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第一章
第六話 城下
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「ふわぁ! おっきな町だねぇー!」
光は目を輝かせ、キョロキョロと周囲を見回している。
今俺たちは、跳ね橋を抜けてラーク城下街に足を踏み入れている。
思ったよりでけぇな。
神聖皇国ラークは外に出てみると、予想以上に大きく。強大な国だった。
まず城。城門の前には現在跳ね橋がかけられているが、要事にはコレが上がり強固な城塞と化すだろう。
城の周囲は水が満たされた堀に囲まれ、城壁もかなり頑丈に見える。戦時中とのことだったが、パッと見て平和に見える平時の今でも、見張りが城壁の上で目を光らせていた。武装に関してもかなり良いものを装備しているように見える。まぁ、俺の装備に比べれば大抵の装備は強そうだが。
それに厄介なのは、あの大砲と巨弩だ。破壊力も大きそうなアレが城壁の要所に設置されている。
『落城』を目的として攻めた場合、かなり苦労しそうだ。
城下街に関しても、かなりの領土がある。
更に、全貌はまだ明らかではないが見てる限り逃走ルートや街の中での戦闘を考慮したように街路が形成されて見える。
歩きながら見ている限り、治安もかなり良い。定期的に軽武装ではあるが、兵士が街を歩いているのが目に入った。
「ねぇねぇ! 睡蓮! アレ! アレ食べよう! あたっ!?」
兵士を見ていた俺の視線の上に小さな顔が上書きされる。近ぇよ。デコピンをかましてやる。
デコをさすりながらも指をさすのをやめない光。指の導線を見ると、地球でいうところの焼き鳥屋台のようなものがあった。芳ばしい良い匂いがしてる。そういや腹減ったな。
「おっさん。一つくれ」
「あー! 二つ! おじさん二つだよ!」
だから近ぇ! 注文する俺に体当たりをかましながら焼き鳥を焼いているおっさんにぴょんぴょん跳ねながら注文する光。とりあえずもっぺんデコピンをお見舞いしてやった。
「んー……微妙。もうちょい味が濃い方がいい」
「あ! もう睡蓮! だからそういうのは失礼だってば! おじさんごめんね!」
素直に味の感想を述べただけだろうが。
傲岸不遜に焼き鳥を食う俺の頭を跳んでかろうじて叩いた光。
味は本当に薄味なんだから仕方ない。こう、なんかこう……醤油が欲しい。味付けからして、塩だけのシンプルな味付け。それもかなり薄い。この世界の料理が全てこんな感じなら、正直辛い。
「ははは。この辺のヤツじゃないのか? 元々この辺はこんな味付けだ。まぁ、最近は物資の値段が上がってるのもあって、更に薄めになってるかもしれねぇけどな」
どうやら魔族との戦争で流通する物資が不足しているらしい。それでもラークはかなり大きな国の為、不自由するほどではないらしい。
おっさんはそれでも値上げする周りの店に対抗して、多少味付けを変えても値段を変えずにやりくりしてるってことだった。
「にしても、この時期に余所から来てるってこたぁ、ニイちゃんたちは傭兵か冒険者ってとこか?」
傭兵か冒険者。なるほど。でかい国だけあって、常に戦力を募集していて、それで一発当てようってヤツらが集まってるのか。
そう言われてみれば、周りを見てみるとガラの悪いヤツや屈強なヤツらが多く目につく。
俺がおっさんの言葉で周りのことを見ていると――
「ううん、違うよ! ボクは勇者なんだ!」
――バッ!? コイツはバカなのか!?
