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冬
6 暖炉と毛布とお菓子と息子。
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必死の捜索を続けているうちに、ショーンと思わしき子供を見たという老紳士に出会えた。
「ああ。あんたによく似た子なら、少し前に見たよ」
「本当ですか!」
ジョンズワートとショーンがよく似ていることが、幸いした。
年齢の違いこそあるが――瓜二つの男が目の前にいるのだ。
容姿の特徴を伝えるだけよりも、記憶を掘り起こしやすいのかもしれない。
「その子はどこに……!?」
「ばあさんと手を繋いで歩いて……。あっちの方へ向かったよ」
「ありがとうございます!」
老紳士が言うには、ショーンは高齢の女性と手を繋ぎ、ある方向へ向かったそうだ。
その女性の特徴も聞こうとしたが、すれ違っただけであるから、そこまで詳しい情報を引き出すことはできなかった。
しかし、十分な情報である。
ジョンズワートはしっかりと礼を言い、老紳士が指さした方へ進んだ。
「息子さん、見つかるといいな!」
その言葉に、ジョンズワートは手を挙げることで応えた。
聞き込みを続けていくうちに、1つの民家に辿り着く。
ショーンが、この家に入っていったという目撃情報があったのだ。
息子を連れていたのは老婆だという話だが……。どんな人間なのか、なにが目的なのかまでは、わからない。
「ショーン! ここにいるのか!?」
焦りから、ジョンズワートはノックもせず、作戦を立てることもなく、勢いよく民家のドアを開けてしまった。
そんな彼の目に飛び込んだのは、素朴な佇まいの、なんの変哲もない家庭の一室であった。
その真ん中あたり。暖炉の前に、毛布を巻かれた小さななにかがいるのがわかる。
もしや、と思うと同時にそのなにかが振り向き――
「ショーン……!」
ジョンズワートが見間違えるはずもない。その小さななにかの正体は、ショーンであった。
振り返った我が子が、なにかを頬張っていることもわかる。お菓子だろうか。
ジョンズワートの姿を確認したショーンは、黙ったまましゃくしゃくとお菓子を吸い込んでいく。
「しょ、ショーン……?」
ようやく見つけた息子は、毛布にくるまって暖炉にあたり、お菓子を食べていた。
そのうえ、実父である自分を見ながら菓子を胃に収めた。
暖炉の周囲には柵があり、必要以上に近付けないよう工夫されている。
これは一体、どういうことなのだろうか。
状況を把握するためにもショーンに近づこうとしたところ、お菓子を食べ終わった幼子が、せきを切ったように泣き出した。
それはもう、わあわあと。
「ごめん、ショーン。もう大丈夫。大丈夫だから」
我が子に駆け寄り、落ち着かせるように抱き寄せる。
なにがどうなっているのかわからないが……まずは、ショーンを落ち着かせるのが先だと判断した。ひとまず、危険はないように思える。
そんなことをしていたら、泣き声が聞こえたのだろうか。
カップを手にした老婦人が、あらあら、と言いながら奥から出てきた。
「あなた、この子のお父さんね? よかったわあ」
髪は白く、恰幅のいい老婦人。ジョンズワートとショーンに向ける言葉には、優しさと安堵が滲んでいた。
「ああ。あんたによく似た子なら、少し前に見たよ」
「本当ですか!」
ジョンズワートとショーンがよく似ていることが、幸いした。
年齢の違いこそあるが――瓜二つの男が目の前にいるのだ。
容姿の特徴を伝えるだけよりも、記憶を掘り起こしやすいのかもしれない。
「その子はどこに……!?」
「ばあさんと手を繋いで歩いて……。あっちの方へ向かったよ」
「ありがとうございます!」
老紳士が言うには、ショーンは高齢の女性と手を繋ぎ、ある方向へ向かったそうだ。
その女性の特徴も聞こうとしたが、すれ違っただけであるから、そこまで詳しい情報を引き出すことはできなかった。
しかし、十分な情報である。
ジョンズワートはしっかりと礼を言い、老紳士が指さした方へ進んだ。
「息子さん、見つかるといいな!」
その言葉に、ジョンズワートは手を挙げることで応えた。
聞き込みを続けていくうちに、1つの民家に辿り着く。
ショーンが、この家に入っていったという目撃情報があったのだ。
息子を連れていたのは老婆だという話だが……。どんな人間なのか、なにが目的なのかまでは、わからない。
「ショーン! ここにいるのか!?」
焦りから、ジョンズワートはノックもせず、作戦を立てることもなく、勢いよく民家のドアを開けてしまった。
そんな彼の目に飛び込んだのは、素朴な佇まいの、なんの変哲もない家庭の一室であった。
その真ん中あたり。暖炉の前に、毛布を巻かれた小さななにかがいるのがわかる。
もしや、と思うと同時にそのなにかが振り向き――
「ショーン……!」
ジョンズワートが見間違えるはずもない。その小さななにかの正体は、ショーンであった。
振り返った我が子が、なにかを頬張っていることもわかる。お菓子だろうか。
ジョンズワートの姿を確認したショーンは、黙ったまましゃくしゃくとお菓子を吸い込んでいく。
「しょ、ショーン……?」
ようやく見つけた息子は、毛布にくるまって暖炉にあたり、お菓子を食べていた。
そのうえ、実父である自分を見ながら菓子を胃に収めた。
暖炉の周囲には柵があり、必要以上に近付けないよう工夫されている。
これは一体、どういうことなのだろうか。
状況を把握するためにもショーンに近づこうとしたところ、お菓子を食べ終わった幼子が、せきを切ったように泣き出した。
それはもう、わあわあと。
「ごめん、ショーン。もう大丈夫。大丈夫だから」
我が子に駆け寄り、落ち着かせるように抱き寄せる。
なにがどうなっているのかわからないが……まずは、ショーンを落ち着かせるのが先だと判断した。ひとまず、危険はないように思える。
そんなことをしていたら、泣き声が聞こえたのだろうか。
カップを手にした老婦人が、あらあら、と言いながら奥から出てきた。
「あなた、この子のお父さんね? よかったわあ」
髪は白く、恰幅のいい老婦人。ジョンズワートとショーンに向ける言葉には、優しさと安堵が滲んでいた。
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