上 下
11 / 21

10.地属性で朽化はできるか

しおりを挟む
 【大陸一の賢者】は食事中、不意にフォークを立てて尋ねた。

「石化魔法はできたわけだけど、朽化? 砂化? みたいなのはできる?」

 風の四天王対策秘密基地出張所・地上物見砦カフェテラス
 地下秘密基地にこもってばかりでは健康を害するということで、賢者と勇者は、風の四天王城から少し距離を取った場所に一部屋とキッチンのみの簡単な砦を作って、屋上で昼食を摂っていた。

「何でふかそれ」

 【地の勇者】ドリスは、口腔いっぱいに賢者特製ミックスピザを頬張りながら聞き返す。
 賢者の料理には、ドリスが王都の有名店でも見なかったような不思議な物が時折ある。見たことのあるような料理でも、ドリスの知るそれより強い芯を持ち、遥かに洗練されている。
 四勇者の招集があってから旅立ちまで十日程の間があったが、王都に友人も知人も用事もないドリスは、国からの支度金を使って、一人で王都の美食巡りをしていた。賢者の料理は、田舎料理にしては洗練され、手間がかかっているし、思い付きの創作料理にしては長い時を経て研究されてきた跡が見える。そして珍しいだけではなく、単純に旨い。
 食べながら会話をすることになるのも已む無し。ドリスは己に許しを与えた。

「敵や物を一瞬で砂に変えるとか、そういう」
「んぐっ……できませんよそんなの。人を何だと思ってるんですか」

 賢者は軽く頷くと、フォークをサラダに突き立てた。

「賢者様いつも結構無茶ぶりしますけどね、いっぺん自分でやってみてくださいよ」
「無理だよ、俺魔力ないし」
「あっても無理ですよ」

 石化の術陣から結合力を奪えば砂になりそうなものだが、結合力がなければ陣の維持は難しく、連鎖的な発動は行えないだろう。一部が砂になる程度なら、回復自体は魔法で可能だと思われる。そもそも、石化は既に防がれているのだ。

「あー、石でできた建物を砂にするとかは普通にできますよ。あと、カラカラに乾いた木材なら、真面目に殴れば粉にできます」

 ドリスは考え込む賢者にそう告げて、口の向かう先をピザへと移す。

「こう、砂で水分を吸着して、相手をカラカラに乾かすとか」
「んっ……くん。乾かすとか、それって水属性じゃないですか?」
「君の話聞いてると、水属性も大概物騒だよね」

 毒に、酸に、相手から水分を奪う。ないとは思うが、仮に四勇者がドリス並みの魔力量を持つのだとしたら、洪水やウォータージェット切断、気化による冷凍等もお手の物だろう。ドリスの半分ほどの力でもあれば、四天王の始末もそう時間はかかるまい。実際の所、風の四天王城の【地属性無効】が、障害として大きすぎるのだ。
 他の三人が仕事を終えた後でドリスだけが取り残されるようでは賢者の名折れだし、ドリスとしても本意ではないはずだ。

 それなりにペースを上げよう、と賢者は決めた。

 まぁ次回から、とも決めた。

「朽化……風化、となると、普通は風属性になるのかな」

 風化。つまり、小さな衝撃に晒し続けることで、少しずつ脆くして、削っていく。

「地震のエネルギーを細かい振動にして、相手に与え続けるってのはできる?」
「あー。よく勘違いされるんですけど、それ無理なんですよね」

 ドリス曰く、地震魔法は振動を起こすのではなく、地面を動かし、エネルギーを蓄積して、暴発させるものであり、細かい振動は原理的に不可能とのことだった。

「地震でマッサージしてくれーとかいう阿呆がいましたけど、家ごと揺らしたら泣かれましたね」
「なるほどなぁ」
「そのまましばらく止めませんでしたが」

 朽化、風化は、地属性では難しいらしい。

「体が砂になる、ってのは、地属性魔法効果的にも良い感じだと思ったんだけどなぁ」

 実験に入る前に「できない」ということがわかってしまうと、何をしようもない。賢者は砂を噛むような表情でサラダを咀嚼する。

 自分の身体を・・・・・・砂にする魔物モンスターというのは存在する。賢者がまだ権威も財力も持たなかった頃に――といってもほんの数ヶ月前だが――そういうモンスターに襲われたのだ。
 スナオオネズミという獣系魔物で、脳以外の全身が砂で構築されている。心臓が破壊されても土で心臓を構築することはできる、とは以前にドリスが言っていたことだが、それを常日頃から行っているのが、このスナオオネズミだ。脳自体も体の大きさの割には小さいため、短時間であればただの地面に擬態することができる。ただ、長時間身体を崩していると脳が壊死するため、野生ではほとんど行われないらしい。

「自分の身体を砂に変えるとかはできる?」
「賢者様はあたしを何だと思ってるんですかね」

 可能不可能で言えば可能なのかもしれないが、よくよく考えてみれば、風の四天王戦では何の役にも立たない気もする。詳細を語ることもなく、賢者はこの案を棄却した。

「黄砂、砂肝。時の砂……は流石に現実的じゃないよなぁ」
「あれって凄いのは砂時計の器の部分で、砂自体はちょっと綺麗な普通の砂ですよ」
「あ、あるのはあるんだ」

 朽化を諦めて砂に範囲を広げても、なかなか良案は浮かばない。

「あ、サンドペーパー?」
「痛そう!!」

 袋に砂を詰めてブラックジャックをこしらえても、結局は単なる鈍器に過ぎない。

「また砂風呂ってわけにもなぁ」
「ご飯に砂混ぜられたら、すごい嫌じゃないですか?」
「食事中にする話でもないよね」

 といった所で会議は一旦終了し、二人は食事へと意識を戻した。

***

 その日、魔王軍【風の四天王】ヴェゼルフォルナは、平穏な一日を過ごした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

夜霧の騎士と聖なる銀月

羽鳥くらら
ファンタジー
伝説上の生命体・妖精人(エルフ)の特徴と同じ銀髪銀眼の青年キリエは、教会で育った孤児だったが、ひょんなことから次期国王候補の1人だったと判明した。孤児として育ってきたからこそ貧しい民の苦しみを知っているキリエは、もっと皆に優しい王国を目指すために次期国王選抜の場を活用すべく、夜霧の騎士・リアム=サリバンに連れられて王都へ向かうのだが──。 ※多少の戦闘描写・残酷な表現を含みます ※小説家になろう・カクヨム・ノベルアップ+・エブリスタでも掲載しています

胎児、魔王を退治する

福場 三築
ファンタジー
 何だか前世の記憶があるような無いような気がする『俺』は、どうやら勇者と共に魔王討伐に向かう聖女様のお腹に宿る胎児らしい。  不思議な力を持って受精卵に宿った意識の集合体『俺』は、聖女様が死なないように彼女の胎内で彼女をお守りするのだった。  ママ上、俺が魔王討伐してみせますよ。胎児より。 ※実は妊娠七週目までは胎児ではなく胎芽と言うのですが、胎児の方が伝わりやすいと思い、あえてそういうふうに書いています。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

七英雄伝 ~長すぎる序章 魔王討伐に出た女勇者、返り討ちに遭ってなぜか魔王に求婚されたが絶対婚約なんてしない~

コメッコ
ファンタジー
人類の悲願魔王を討伐の為に仲間と共に魔界に旅立った勇者ルナティア。 しかし、魔王城に辿り着く前にルナティア達の前に立ちはだかったのは四天王最強にして魔王の側近たる黒騎士魔人シュトライゼン。 魔王城を目指すためにルナティア達は魔人シュトライゼンに戦いを挑むが、その実力差は明白だった。 そしてシュトライゼン相手に勝機を見出せないルナティアは仲間を逃がすために1人シュトライゼンと一騎打ちに出る事を決意する。 戦いの末、魔王城に囚われたルナティアはそこで予想もしていなかった事態に直面することになる。 この話は人間界に七英雄が現れる要因を作ったある事件が起こるまでを描いた作品になっています。 ↑ 話が進むまではなんのこっちゃって感じだと思いますのでそこらへんは当分無視して頂いて、なんか後々七英雄が出てくるんだなー。程度に思って下さったら嬉しいです。 私の別作品『魔王をするのにも飽きたので神をボコって主人公に再転生!』とも一応関連している作品となっていますので、良かったらこちらも見て頂けると嬉しいです。 ↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/638530573/610242317 小説家になろうに投稿後した後アルファポリス、カクヨム、ツギクルにもまとめて投稿してます。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

処理中です...