光は胸を張って得意げな顔をおっさんに向けている。
おっさんは目を見開いて、口を開けて間抜けな顔をしたまま固まっていた。
周りのヤツらも視線をこっちに向けている。
「ふっ……アッハッハッハ! 嬢ちゃんは面白いな。そうか、勇者か! そいつぁいい! ぜひとも世界を救ってくれや!」
おっさんが馬鹿笑いをかましてくれた。それに伴って、周囲の視線も何事かと見ているヤツ以外は散った。助かったな。
「むぅ! 嘘じゃないのに!」
むくれている光の頭にとりあえずチョップをかます。俺はあんまり目立ちたくないんだよ。特にあまり顔を覚えられたくない。
勇者としては目立つのが仕事みたいなところはあるだろうが、俺としては現時点で目立つことは避けたい。
いずれこの国も陥とすのだから。
そのために戦力を分析して周囲を見て回っている。俺を殺そうとしたのだから、殺される覚悟があるということだろ? 国王は当然のこと。そして国王を殺すのであれば、この国自体が敵だ。
「なぁ、おっさん。このへんで質の良い装備を揃えられる店はないか?」
「うん? あー……なるほど」
おっさんは俺と光を見比べる。
「確かに嬢ちゃんの装備に比べるとニイちゃんの装備はえらく貧相だもんな。それなら――」
おっさんは、この街で一番の武器防具屋を紹介してくれた。ついでに旅の装備を整えられる店も教えてもらい、おっさんの店をあとにする。
「ここ、か」
ひとまず旅をするに当たって必要なものを先に揃えた。ある程度は城から支給されていたが、食糧や下着類などに関しては心許なかったからだ。
それに、正直平和な世界にいた俺や光が加護などがあるとはいえ、どこまで戦えるかわからない。薬類を中心に安全マージンをとれるものを多めに買った。
そして、今――目の前には周りの商店に比べ明らかにサイズの違う店がある。武器防具屋だ。
とりあえず、中に入ってみる――
*
――結論から言おう。
「たけぇ……」
どうやら武器防具についてもかなりの値上がりをしているとのことで、正直言って懐具合からはなかなかに辛い。
「あらら。どうしよっか?」
「どうしよっかじゃねぇよ。お前が無駄なモン買いすぎなんだよ」
パカンと光の頭を叩く。
そう。コイツは行く先々で明らかに無駄と思われるモンを買っていた。あと、買い食いしてた。おかげで国から支給された金もかなり減っていて、先のことを考えるとこれ以上はあまり無駄に使えない。別の意味で殺意を覚えるぞコレ。
とりあえず光の装備は問題ないので、俺の装備を買い揃える。簡素な胸当てや盾、片手剣などだ。どれも在庫処分的な値段で売られていた、な。
「よっし! これで準備万端だね! それじゃあ睡蓮! 世界を救いにしゅっぱーつ!」
街の出口で拳を突き上げて高らかに宣言する光を放置して東に向かって歩き出す。
「あ、ちょっと! ノリが悪いよ!?」
光が慌てて後を追って来た。
こうして、勇者と災厄の旅が始まった。
光は目を輝かせ、キョロキョロと周囲を見回している。
今俺たちは、跳ね橋を抜けてラーク城下街に足を踏み入れている。
思ったよりでけぇな。
神聖皇国ラークは外に出てみると、予想以上に大きく。強大な国だった。
まず城。城門の前には現在跳ね橋がかけられているが、要事にはコレが上がり強固な城塞と化すだろう。
城の周囲は水が満たされた堀に囲まれ、城壁もかなり頑丈に見える。戦時中とのことだったが、パッと見て平和に見える平時の今でも、見張りが城壁の上で目を光らせていた。武装に関してもかなり良いものを装備しているように見える。まぁ、俺の装備に比べれば大抵の装備は強そうだが。
それに厄介なのは、あの大砲と巨弩だ。破壊力も大きそうなアレが城壁の要所に設置されている。
『落城』を目的として攻めた場合、かなり苦労しそうだ。
城下街に関しても、かなりの領土がある。
更に、全貌はまだ明らかではないが見てる限り逃走ルートや街の中での戦闘を考慮したように街路が形成されて見える。
歩きながら見ている限り、治安もかなり良い。定期的に軽武装ではあるが、兵士が街を歩いているのが目に入った。
「ねぇねぇ! 睡蓮! アレ! アレ食べよう! あたっ!?」
兵士を見ていた俺の視線の上に小さな顔が上書きされる。近ぇよ。デコピンをかましてやる。
デコをさすりながらも指をさすのをやめない光。指の導線を見ると、地球でいうところの焼き鳥屋台のようなものがあった。芳ばしい良い匂いがしてる。そういや腹減ったな。
「おっさん。一つくれ」
「あー! 二つ! おじさん二つだよ!」
だから近ぇ! 注文する俺に体当たりをかましながら焼き鳥を焼いているおっさんにぴょんぴょん跳ねながら注文する光。とりあえずもっぺんデコピンをお見舞いしてやった。
「んー……微妙。もうちょい味が濃い方がいい」
「あ! もう睡蓮! だからそういうのは失礼だってば! おじさんごめんね!」
素直に味の感想を述べただけだろうが。
傲岸不遜に焼き鳥を食う俺の頭を跳んでかろうじて叩いた光。
味は本当に薄味なんだから仕方ない。こう、なんかこう……醤油が欲しい。味付けからして、塩だけのシンプルな味付け。それもかなり薄い。この世界の料理が全てこんな感じなら、正直辛い。
「ははは。この辺のヤツじゃないのか? 元々この辺はこんな味付けだ。まぁ、最近は物資の値段が上がってるのもあって、更に薄めになってるかもしれねぇけどな」
どうやら魔族との戦争で流通する物資が不足しているらしい。それでもラークはかなり大きな国の為、不自由するほどではないらしい。
おっさんはそれでも値上げする周りの店に対抗して、多少味付けを変えても値段を変えずにやりくりしてるってことだった。
「にしても、この時期に余所から来てるってこたぁ、ニイちゃんたちは傭兵か冒険者ってとこか?」
傭兵か冒険者。なるほど。でかい国だけあって、常に戦力を募集していて、それで一発当てようってヤツらが集まってるのか。
そう言われてみれば、周りを見てみるとガラの悪いヤツや屈強なヤツらが多く目につく。
俺がおっさんの言葉で周りのことを見ていると――
「ううん、違うよ! ボクは勇者なんだ!」
――バッ!? コイツはバカなのか!?
光は胸を張って得意げな顔をおっさんに向けている。
おっさんは目を見開いて、口を開けて間抜けな顔をしたまま固まっていた。
周りのヤツらも視線をこっちに向けている。
「ふっ……アッハッハッハ! 嬢ちゃんは面白いな。そうか、勇者か! そいつぁいい! ぜひとも世界を救ってくれや!」
おっさんが馬鹿笑いをかましてくれた。それに伴って、周囲の視線も何事かと見ているヤツ以外は散った。助かったな。
「むぅ! 嘘じゃないのに!」
むくれている光の頭にとりあえずチョップをかます。俺はあんまり目立ちたくないんだよ。特にあまり顔を覚えられたくない。
勇者としては目立つのが仕事みたいなところはあるだろうが、俺としては現時点で目立つことは避けたい。
いずれこの国も陥とすのだから。
そのために戦力を分析して周囲を見て回っている。俺を殺そうとしたのだから、殺される覚悟があるということだろ? 国王は当然のこと。そして国王を殺すのであれば、この国自体が敵だ。
「なぁ、おっさん。このへんで質の良い装備を揃えられる店はないか?」
「うん? あー……なるほど」
おっさんは俺と光を見比べる。
「確かに嬢ちゃんの装備に比べるとニイちゃんの装備はえらく貧相だもんな。それなら――」
おっさんは、この街で一番の武器防具屋を紹介してくれた。ついでに旅の装備を整えられる店も教えてもらい、おっさんの店をあとにする。
「ここ、か」
ひとまず旅をするに当たって必要なものを先に揃えた。ある程度は城から支給されていたが、食糧や下着類などに関しては心許なかったからだ。
それに、正直平和な世界にいた俺や光が加護などがあるとはいえ、どこまで戦えるかわからない。薬類を中心に安全マージンをとれるものを多めに買った。
そして、今――目の前には周りの商店に比べ明らかにサイズの違う店がある。武器防具屋だ。
とりあえず、中に入ってみる――
*
――結論から言おう。
「たけぇ……」
どうやら武器防具についてもかなりの値上がりをしているとのことで、正直言って懐具合からはなかなかに辛い。
「あらら。どうしよっか?」
「どうしよっかじゃねぇよ。お前が無駄なモン買いすぎなんだよ」
パカンと光の頭を叩く。
そう。コイツは行く先々で明らかに無駄と思われるモンを買っていた。あと、買い食いしてた。おかげで国から支給された金もかなり減っていて、先のことを考えるとこれ以上はあまり無駄に使えない。別の意味で殺意を覚えるぞコレ。
とりあえず光の装備は問題ないので、俺の装備を買い揃える。簡素な胸当てや盾、片手剣などだ。どれも在庫処分的な値段で売られていた、な。
「よっし! これで準備万端だね! それじゃあ睡蓮! 世界を救いにしゅっぱーつ!」
街の出口で拳を突き上げて高らかに宣言する光を放置して東に向かって歩き出す。
「あ、ちょっと! ノリが悪いよ!?」
光が慌てて後を追って来た。
こうして、勇者と災厄の旅が始まった。
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