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2.じゅわっと五目巾着煮

きょうの献立

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「評価が低いのは本人も不本意だろうし、会社のためにもデキる社員になったほうがいいのは当然だしね。指導するっていっても、やさ~~しく! を心掛けてるわよ、ちゃんと」

 どうだか、と首をかしげながら、郡司がほかほかごはんのお茶碗を渡してくる。

「でもさーーー! やっぱ疲れるよね。本当は、あんまりひとに教えたりするの得意じゃないし」  

 おそらく私は、ひとりで猪突猛進に、ドドドドッと仕事を進めていくほうが性にあっている。脇目も振らずというか。むしろ振りたくないというか。

 汁ものをテーブルに置く郡司に、視線で「もう食べていい?」と急かす。ちなみに、今回の献立は以下のとおり。

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【今日の献立】

・じゅわっと五目巾着煮
・ほうれん草のピーナッツ和え
・なすの甘酢だれ
・ごはん
・トマトのふわふわ卵の味噌汁
------------------------------------

「どーぞ」

 許可が出たので、私は、ぱんっと手を合わせてお箸を取る。

「いただきま~~す!」

 まずは、なすの副菜をいただく。

 照りっ照りの見た目だ。甘酢だれが、なすにとろっとよく絡んでおいしい。ちょっと濃いめの味付けなので、ごはんがもりもり進む。

 野菜とは思えないほどジューシーだし、なすの形がほとんど崩れていない。もしかしたら、たれと絡める前に一度、油で揚げているのかもしれない。

「素揚げ?」

 もぐもぐしながら郡司に問う。

「いや、片栗粉つけてる」

 なるほど、それで甘酢だれがよく絡むのか。

 さくさくとろ~り。めちゃくちゃおいしい。ごはんにマッチし過ぎて、副菜一品で早くもごはんをおかわりしてしまった。

 続いて、ほうれん草のピーナッツ和え。

 ピーナッツがたっぷり入っている。こまかくすり潰した分と、粗めに残っているピーナッツが風味と食感を楽しませてくれる。

「わざわざ二回に分けて、すり潰した感じ?」

「……まぁ」

 面倒くさそうにしながらも、郡司は返事をくれる。

 勢いよくごはんを頬張りながら、テーブルの端に置かれた献立のメモをちらりと見る。トマトのふわふわ卵の味噌汁、のところをまじまじと見た。

 トマトの味噌汁なんて、初めての体験だ。味が気になる。

 どきどきしながらすすると、メモの通り卵はふんわりしていた。きめ細かい卵の舌触りと、まろやかな味噌の風味。やはり、あったかい汁物はほっとする。

 そして、肝心のトマトと味噌の組み合わせは意外にも合っていた。トマトの酸味と味噌に溶けだした出汁の旨味。おいしくて、ほっこりする。

 そして、いよいよメイン。五目巾着煮にそっと箸を伸ばした。

 見た目にもふっくらした揚げにかぶりつくと、やさしい出汁の旨味がじゅわじゅわ~~っとあふれだした。中には、鶏ミンチ、枝豆、みじん切りされた人参としいたけがたっぷりと詰め込まれている。

 彩り豊かな具材がうれしい。やさしい味なのにごはんが欲しくなる。もりもりと食べながら、意外に郡司は細かい仕事が好きなのかなと思った。

 具材のタネを作って、油揚げに詰めて、ことこと煮る。五目巾着煮は手間のかかる料理だ。

 そういえば、ピーナツにもひと手間を加えていた。

「なに?」

 じっと見ていると、郡司と視線が合った。

「こまごました料理が好きなのかなと思って」

「別に」

「じゃあ、なんで今日のメインは五目巾着煮なの?」

 口の中につめこみ過ぎて、もごもごと言いながら彼に問う。

「いなり寿司が好きって書いてあったから、油揚げを使った」

 ダルそうに視線を外しながら、郡司が答えた。

「いなり寿司?」

 なんの話だろう、と思いながら自分の記憶をたどる。

「あ、好みの欄!」

 そういえば、きっちんすたっふに登録する際に、アレルギーの有無や好みを伝える箇所があった。

 私はまず、アレルギーは無し、と入力した。そして、そのときたまたま食べたかったいなり寿司を好みの欄に入れておいたのだ。

「郡司くん、真面目だね~~!」

 もぐもぐしながら言うと、特にうれしそうにすることもなく郡司は後片付けを始めた。

 顧客の好みに合わせて献立を考えるなんて、真面目でやる気に満ち溢れたスタッフだと思う。ダルそうな態度からは、やる気は微塵も感じられないのだけど。
 
 腕は良いし、西依さんといい、きっちんすたっふは良いスタッフさんを抱えてるなぁ、と私はおいしいごはんを堪能しながら思った。
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