上 下
2 / 6

しおりを挟む
 婚約解消の原因は、テオバルトではなく私・アメリにあった。
 この魔法国家ソルマギアでは、ほとんどの王侯貴族が魔法を使うことができる。
 炎、水、風、地の四属性が基本で、たまにその四種には分類できない特殊能力持ちが生まれる。

 魔力を持つ者同士が結婚し子を為したのが今の貴族の源流であるため、魔法を使える者の多くは貴族だ。
 魔法使いとしての能力が抜きんでていれば、平民が貴族と結婚することも少なくない。
 この国の人々は、それほどまでに魔法使いとしての力を重視するのだ。

 魔力の有無やその量がわかるのは、10歳ほどのころ。
 それぐらいの年の貴族の子供を対象に、水晶玉を用いた能力検査を行う。
 そのとき、流し込んだ魔力で水晶玉を割り、

「素晴らしい!」
「天才だ!」
「きっと王家に嫁ぐことになる」

 と担ぎ上げられたのがアメリ・フローレイン……つまり私だ。
 水晶が耐えられないほどの魔力を持つ者は、数年に一人見つかるかどうか。
 私の年にはもう一人、子爵家の女の子が水晶を割ったそうでそちらも大いに話題になっていた。
 同い年の第一王子・テオバルトの婚約者は、私たちのどちらかから選ばれるだろうとみなが噂して……。
 結局、魔法の名家でもある伯爵家生まれの私が選択された。

 ここまではよかったのだ。
 問題はその数年後。魔力量だけでなく、どんな能力を持つのかがわかってからだ。
 魔力の有無と属性は10歳前後で判明するが、実際に魔法が使えるようになるのは少しあとなのだ。
 水晶が赤く光ったら炎属性、青く光ったら水、と色と属性を紐付けることができる。
 私のときは……無色。特殊能力枠だった。

 四属性に分類できない場合、どんな力が発現するかわからない。
 実用性のない力のこともあれば、国家を揺るがすほどの能力を秘めている場合もある。
 私は後者のはずだと期待され、能力が発現するときを皆が今か今かと待っていたけれど……。
 12歳の誕生日を迎える直前に私が使った魔法は、花を咲かせる。たったそれだけだった。

 それでも、最初はみな大盛り上がりだったのだ。

「食料問題が解決する!」
「薬効のある花を大量に咲かせれば、薬が作れる!」
「農作物を育てるために使う水を減らせる!」

 なんてふうに。
 種も水もない場所に、ぽんっと花を咲かせる力。
 必要なのは私の魔力のみ。その魔力は底なしに近い。
 みんな沸いて沸いて、救世主だ、王子の婚約者にふさわしいって、これでもかというほどに私を褒めたたえた。
 このままいけば、私と結婚するテオバルトも王太子決定だろうと言われたりもした。

 けれどその波も、すぐに引くことになる。
 私が出した花は数日で消える。育つこともなければ、香りも効能もない。
 ただただ、花の見た目をした魔力の塊がぽんと出てくるだけ。
 私の能力は、ただ綺麗なだけで実用性は皆無だったのだ。

 最初とは打って変わって、こんな力が王家に遺伝したらどうするの、と聞こえるように言われるようにもなった。
 そして、私の力がなんの役にも立たないことがわかって間もなく――。

「すまない。アメリ。僕との婚約を解消してほしい」

 第一王子テオバルトに、婚約を解消された。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】義妹と婚約者どちらを取るのですか?

里音
恋愛
私はどこにでもいる中堅の伯爵令嬢アリシア・モンマルタン。どこにでもあるような隣の領地の同じく伯爵家、といってもうちよりも少し格が上のトリスタン・ドクトールと幼い頃に婚約していた。 ドクトール伯爵は2年前に奥様を亡くし、連れ子と共に後妻がいる。 その連れ子はトリスタンの1つ下になるアマンダ。 トリスタンはなかなかの美貌でアマンダはトリスタンに執着している。そしてそれを隠そうともしない。 学園に入り1年は何も問題がなかったが、今年アマンダが学園に入学してきて事態は一変した。

【完結】円満婚約解消

里音
恋愛
「気になる人ができた。このまま婚約を続けるのは君にも彼女にも失礼だ。だから婚約を解消したい。 まず、君に話をしてから両家の親達に話そうと思う」 「はい。きちんとお話ししてくださってありがとうございます。 両家へは貴方からお話しくださいませ。私は決定に従います」 第二王子のロベルトとその婚約者ソフィーリアの婚約解消と解消後の話。 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 主人公の女性目線はほぼなく周囲の話だけです。番外編も本当に必要だったのか今でも悩んでます。 コメントなど返事は出来ないかもしれませんが、全て読ませていただきます。

【完結】ハーレム構成員とその婚約者

里音
恋愛
わたくしには見目麗しい人気者の婚約者がいます。 彼は婚約者のわたくしに素っ気ない態度です。 そんな彼が途中編入の令嬢を生徒会としてお世話することになりました。 異例の事でその彼女のお世話をしている生徒会は彼女の美貌もあいまって見るからに彼女のハーレム構成員のようだと噂されています。 わたくしの婚約者様も彼女に惹かれているのかもしれません。最近お二人で行動する事も多いのですから。 婚約者が彼女のハーレム構成員だと言われたり、彼は彼女に夢中だと噂されたり、2人っきりなのを遠くから見て嫉妬はするし傷つきはします。でもわたくしは彼が大好きなのです。彼をこんな醜い感情で煩わせたくありません。 なのでわたくしはいつものように笑顔で「お会いできて嬉しいです。」と伝えています。 周りには憐れな、ハーレム構成員の婚約者だと思われていようとも。 ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 話の一コマを切り取るような形にしたかったのですが、終わりがモヤモヤと…力不足です。 コメントは賛否両論受け付けますがメンタル弱いのでお返事はできないかもしれません。

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

(完)婚約解消からの愛は永遠に

青空一夏
恋愛
エリザベスは、火事で頬に火傷をおった。その為に、王太子から婚約解消をされる。 両親からも疎まれ妹からも蔑まれたエリザベスだが・・・・・・ 5話プラスおまけで完結予定。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

【完結】婚約解消ですか?!分かりました!!

たまこ
恋愛
 大好きな婚約者ベンジャミンが、侯爵令嬢と想い合っていることを知った、猪突猛進系令嬢ルシルの婚約解消奮闘記。 2023.5.8 HOTランキング61位/24hランキング47位 ありがとうございました!

処理中です...