40 / 77
第三章
13 従者は、主人が必要としている人を、進ませた。
しおりを挟む
カレンとショーンをさらったのは、この近隣で悪さをしているごろつき共だった。
悪党は悪党だが、ジョンズワートたちからしてみれば小物。
どのグループなのかも、アジトも、カレンを連れ込んだ場所も。すぐに割り出すことができた。
カレンが公爵の妻だと知って、勢いだけで誘拐を実行したのだろう。
場合によってはこちらも人数を用意し、奪還計画を立てるところだが……そんなもの、必要がない程度の相手だった。
カレンの護衛を任されるほど腕の立つのチェストリーとアーティはもちろん、ジョンズワートも、ある程度の戦闘技術は身につけている。
乗り込むのは、この三人で十分だ。
「失礼する」
「ああ!? なんだお前ら!」
妻子をさらわれたジョンズワートは、すっかり頭に血がのぼっていた。
カレンをさらった者たちのアジトに、正面から突っ込むぐらいには。
ドアを蹴破って堂々と現れたジョンズワートを、多数の男が睨みつける。ざっと見た感じだが、この部屋にいるのは十数人ほどだろうか。
廃業した宿屋をアジトにしているようで、中は広い。他の場所にも、悪党どもがいるはずだ。
掃除などろくにされていないうえに、男臭い。
男だらけのこんな汚い場所に妻子が囚われているのかと思うと、更に怒りが増した。
「カレンとショーンを、返してもらう」
地を這うような低い声。すらりと抜かれる剣。
長身で、品のある男が、剣を持って真顔で近づいてくる。
殺される。そう思わせるだけの迫力があった。賊たちは怯んだが、そのうちの一人が「相手は三人だけだぞ!」と叫んだことにより、それぞれ臨戦態勢に。
「ワート、殺すなよ」
「わかってる。カレンたちに汚いものを見せたくない」
アーティに言われずとも、殺す気はなかった。
妻子に死体を見せたくなかったし、血に濡れた手で触れるのも嫌だった。
ああ、早くこいつらを蹴散らして、妻子の元へ行こう。
妻子のため、ジョンズワートは前へ踏み込もうとしたのだが。
「旦那様。ここは俺に任せて、お嬢のところへ」
「……チェストリー?」
「あんたは自分が通る道だけ作ればいい。こいつらの掃除は俺がします」
そう言いながらも、チェストリーは襲い掛かってきた男を返り討ちにし、床に叩きつける。
相手はナイフや鈍器を持っているが、チェストリーは素手である。
今は狩人でもあるため、ナイフなどの刃物も普段から携帯しているのだが……それすら出さずに、一人で男たちを片付けていく。
「なあ、あの人が誰だかわかってて、手ぇ出したんだよな? 相応の覚悟はできてるよなあ!?」
「ひっ……!」
チェストリーが、床に倒れる男の足を踏みつけ、ぐり、と動かした。
男から叫びがあがるが、チェストリーがそれを気にする様子はない。
「さあ旦那様。早く行ってください」
彼はカレンに人生を救われ、従者として彼女を守り続けた男。
偽の夫と父親の役を引き受けるほどの忠義だ。
カレンをさらわれて怒っているのは、ジョンズワートだけではないのである。
ジョンズワートに笑顔を向けているが、目が、笑っていなかった。
今のチェストリーには、強烈な殺意が宿っている。
「あ、ああ……。殺すなよ……?」
「ええ。殺さないよう、素手でやります」
先ほどアーティに言われたのと同じ言葉を、今度はジョンズワートがチェストリーへ。
チェストリーは、拳を振りかぶりながらも、やっぱり笑っていた。
にじみ出る怒りと迫力に、ジョンズワートまで気圧されてしまうほどだ。
笑いながら怒り狂うチェストリーの暴れっぷりに、ジョンズワートは少しばかり冷静になった。
十人以上いたはずの賊どもも、もう半数近くチェストリーに制圧されている。
残りの連中も、任せてしまって大丈夫だろう。
「ありがとう、チェストリー」
ジョンズワートは、カレンたちを探すために駆けだした。
悪党は悪党だが、ジョンズワートたちからしてみれば小物。
