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とある日も、僕は王城にアメリを呼び出し、ある国の使節団に魔法を披露してもらった。
アメリの圧倒的な魔力量を持ってすれば、広いホールを花でいっぱいにするぐらいは簡単なのだ。
さらには持病等にも影響しないとなれば、どういった人であっても一面の花畑を楽しむことができる。
アメリのおかげで場の空気もよくなり、交渉も成立。国の上層部も「アメリ嬢のおかげだ」と笑顔を見せていた。
「……そろそろ、かな」
「なにがです?」
王城の庭を二人で散歩しながら僕はそう呟く。
外交の場で活躍した彼女を労わるため、お茶をしたあと本人の希望で庭を散策している。
彼女は昔から木々や花が好きで、婚約者だったころはよく一緒に外で遊んでいた。
……結局、彼女を放すことはできなかったから、解消後もそれなりの頻度でこうしているけれど。
彼女の力は、たしかに実用性はないかもしれない。けれど、人の心を照らし、和ませることのできる素晴らしいものだった。
そのことは、多くの人に伝わり始めている。
だから、今ならきっと。アメリと婚約したいと言っても、能力を理由に反対されることはないだろう。
結局、成長した僕の力で掴みとる婚約というよりは、アメリの人柄と能力のおかげになりそうだけど――。
そんな彼女の強さもまた、愛おしくてたまらない。
今更他の人なんて考えられないぐらいに、僕はアメリに心奪われていた。
いつもなるべくアメリのそばにいるのだって、他の男を追い払うためだ。
僕に睨まれるからか、彼女にはまだ婚約者がいない。彼女の「邪魔」をした人間として、しっかり責任を取りたいと思っている。
「アメリ。12歳のとき、言ったよね。きみを迎えに行く。待っていてって」
「……へ?」
「僕が理由もなく婚約せずにいたと思ってる?」
「……え? え?」
「あと少しだけ、待っていてくれる?」
戸惑うアメリの桃色の髪をかき分けて、額にキスを落とす。
同じく婚約者のいない彼女は、たったそれだけの触れ合いで湯気が出そうなほどに顔を真っ赤にした。
なんとなくわかっていたけれど、アメリは僕の「迎えに行く」という言葉をまともに受け取っていなかったようだ。
理解が追い付かないようで、もはや「え?」としか言ってもらえない。
……僕のほうはずーっときみにアピールしていたつもりだったし、婚約からの5年間アメリだけを見てきたのにこれだから、ちょっと拗ねたくなった。
「僕はずっと本気だったよ。きみ以外の女性と結婚する未来なんて、これっぽっちも見てなかった。これから、父上に『アメリと結婚したい』と伝えたいのだけれど……いいかな?」
「へ、へあ……」
ぎゅっと彼女の手を握りながらそう伝えても、アメリからは変な声しか出なかった。
けれど根気よく「好きだ」「結婚して欲しい」と伝え続けると、彼女もようやく話が飲み込めてきたようだった。
「……私のようなハズレでも、テオバルト様と結婚できるのですか?」
「きみの力はハズレなんかじゃないよ。もうみんなわかってる。きみ自身が、それを証明した」
「っ……!」
「アメリ。改めて言うよ。僕と結婚してほしい」
「……はい」
婚約解消から、3年。
アメリの力が国にも認められ始めたタイミングを見計らってのプロポーズは、受け入れられた。
それから間もなくして、アメリ・フローレイン伯爵令嬢は第一王子テオバルト・ヘクセレイの婚約者として返り咲くこととなる。
今度はもう、誰も反対などしなかった。
二人の結婚以降、王家には稀に花を咲かせる力を持つ子が生まれるようになり、平和と繁栄の象徴として歓迎されたとか。
アメリの圧倒的な魔力量を持ってすれば、広いホールを花でいっぱいにするぐらいは簡単なのだ。
さらには持病等にも影響しないとなれば、どういった人であっても一面の花畑を楽しむことができる。
アメリのおかげで場の空気もよくなり、交渉も成立。国の上層部も「アメリ嬢のおかげだ」と笑顔を見せていた。
「……そろそろ、かな」
「なにがです?」
王城の庭を二人で散歩しながら僕はそう呟く。
外交の場で活躍した彼女を労わるため、お茶をしたあと本人の希望で庭を散策している。
彼女は昔から木々や花が好きで、婚約者だったころはよく一緒に外で遊んでいた。
……結局、彼女を放すことはできなかったから、解消後もそれなりの頻度でこうしているけれど。
彼女の力は、たしかに実用性はないかもしれない。けれど、人の心を照らし、和ませることのできる素晴らしいものだった。
そのことは、多くの人に伝わり始めている。
だから、今ならきっと。アメリと婚約したいと言っても、能力を理由に反対されることはないだろう。
結局、成長した僕の力で掴みとる婚約というよりは、アメリの人柄と能力のおかげになりそうだけど――。
そんな彼女の強さもまた、愛おしくてたまらない。
今更他の人なんて考えられないぐらいに、僕はアメリに心奪われていた。
いつもなるべくアメリのそばにいるのだって、他の男を追い払うためだ。
僕に睨まれるからか、彼女にはまだ婚約者がいない。彼女の「邪魔」をした人間として、しっかり責任を取りたいと思っている。
「アメリ。12歳のとき、言ったよね。きみを迎えに行く。待っていてって」
「……へ?」
「僕が理由もなく婚約せずにいたと思ってる?」
「……え? え?」
「あと少しだけ、待っていてくれる?」
戸惑うアメリの桃色の髪をかき分けて、額にキスを落とす。
同じく婚約者のいない彼女は、たったそれだけの触れ合いで湯気が出そうなほどに顔を真っ赤にした。
なんとなくわかっていたけれど、アメリは僕の「迎えに行く」という言葉をまともに受け取っていなかったようだ。
理解が追い付かないようで、もはや「え?」としか言ってもらえない。
……僕のほうはずーっときみにアピールしていたつもりだったし、婚約からの5年間アメリだけを見てきたのにこれだから、ちょっと拗ねたくなった。
「僕はずっと本気だったよ。きみ以外の女性と結婚する未来なんて、これっぽっちも見てなかった。これから、父上に『アメリと結婚したい』と伝えたいのだけれど……いいかな?」
「へ、へあ……」
ぎゅっと彼女の手を握りながらそう伝えても、アメリからは変な声しか出なかった。
けれど根気よく「好きだ」「結婚して欲しい」と伝え続けると、彼女もようやく話が飲み込めてきたようだった。
「……私のようなハズレでも、テオバルト様と結婚できるのですか?」
「きみの力はハズレなんかじゃないよ。もうみんなわかってる。きみ自身が、それを証明した」
「っ……!」
「アメリ。改めて言うよ。僕と結婚してほしい」
「……はい」
婚約解消から、3年。
アメリの力が国にも認められ始めたタイミングを見計らってのプロポーズは、受け入れられた。
それから間もなくして、アメリ・フローレイン伯爵令嬢は第一王子テオバルト・ヘクセレイの婚約者として返り咲くこととなる。
今度はもう、誰も反対などしなかった。
二人の結婚以降、王家には稀に花を咲かせる力を持つ子が生まれるようになり、平和と繁栄の象徴として歓迎されたとか。
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嬉しいお言葉、ありがとうございます。
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くろこ様
返信が遅くなってしまい大変申し訳ありません…!
ご感想、ありがとうございます。そう言っていただけますと嬉しいです…!