10 / 50
2.じゅわっと五目巾着煮
きょうの献立
しおりを挟む
「評価が低いのは本人も不本意だろうし、会社のためにもデキる社員になったほうがいいのは当然だしね。指導するっていっても、やさ~~しく! を心掛けてるわよ、ちゃんと」
どうだか、と首をかしげながら、郡司がほかほかごはんのお茶碗を渡してくる。
「でもさーーー! やっぱ疲れるよね。本当は、あんまりひとに教えたりするの得意じゃないし」
おそらく私は、ひとりで猪突猛進に、ドドドドッと仕事を進めていくほうが性にあっている。脇目も振らずというか。むしろ振りたくないというか。
汁ものをテーブルに置く郡司に、視線で「もう食べていい?」と急かす。ちなみに、今回の献立は以下のとおり。
------------------------------------
【今日の献立】
・じゅわっと五目巾着煮
・ほうれん草のピーナッツ和え
・なすの甘酢だれ
・ごはん
・トマトのふわふわ卵の味噌汁
------------------------------------
「どーぞ」
許可が出たので、私は、ぱんっと手を合わせてお箸を取る。
「いただきま~~す!」
まずは、なすの副菜をいただく。
照りっ照りの見た目だ。甘酢だれが、なすにとろっとよく絡んでおいしい。ちょっと濃いめの味付けなので、ごはんがもりもり進む。
野菜とは思えないほどジューシーだし、なすの形がほとんど崩れていない。もしかしたら、たれと絡める前に一度、油で揚げているのかもしれない。
「素揚げ?」
もぐもぐしながら郡司に問う。
「いや、片栗粉つけてる」
なるほど、それで甘酢だれがよく絡むのか。
さくさくとろ~り。めちゃくちゃおいしい。ごはんにマッチし過ぎて、副菜一品で早くもごはんをおかわりしてしまった。
続いて、ほうれん草のピーナッツ和え。
ピーナッツがたっぷり入っている。こまかくすり潰した分と、粗めに残っているピーナッツが風味と食感を楽しませてくれる。
「わざわざ二回に分けて、すり潰した感じ?」
「……まぁ」
面倒くさそうにしながらも、郡司は返事をくれる。
勢いよくごはんを頬張りながら、テーブルの端に置かれた献立のメモをちらりと見る。トマトのふわふわ卵の味噌汁、のところをまじまじと見た。
トマトの味噌汁なんて、初めての体験だ。味が気になる。
どきどきしながらすすると、メモの通り卵はふんわりしていた。きめ細かい卵の舌触りと、まろやかな味噌の風味。やはり、あったかい汁物はほっとする。
そして、肝心のトマトと味噌の組み合わせは意外にも合っていた。トマトの酸味と味噌に溶けだした出汁の旨味。おいしくて、ほっこりする。
そして、いよいよメイン。五目巾着煮にそっと箸を伸ばした。
見た目にもふっくらした揚げにかぶりつくと、やさしい出汁の旨味がじゅわじゅわ~~っとあふれだした。中には、鶏ミンチ、枝豆、みじん切りされた人参としいたけがたっぷりと詰め込まれている。
彩り豊かな具材がうれしい。やさしい味なのにごはんが欲しくなる。もりもりと食べながら、意外に郡司は細かい仕事が好きなのかなと思った。
具材のタネを作って、油揚げに詰めて、ことこと煮る。五目巾着煮は手間のかかる料理だ。
そういえば、ピーナツにもひと手間を加えていた。
「なに?」
じっと見ていると、郡司と視線が合った。
「こまごました料理が好きなのかなと思って」
「別に」
「じゃあ、なんで今日のメインは五目巾着煮なの?」
口の中につめこみ過ぎて、もごもごと言いながら彼に問う。
「いなり寿司が好きって書いてあったから、油揚げを使った」
ダルそうに視線を外しながら、郡司が答えた。
「いなり寿司?」
なんの話だろう、と思いながら自分の記憶をたどる。
「あ、好みの欄!」
そういえば、きっちんすたっふに登録する際に、アレルギーの有無や好みを伝える箇所があった。
私はまず、アレルギーは無し、と入力した。そして、そのときたまたま食べたかったいなり寿司を好みの欄に入れておいたのだ。
「郡司くん、真面目だね~~!」
もぐもぐしながら言うと、特にうれしそうにすることもなく郡司は後片付けを始めた。
顧客の好みに合わせて献立を考えるなんて、真面目でやる気に満ち溢れたスタッフだと思う。ダルそうな態度からは、やる気は微塵も感じられないのだけど。
腕は良いし、西依さんといい、きっちんすたっふは良いスタッフさんを抱えてるなぁ、と私はおいしいごはんを堪能しながら思った。
どうだか、と首をかしげながら、郡司がほかほかごはんのお茶碗を渡してくる。
