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あまりにも突然のことで、アリーシャはもう、なにがなんだかわからなかった。
つい先日まで、アリーシャとヴィヒトは仲睦まじい婚約者だったはずだ。
レイナも、身分差のある自分たちの仲を応援してくれていた。
今日だって、なんてことのないように、ヴィヒトが呼んでいる、とだけ言われて、王城内の一室にやってきた。
レイナがヴィヒトの隣にいることには少々驚いたが、二人から大事な話でもあるのだろうと思い、促されるままに彼らの正面に座った。
アリーシャは、二人を信じていた。大好きだった。
こんなの、なにかの冗談だと思いたかった。
自分を驚かせるために、二人が組んでいるのかもしれない、なんて、心の片隅で思ったりもした。
「婚約を、破棄、する、なんて。どうして、ですか。ヴィヒト様」
「……どうして、だと? 自分がしたことを、忘れたとは言わせない」
上手く言葉を発することができなくて、つっかかってしまう。
やっとのことで疑問を口にするアリーシャとは対照的に、ヴィヒトはすらすらとアリーシャの罪状を並べていく。
聖女や王子の婚約者としての立場を悪用しての恐喝や詐欺。
他の聖女や貴族女性へのいじめ。
国に黙って金を受け取り、私腹をこやした。
果てには、ヴィヒトと親しいレイナに嫉妬して、彼女を殺すと脅した、なんてことまで言ってくる。
どれも、全く身に覚えのない話だった。
「そんな……! 私はそんなことはしていません! なにかの間違いです!」
「だが、証拠は揃っているし、レイナも、きみが犯した罪の数々を報告している。きみの親友だからこそ知る情報を、身の危険を承知で教えてくれたんだ」
そう言うと、ヴィヒトは当然のようにレイナの肩を抱き、甘い視線を向ける。
「きみは、本当に勇気のある女性だ。外面だけのアリーシャとは大違いだよ」
ヴィヒトは愛おしそうにレイナの額に口づけを落とす。ちゅ、とわざとらしいリップ音が聞こえた。
レイナも、うっとりとした表情でそれを受け入れている。
そんな二人の姿にひどくショックを受けながらも、アリーシャは己の無実を主張する。
しかし、アリーシャの話が聞き入れられることは、なかった。
もう、なにを言っても無駄だった。
アリーシャの言葉は、大好きだったヴィヒトにも、親友だったはずのレイナにも、届かない。
ここは、一方的にアリーシャを断罪するために作られた空間だった。
「もう一度言う。アリーシャ・ヒリキュア。きみとの婚約は破棄する」
「ヴィヒト、さま……」
「多数の悪事を行ってきたきみの処分については、のちほど決定する。元婚約者としての情もあるから、僕もできる限りのことはする。処刑は免れるよう、努力するよ」
「しょけ、い……」
大好きだった婚約者の口から放たれた、「処刑」の言葉。
アリーシャは、目の前が真っ暗になる感覚に陥った。
つい先日まで、アリーシャとヴィヒトは仲睦まじい婚約者だったはずだ。
レイナも、身分差のある自分たちの仲を応援してくれていた。
今日だって、なんてことのないように、ヴィヒトが呼んでいる、とだけ言われて、王城内の一室にやってきた。
レイナがヴィヒトの隣にいることには少々驚いたが、二人から大事な話でもあるのだろうと思い、促されるままに彼らの正面に座った。
アリーシャは、二人を信じていた。大好きだった。
こんなの、なにかの冗談だと思いたかった。
自分を驚かせるために、二人が組んでいるのかもしれない、なんて、心の片隅で思ったりもした。
「婚約を、破棄、する、なんて。どうして、ですか。ヴィヒト様」
「……どうして、だと? 自分がしたことを、忘れたとは言わせない」
上手く言葉を発することができなくて、つっかかってしまう。
やっとのことで疑問を口にするアリーシャとは対照的に、ヴィヒトはすらすらとアリーシャの罪状を並べていく。
聖女や王子の婚約者としての立場を悪用しての恐喝や詐欺。
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「そんな……! 私はそんなことはしていません! なにかの間違いです!」
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そう言うと、ヴィヒトは当然のようにレイナの肩を抱き、甘い視線を向ける。
「きみは、本当に勇気のある女性だ。外面だけのアリーシャとは大違いだよ」
ヴィヒトは愛おしそうにレイナの額に口づけを落とす。ちゅ、とわざとらしいリップ音が聞こえた。
レイナも、うっとりとした表情でそれを受け入れている。
そんな二人の姿にひどくショックを受けながらも、アリーシャは己の無実を主張する。
しかし、アリーシャの話が聞き入れられることは、なかった。
もう、なにを言っても無駄だった。
アリーシャの言葉は、大好きだったヴィヒトにも、親友だったはずのレイナにも、届かない。
ここは、一方的にアリーシャを断罪するために作られた空間だった。
「もう一度言う。アリーシャ・ヒリキュア。きみとの婚約は破棄する」
「ヴィヒト、さま……」
「多数の悪事を行ってきたきみの処分については、のちほど決定する。元婚約者としての情もあるから、僕もできる限りのことはする。処刑は免れるよう、努力するよ」
「しょけ、い……」
大好きだった婚約者の口から放たれた、「処刑」の言葉。
アリーシャは、目の前が真っ暗になる感覚に陥った。
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