どのグループなのかも、アジトも、カレンを連れ込んだ場所も。すぐに割り出すことができた。
カレンが公爵の妻だと知って、勢いだけで誘拐を実行したのだろう。
場合によってはこちらも人数を用意し、奪還計画を立てるところだが……そんなもの、必要がない程度の相手だった。
カレンの護衛を任されるほど腕の立つのチェストリーとアーティはもちろん、ジョンズワートも、ある程度の戦闘技術は身につけている。
乗り込むのは、この三人で十分だ。
「失礼する」
「ああ!? なんだお前ら!」
妻子をさらわれたジョンズワートは、すっかり頭に血がのぼっていた。
カレンをさらった者たちのアジトに、正面から突っ込むぐらいには。
ドアを蹴破って堂々と現れたジョンズワートを、多数の男が睨みつける。ざっと見た感じだが、この部屋にいるのは十数人ほどだろうか。
廃業した宿屋をアジトにしているようで、中は広い。他の場所にも、悪党どもがいるはずだ。
掃除などろくにされていないうえに、男臭い。
男だらけのこんな汚い場所に妻子が囚われているのかと思うと、更に怒りが増した。
「カレンとショーンを、返してもらう」
地を這うような低い声。すらりと抜かれる剣。
長身で、品のある男が、剣を持って真顔で近づいてくる。
殺される。そう思わせるだけの迫力があった。賊たちは怯んだが、そのうちの一人が「相手は三人だけだぞ!」と叫んだことにより、それぞれ臨戦態勢に。
「ワート、殺すなよ」
「わかってる。カレンたちに汚いものを見せたくない」
アーティに言われずとも、殺す気はなかった。
妻子に死体を見せたくなかったし、血に濡れた手で触れるのも嫌だった。
ああ、早くこいつらを蹴散らして、妻子の元へ行こう。
妻子のため、ジョンズワートは前へ踏み込もうとしたのだが。
「旦那様。ここは俺に任せて、お嬢のところへ」
「……チェストリー?」
「あんたは自分が通る道だけ作ればいい。こいつらの掃除は俺がします」
そう言いながらも、チェストリーは襲い掛かってきた男を返り討ちにし、床に叩きつける。
相手はナイフや鈍器を持っているが、チェストリーは素手である。
今は狩人でもあるため、ナイフなどの刃物も普段から携帯しているのだが……それすら出さずに、一人で男たちを片付けていく。
「なあ、あの人が誰だかわかってて、手ぇ出したんだよな? 相応の覚悟はできてるよなあ!?」
「ひっ……!」
チェストリーが、床に倒れる男の足を踏みつけ、ぐり、と動かした。
男から叫びがあがるが、チェストリーがそれを気にする様子はない。
「さあ旦那様。早く行ってください」
彼はカレンに人生を救われ、従者として彼女を守り続けた男。
偽の夫と父親の役を引き受けるほどの忠義だ。
カレンをさらわれて怒っているのは、ジョンズワートだけではないのである。
ジョンズワートに笑顔を向けているが、目が、笑っていなかった。
今のチェストリーには、強烈な殺意が宿っている。
「あ、ああ……。殺すなよ……?」
「ええ。殺さないよう、素手でやります」
先ほどアーティに言われたのと同じ言葉を、今度はジョンズワートがチェストリーへ。
チェストリーは、拳を振りかぶりながらも、やっぱり笑っていた。
にじみ出る怒りと迫力に、ジョンズワートまで気圧されてしまうほどだ。
笑いながら怒り狂うチェストリーの暴れっぷりに、ジョンズワートは少しばかり冷静になった。
十人以上いたはずの賊どもも、もう半数近くチェストリーに制圧されている。
残りの連中も、任せてしまって大丈夫だろう。
「ありがとう、チェストリー」
ジョンズワートは、カレンたちを探すために駆けだした。
14
お気に入りに追加
3,346
あなたにおすすめの小説
あなたの子ではありません。
沙耶
恋愛
公爵令嬢アナスタシアは王太子セドリックと結婚したが、彼に愛人がいることを初夜に知ってしまう。
セドリックを愛していたアナスタシアは衝撃を受けるが、セドリックはアナスタシアにさらに追い打ちをかけた。
「子は要らない」