「でもさーーー! やっぱ疲れるよね。本当は、あんまりひとに教えたりするの得意じゃないし」
おそらく私は、ひとりで猪突猛進に、ドドドドッと仕事を進めていくほうが性にあっている。脇目も振らずというか。むしろ振りたくないというか。
汁ものをテーブルに置く郡司に、視線で「もう食べていい?」と急かす。ちなみに、今回の献立は以下のとおり。
------------------------------------
【今日の献立】
・じゅわっと五目巾着煮
・ほうれん草のピーナッツ和え
・なすの甘酢だれ
・ごはん
・トマトのふわふわ卵の味噌汁
------------------------------------
「どーぞ」
許可が出たので、私は、ぱんっと手を合わせてお箸を取る。
「いただきま~~す!」
まずは、なすの副菜をいただく。
照りっ照りの見た目だ。甘酢だれが、なすにとろっとよく絡んでおいしい。ちょっと濃いめの味付けなので、ごはんがもりもり進む。
野菜とは思えないほどジューシーだし、なすの形がほとんど崩れていない。もしかしたら、たれと絡める前に一度、油で揚げているのかもしれない。
「素揚げ?」
もぐもぐしながら郡司に問う。
「いや、片栗粉つけてる」
なるほど、それで甘酢だれがよく絡むのか。
さくさくとろ~り。めちゃくちゃおいしい。ごはんにマッチし過ぎて、副菜一品で早くもごはんをおかわりしてしまった。
続いて、ほうれん草のピーナッツ和え。
ピーナッツがたっぷり入っている。こまかくすり潰した分と、粗めに残っているピーナッツが風味と食感を楽しませてくれる。
「わざわざ二回に分けて、すり潰した感じ?」
「……まぁ」
面倒くさそうにしながらも、郡司は返事をくれる。
勢いよくごはんを頬張りながら、テーブルの端に置かれた献立のメモをちらりと見る。トマトのふわふわ卵の味噌汁、のところをまじまじと見た。
トマトの味噌汁なんて、初めての体験だ。味が気になる。
どきどきしながらすすると、メモの通り卵はふんわりしていた。きめ細かい卵の舌触りと、まろやかな味噌の風味。やはり、あったかい汁物はほっとする。
そして、肝心のトマトと味噌の組み合わせは意外にも合っていた。トマトの酸味と味噌に溶けだした出汁の旨味。おいしくて、ほっこりする。
そして、いよいよメイン。五目巾着煮にそっと箸を伸ばした。
見た目にもふっくらした揚げにかぶりつくと、やさしい出汁の旨味がじゅわじゅわ~~っとあふれだした。中には、鶏ミンチ、枝豆、みじん切りされた人参としいたけがたっぷりと詰め込まれている。
彩り豊かな具材がうれしい。やさしい味なのにごはんが欲しくなる。もりもりと食べながら、意外に郡司は細かい仕事が好きなのかなと思った。
具材のタネを作って、油揚げに詰めて、ことこと煮る。五目巾着煮は手間のかかる料理だ。
そういえば、ピーナツにもひと手間を加えていた。
「なに?」
じっと見ていると、郡司と視線が合った。
「こまごました料理が好きなのかなと思って」
「別に」
「じゃあ、なんで今日のメインは五目巾着煮なの?」
口の中につめこみ過ぎて、もごもごと言いながら彼に問う。
「いなり寿司が好きって書いてあったから、油揚げを使った」
ダルそうに視線を外しながら、郡司が答えた。
「いなり寿司?」
なんの話だろう、と思いながら自分の記憶をたどる。
「あ、好みの欄!」
そういえば、きっちんすたっふに登録する際に、アレルギーの有無や好みを伝える箇所があった。
私はまず、アレルギーは無し、と入力した。そして、そのときたまたま食べたかったいなり寿司を好みの欄に入れておいたのだ。
「郡司くん、真面目だね~~!」
もぐもぐしながら言うと、特にうれしそうにすることもなく郡司は後片付けを始めた。
顧客の好みに合わせて献立を考えるなんて、真面目でやる気に満ち溢れたスタッフだと思う。ダルそうな態度からは、やる気は微塵も感じられないのだけど。
腕は良いし、西依さんといい、きっちんすたっふは良いスタッフさんを抱えてるなぁ、と私はおいしいごはんを堪能しながら思った。
13
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
すこやか食堂のゆかいな人々
山いい奈
ライト文芸
貧血体質で悩まされている、常盤みのり。
母親が栄養学の本を読みながらごはんを作ってくれているのを見て、みのりも興味を持った。
心を癒し、食べるもので健康になれる様な食堂を開きたい。それがみのりの目標になっていた。
短大で栄養学を学び、専門学校でお料理を学び、体調を見ながら日本料理店でのアルバイトに励み、お料理教室で技を鍛えて来た。
そしてみのりは、両親や幼なじみ、お料理教室の先生、テナントビルのオーナーの力を借りて、すこやか食堂をオープンする。
一癖も二癖もある周りの人々やお客さまに囲まれて、みのりは奮闘する。
やがて、それはみのりの家族の問題に繋がっていく。
じんわりと、だがほっこりと心暖まる物語。
タイムトラベル同好会
小松広和
ライト文芸
とある有名私立高校にあるタイムトラベル同好会。その名の通りタイムマシンを制作して過去に行くのが目的のクラブだ。だが、なぜか誰も俺のこの壮大なる夢を理解する者がいない。あえて言えば幼なじみの胡桃が付き合ってくれるくらいか。あっ、いやこれは彼女として付き合うという意味では決してない。胡桃はただの幼なじみだ。誤解をしないようにしてくれ。俺と胡桃の平凡な日常のはずが突然・・・・。
気になる方はぜひ読んでみてください。SFっぽい恋愛っぽいストーリーです。よろしくお願いします。
鎌倉古民家カフェ「かおりぎ」
水川サキ
ライト文芸
旧題」:かおりぎの庭~鎌倉薬膳カフェの出会い~
【私にとって大切なものが、ここには満ちあふれている】
彼氏と別れて、会社が倒産。
不運に見舞われていた夏芽(なつめ)に、父親が見合いを勧めてきた。
夏芽は見合いをする前に彼が暮らしているというカフェにこっそり行ってどんな人か見てみることにしたのだが。
静かで、穏やかだけど、たしかに強い生彩を感じた。
独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
水縞しま
ライト文芸
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
伊緒さんのお嫁ご飯
三條すずしろ
ライト文芸
貴女がいるから、まっすぐ家に帰ります――。
伊緒さんが作ってくれる、おいしい「お嫁ご飯」が楽しみな僕。
子供のころから憧れていた小さな幸せに、ほっと心が癒されていきます。
ちょっぴり歴女な伊緒さんの、とっても温かい料理のお話。
「第1回ライト文芸大賞」大賞候補作品。
「エブリスタ」「カクヨム」「すずしろブログ」にも掲載中です!
恋もバイトも24時間営業?
鏡野ゆう
ライト文芸
とある事情で、今までとは違うコンビニでバイトを始めることになった、あや。
そのお店があるのは、ちょっと変わった人達がいる場所でした。
※小説家になろう、カクヨムでも公開中です※
※第3回ほっこり・じんわり大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※
※第6回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます。※
青い花の里の物語
安珠あんこ
ライト文芸
その日、僕の住んでいた里は真っ赤に燃えていた。僕の家族も、僕の友達も、みんなみんな炎の中に消えていった……。そして僕も、みんなの待っている、炎の中へと入っていった……。僕はなんで生まれてきたんだろう。あの人に会うため?あの人を導いてこの世界を●してもらうため?里のみんなは、僕に優しくしてくれた。だけど、何故かみんな、哀しげな顔をしていたんだ。その日も、僕の住んでいる里には、青い花が咲き乱れていた。扉絵:越乃かん様
ある古書店販売員の日常。
猫寝 子猫
ライト文芸
現在、本編ストーリーは最終回を迎えてました。
後、小ネタのエピソード編を数話ご紹介して完結となります。
(追加のおまけ話しがあるかも知れません?)
エロい言葉や表現は有りますが、エロい事、行為そのものは少しだけしか、シていません。
(シてるジャン!)
信じるか信じないかは読者の妄想次第です。
実話を元にしていますが、少し前の時期の話しなので、現在の実生活やエッチな目的には参考にならないかも?
出来るか出来ないかは読者の妄想次第です。
また、一部あやふやな知識は創作として、ご理解下さい。
モデルにしている人物、参考にしているお店や企業さん等は有りますが、現在活動及び営業していない所や既に全く別のお店に建て直されてる場合も有ります。
お店の特定などはご迷惑になるのでご遠慮下さい。
コチラでは一切責任をもてませんのでヨロシク。
ちなみに表紙に使っている写真は自宅近くの公園に住み着いている「狸」です、大きな「ネコ」ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる