ダンジョンクリエイター～魔王に転生したけど、興味ないので迷宮経営する～

第1章

第10話 こんな結末は望んじゃいなかった。

　迷宮の新案が出ない……

　なんともいえない空虚な気持ちが心を占めて、退屈しかない頃の前世を思い出してしまう。
　俺は楽しみたいだけなのに――

　そんな事を考えながらも、迷宮探索受付を今日も続けていた。
　ふと不穏な気配を感じた。
　どうやらいらっしゃった様だ。本日の刺客。
　そう、お客様だ。


　ただ、本日のお客様はいつもとどこか違う空気を漂わせている。
　街からは少し離れたこの迷宮への道は、獣道に近い比較的細い道があるだけだ。
　そんな道を、幅ギリギリの馬車が闊歩してきているのだから、いつもと同じなわけがない。

　馬車が軋む音を立てながら、迷宮の入り口に停まる。
　御者台から男が降り、馬車の扉を開いた。

　そこから降りてきたのは、いかにも私が貴族ですと言わんばかりの高級な服装をした壮年の男性だった。

「ここがそうか。ご苦労」

　男性は馬車から降りながら、周りを一瞥した。
　労いの言葉は気持ちが明らかにこもっていないが、御者の男にかけた様だ。

　うわぁ……いけすかない。
　俺はこういう『私は偉いんです』と思っている様なやつが嫌いだ。
　魔王城にいた時には、周りがそういうやつばっかりで辟易した。
　まぁそういうとこもあって、あんな所出てきたんだけどな。

「少年よ。すまぬが、以前この場所に君と変わらない年頃の子供がこなかったかね？」

　貴族男は、高い位置から見下ろしながらそんな事を口にする。
　人にモノを聞く時には、態度ってモンがあるんじゃないのかデコ助野郎。

「はて。そういったことを聞かれましても、生憎ここには冒険者の方も数多く訪れられます。特徴などが判らないとなんとも――」

　イライラを隠して得意の『営業スマイル』をかます。

「ふむ。それもそうだな。特徴ということでもないが、恐らく真新しい装備を身に纏っている子だ。特に剣にはこれと同じ紋章が刻まれていたのではないかと思うが、思い出せぬか？」

　貴族男は鷹の紋章が刻まれた懐中時計を目の前に差し出す。

　んー？　んーんんー……

　あ。あれか、最初に来た少年だ。
　あの少年は1号に掛かった記念すべき最初のお客様だったし、しきりに剣をカチャカチャしてたからよく覚えている。
　剣の柄に確かに同じ紋章が刻まれていた。

「どうかね？」

　口をつぐんでいた俺に改めて問い掛ける貴族男。
　ふむ。なるほど、あの少年の父親ってところかな？
　おおかた無鉄砲な息子が、冒険者に憧れて軽い家出と冒険をしたってところだろう。
　子供が心配な親の気持ちはよくわかる。
　俺の頭には、いつも心配してくれた母さんの顔が浮かんだ。
　仕方ない。

　俺は貴族男に微笑みを返して、こう伝える。















「いえ？　全くこれっぽっちも見覚えなんてありませんよ？」















　何で俺がこんないけすかない貴族男に真実を伝えてやる必要があるというのか。
　永遠に見つからない息子を探し続けたらいい。

　営業スマイルを続ける俺の顔を見ながら、貴族男は少し眉間に皺を浮かべた。
　怒ってるのか？　いや――
　――これは、考えてる顔だな。

「ふむ。あの子が勇者に選ばれたのだが、こんな時にアイツはどこで遊んでいるのやら」

　おや？　勇者？
　知らず知らずに勇者を殺してたって事かな？
　あー……魔王を辞めた身としては、あまり嬉しくない。

　しかし、勇者か。
　そうと知ってれば、生かしておいた方が面白かっただろうになぁ……
　まぁ殺ってしまったものは仕方ない。

　その後、貴族男は聞きたいことは聞いたという顔でその場を立ち去った
　狂おしい程の愛情もあれば、血が繋がった親子でも淡白なこともある。
　人間は美しく、そして醜い生き物だなぁ。


　数日後、俺の耳には半裸でブーメランパンツの男が勇者に選ばれたという噂が届く事になる。

　こんな結末は望んじゃいなかったよ……