上 下
7 / 32
第1章 転移~小鬼族対戦編

第5話 族長さんはデリカシーのない方でした。

しおりを挟む
 ガチャっという、扉の開く音にそちらを向くと、これまた渋いオジサマが立っていた。
 ふぇー。
 貫禄のある人だなぁ。
 この人が族長かな?

 呆けている私とシルを見てオジサマが此方に歩いてくる。
 そして、椅子にドカッと腰かけた。

「いやぁ! スマンスマン! 待たせたな! クッソ面倒な仕事が溜まっておってな! サボろうとしたんだが、セフィに捕まってしまってな!」

 豪快に笑いながら、オジサマは話しかけてきた。
 あれ? 貫禄のある知的で素敵なオジサマに見えたんだけど?
 あれ?

「それで、シルフェルスよ。どうだった?」

 ひとしきり笑った後、オジサマは、さっきの様な真面目な顔をしてシルに問いかける。

「はい、族長。やはり小鬼族は森の中にまで入り込んでいます。今のところ、進化個体は見かけていない為、はぐれか斥候か。今しばらくは猶予があるかと思います」

「そうか。どれくらいありそうだ?」

「一月か二月か。日に日に見かける数が増えている為、食糧的な部分から見ても、あまり悠長に構えている訳にもいかないかと思います」

「そうか。打って出るか、待ち構えるか。地の利や戦力を考えると、山に行くのは得策とは言えんが。まぁこの件は後で詰めていくとして」

 オジサマが私の方を見る。
 慌てて背筋を伸ばして頭を下げる。

「シルよ、このチンチクリンは何だ? 人族に見えるが? 嫁か?」

「族長! 失礼ですよ! 彼女は森でゴブリンに襲われていた為、保護したのです。シュン、挨拶は出来るかい?」

 シルが私の方を向いて話を促す。

「あ、はい! 初めまして。伊達 駿といいます。えっと日本に居たんですが、気付いたら森の中にいて、シルに助けていただきました」

 オジサマは片眉を上げて、私を見てくる。
 日本って言うのはやっぱりまずかったかな?
 でもシルに話しちゃった以上は、隠しても仕方ないからなぁ。

「ふむ。嬢ちゃんよ、えらく流暢に話すが、それはどっかで習ったのか?」

 オジサマは私の不安とは別の部分を指摘してきた。

 え? どゆこと?
 普通に日本語で話してるだけなんだけど、何かおかしいのかな?
 ていうか、そういえば普通に会話できてるよね。
 普通に考えたらおかしいよね。

「え? えっと、普通にお話してるつもりなんですが、どこかおかしいですか?」

 でも私としても、普通に話してるだけだから、これ以外に答えようがない。
 オジサマは訝しげな顔をする。

「嬢ちゃん。ちょっと聞きたいんだが、アンタはニホンとかいう、聞いたこともないような国から来たのに、こっちの言葉を理解して、しかも流暢に話してもいる。普通に考えて、ありえねぇって話だ」

 ビクッと肩を竦める。
 オジサマから何ていうか、殺気の様なものを感じる。
 ゴブリンなんかよりよっぽど怖い。

「族長! 止めてください! 彼女が敵の手の者なら、わざわざ怪しまれるような事を話す理由がありません!」

 シルがオジサマと私の間に身体を挟んで、隠してくれる。
 殺気がおさまって、身体が少し楽になる。

「シルよぉ。お前は腕もたつがまだまだ若い。周りが全てお前みたいな甘ちゃんだとは思うなよ? まぁ、ゴブ公がこんな搦め手を使ってくるとは俺も思っちゃいないがな」

 オジサマは肩を竦めて、やれやれといった風にそう言った。

「嬢ちゃん悪かったな。ちょっと今此処はピリピリしててよ。オジサンいじめちまった」

「い、いえ。怪しいのは私自身そう思いますから、気にしないでください」

「そう言ってくれて助かるぜ」

「それで族長。族長もニホンという国は知らないって事ですか?」

「あぁ? そうだなぁ、俺も何でも知ってるって事じゃないからな。聞いたことないもんは知らねぇよ」

 まぁそうだよね。
 明らかに世界が違うもんね。

「そうですか。では、彼女が帰れる方法を探しながら、それまでは僕の家に置いてあげても問題ないでしょうか?」

「ん? そいつは構わねぇが。さっきも言ったが、俺は怪しいとは思ってるから、お前が監視として付くという条件付きになるぞ?」

「構いませんよ。ということで、シュン。少し嫌な思いをするかもしれないけど、僕の家で暫くは故郷に帰る手がかりを探してみないかい? 勝手に話を進めてしまったから、シュンが良ければだけど。」

「え? もちろん! 私はむしろとても助かります! シルに迷惑がかかることの方が心配なくらいで」

「大丈夫だよ。迷惑だなんて思わないから、兄だとでも思って、遠慮しないで接してほしい」

「シル……お前……」

 オジサマが複雑な顔をしてシルの事を見ている。
 さっきまでの豪快なオジサマとは思えない。
 痛みに耐えるような顔だ。

「族長。気にしないでください。そういうつもりはありませんから。ただ、この子の力になってあげたいだけですよ」

「そうか……よし、嬢ちゃん! 遅くなって悪かったが、改めて。俺はこの集落の族長で、名をソルトロッソってもんだ! 宜しく頼むぜ!」

 オジサマはさっきまでの表情が嘘のように、快活な笑顔を浮かべて自己紹介してくれた。

「それで、嬢ちゃん。さっきの俺の殺気でチビってねぇよな?」

 豪快に笑いながら、ソルトロッソオジサマはそんな事を言いやがった。

 この人はデリカシーのない人だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

処理中です...