May

樫野 珠代

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番外編

宗人の苦労②

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俺は書類を持って壱の元へと向かった。
社長の言葉に対する怒りを胸に秘めて。


しかしそれは壱に話を聞いた瞬間、急激にその怒りが冷めていき、その内容とそしてここ最近の壱の不機嫌さを思い出し、俺は笑わずにいられなかった。
だってそうだろ?
あの壱がたかが女一人の、しかも見ず知らずの女に手を焼いてるんだから。

これは面白い。

そう思うのは当然だろう。
女性に嫌悪感しか抱かなかった壱がここまで振り回されてるんだから。
その相手の女性の素性が今わかったんだ。
絶対に壱は報復に出る。
こりゃ楽しみだ。
ん?待てよ。
これはチャンスかもしれない。
上手くいけば社長の意向に添えることができる。
よし、意地でも壱とその彼女をもう一度会わせてやろうじゃないか。



それから俺は社長にも一肌脱いでもらって、まず壱を追い詰めることにした。
壱が今一番避けている話題はやはり見合い。
今まで散々社長の薦めた見合いをことごとく断りづつけた壱も今回ばかりは断れないだろう。
案の定、壱は社長の話を受け入れた。
その時点で壱の思考がどこに向いているのか、なんとなくだが見えていた。


壱が見合い相手に選んだのは、やはり彼女だった。
そうなるだろうなとは思っていたが、それがこうも見事にシナリオ通りだと少し怖いくらいだ。
まぁ見合い相手については他に選択肢がなかった、と言った方がいいのかもしれないな。
こちらから見合いをして、それをこちらから破談にしても支障のない相手はそうはいない。
しかも壱に惹かれなさそうな相手となれば、それはもう彼女しかいないだろう。
調査書をみた限りだが、彼女はあまり男性慣れしていないはず。
今までで一人としか付き合っていないんだし。
しかもその唯一の一人となにやら問題があったらしいしな。
未だに調査中っていうんだから。
あの調査会社がそこまで手を拱いているということは普通の付き合いで終っていないということ。
何があったのかはこの際、どうでもいい。
重要なのは彼女が男慣れしていないってことだ。
そういう女性がまさかこの見合いで壱にせまってくるような馬鹿なことはしないだろう。
つまり壱の方がそういう経験が豊富な分、優位に立てるってわけだ。
おそらく今回の見合いも壱の思惑どおりに事が運んで終わりだろうな。
俺としては、壱の機嫌もこれで良くなるだろうし、今まで見合いを断わり続けた壱が今回それを引き受けたことで社長は一安心したらしく、機嫌がいい。
まさに一石二鳥だ。
たとえこの見合いが破談になって社長に何を言われようと俺はやるだけのことはやったんだ。
なんとでも誤魔化しは利く。
とにかく、あとはこんな茶番をさっさと終わらせるだけ。







正直、見えないものを相手にするというのは空気を手で掴むという動作と同じで、実感がないし、本当にそれができているのかさえわからない。


見合いの当日、おれはまさにそんな状況だった。
目的の場所までは壱に同行したが、会場となる和室の数歩手前で壱に下がるように視線で促された。
それからは見合いの場がどうなっているのか見えない分、ハラハラしっぱなし。
長い時間待ち続けた壱からの電話でこれでようやく終わる、そう思っていた。

なのになぜだ?

壱の行動がわからない。
こんなことは初めてだ。
何が起きたんだ?
見合いの後、二人で出掛けるというのは前から決まっていたことでさほど驚きはしない。
壱の言う『ゲーム』という名の復讐は、その1日で終わったはず。
それなのに壱はとんでもない行動に出た。
まだゲームを続行する?
しかも製紙会社を彼女の勤め先1本に絞る?
おいおい一体、何があったんだ?
おまけに再調査を依頼する始末。
俺はさっぱりわからない。
しかも俺の問いかけを全く無視。
さすがの俺も頭にくるだろう。
ま、それはスケジュール調整で見事に仕返したけどな。













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