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4.地属性で金属は作れるか
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「いや、無理でしょう。そんなの魔法じゃなくて錬金術じゃないですか」
「その区切りが今一わかんないんだよなぁ」
鉄は作れないし、金も作れない。
鉄鉱石を操れることはできるが、鉄鉱石を作ることはできない。
鉄鉱石っぽい石は作れるけど、それっぽいだけの石で、鉄は含まれていない。
鉄は、土でも石でもないからだ。
砂鉄も作れないし、砂鉄を操ることもできない。
それは【大陸一の賢者】が実際に購入した鉄鉱石や砂鉄を使った実験で証明された「結果」であり、またそれは世界における地属性魔法の「常識」であって、常識であるからこそ、「事実」であった。近隣に人の住む町や村は残っていないので、わざわざ遠方から取り寄せた実験器材だが、結果が失敗に終わったことは、賢者にとって損失とはならない。それが「出来ない」ことが分かるだけでも、十分な収穫だ。
鉄が無理なら金も無理だろうし、ミスリルやオリハルコンにアダマンタイン、そうした伝説の金属も当然作れない。初めからできないとわかっているのなら、わざわざサンプルを探し、購入してくる必要もないのだから。
「磁鉄鉱も無理かぁ。磁石と金属が作れたらモーターも作れるし、色々やりようはあるんだけどね」
賢者のぼやきを、【地の勇者】ドリスは首を傾げて聞き流した。
「魔法で作った鉄槍を付けた、山二つサイズのモーターカーを突撃させるとか。一発で壊れる前提なら時速三百キロは出せるだろうし、魔法で作った部分以外は単なる打撃や刺突になるはずだから、城を破壊しつつ、本命の地属性部分で消し飛ばせるかなぁと思ったんだけど、無理なら仕方ないか」
城を破壊しつつ消し飛ばす、の部分はドリスにも理解できたが、その方法の実現性が低い、と賢者は判断したのだろう。
「起電力は化学電池でもいいから自励発電自体は可能だろうけど……地属性はどこに関わるんだよなぁ」
賢者は、ドリスに理解させる気のある言葉については、理解できるレベルの言葉で説明する。ドリスに理解できないことを言いだした時は、そもそも理解させる気がないか、理解しても意味のない話をしている時だ、というのは短い付き合いでもわかってきた。
先日は賢者が独り言で口にしたホイヘンス=フレネルの原理なるものを、頼み込んで、時間をかけて、どうにかぼんやり理解できるまで解説してもらったが、ドリスの感想は「なるほどなぁ」で終いであった。
そして悟った。一度聞かされて理解できず、賢者が別の説明を試みようとも思わないような知識は、その人間には分不相応なものなのだ。そんなものは理解を放棄するか、それが理解できるまで脇に置いておけば良い。
しかし、自分にわからない話を一人でされてもつまらない。
独白の間へ差し込むように、自分から話を振る。
「土とか砂とか石とか、それ系以外は無理ですよ。地面じゃないですしね」
「あー、石がいけるなら宝石は?」
新しい話題を振れば、すぐさま反応はある。
「石と宝石って全然違うじゃないですか。シャモ属性魔法使いにシシャモ作れっていうようなもんですよ」
「シャモ属性って何だよ」
「あたしも知りませんが」
中身のない話題がそうそう続くものでもないが。
それでも、思考の出発点さえあれば、そこから話を広げることは可能だ。
宝石を作ることはできなくとも、宝石が埋まった土や石を丸ごと操作して掘り出す、という程度ならできるだろう、と賢者は考えた。
「宝石でも金属でも、採掘権ぶっちぎって鉱山掘ったら、お尋ね者だろうね」
「良くて斬首刑、悪くて一族郎党斬首刑ですよねぇ」
結局の所、金属は扱えない、ということになった。