そう話したセドリックは避妊薬を飲みアナスタシアとの初夜を終えた。
それ以降、彼は愛人と過ごしておりアナスタシアのところには一切来ない。
そのまま二年の時が過ぎ、セドリックと愛人の間に子供が出来たと伝えられたアナスタシアは、子も産めない私はいつまで王太子妃としているのだろうと考え始めた。
離縁を決意したアナスタシアはセドリックに伝えるが、何故か怒ったセドリックにアナスタシアは無理矢理抱かれてしまう。
しかし翌日、離縁は成立された。
アナスタシアは離縁後母方の領地で静かに過ごしていたが、しばらくして妊娠が発覚する。
セドリックと過ごした、あの夜の子だった。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
夫に離縁が切り出せません
えんどう
恋愛
初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。
妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
window
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
「私も新婚旅行に一緒に行きたい」彼を溺愛する幼馴染がお願いしてきた。彼は喜ぶが二人は喧嘩になり別れを選択する。
window
恋愛
イリス公爵令嬢とハリー王子は、お互いに惹かれ合い相思相愛になる。
「私と結婚していただけますか?」とハリーはプロポーズし、イリスはそれを受け入れた。
関係者を招待した結婚披露パーティーが開かれて、会場でエレナというハリーの幼馴染の子爵令嬢と出会う。
「新婚旅行に私も一緒に行きたい」エレナは結婚した二人の間に図々しく踏み込んでくる。エレナの厚かましいお願いに、イリスは怒るより驚き呆れていた。
「僕は構わないよ。エレナも一緒に行こう」ハリーは信じられないことを言い出す。エレナが同行することに乗り気になり、花嫁のイリスの面目をつぶし感情を傷つける。
とんでもない男と結婚したことが分かったイリスは、言葉を失うほかなく立ち尽くしていた。
婚約者の王子が結婚している幼馴染を妊娠させる。婚約破棄になって別れたけど助けてと泣きついてきた。
window
恋愛
アルベルト王子とエレン公爵令嬢は居心地の良い恋人関係。婚約した時には二人は幸福感で笑顔が浮かんでいた。
どちらも死ぬほど愛している両想いで、心の底から好きな気持ちがあふれている。しかしアルベルトの様子が最近おかしい?何となくエレンは勘付く。
「僕は料理教室に通う。料理を作る素晴らしさに目覚めた!」
不意打ちのように彼からそんな信じられないことを言われた。最初は王子の彼が料理……?と驚いて紅茶を吹き出しそうになる。
実際のところはていのいい方便に過ぎない。彼は幼馴染で講師のクローディアとただならない関係を続けていた。エレンは彼女が既婚者だったことにも呆れてしまうのです……
夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。
結婚式で王子を溺愛する幼馴染が泣き叫んで婚約破棄「妊娠した。慰謝料を払え!」花嫁は王子の返答に衝撃を受けた。
window
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の結婚式に幼馴染が泣き叫んでかけ寄って来た。
式の大事な場面で何が起こったのか?
二人を祝福していた参列者たちは突然の出来事に会場は大きくどよめいた。
王子は公爵令嬢と幼馴染と二股交際をしていた。
「あなたの子供を妊娠してる。私を捨てて自分だけ幸せになるなんて許せない。慰謝料を払え!」
幼馴染は王子に詰め寄って主張すると王子は信じられない事を言って花嫁と参列者全員を驚かせた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる