過ぎていた。成人してからの月日の流れの速さに驚くばかりだ。がそのお陰で、今なら失恋の痛みも笑い飛ばせる位にはなっていると思う。
やっと普通に美鈴に会えるだろう。そう思って美鈴に会う為に帰国して、今こうして土産物を買いに駅に来ている訳だが…、さて、何にするか。
多分あいつの好みは変わってないだろう。間違いなくご当地の物が良い筈だ。
…タイミング良く全国の駅弁フェアをやってる事だし、これを買って行く事にするか。
適当に駅弁を買いこんで、迎えに来ている銀川の車に乗りこむ。
…懐かしいな。この辺りも。
三年しか離れていないのに、こうも懐かしく感じるものか?
…ん?あれは…。
「銀川。止めろ。あの店に寄る」
「かしこまりました」
ケーキ屋。調度いい。土産に駅弁だけってのもおかしいからな。
車を降りて、銀川にここからは歩いて行くことを告げ、先に帰らせる。
店に入って適当にケーキを見繕って、店員に見送られ外に出ると、目の前に何故か子供が二人立っていた。
大きめのパーカーを深く被っている為顔が見えない。
「この人かな?」
「だと思うよ」
「でもパパは頭が良いって言ってた」
「でもママは気のせいだって言ってた」
……相手にしない方が良さそうだ。何故か知らないが俺の勘がそう告げている。
白鳥家に向かって歩きだすと、
「あ、行っちゃうよ?」
「追い掛けよう」
「あれってお土産かな?」
「あんな綺麗な顔してるのに駅弁?馬鹿なの?」
こいつら…。好き勝手言いやがって…。と言うか何で追ってくる?
いっそ撒くか?…それは流石に駄目か。そもそもこいつら何なんだ?まさか迷子か?迷子になりそうな感じではなさそうなんだが?
商店街側の公園に着いた。
…まだ追ってくる。流石にこれ以上連れ回すのは駄目だろうな。もしケーキ屋の側に家があるなら、下手すると俺が誘拐したと騒がれかねない。
「お前ら、いつまで付いてくる気だ」
振り返って言うと、子供二人は立ち止まって互いに顔を見合わせた。
「…もしかしてこのオジサン。まだ気付いてない?」
「やっぱりママが言ってた事の方が正しかった?」
「どうだろ?でもお兄ちゃん達がオジサンには顔を見せちゃ駄目だって言ってた」
「でも見せないと解らないと思うの」
「それは確かに」
コソコソと何か話し合ったかと思ったら、二人は唐突にこちらに走り寄り、俺を見上げてきた。
…取りあえず何か言いたい事があるのは分かった。
そう言えば、こいつらの保護者は…、

―――パサッ。

……問うまでもなかった。
パーカーのフードを外して現れた金色の波うった髪。黒に近い藍色の瞳。そして恐ろしく整った顔と年齢と見合わない話し方。
「お前達、美鈴の子か?」
「今頃分かった」
「気付くの遅過ぎ」
…この笑い方、白鳥家の長男に似過ぎだろ。
膝を折って、二人と目線を合わせる。…美鈴。お前産んだの双子だって俺は聞いてないんだが?
見れば見るほど美鈴の幼い時の姿そっくりで思わず笑ってしまう。
あいつと会ったのも確かあいつがこの位の時だったか。
「あっ!美鶴(みつる)っ、千鶴(ちづる)っ!やっと見つけたっ!」
「あ…。鷲(しゅう)。前、前」
「前?前って…あ」
鷲ってのは確か、白鳥家の末子だったな。となると、こっちのは…?
