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第三章

13 従者は、主人が必要としている人を、進ませた。

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 カレンとショーンをさらったのは、この近隣で悪さをしているごろつき共だった。
 悪党は悪党だが、ジョンズワートたちからしてみれば小物。
 どのグループなのかも、アジトも、カレンを連れ込んだ場所も。すぐに割り出すことができた。
 カレンが公爵の妻だと知って、勢いだけで誘拐を実行したのだろう。
 場合によってはこちらも人数を用意し、奪還計画を立てるところだが……そんなもの、必要がない程度の相手だった。
 カレンの護衛を任されるほど腕の立つのチェストリーとアーティはもちろん、ジョンズワートも、ある程度の戦闘技術は身につけている。
 乗り込むのは、この三人で十分だ。
 





「失礼する」
「ああ!? なんだお前ら!」

 妻子をさらわれたジョンズワートは、すっかり頭に血がのぼっていた。
 カレンをさらった者たちのアジトに、正面から突っ込むぐらいには。
 ドアを蹴破って堂々と現れたジョンズワートを、多数の男が睨みつける。ざっと見た感じだが、この部屋にいるのは十数人ほどだろうか。
 廃業した宿屋をアジトにしているようで、中は広い。他の場所にも、悪党どもがいるはずだ。
 掃除などろくにされていないうえに、男臭い。
 男だらけのこんな汚い場所に妻子が囚われているのかと思うと、更に怒りが増した。

「カレンとショーンを、返してもらう」

 地を這うような低い声。すらりと抜かれる剣。
 長身で、品のある男が、剣を持って真顔で近づいてくる。
 殺される。そう思わせるだけの迫力があった。賊たちは怯んだが、そのうちの一人が「相手は三人だけだぞ!」と叫んだことにより、それぞれ臨戦態勢に。

「ワート、殺すなよ」
「わかってる。カレンたちに汚いものを見せたくない」

 アーティに言われずとも、殺す気はなかった。
 妻子に死体を見せたくなかったし、血に濡れた手で触れるのも嫌だった。
 ああ、早くこいつらを蹴散らして、妻子の元へ行こう。
 妻子のため、ジョンズワートは前へ踏み込もうとしたのだが。

「旦那様。ここは俺に任せて、お嬢のところへ」
「……チェストリー?」
「あんたは自分が通る道だけ作ればいい。こいつらの掃除は俺がします」

 そう言いながらも、チェストリーは襲い掛かってきた男を返り討ちにし、床に叩きつける。
 相手はナイフや鈍器を持っているが、チェストリーは素手である。
 今は狩人でもあるため、ナイフなどの刃物も普段から携帯しているのだが……それすら出さずに、一人で男たちを片付けていく。

「なあ、あの人が誰だかわかってて、手ぇ出したんだよな? 相応の覚悟はできてるよなあ!?」
「ひっ……!」

 チェストリーが、床に倒れる男の足を踏みつけ、ぐり、と動かした。
 男から叫びがあがるが、チェストリーがそれを気にする様子はない。

「さあ旦那様。早く行ってください」

 彼はカレンに人生を救われ、従者として彼女を守り続けた男。
 偽の夫と父親の役を引き受けるほどの忠義だ。
 カレンをさらわれて怒っているのは、ジョンズワートだけではないのである。
 ジョンズワートに笑顔を向けているが、目が、笑っていなかった。
 今のチェストリーには、強烈な殺意が宿っている。

「あ、ああ……。殺すなよ……?」
「ええ。殺さないよう、素手でやります」

 先ほどアーティに言われたのと同じ言葉を、今度はジョンズワートがチェストリーへ。
 チェストリーは、拳を振りかぶりながらも、やっぱり笑っていた。
 にじみ出る怒りと迫力に、ジョンズワートまで気圧されてしまうほどだ。
 笑いながら怒り狂うチェストリーの暴れっぷりに、ジョンズワートは少しばかり冷静になった。
 十人以上いたはずの賊どもも、もう半数近くチェストリーに制圧されている。
 残りの連中も、任せてしまって大丈夫だろう。

「ありがとう、チェストリー」

 ジョンズワートは、カレンたちを探すために駆けだした。
 
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