五行で言っても土と金は別属性なのだから、そういうこともあるだろう。賢者も想定していたことではあったが、残念には思う。
「どこまでが土か、どこまでが土じゃないか。折角だから調べてみようか!」
とはいえ、一つの課題の解決は、そのまま新しい課題を生む切っ掛けとなる。
「そんな感じでいきましょう!」
楽しそうな賢者に乗っかって、ドリスも元気よく賛同した。
***
世界が揺らぐ音がした。
爆風が二人の髪を揺らす。
ドリスの二房の三編みが暴れ回って賢者の顔を打つ。
バランスを崩して倒れ掛けた賢者を片手で引き上げる。
遠く離れた山の頂上にいても、冷めやらぬ熱を浴びる。
「石炭、硫黄、硝石が作れるとなったら、そりゃ黒色火薬だよねぇ」
城の壁を覆うように火薬を積み上げ、遠距離から魔法で衝撃を与えて着火。いわゆる「火打石」は金属成分なため地属性魔法では作れないが、大きな岩でもぶつければ、衝撃や摩擦で引火爆発する。
城は瓦礫になり、土地は抉れ、焦土となった。
「流石は賢者様です!!」
全ての素材を用意し、この距離から本来は中距離魔術である【串刺し墓標】をぶち当てたドリスも、大はしゃぎで黒煙を眺めていた。
「でもこれ地属性っていうより、火と風ですよね?」
「うん、【地属性無効】の城が瓦礫になってるってことは、そうなんだろうね」
予想ができていても、結果を見るまでが実験なのだ。実験の意義には、大きく分けて二種類ある。結果を観察すること、そして、仮説を証明することである。
「地属性の歴史は変わるだろうけど、今回に限っては意味なかったかな」
失敗したにも関わらず上機嫌の賢者。ふと、その視界の端の空中に、緑色の何かが映る。あれは人影、緑の髪の毛だろうか。女性の泣き声、喚き声のような音色が、風に乗って耳に届いた気がした。
「あ、やっばいですね。超怒ってますよ、あいつ」
「あいつ?」
「風の四天王です。賢者様殺されますよ」
乱射される風の刃、砕かれる山頂、散る土石、吹き飛ぶ植生。ドリスに抱えられた賢者は、「そりゃ殺しに来るわなぁ」と呟き、首を縮めて、目を瞑った。
「その区切りが今一わかんないんだよなぁ」
鉄は作れないし、金も作れない。
鉄鉱石を操れることはできるが、鉄鉱石を作ることはできない。
鉄鉱石っぽい石は作れるけど、それっぽいだけの石で、鉄は含まれていない。
鉄は、土でも石でもないからだ。
砂鉄も作れないし、砂鉄を操ることもできない。
それは【大陸一の賢者】が実際に購入した鉄鉱石や砂鉄を使った実験で証明された「結果」であり、またそれは世界における地属性魔法の「常識」であって、常識であるからこそ、「事実」であった。近隣に人の住む町や村は残っていないので、わざわざ遠方から取り寄せた実験器材だが、結果が失敗に終わったことは、賢者にとって損失とはならない。それが「出来ない」ことが分かるだけでも、十分な収穫だ。
鉄が無理なら金も無理だろうし、ミスリルやオリハルコンにアダマンタイン、そうした伝説の金属も当然作れない。初めからできないとわかっているのなら、わざわざサンプルを探し、購入してくる必要もないのだから。
「磁鉄鉱も無理かぁ。磁石と金属が作れたらモーターも作れるし、色々やりようはあるんだけどね」
賢者のぼやきを、【地の勇者】ドリスは首を傾げて聞き流した。
「魔法で作った鉄槍を付けた、山二つサイズのモーターカーを突撃させるとか。一発で壊れる前提なら時速三百キロは出せるだろうし、魔法で作った部分以外は単なる打撃や刺突になるはずだから、城を破壊しつつ、本命の地属性部分で消し飛ばせるかなぁと思ったんだけど、無理なら仕方ないか」
城を破壊しつつ消し飛ばす、の部分はドリスにも理解できたが、その方法の実現性が低い、と賢者は判断したのだろう。
「起電力は化学電池でもいいから自励発電自体は可能だろうけど……地属性はどこに関わるんだよなぁ」
賢者は、ドリスに理解させる気のある言葉については、理解できるレベルの言葉で説明する。ドリスに理解できないことを言いだした時は、そもそも理解させる気がないか、理解しても意味のない話をしている時だ、というのは短い付き合いでもわかってきた。
先日は賢者が独り言で口にしたホイヘンス=フレネルの原理なるものを、頼み込んで、時間をかけて、どうにかぼんやり理解できるまで解説してもらったが、ドリスの感想は「なるほどなぁ」で終いであった。
そして悟った。一度聞かされて理解できず、賢者が別の説明を試みようとも思わないような知識は、その人間には分不相応なものなのだ。そんなものは理解を放棄するか、それが理解できるまで脇に置いておけば良い。
しかし、自分にわからない話を一人でされてもつまらない。
独白の間へ差し込むように、自分から話を振る。
「土とか砂とか石とか、それ系以外は無理ですよ。地面じゃないですしね」
「あー、石がいけるなら宝石は?」
新しい話題を振れば、すぐさま反応はある。
「石と宝石って全然違うじゃないですか。シャモ属性魔法使いにシシャモ作れっていうようなもんですよ」
「シャモ属性って何だよ」
「あたしも知りませんが」
中身のない話題がそうそう続くものでもないが。
それでも、思考の出発点さえあれば、そこから話を広げることは可能だ。
宝石を作ることはできなくとも、宝石が埋まった土や石を丸ごと操作して掘り出す、という程度ならできるだろう、と賢者は考えた。
「宝石でも金属でも、採掘権ぶっちぎって鉱山掘ったら、お尋ね者だろうね」
「良くて斬首刑、悪くて一族郎党斬首刑ですよねぇ」
結局の所、金属は扱えない、ということになった。
五行で言っても土と金は別属性なのだから、そういうこともあるだろう。賢者も想定していたことではあったが、残念には思う。
「どこまでが土か、どこまでが土じゃないか。折角だから調べてみようか!」
とはいえ、一つの課題の解決は、そのまま新しい課題を生む切っ掛けとなる。
「そんな感じでいきましょう!」
楽しそうな賢者に乗っかって、ドリスも元気よく賛同した。
***
世界が揺らぐ音がした。
爆風が二人の髪を揺らす。
ドリスの二房の三編みが暴れ回って賢者の顔を打つ。
バランスを崩して倒れ掛けた賢者を片手で引き上げる。
遠く離れた山の頂上にいても、冷めやらぬ熱を浴びる。
「石炭、硫黄、硝石が作れるとなったら、そりゃ黒色火薬だよねぇ」
城の壁を覆うように火薬を積み上げ、遠距離から魔法で衝撃を与えて着火。いわゆる「火打石」は金属成分なため地属性魔法では作れないが、大きな岩でもぶつければ、衝撃や摩擦で引火爆発する。
城は瓦礫になり、土地は抉れ、焦土となった。
「流石は賢者様です!!」
全ての素材を用意し、この距離から本来は中距離魔術である【串刺し墓標】をぶち当てたドリスも、大はしゃぎで黒煙を眺めていた。
「でもこれ地属性っていうより、火と風ですよね?」
「うん、【地属性無効】の城が瓦礫になってるってことは、そうなんだろうね」
予想ができていても、結果を見るまでが実験なのだ。実験の意義には、大きく分けて二種類ある。結果を観察すること、そして、仮説を証明することである。
「地属性の歴史は変わるだろうけど、今回に限っては意味なかったかな」
失敗したにも関わらず上機嫌の賢者。ふと、その視界の端の空中に、緑色の何かが映る。あれは人影、緑の髪の毛だろうか。女性の泣き声、喚き声のような音色が、風に乗って耳に届いた気がした。
「あ、やっばいですね。超怒ってますよ、あいつ」
「あいつ?」
「風の四天王です。賢者様殺されますよ」
乱射される風の刃、砕かれる山頂、散る土石、吹き飛ぶ植生。ドリスに抱えられた賢者は、「そりゃ殺しに来るわなぁ」と呟き、首を縮めて、目を瞑った。
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