名札を見ると逢坂鈴音(りんね)と書いている。成程。逢坂と花崎の子か。どいつもこいつも親の面影があり過ぎて、面白い。
「あぁ、貴方が樹さんですか。成程。そろそろ帰ってくるだろうって言う葵兄さんの予想は当たってたんですね」
こいつ…面白い位可愛げがねぇなっ。こっちを見て鼻で笑ってやがる。
「こいつはほっとくとして。美鶴、千鶴っ。姉さんに勝手に動き回ったらダメって言われてたでしょっ」
「だ、だって…にゃんこ…」
「可愛かったんだもん…」
「白猫が可愛かったのは解るけどっ。二人はそれ以上に可愛いんだからっ。誘拐されちゃうよっ。メッ!」
「ふみぃ~…」
「ふみみぃ~…」
しょんぼり姿は美鈴の生き写しだな。葵と棗も良くこうして美鈴を怒ってたっけ。
「お前ら本当に美鈴の子なんだなぁ」
しみじみと実感していたら、その子らは全員、
「は?何言ってんの?」
と全身で訴えてきた。はいはい。俺が悪いんだな。しかし、少し多めにケーキを買って置いて良かった。
「とにかく家に帰ろう?…樹さんもここにいると言う事は僕達の家に来るんですよね?だったらさっさと帰りましょう」
異論はないので歩きだした四人の後ろを大人しくついていく。あまり変化のない商店街をあっさりと抜けて、坂道を登る。すると三年前と全然変わらない白鳥家が見えてきた。
玄関前に立ち、チャイムを押そうとするが、その前にあっさりとドアを開けて子供等が中へ入っていく。
「ただいまーっ、葵お兄ちゃーんっ」
「ただいまーっ、棗お兄ちゃーんっ」
「ただいまー。こら、美鶴、千鶴。靴はちゃんと揃えなきゃダメっ」
「お邪魔しまーす」
…で?残された俺はどうしたらいいんだ?チャイムを一度押すべきか?
「ママーっ!樹って言うオッサン来たよーっ」
「おっ!?…お前らオッサンは止めろ。せめてオジサンにしろ。刺さる」
抗議する。双子はこっちを見て、へっと鼻で笑い、
「ママー。樹って言うジジイが来たよーっ」
「悪化してるじゃねぇかっ!」
「…美鶴、千鶴…」
リビングのドアから顔を出した美鈴。あぁ、久しぶりだ。久しぶりの美鈴の姿を見て俺は微笑む。
「ママ。いつも何て言ってた?」
「ふみっ!?」
「ふみみっ!?」
おお。美鈴の子が顔を青くしてる。ちゃんと母親してるんだな。…いや、こいつは昔から母親っぽかったな。
「靴は?」
「揃えますっ」
「目上の人間には?」
「敬意を」
「じゃあ、二人が樹先輩にするのは?」
美鈴の子は互いに手を繋いで、俺の所まで戻ってくると、
「はじめまして。白鳥美鶴です。お姉ちゃんです」
「はじめまして。白鳥千鶴です。妹です」
「……僕も、はじめまして。白鳥鷲です」
「私は、お母さんに、樹龍也って人間にあったら挨拶せずに只管殴れと言われているので挨拶しないで殴ろうと思います」
「なんでだよっ!花崎の奴っ、一体どんな教育してんだっ!!」
「いや。正しいよ。うん。龍也は殴っても死なないし」
「って言うか、何で帰国した足で真っ先に家に来るのか。一旦自宅に帰ればいいのに」
美鈴の奥から葵と棗が現れた。すると、俺の前で挨拶をしていた美鈴の子の顔がパアッと輝く。
「葵お兄ちゃんっ」
「棗お兄ちゃんっ」
『ただいまーっ』
双子が双子に突進していく。それをデレデレな顔で受け止めて抱き上げる葵と棗。
「おかえり、みぃちゃん。今日も学校楽しかった?」
「うんっ」
「ちぃは?」
「楽しかったよっ」
「もう。お兄ちゃん達は直ぐ甘やかすんだから。羨ましいっ」
美鈴。それはどっちに対するセリフだ?子供に嫉妬してるのか?それとも葵と棗に嫉妬してるのか?
まぁ、どちらでもいいか。
「美鈴。久しぶりだな。これ土産」
「え?何々?…わっ、駅弁だっ!やたーっ!」
「相変わらずお前は安上がりな奴だな」
「ほっといて下さいっ。ご当地のものが一番美味しいんですぅっ!本当の贅沢ってのは採れたて作りたてを食べれる事にあるんですからっ」
と拗ねながらも俺にスリッパを用意してくれてるあたり美鈴らしさ満載だ。
素直に靴を脱いで中へと上がる。
そう言えば結局この家には何人いる事になるんだ?
白鳥家の長兄の所に美鈴が嫁に行ったんだから、結局家にいる事には変わりないだろ?
だとしたら、まずこいつらの両親、兄弟で長兄、葵、棗、美鈴、旭、三つ子、鷲。これで11人。で美鈴の子が二人にたまに帰ってくる優兎でプラス三人。…十四人家族?多過ぎだろ。
「樹先輩、改めてお久しぶりです。お茶、どうぞ。どうでした?海外での営業修行」
ソファに座る様に促されるまま大人しくソファに腰かけると、葵と棗が各々美鈴の子を抱いたまま一人掛けのソファに座った。
「どうもこうも、レベルが違い過ぎて慣れるまでに時間がかかりまくった」
「もう暫く慣れないでくれても良かったのに」
「そうそう。何なら帰って来なくても良かったのに」
「お前ら…」
あまりに相変わらずの反応を懐かしくも腹立たしく感じ言い返そうと本来なら思う所だが…二人の膝の上にいる美鈴の子らがガンガンこっちを睨んでくるので言う気になれない。
「……何だ?」
そんなに睨まれると逆に聞き返したくなるだろ。
「………そっち、行っても良い?」
「?、あぁ、別にいいが」
葵の足の上にいる小さいのが降りてトテトテと俺の方へ歩いて来て、膝の上によじ登って座った。なんだ?この可愛いの。
「オジサン、これ得意?」
「これ?」
差し出されたのは昔懐かしのテレビゲームだ。四角が何個もくっついてL字などの形を作られていて、それが画面上部から落下してきてそれを一列綺麗に積んで消していくと言うゲーム。
やったことはないが、まぁ、やってやれなくはないだろ。
俺に背を預けて手に携帯ゲームを握らせて来る。拒否権はない、と。
画面はもう出てるから、あとはプレイスタートするだけ。
適当にやっていくとスコアがどんどん上がって行く。単純なゲームほど考えさせられるとは言うが、確かにそうだな。スピードが上がって行くと増々それを実感させられる。
「あっ!クリアっ!」
クリアしたな、って、うおっ!?
クリアしたら画面一杯の水着姿の女子の絵が出て来たぞっ!?これはヤバいだろっ!
慌ててゲーム画面を隠す。
「やーん。やっと見れたのにぃーっ」
「いやいや、ダメだろっ。葵、パスっ」
「了解」
ゲーム機を葵に放り投げて、画面を消して貰う。
「全く。一体どんなゲーム買ってるんだ。美鈴っ、お前は知ってたのかっ?」
「ふみ?何の事?」
気付けば俺が持って来た土産のケーキを開けて食べていた美鈴が顔を上げてこっちを見た。俺は視線だけで葵に指示を出すと、棗と俺は膝上の子の目を隠し葵が美鈴に画面を見せた。
すると、一瞬制止して、直ぐにニコニコと笑みを浮かべながら立ち上がり…。
「ママーっ!!私の子供達になんてものやらせるのぉーっ!!」
叫んでリビングを駆け抜けて行った。
「落ちゲーに脱衣は付き物とか言う言い訳は聞かないからねーっ!!」
……成程。あの母親ならやりかねないな。
「佳織母さんはもう…」
「今更だよ、葵」
「そうそう。姉さんを揶揄うのが楽しくて仕方ないんだから」
「あれ?もう着替えてきたの?鷲」
「うん。それより美鶴、千鶴。手洗いうがいした?」
「あっ」
「忘れてたっ」
手洗いうがいか。美鈴が昔から言ってるセリフだよな。懐かしくて笑っていると、何故か俺は手を引かれ立たせられる。
「おい?」
そして何故か、双子と一緒に洗面所へと行かされた。…俺、客だし直ぐに帰るぞ?
と言った所でまるで聞いてない。
仕方なく手洗いうがいを済ませると、美鶴?の方がにっこりと俺に向かって微笑んだ。いや、可愛いけどな。
昔の美鈴並に考えてる事が読めん…。
二人は何故か再び俺と手を繋ぐ。リビングへ戻る途中、
「もうっ、ママってば。あの子達が私みたいになったらどうするのよ」
ぶつくさ言いながら美鈴が階段から降りてきた。
「美鈴。お前自分が普通じゃない自覚あったんだな…」
「先輩。聞こえてますよ。それに私以上に普通じゃない人間ってそういないです」
「ママー」
「ママ―」
俺と手を繋いだまま二人は美鈴に向かって手を振る。
「ふふ。私の子供達は可愛いなぁ」
「それは納得だ。昔のお前にそっくりだ」
「そうなんだよねぇ。でも私より余程しっかりしてるよ、この子達」
「そうか?お前は子供って感じしなかったけど、こいつらはしっかり年相応に感じるがな」
「……そこは、まぁ、色々あったの。色々、うん」
…またそうやってはぐらかすんだな、お前は。
「ママ」
「オジサン、苛めちゃダメ」
「え?」
「は?」
美鈴の子らの言葉に俺と美鈴は一緒に目を丸くした。
「オジサン。今悲しそうな顔した」
「ママ。変な所鈍いから気付かないけど」
『今のはママが悪い』
双子がシンクロした。すると、美鈴は一瞬キョトンとして、それこそ泣きそうな顔をした。成程。中身は本当に白鳥家長兄。こいつらの父親に似てる訳だ。美鈴を知り尽くしてるって事か。
俺は静かに膝を折って、双子と目線を合わせた。
「ありがとな。二人共。でも、いいんだ。俺が美鈴にそれだけ心を許されてなかっただけなんだ」
「…先輩…」
何とも微妙な顔で微笑む美鈴に俺も笑みで返す。
「それに美鈴に好かれるような事、正直一つもしてこなかったしな。だからほら。お前らのママは今だ微妙な表情してるだろ」
にやりと笑みを浮かべると美鈴は苦笑し、双子は互いに見つめ合い、そして。
「じゃあ、私達がオジサンの恋人になってあげるよっ」
「は?」
「私達二人とオジサン一人。大事にするよ?」
「ちょ、ちょっと待」
「そんなの絶対にダメだっ!!」
…葵?
「絶対にダメっ!僕達の天使がやっと来たと思ったのにっ!」
…棗、お前…。
「こんなオッサンに持って行かれるなんて絶対に嫌だっ!」
……おい、白鳥家末弟。
「そんなことされたら、母さんが悲しむ。そうなる前に…消すしか」
花崎の子っ!お前花崎に似過ぎだろっ!っつーか、お前娘だろっ!何でそんな獲物を狩るような目してんだっ!
「って言うか、あのな、お前ら。俺とこいつらと何歳違うと思ってんだ」
「って、同じセリフを言った鴇と私は結婚したよ?」
うぐっ…。
美鈴の一言で全員が押し黙る。
「で?美鶴も千鶴も先輩の何処が気にいったの?」
『顔っ!!』
「………間違いなく私の血だわ…」
美鈴ががっくりと首を落とした。
「と、とにかく、お兄ちゃんはそんなの許しませんっ!」
「葵お兄ちゃん…どうしても…?」
「う、うるうる目をしてもダメですっ!」
「棗お兄ちゃぁん…」
「うっ…で、でもここは心を鬼にして…」
「って言うか、こっちをやっちゃえば良いんじゃない…?」
「こっちに殺意向けてくんなっ!俺は何も言ってないだろっ!」
「鈴音。協力するよ」
「その手に持ってる隠し武器捨てろっ!」
何だ、このカオス状態はっ!!
美鈴の子は美鈴の子で俺の両腕から離れないし、背後からは殺気を感じるし、双子を俺から切り離そうと葵と棗は必死。
変わっているようで変わっていない、美鈴の周辺の騒がしさに俺は苦笑を浮かべるしかなかった。
それは、それとして…。

「やー。私の子は私に似てめんくいだわー」
「美鈴っ!!いい加減に止めろってのっ!!」

俺は叫んでいた。
…それからこの騒動は、白鳥家の長兄が仕事から帰宅するまで続いた…。

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